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学園2年目

閑話 後悔を知ってこそ、見つめ直せる時もある

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「…‥‥」

 夏へ近づく中、都市メルドランから離れた別の都市…‥‥そこにある病院の中庭で、彼女はぼーっとしていた。

 彼女の名前はミル。

 元は反魔導書グリモワール組織フェイカーの幹部であり、先日までグリモワール学園に潜入し、ルースの勧誘及び殺害を目論んだ魔族の鬼人であった。


 だが、今の彼女はもはやそんな目的は持っていない。

 失敗に終わり、組織内部の抗争にも巻き込まれて負けたようで、全ての情報を吐かされた上で、ここに療養として送り込まれたのである。


 一応、犯罪者であったのだが…‥‥ここに来る前、物凄い何かをされたそうであり、国がフェイカーの情報を吐かせようとする前に、廃人化していたのだ。

 まぁ、その廃人になる前に、誰かが個人的に抜き出して得られた情報はまとめられて、それを元にしてある程度ならば組織へダメージを与えることができたのだが…‥‥その廃人具合が余りも哀れすぎて、もはや罰しようにもオーバーキルになってしまうと判断されたので、ここで心がきちんと治るように治療の名目で送られたのだ。




「…‥‥結局、私は何がしたかったんでアルかな…‥‥」

 そうつぶやき、空を眺めるミル。

 


 元々、かなり昔にあった実験に対しての実験台として利用され、そこから生み出された復讐心でフェイカーに入り、そして幹部まで上り詰めた。

 だが、その復讐の想いがある毎日は、仲間とふざけたりとしたが、それでも満たされることはなかった。

 復讐、それは確かに一時は気が晴れるであろう。だがしかし、それと共に毎日にたいして思いを持たず、中身がないような日々のみになってしまう。




……けれども、そんな中で充実した時間があった。

 それは、学園に生徒として潜入し、ルースたちと共に過ごした時である。

 あくまで表面だけ友情に徹し、勧誘しやすいようにしていたはずだが…‥‥いつの間にか、その日々が本当に楽しくなっていたのだ。

 まぁ、学園長の訓練はフェイカー内での戦闘訓練以上に厳しかったが、それでも皆で笑いあい、助けあい、そして楽しみ合えたのは、復讐に移る前、本当にただの少女で幼きとき以来であった。

 このままでは情に流され、目的を果たせなくなると焦り、自らその日々を捨ててしまったが‥‥‥‥本当にこれでよかったのだろうか?




 そう考えていると、しらずのうちにミルの頬に何が流れる。

 何かと思い、拭ってみれば‥‥‥それは涙であった。


 復讐の日々の中で忘れていた涙。

 けれども、学園に通っていた…‥‥ルースたちとの日々を捨て去ってしまったことに対する後悔ゆえに、再び流れてしまったのであろう。


「…‥‥よし」

 その涙を手に持って数秒間ミルは考え、あることを決意した。


 
 情報の漏洩によって、組織へ戻ろうにも、もはやミルの居場所はないだろう。

 そもそも、組織内でミルの立場を狙って亡き者にしようとしたやつがいるところに戻る気はない。

 もう、そんな立場を求めるような輩がいる時点で…‥‥組織内では、国に対しての復讐よりも、野心の方が上回っているのに間違いないのである。

 復讐を忘れ、権力に走った亡者のごとき者たちがいる場所に未来はない。

 それは、これまでフェイカーが消した権力者たちにも見られたところで、ゆえにそのあたりの教育なども徹底されていたはずだが…‥‥やはり限度があり、野心を抱いた者たちがなり替わってしまうことは仕方がない事であろう。


 ならばどうするか。

…‥‥一度失った信用を取り戻すのは難しいし、それに非常に厳しいトラウマの元凶たちがいるだろう。

 けれども、できることならばもう一度、あの学園での‥‥‥ルースたちとの生活を取り戻し、そして楽しい充実した日々を得たいのだ。

 もう一度変装し、学園に入学する?

 いや、それはもはや無理であろう。絶対にバレるに違いないし、そんなことをすれば誰にも完全に信じてくれなくなるであろう。


 だとすれば、ミルが取れる手段はなんであろうか?

 戻らぬ組織であれば、徹底的に敵対したほうが良いだろう。

 あの組織に親しい友人がいなかったと言えば嘘になるし、心を鬼人だけにまさに鬼にしてしまえばあとくされも後悔もなくなる。

 そして、その手を取るのであれば自衛手段もきちんとしたほうが良いだろう。

 フェイカーの持つ手段には暗殺などもあり、できるだけしっかりとした身の守りが欲しい。




…‥‥そう考え、ミルはある人物とコンタクトをとることに決め、病室へと戻り、その人物へ向けて手紙を書いた。

 これまでの行いから信用はそう簡単にはされないだろうけれども、それでも本気であるということをしっかり伝えたい。

 この手紙の宛先の人物は‥‥‥まぁ、色々と滅茶苦茶なところもあるので、もしかしたら快く了承してくれるかもしれないが、その反対に猛烈に拒絶するかもしれない。

 けれども、やれることはやっておきたいのである。

 その思いを胸に、ミルは手紙を出し、その返事が来るまでの間にリハビリもトラウマの克服も始めることにした。

 リハビリとしては、防衛手段に特化する。

 そして、トラウマとしては‥‥‥‥



「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 泣き叫びながら悲鳴を上げつつ、病院の関係者たちにその覚悟を話し、協力してもらうことになった。

「がんばってください!!まだたかが水や火、適当なもこもこに針があるだけです!」
「その本気の度合い、心を打たれましたからしっかりしてください!!」

「ぐっ、や、やってやるのでアル!!たかがまだまだこれしきのことで」
「はい、火の玉ですよ」
「まいら、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 己の持つトラウマの一部として、似たようなものを用意してもらい、近づけてもらったり、強制的に触れさせられることによって克服を試みる。


 まさに生き地獄だが、これこそが己に課せられたこれまでの行いによる所業のツケだと自らに言い聞かせ、ミルは逃げなかった。


…‥‥手紙を出してから1週間後、返答が届くまでには、何とか針程度までなら克服したのであった。

 しかし、まだまだ道は長そうである‥‥‥‥
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