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学園1年目

72話

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・・・・・・世の中には、触れてはいけないようなことがある。

 不文律、逆鱗、虎の尾、禁忌といった表現で言い現わされることもあり、それには必ず理由があり、触れてしまえばそれ相応の代償があるのだ。

 だがしかし、そんな事も考えずに触れるのはある意味勇者なのか、それとも愚者なのだろうか?







「何?全然情報が入らないだとぅ?」
「はっ、間諜たちが全滅したのか、それとも他の者たちによる妨害なのか定かではありませんが全く情報が取れませんでした」

 部下から報告を聞き、持っていた羽ペンをつい彼は脂ぎった指でへし折りたくなった。

 彼の名前はバズカネェノ=バルモ=クジャナノ。このグレイモ王国の侯爵家の当主であり、そろそろ息子に当主の座を渡し、残りの余生は密かに脱税や汚職によって蓄えた資金で贅沢の限りを尽くす予定であった。

 ついでに、最近頭が不毛地帯になって来たので、伝説の毛生え薬とやらも探すつもりであった。



 けれども、つい先日その予定が変わった。

 きっかけは王城での会議室にて、戦争報告などをしていた会議の場である。


 その時に彼は出席をしており、グレイモ王国とルンブル王国との戦争でルンブル側の秘密兵器によって情勢が不利と思い、素早くこの国をいかに裏切ってルンブル王国へ亡命しようかと考えたのである。

 どれだけバレないように国庫金を盗み取り、なおかつ自身のとれる範囲での王国の情報を手土産にとも考えていたので、どれだけの屑野郎なのか理解できるだろう。

 いや、むしろバズカネェノ侯爵は己の屑さにすら自信を持っていたのだから、ある意味天元突破した大馬鹿野郎でもあった。


 だが、その会議の場で出た話題・・・・・もしかしたら、ルンブル王国のその秘密兵器とやらを打ち破れるかもしれない人物の話題が出たことで、彼は考えを変えた。

 国を裏切り、亡命をしたところで所詮己には屑すぎる方法を思いつく頭脳しかないことをバズカネェノ侯爵は理解していた。

 そして、今裏切ったところで、その解決できるような人物が投入され、戦場の情勢がこの王国側に有利になってしまったら‥‥‥のこのこ戻ってきてももはや居場所はない。

 とはいえ、どうやらその人物はグリモワール学園の学園長が隠しているようであり、洗浄に参戦させる意思は無さそうなので、万が一にでも情勢が変わるのはあまりなさそうである。




 だがしかし、そこで己の考えに突き進んで行動してしまうのがバズカネェノ侯爵。

 むしろ、その人物を自分たちの手ごまに出来れば、もしかしたこの王国を自らが牛耳れるかもしれないし、もしくは手駒に出来ずとも暗殺をしてしまえば情勢がひっくり返る心配もないだろうと思いついてしまったのである。


 己では素晴らしい作戦だと思っていたが、それがいかに愚かな行為なのか、彼が気が付くときには時すでに遅いであろう。







 そんなわけで、今の時間に戻るのだが、バズカネェノ侯爵はその人物を探るために間諜をわざわざ派遣したにも限らず、全員が失敗したようで情報が入手できないことを歯ぎしりして悔しがっていた。

「おのれおのれおのれ・・・・・・こうもうまくいかぬことに腹を立てるのはいつ以来だぁ!」
「落ち着いてくださいませバズカネェノ様」

 腹を立てる侯爵に対して、落ち着くように執事のセバババンが言った。

「これが落ち着いていられるかぁ!!人間、隠されたものがあれば、それを知りたくなってしまうものなのだぁ!!なのに、これでは一向に何もできぬではないかぁ!!」


 セバババンがなだめるも、バズカネェノ侯爵はいら立つ。


 しばらく怒り狂った後、ようやく彼は落ち着いた。

「ふぅ・・・・・ここで怒り狂っては何もならぬぅ。しかし、どうすればいいんだぁ」

 頭を抱え、考え込むバズカネェノ侯爵。


 なぜこうも彼の手の者たちが情報収集に失敗したのかについての報告書を読み、頭が痛くなった。


 別の家の者の間諜と出くわし戦闘のち敗北。

 ターゲットを見つけたように思われたが、知らせようとしたとたんに氷漬けで捕縛されたり、溺れさせられ捕らえられる。

 いっその事知らせる前に暗殺したほうが良いのではないかと思ったものがいたのだが、その案を出した翌日、なぜか裸逆さ磔及び屈辱的な、身体的特徴を揶揄した文字を体に書かれ、衛兵に不審者として連行。

 そして中には、見つけたので知らせようとしたのだが、突如として何者かに襲われ、現場には血の痕と金色の毛しか残っていないという怪奇現象まで報告されていた。


 いずれもターゲットらしい人物を見つけたのに、誰もかれもが捕縛・殺害などされており、一切の情報が手に入れられなかったのである。


「‥‥‥こうなれば、このわし自らが行かねばならないかぁ」
「っ!?正気でしょうかバズカネェノ様!?今間諜たちのこの事態の中、当主自らが向かって何かがあってしまえば、一大事ですぞ!!」

 バズカネェノ侯爵の言葉に、執事のセバババンが驚いたような声を上げ、引き留めるように言ったのだが、バズカネェノ侯爵は志を曲げなかった。

「ああ、これでも正気だぁ!!どうせわしが逝ったとしても、優秀な息子が当主を引き継ぎ、うまいことやってくれるだろうぅ!!我が侯爵家に滅亡の文字などはありはせんのだぁ!!」


 堂々と言い切るその様は、屑とか馬鹿ではなかったら立派なものであった。

 そして、バズカネェノ侯爵は自らその人物を探しに行くことに決め、万が一に備えてさっさと息子に当主の座を渡す手続きを終えた後、素早くその者がいるという都市メルドランへ向かうのであった。



・・・・・・けれども、彼は知らなかった。

 自分がどれほど愚かで、いかに屑な人間だったのかを。

 そして、そんな彼が育てた息子もバズカネェノ侯爵そっくり・・・・・いや、それ以上の超・屑野郎であったことを理解していなかった。

 優秀とされていたが、実はその成績は全て嘘で塗り固められ、本当はとんでもないほど悪く、日頃からいかに当主の座をバズカネェノ侯爵から奪おうと考えていたことを知らなかった。

 しかも、その素行不良も度を越しており、こっそりバズカネェノ侯爵が蓄えていた資産を横領しまくっていたことには気が付かなかった。

 しかも、彼が人生で唯一頼み込んだ息子の婚約者の家に対して、その息子が大馬鹿をしでかそうとしているのすら知らなかったのである。


 帰ってきた時、果たしてバズカネェノ侯爵はどうなるのであろうか。

 いや、そもそも無事に戻ることが出来るのであろうか・・・・



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