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始まりの章

3話

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‥‥‥明晰夢ってやつかな?

 これは夢だ。そうはっきりとルースはその場で感じ取っていた。


 周囲が黒く塗りつぶされたように暗いのに、己だけがはっきりと見えているこの空間。

 このような場所は村のどこにもないし、思い当たる場所としては今朝の夢の中であろう。


 ここに至るまでの経緯を、ルースは思い返してみる。

 幼馴染に起こされ、そして村の中央での叡智の儀式に出て、金色に輝く魔導書グリモワールを触れて‥‥‥


 そこから膨大な、ナイアガラの滝のごとくあふれ出てくる情報に潰され、気を失ったのだ。




 そこまで思い出したところで、ふとルースは気が付いた。


――――コッチダ

「‥‥?」



 何か、自分を呼ぶような声が聞こえて、ルースはその声の方へ顔を向ける。

 するとそこには、今朝の夢でも出てきて、そして現実でも触れた金色の魔導書グリモワールが、光を放ちその場に浮かんでいた。


――――ヨウヤク、コッチヲ見タカ。我ヲ手二スルノニ相応シキ者ヨ。

 
 抑揚や、高さ低さもない無機質な声。

 その声を発するのは、目の前の魔導書グリモワールであることをルースは理解した。



「‥‥‥一体何なんだお前は?」

 しばし考えこんだ後、結論が出ないのでルースは思い切ってその金色の魔導書グリモワールに尋ねた。


――――我ハ我。ソレ以外ノ何物ニモアラズ。



‥‥‥なんだろう、全くかみ合っていないような気しかしないんだけど。

 その魔導書グリモワールの返答に、思わずルースはガクッとずっこけた。



――――タダ、我ハ主トナッタ者二使用サレルダケノ存在。力ヲ与エ、ソレダケデ良イデハナイカ?



 ‥‥‥魔導書グリモワールはあくまで人間に使用され、力を与えるだけの存在と言っているようだ。

 だがしかし、なんとなくその言葉の裏には何かが隠れているような気もルースはしなくもなかった。

 しかし、踏み入れれば何か知らなくてもいいことまで知ってしまいそうな気がして、そして今はまだ聞くのは早いのかもしれないと、ルースは感じ取った。


「‥‥なるほど、わかった。それじゃぁ、今はただ俺はお前を使用する主ということでいいんだな?」

――――ソノ通リ。


 ルースの言葉に、満足げな感じの魔導書グリモワールの言葉を聞き、その選択が間違っていないことをルースは感じ取る。




 そして、気が付くと少しづつあたりが明るくなってきていた。


――――時間ダ。我ト話セルノハ、我ガソウ思ッタ時カ、主ガ強ク望ンダ時ノミ。今ハタダ、我ヲ使エバ良イノダ‥‥‥



 だんだんと声が小さくなっていき、周囲が白く塗りつぶされたところで…‥‥








「‥‥‥はっ!」

 ルースは目を覚まし、意識を戻した。

 そして気が付けば、心配そうに彼を見ている幼馴染のエルゼの姿があった。


「あ!!ルース君が気が付いた!!良かったぁぁぁ!!」

 ルースの起床に気が付き、そのまま抱き付いてきたエルゼ。

 心配していたのは、その表情や、意識が戻った時に喜んでいた笑顔からよくわかった。



‥‥‥ただ、目覚めたその喜びに乗じて抱きしめた際に、2,3本ほど髪を抜かれたのは気のせいだと思いたい。

 確かよく聞く話で、青色の魔導書グリモワールで使える魔法に、水人形と言う物があったはずだよね…‥‥うん、深く考えたら絶対いいことはないだろう。


 ルースはそう思い、その考えを忘却することにしたのであった。
 
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