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夏も過ぎ去り、最後の学園生活で章
閑話 異界のスアーン苦労記録 その1
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……スアーンは今、物凄く現実逃避をしたかった。
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ…‥‥」
―――残念、夢デハナイ。
「夢であってほしいんだぁぁぁ!!」
目の前にいる者へ向けて、スアーンはそう叫んだ。
ちょっとさかのぼって数分前。
夏休みも開け、メギドニアから元の世界へ戻れ、無事に元の生活へ戻ろうかとしていた矢先に、何の因果か彼は攫われたのである。
空間にポツンとできた小さな穴。
そこからにゅるりんっと謎の触手が伸び、彼に巻き付いて引っぱったのだ。
そして無理やり引きずり込まれ、気が付いた時には、その触手の主がいる部屋に、彼はいたのであった。
目の前には、グネグネと蠢く触手塊。いや、クラーケンに近いと言った方が良いのだろうか。
彼を攫ったのは、どうやら目の前のこの謎の生命体のようだが、スアーンはその事実を認識したくなかった。
「ああああ、なんでこの間似たような事があったのに、またあるんだ…‥‥」
―――‥‥‥ナンカ苦労シテマスネ。
落ち込むスアーンに対して、目の前の謎生物は器用に触手でぽんぽんっと、慰めるようにスアーンの肩を叩く。
―――マァ、現実ダカラ諦メロ。
「慰めになってねぇぇぇぇぇぇ!!」
さらに数分後、ようやく精神的に落ち着いたスアーンは、目の前の謎の生命体が敵意を持っていないことに気が付き、何とか話をすることにした。
「まったく……何が目的でこの俺ーっちを攫ったんだ?何か、理由でもあるのか?」
―――アア、アルヨ。
尋ねてみると、どうやらきちんとした理由があるらしい。
かくかくしかじかと話を聞いてみれば、何となく相手の事情を察することが出来た。
「…‥‥要は、その、なんだ、愚者というような輩を攫って来いと?」
―――ソウダ。
話によれば、この部屋はある神殿にある場所らしい。
で、この神殿を中心にした神聖国という国の中らしく、間諜でも放っているのか、各国の情勢を良く聞くそうだ。
その中で、どうもここ最近妙に怪しい動きをするような者たちを発見したは良いものの、どう対応したものか困る事態になっているそうなのであった。
なんでも、この目の前の謎生命体は他の姿もあるそうだが、共通しているのは「他者の魂を喰らう」という事らしい。
でも、むやみやたらに人を襲うような者ではなく、きちんと選別し、この世のためにならないような愚者の者ばかりを好んで食しているそうである。
わかりやすく言えば、救いようの無いような悪党を喰らうことで自信を満足させつつ、その悪党を消し去って世の中の状態をできるだけ良くするために動いているのだとか。
あくまでも「できるだけ」というのは、流石にすべてを食べる事もできないし、蟻の巣で怠け蟻を除いてもまた怠け蟻が出るのと同じ理屈で、悪党を食べても切りが無い事を理解しているからだという。
―――マァ、養殖シテイタリスルケド、天然物ガ一番。デモ、最近チョット情勢キナ臭ク、食ベタイ悪党プチット潰サレル。ダカラ、ソノ前ニ捕エテ欲シイ。
「その間諜とかがいるならば、そいつらに頼めばいいんじゃないか?わざわざ俺ーっちを呼ぶようなこともないだろう?というか帰せ」
―――ムリ。
スアーンの問いかけに対して、その生物は即答した。
いわく、間諜はあくまで情報収集に徹底させており、悪党を捕らえるほどの者ではない。
また、色々と捕獲手段を持つ専門の業者もいるのだが、人員が足りない。
ゆえに、この目の前の謎生物は考えた。
人員がいないのであれば、呼び寄せればいいのだと。
―――キチント働キニ見合ッタ報酬ダスシ‥‥‥‥
「ん?なんだ、その憐れんでいる目は?」
―――‥‥‥記憶、チョット覗カセテ貰ッタケド、ソノ女運ノ悪サニ同情シタカラ、可能ナ限リ、相手見ツケルヨ。
「…‥‥覗いたって…‥‥え?憐れまれるほどって…‥‥おいいいいいいい!?」
まさかの個人情報の侵害であったが、スアーンは驚いて叫んでしまった。
がくがくと揺さぶってどこまで見たのか聞けば、今までのスアーンの女性歴をすべて閲覧したらしい。
幼少時のガキ大将時代、一人の少年にいじめて見れば、その子を好いていたストーカーに反撃を受け下僕にされたこと。
彼女が出来たのだが、色々あって破局してしまったこと。
さらに言うのであれば、親友となった少年の方に、どういう訳か女が集まりやすく、物凄く肩身が狭い思いをしている事…‥‥
その他諸々あったようだが、とりあえずスアーンの悲しむべき女運の無さに、目の前の生物は涙を流していた。
―――哀レ!!
「そんなことを言うな、見るな、憐れむなああああああああああああああああああ!!」
同情されても嬉しくないし、人にそう指摘されると悲しくなる。
とにもかくにも、その相手探しの件はうやむやにしつつ、その悪党捕縛の方をスアーンは受けさせられることになった。
いや、最初から選択の余地は無かった。
なぜならば、彼を攫うのに力を使って、送還するのにエネルギーが足りないそうだから‥‥‥‥
―――目指セ100人!!ソレデ帰還可能ダヨ!!
「大変すぎるんだけど!?」
それならば最初からやるなと言いたいが、もはや後の祭り。
仕方がなく、スアーンはこの見知らぬ世界での生活を強いられることになったのであった…‥‥
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ…‥‥」
―――残念、夢デハナイ。
「夢であってほしいんだぁぁぁ!!」
目の前にいる者へ向けて、スアーンはそう叫んだ。
ちょっとさかのぼって数分前。
夏休みも開け、メギドニアから元の世界へ戻れ、無事に元の生活へ戻ろうかとしていた矢先に、何の因果か彼は攫われたのである。
空間にポツンとできた小さな穴。
そこからにゅるりんっと謎の触手が伸び、彼に巻き付いて引っぱったのだ。
そして無理やり引きずり込まれ、気が付いた時には、その触手の主がいる部屋に、彼はいたのであった。
目の前には、グネグネと蠢く触手塊。いや、クラーケンに近いと言った方が良いのだろうか。
彼を攫ったのは、どうやら目の前のこの謎の生命体のようだが、スアーンはその事実を認識したくなかった。
「ああああ、なんでこの間似たような事があったのに、またあるんだ…‥‥」
―――‥‥‥ナンカ苦労シテマスネ。
落ち込むスアーンに対して、目の前の謎生物は器用に触手でぽんぽんっと、慰めるようにスアーンの肩を叩く。
―――マァ、現実ダカラ諦メロ。
「慰めになってねぇぇぇぇぇぇ!!」
さらに数分後、ようやく精神的に落ち着いたスアーンは、目の前の謎の生命体が敵意を持っていないことに気が付き、何とか話をすることにした。
「まったく……何が目的でこの俺ーっちを攫ったんだ?何か、理由でもあるのか?」
―――アア、アルヨ。
尋ねてみると、どうやらきちんとした理由があるらしい。
かくかくしかじかと話を聞いてみれば、何となく相手の事情を察することが出来た。
「…‥‥要は、その、なんだ、愚者というような輩を攫って来いと?」
―――ソウダ。
話によれば、この部屋はある神殿にある場所らしい。
で、この神殿を中心にした神聖国という国の中らしく、間諜でも放っているのか、各国の情勢を良く聞くそうだ。
その中で、どうもここ最近妙に怪しい動きをするような者たちを発見したは良いものの、どう対応したものか困る事態になっているそうなのであった。
なんでも、この目の前の謎生命体は他の姿もあるそうだが、共通しているのは「他者の魂を喰らう」という事らしい。
でも、むやみやたらに人を襲うような者ではなく、きちんと選別し、この世のためにならないような愚者の者ばかりを好んで食しているそうである。
わかりやすく言えば、救いようの無いような悪党を喰らうことで自信を満足させつつ、その悪党を消し去って世の中の状態をできるだけ良くするために動いているのだとか。
あくまでも「できるだけ」というのは、流石にすべてを食べる事もできないし、蟻の巣で怠け蟻を除いてもまた怠け蟻が出るのと同じ理屈で、悪党を食べても切りが無い事を理解しているからだという。
―――マァ、養殖シテイタリスルケド、天然物ガ一番。デモ、最近チョット情勢キナ臭ク、食ベタイ悪党プチット潰サレル。ダカラ、ソノ前ニ捕エテ欲シイ。
「その間諜とかがいるならば、そいつらに頼めばいいんじゃないか?わざわざ俺ーっちを呼ぶようなこともないだろう?というか帰せ」
―――ムリ。
スアーンの問いかけに対して、その生物は即答した。
いわく、間諜はあくまで情報収集に徹底させており、悪党を捕らえるほどの者ではない。
また、色々と捕獲手段を持つ専門の業者もいるのだが、人員が足りない。
ゆえに、この目の前の謎生物は考えた。
人員がいないのであれば、呼び寄せればいいのだと。
―――キチント働キニ見合ッタ報酬ダスシ‥‥‥‥
「ん?なんだ、その憐れんでいる目は?」
―――‥‥‥記憶、チョット覗カセテ貰ッタケド、ソノ女運ノ悪サニ同情シタカラ、可能ナ限リ、相手見ツケルヨ。
「…‥‥覗いたって…‥‥え?憐れまれるほどって…‥‥おいいいいいいい!?」
まさかの個人情報の侵害であったが、スアーンは驚いて叫んでしまった。
がくがくと揺さぶってどこまで見たのか聞けば、今までのスアーンの女性歴をすべて閲覧したらしい。
幼少時のガキ大将時代、一人の少年にいじめて見れば、その子を好いていたストーカーに反撃を受け下僕にされたこと。
彼女が出来たのだが、色々あって破局してしまったこと。
さらに言うのであれば、親友となった少年の方に、どういう訳か女が集まりやすく、物凄く肩身が狭い思いをしている事…‥‥
その他諸々あったようだが、とりあえずスアーンの悲しむべき女運の無さに、目の前の生物は涙を流していた。
―――哀レ!!
「そんなことを言うな、見るな、憐れむなああああああああああああああああああ!!」
同情されても嬉しくないし、人にそう指摘されると悲しくなる。
とにもかくにも、その相手探しの件はうやむやにしつつ、その悪党捕縛の方をスアーンは受けさせられることになった。
いや、最初から選択の余地は無かった。
なぜならば、彼を攫うのに力を使って、送還するのにエネルギーが足りないそうだから‥‥‥‥
―――目指セ100人!!ソレデ帰還可能ダヨ!!
「大変すぎるんだけど!?」
それならば最初からやるなと言いたいが、もはや後の祭り。
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