上 下
224 / 339
貴族問題で章

祝!!200話達成記念閑話 その2 スアーン恋愛事情

しおりを挟む
SIDEスアーン


‥‥‥人生、山あり谷あり難所ありと、様々な言われ方があるだろう。

 そして今、スアーンはその谷に当たるような、深い絶望に襲われていた。


「‥‥‥え?ちょっと待って。頼むからもう一回行ってくれないか?」
「えっとね、そのね、私…‥‥別に好きな人が出来てしまったのよ」
「俺っちよりも?」
「ええ」

 そうはっきりと宣言され、スアーンは唖然としたのであった。




 ある日の放課後、スアーンは最近できていた彼女に呼び出され、学園の校舎裏にてその内容を聞いていたのだが‥‥‥出てきたのが別れ話だったのである。

 彼女は以前、スアーンが階段から落ちてきた彼女に腰を痛めてまで助け出し、互いに好きになって付き合っていたのだが‥‥‥所詮はその場限りの吊り橋効果だったのか、それともスアーン自身に魅力がなさすぎるだけなのか。


「あのドキドキはね、幻想だったのかもしれないと思い始めたの。そして、ここ最近気になる人が他にできて‥‥‥実は、あなたに内緒でその人と付き合っていたのよね」
「ふわっ!?そ、その相手って…‥」
「この学園とは違う、魔導書グリモワール持ちでもなく、貴族家のとある子息の方よ。まぁ、当主の座を継ぐつもりはなく、将来は騎士に入団するそうなのだけれども、そのワイルドでぐいぐいきて、それでいてヘタレなところを好きなってしまったのよ。だからね、ごめんなさい」


 そう言い残し、彼女はその場を去ってしまった。

 後に残ったスアーンはあっけに取られ、去っていく彼女の背中を見るしかできないのであった…‥‥









「‥‥というわけなんだよぢぐじょぉぉぉゔ!!せっかくいいところまで行っていたと思っていたのに、まさか破局するなんて思えなかったんだよぉぉぉぉぉ!!」
「うわぁ、それはそれで酷いような…‥‥同情するよ」

 寮へ戻り、スアーンは友人たちに号泣しながら話していた。

 ルースと違って、スアーンはそれなりに同性の友人が多いのである。

 友人たちはスアーンの破局話を聞きつつ、同情してうんうんとうなずいていた。


「結局のところ、その場のノリで付き合っていた感じが、時間が経って冷めたという事なのかな」
「そうじゃねぇか?勢いに乗って付き合ってみたら、思った以上につまらない相手だと思われたんだろうな」
「というか、その相手のヘタレって部分が気になるんだが…‥‥それがどう良いのか、その相手の女の趣味にツッコミを入れたいのは俺だけだろうか?」
「あ、でもそんな人と付き合っていたスアーンも、相手からしてみればその趣味の中にいたのかも」

「お前ら全然慰める気がないようなんだけど!?」

 友人たちの心をえぐるような話に、スアーンは思わずそう叫ぶ。

「だってさ、お前に彼女ができたこと自体、一生に一度あるかないかの奇跡じゃん」
「そうそう、俺達は彼女なし組の悲しい人生だったのに…‥‥先に恋人ができたことが、割とマジで恨めしかったからな」
「ま、結局破局したから文句はないけどな!!」

 友人たちのふざけているような、それでいて心無い言葉にスアーンは傷ついた。


「ぐっ・・・ぢぐじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 本気で涙を滝のように流し、悲しむスアーン。

 号泣し、腕を地面にたたきつけ、その悲しみたるや人生の中で比較になるものなどなし!!







‥‥‥三日三晩号泣し続け、そしてスアーンは立ち直り、悟った。

 無くなった彼女であれば、またつくればいい。

 今度こそ、本当に愛せるようなひとを探し、そして別れることがないように愛を注ぎたいと。



 だが、どうやって新しい彼女を作ればいいのかスアーンは分からない。

 そもそも、あの付き合っていた彼女との出会いのきっかけは偶然の産物によるものであり、そうそう起きるような事ではないのだ。

 考えに考え、スアーンが出した結論は‥‥‥‥




「…‥‥どうか俺っちに、女の子にモテモテになる方法を授けてくれ!!」
「ちょっと待て、何でその話題を俺に振るんだ?」

 友人であるルースに対して、その日スアーンは全身全霊の土下座で頼み込んだのであった。





 かくかくしかじかと事情を説明すると、ルースは呆れたような顔になった。

「なるほどね‥‥‥彼女に振られて、立ち直ったから新しくつくりたいけど、どうすれば出会いの場ができるのかが分からないってか」
「そういうことだ!!だからこそ、普段から女の子との遭遇率が高いお前に頼み込んだのだ!!」
「少し誤解があるけどさ、別に俺は普通だぞ?そんなにモテているのか?」
「どの口が言うんだよこの野郎!!」

 ルースのその言葉に対して、頼み込んで低姿勢だったはずのスアーンはついキレて叫んだ。

 
 ルース自身には自覚がないだろうけど、その周囲に集まっている子は誰もがルースに対して好意を持って居る者が多いことぐらい、学内でも常識であった。

 公爵家の令嬢、帝国の王女、国滅ぼしのモンスター、妖精姫…‥‥数え上げるだけでも、どう考えても誰もがレベルが高く、見え見えな恋心なのにほぼ感じていないルースに対して周囲がもどかしく思えているほどである。


 いかにどれだけ恵まれているのか小一時間……いや、数時間かけて説教したいところであるが、ここはぐっとこらえるしかない。

「とにもかくにもだ!!ちょっとは女の子に好意を持たれるような方法を教えてくれぇぇぇ!!」
「そんなことを言われてもな…‥‥あ、そうだ」

 困ったような顔をしたルースであったが、何かを思いついたようだ。


「なぁ、スアーン。だったら積極的にアピールするのはどうだ?」
「え?」
「話を聞くと、その彼女はお前から魅力を感じなくなったから別れたんだよな?だったらさ、その魅力を周囲に積極的に示せばいいと思うだよ。要は濃い印象を残し、継続的に与えれば‥‥‥」
「なるほど!!早速やって来るぜぇぇぇぇ!!」
「あ、ちょっと待て、しつこいと逆効果に」



 ルースの注意を無視して、スアーンはその場を走り去る。

 受けたアドバイスの、印象を残すという方歩であるならば色々なものがある。

 それらすべてを試し、スアーン自身がいかにどのような魅力を持って居るのか外部へアピールすればどうにかなるだろうと彼は考え、実行しまくった。


 何度も繰り返して話したり、人の目のを引くような行動を起こしたり、とにかく積極的に異性と触れ合うような機会にも参加し、自身の印象を付けていこうとスアーンは努力した。

 それこそ、血反吐が吐き出るほどの辛い辛い努力をしつつ、己が新たな彼女を作るために必死になり続けた結果…‥‥





「‥‥‥で、勉学の方をおーろーそかにしてどーするのよ。成績下降しーて、補習を決定づーけるわね」

 努力をし過ぎて勉学をおろそかにして、成績が下降してしまったスアーン。

 学園長室に呼び出され、毎日の足りない勉学の補習を受ける羽目になったのであった。


‥‥‥なお、結局のところしつこすぎる男としてマイナス面での印象を強めてしまい、ますます彼女ができる道が狭くなったのは言うまでもない。

「おい、スアーン。お前の印象は強まったから、結果的に良かったんじゃないか?」
「良くねぇよ!!なんか女の子たちが離れるようになったんだけど!!」

 ルースに対して叫ぶスアーンであったが、自業自得なのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

お母様と婚姻したければどうぞご自由に!

haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。 「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」 「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」 「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」 会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。 それも家族や友人の前でさえも... 家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。 「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」 吐き捨てるように言われた言葉。 そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。 そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。 そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。 ……約束の時間を過ぎてから。 侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。 貴族の結婚なんて、所詮は政略で。 家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。 なのに…… 何もかも義姉優先。 挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。 挙句の果て、侯爵家なのだから。 そっちは子爵家なのだからと見下される始末。 そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。 更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!? 流石にそこはお断りしますけど!? もう、付き合いきれない。 けれど、婚約白紙を今更出来ない…… なら、新たに契約を結びましょうか。 義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。 ----------------------- ※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

処理中です...