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6章 悪意と善意、トラブルメーカーと苦労人

6-22 悪はそう簡単に栄えないというが

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…あの巨大なドラゴンのような魔獣、いや、魔獣を生み出す源泉を炉心として動いていたファヴニールの消滅から1週間が経過した。

 幸いなことに、あの戦いの終盤で戻したことで、あれに飲み込まれた者たちの中でも、まだかろうじて人の道に戻れた人たちは元に戻り、それぞれの国で検査を受けたところ問題なく人間になっていた。

 ただ、あれが生み出された場所…神聖国、いや、既に滅亡した国の者たちに関しては、こちらのほうの後始末がものすごく大変なことになっていた。

 何しろ、いろいろと調べてみたところ、生み出した元凶が工作していても、化け物になった体験をしっかりと記憶に残っていた者たちが猛省して情報を吐き出しまくった結果、なんで「神聖」の文字が国についたんだというぐらいどす黒いものばかりしかなかったのだ。

 

 そのせいで結局生き残った者たちがいたとしても、もはやその者たちで構成された場所は国としての体を成すことができず、解体されてなかったことに。

 このことによる発覚でどこぞやの組織がいくつもとばっちりを受ける形で全部の悪事や拠点が明るみになって、多少はあちこち綺麗に掃除されたのは言うまでもない。



 そして何よりも、あの巨大な化け物を相手にして、見事に勝利した功績を得たフィーたちは今…


「…何故、こうなった」
「あー…やっぱり、功績としては大きすぎたのもあるのかもね」
「何しろ、下手すれば全世界化け物だらけの人間滅亡の危機でしたものね。それを救ったとなれば、功績自体は物凄く莫大なものになりますわよ」
『アア…デモ、ハラエナイ』
「「そうなんですよね」」

 ずーんと机に伏して、目の前の膨大な資料の山を見て伏しているフィーの傍らで、そうつぶやきつつ同意するペルシャ、ルルシア、フィリアの女性陣。

 まだ、それぞれの国の立場があるので、この神聖国だった場所から帰国していいのだが、彼女たちは彼女たちでそれぞれ王族・皇族の立場で学んだことがあるので、フィーに必要な知識を入れるためにかつ婚約者でもある立場から、ここにいるのだ。

 なお、フィリアに関してはどちらでもないのだが、一応関係者の類に入っているのもあるし、帝国で仲良くしているルルシアと一緒にやってきただけでもあった。

 驚くべきことに以前までは鳴き声でしか喋れていなかったが…元がフィーと同じ細胞を使って生み出された存在なせいなのか、フィーの強化に伴って何かしらのつながりがあったのか、ちょっと進化したらしく、片言に近いけれども、人の言語に近いものを発音できるようになっていた。


「まぁまぁ、ご主人様。この神殿内にあった仕掛けも利用している『超強化圧縮学習』の勉学をしているのですから、あきらめて続きを進めてくだサイ。…私のほうも、魔剣とメイドとしての地位の向上のせいで、同じく色々と姉妹間のほうで手続きがこちらのほうに山のように積み重なってますノデ…」
「ああ、そういえばゼナも同じようなものか‥‥主従そろって大変なことになったな」
「まったくもってその通りデス…」

 珍しく彼女の疲れたような声が聞こえつつも、そろってため息を吐く。
 あの場はあの怪物を仕留めればいいだけだったのだが…正直言って、強大な力を得た代償というのものは、非常に大きなものがあった。





 正直言って、やり過ぎた気もしなくはない。
 各国の魔剣士たちも集いつつ戦ってダメだった相手に対して、圧倒的な力をもって叩き潰し、この世から消滅させてしまったのだから。
 そのうえ、あの化け物の炉心となっていたものが…この世界の理に組み込まれていた魔獣の源泉だったものは、あの戦いの後に失われたことによって、世界中から魔獣の発生情報が失せたのだ。

 あの源泉を飲み込んだものにかんしては、なんなのかはわかっていないところが多い。
 だが、それでも魔剣を持つ者たちは共通して、魔剣を介してなのか、あの魔獣たちはもう2度とこの世に出ることはなくなったということを理解したのだ、


…まぁ、魔獣がいなくなっても、既に世に出回っている魔剣は消滅することはなかったが。魔獣を滅する役割が同時に失われてしまったはずなのだが、それぞれ自分の主が生きている間ずっとともにいることを選択して、生きている間は魔剣は存在し続けることになった。

 そうなると、戦争面などで多少のパワーバランスの変化が起きるだろうが…そこでものすごく大きな問題になってしまうのが、明らかに強大な力を持つ魔剣とそれを扱う魔剣士の存在。
 さらに言えばその魔剣士は人外の領域かつかの青薔薇姫の子供というのもあって、その先を考えると大きすぎる力がそこに残っているということになるのだ。

 その魔剣士、俺です。魔剣のほうも、ゼナです。
 一応、ドルマリア王国に所属している立場でもあるが、ミルガンド帝国の皇女とも婚約していることで帝国側の立場もあり、ちょっとばかり面倒な状態。
 王国帝国双方が強大な戦力を持つようなものなのだが、仮に2国が互いに争うようなことになったり、あるいはその力を持つものを利用しようとしてよりしっちゃかめっちゃかなことになったら。想像もしたくないほど非常に厄介なことになるということで、各国がそれぞれ話し合った結果…何とか妥協案に落とし込んだのである。

「その妥協案が、滅びた国の跡地を利用して、俺に…ドラゴンが治める新たな国として立ち上げ、いっそ各国共同で見れるような国を作り上げるって…どうなんだ、それは。俺、一応魔剣士でありつつも一般人の立場だったはずなんだぞ…」
「でも、その出自がドラゴンと青薔薇姫の間で」
「青薔薇姫も公爵家の血があるので貴族としての血も問題もなく、魔剣もすさまじい力をもって」
『オマケニ、メッチャ強化サレテ、神話レベルノドラゴンニモナレル時点デ』
「「一般人といえるのでしょうか?」」
『ドウナノカナー?』

「…ぐぅのねも、出ない」
「悲しいですが、ご主人様をフォローしたいのに、無力デス」

 
 事実を淡々と述べられるだけでも、この現状から逃れるすべはないのを痛感させられる。
 なんにしてもまとめると…国で管理しきれないし扱うとちょっと問題だし、なら全員と仲良くなれるように一国を治めさせて、各国としっかりと盟約やら契約やら条約やら…ひとまずの安心感を与えさせてもらうために、国を作れということだ。

 そんな知識なども特にないが、そこはできる限りほかの国々のフォローも入り、多少名ばかりに近くはなるのだが…それでも、国を褒美として、いや、厄介ごとの無理やりな解決のために与えられるって俺が何をしたのだと問いかけたい。


「でも、フィーが治めるなら問題も少なくなりそうかな?」
「ドラゴンがいる国で、そうそう厄介なことをしでかす奴はいないわよね」
『ケンカ売ルバカ、各国飛ビ火避ケルタメニ、即全力阻止約束サレテイル』

 悪は簡単に栄えないような国になるだろうが、ちょっと力で圧制している国にも思えなくもない、
 とりあえず、残念ながら国を思いっきり投げつけられた上に受け止めさせられて責任を取らされたというこの現実は、変えようがないのであった……


「ついでに、私がそのメイド魔剣のつながりもあって、姉妹から連絡も…結構移住してくるようデス」
「それ、余計に悪が栄えないどころか根絶しかねないよね?」

 必要悪とか清濁併せ呑む必要性もあるので、完全に滅するのは難しいとは思うが…悪人の皆さん、全力で逃亡してほしい。
 いや、悪に情けをかけるなというかもしれないが…なんといえばいいんだろうか、この気持ち。







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