上 下
171 / 204
6章 悪意と善意、トラブルメーカーと苦労人

6-1 忘れがちに、なることも

しおりを挟む
‥‥‥夏季休暇も終わり、暑き日々は次第に寒い風が吹き始めて飛んでいく。

 生徒たちがそれぞれの家に帰っていた学園にも人が戻り、休みの間にも欠かさなかった鍛練の結果を見せ、地道に魔剣士としての実力を伸ばしていくのだ。

 まぁ、そんな努力があったとしても、先は長いなと思わせることは当たり前にあった。

「久しぶりに、魔剣士の生徒たち全員対戦しましたが、実力は向上してますネ。モードを切り替えることはありませんでしたが、それでもヒヤッとした部分はありましたヨ」
「と言っておきながら、全員ぶちのめしきるのはどうなのだろうか」
「そしてご丁寧に、積み重ねるのはきついのだが」
「しかも余裕があるのか縛っているのか、順番に足だ手だ鼻だ目だ腹だと攻撃して無力化し切るのはどうやっているのか」
「あと…主の俺も一緒に、どさくさに紛れて一番最初に無力化されるのはどうなのか」
「「「一番ヤバいドラゴンだから、最初に潰すのは仕方がない事では?」」」
「全員仲が良いですネ」

 ダーインスレイヴ学園の生徒たち、魔剣を持つ全員でゼナ相手に模擬戦の授業で全力で挑んだが、本日は見事に全員完敗となってしまった。

 この休暇の間に自己改造だとか魔剣鍛冶師だとか、色々とやっていたようでゼナの実力は相当跳ね上がっていたようで、数の暴力も楽々と覆されてしまうようだ。

 というか、純粋に個人の力でも負けるんだが‥俺の次に、フィリアも火炎竜の姿で轟沈していたりする。ドラゴンの尻尾、掴んでぶん回して投げ飛ばすってどういう力業だよ。

「そもそも、魔獣の命を奪うために魔剣が必要だけど、その魔剣自身が自立稼働する上に実力が吹っ飛び過ぎている時点で、魔剣士としての俺の存在意義はあるのだろうか…」
「フィー、遠い目になってますわね‥」
「黄昏なくても大丈夫ですよ、ご主人様。魔剣は主がいなければ成り立たないので、私だけで全ての魔獣を屠るのは無理なのデス」
「‥‥‥本当に?」
「‥‥‥‥‥‥ハイ」

 今、ものすっごく間が空いたような気がするのだが、こっちに目を向けて返事してくれないだろうか。





 とにもかくにも全員良い様にフルボッコにされたとはいえ、それでもまだまだ魔剣士として成長途上。

 学生の身ゆえに学ぶことも多く、より経験を積む必要性があるだろう。

 だからこそ、この時期から帝国の学園では魔獣討伐の実践が増強されるようである。


「でも、残念ながらその実践教育の時期に、留学終わって王国へ戻るんだよなぁ」
「あ、そう言えばフィーは留学生の身分でしたわね」

 結構長いこと留学していたような気分で忘れがちになっていたが、俺、立場上はあくまでも交換留学生の身で、帝国の生徒ではない。

 半年と少しほど留学期間が定めれており、あとひと月ほどで帰国することが決定しているのだ。

 まぁ、夏季休暇中は思いっきり帰郷というか帰国の形になっていたが‥‥‥それはそれ、これはこれというやつであろう。

 何にしても、もう少しでドルマリア王国のデュランダル学園へ戻ることになっており、惜しい気もするがここで学べたことは王国では得ることができない経験だったので、十分価値があるだろう。

「そもそも、帝国でも普通はないような事件ばかりでしたわよね?植物大発生とか、山崩壊とか」
「それもそうだった」

 価値がある云々の前に、ありえないようなことが多かったが‥‥それでも、帰国までもう少しとなる。

 ここでの学びもしっかり最後まで吸収しつつ、王国の方に戻っても活かし切ろうと思うのであった‥‥‥



「‥‥‥そう言えば、王国の方の学園が今、どうなっているのかも気になるんだよな」
「そうですの?」
「だって俺、一応生徒会の財務部のほうについているからな。留学という限られた期間とは言え、そんな部分が抜けていてよかったのかと思うところもあるんだよなぁ」
「問題ないデス。ご主人様不在の間、不正が無いようにきちんと学園の方で動かれていたようですし、その不安も考えて私が先に手を回しておいたので、何事もないでしょウ」
「へぇ、そうか‥‥具体的には何をしたんだ?」
「普通に監視と会計などの計算の代役を頼んだことぐらいですネ。姉たちにではなく、ちゃんと信頼のおけるところへ頼んだので問題ないのデス」

 あ、なんかそれはそれで安心したかもな。ゼナの姉妹ってフンフさんの時点で無茶苦茶な感じもするし、兄弟姉妹って似るというから他の姉とかだと余計にやらかしていそうだったけど、違う人なら安心かもしれないな‥‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,770万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...