上 下
108 / 204
5章 復讐は我にあり

5-32 理由が無ければ、移せない者もある

しおりを挟む
‥‥‥婚約者候補。それは正式な婚約者という立場ではなく、何人かいる候補の一人になった事である。

 それも、ミルガンド帝国の皇帝陛下の娘の、ルルシアの相手と言うのは…‥‥

『‥‥これはこれでありねぇ。流石、私の息子だわ♪』
「喜んでいい事なのかと問いたいのですガ、大丈夫なのでしょうカ?」

 ベッドで熟睡しているフィーの下から離れて出られるようになってきたのか、自身の寮室に入って来た青葉ら姫に対して問いかけるゼナ。

 もう何と言うか幽霊のような相手ではあるが、この芸当ぐらいならやってしまうのだろうと納得はしている。

『問題ないわよ。息子の中から見ていたけれども、性格や実力的にも良いわね。私が認める、息子の嫁候補としても最適だわ♪』

 ゼナの問いかけに対して、にこやかに答える青薔薇姫。

 親公認となれば問題もないのだろうが、何となく面白くはない。

「それを答えるだけで、もういいデス。さっさとご主人様の奥深くで眠っていてくだサイ。塩撒いておきマス」
『悪霊扱い?無理ねぇ、悪霊でもないし、幽霊のようになってても違うようなものだし、意味ないわよ。今の私を直接どうこうできるとすれば。死者の国の王ぐらいかしらね』

 実際、本当にこの目の前の青い悪魔もとい青薔薇姫をどうにかする手段に関しては、今のゼナにはない。

 実体のないものに触れる技術程度ならばどうにかなるのだが、青薔薇姫に関しては少々ややこしい状態になっており、通用しないのである。

「もしもまともに触れれば、最終調整中の魔装モードのエンジンに縛り上げて、月まで打ち上げるのですガネ」
『それはそれで面白いけど、触れられないなら駄目ねぇ。私からはこうやって触れるけどね』
もみぃっもみぃ
「ひゃっ!?---ッ!!何をするんですカ!!」

 メイド服の下にある豊満なものをいきなり揉まれ、思わず手を出すゼナ。

 ガントレットに変えて殴りかかるも、残念ながら空振りに終わる。

『こっちだけなら、圧倒何だけれどね。でもまぁ、貴女は貴女で候補のままよ?素直になれないのが、まだまだかもしれないけれどね』
「余計なお世話デス!!次やってきたら、39万6589番当たりの姉に頼んで盛大に除霊してもらいマスヨ!!」
『どれだけいるのかしら…‥‥不思議ねぇ』

 ゼナが真っ赤になって叫ぶのを見て笑いつつ、ふっと消える青薔薇姫。

 何もできずしてやられてしまい、行き場のない気持ち。

「ああもう!!調子を狂わさせられるのデス!!」

 ピーっと音がなるほど蒸気を出して怒るも、どうしようもない状況。

 なんとなくだが、青薔薇姫が存命していた時に周囲にいた人々の気持ちが理解できてしまい、眠る必要はないはずだが、行き場のない怒りを抑えるために、珍しく部屋にあるベッドに寝転がり、ふて寝を決め込むのであった‥‥‥‥







‥‥一振りのメイド魔剣が怒りをどうにかして鎮めようとしているその頃、王城の方では家族会議が開かれていた。

「‥‥‥それでお父様、その話は本当ですの?」
「妹の、ルルシアの婚約者候補に‥」
「ゴポゴポゴポ(王国の留学生を置いたというのは)」

 ルルシア第1皇女カイゼル第2皇子…‥‥そして最近帝国に出てきた商会の方で販売されていた最新式の治療機器に浸かりつつ発言する第1皇子デュールカ。

 そして彼らの目の先には、このミルガンド帝国の皇帝であるアデューがいた。

「ああ、本当の話だ。ルルシア、お前の婚約者候補の一人として、王国からの留学生フィーを置いたぞ」
「「「…‥‥」」」

 堂々と隠さずに言うアデュー皇帝に対して、あっけにとられる皇子たちと皇女。

 いつのまに家族に黙ってと言いたいが、一応彼らも貴族の中で育っていたので、政略的な意味合いの婚約などは理解できる。

 けれども、そうであっても今は家族としての話がある。

「父上が勝手にやるのは、普段のことかもしれないけれども」
「婚約者候補にって‥‥‥勝手すぎますわよ」
「だが娘よ、まんざらでもあるまい?」
「っ‥‥‥」

 にやっと笑う皇帝に、何も言えなくなるルルシア。

 フィーが相手ならば、他の婚約者候補と比べると文句はないが、それでも勝手にやるのは問題がある。

「まぁ、落ち着け子供たちよ。これは特に考えなしにやったわけではない。むしろいくつかきちんとした理由が存在しているからこそやったのだ」
「理由?」
「そうだ‥‥‥まず一つは、彼の血筋にある。既に知っているだろうが、彼の親は片親がドラゴンだが母親の方は青薔薇姫‥‥‥アルガン公爵家だ。まだ公表はしていないが、身分的な問題はないはずだ」

 公爵家の一人娘が、市井で産みつつも孤児になった存在。

 それでも公爵家が正式に発表すれば、公爵家の孫としての立場は確立が可能であり、偽りがないかと疑う輩がいても、血筋を証明できる道具はあるので問題はない。


「とは言え、公爵は発表せずにこのまま領地を隠居と共に返還しそうだが‥‥‥かの公爵家の領地は、青薔薇姫がいたせいで実は色々と滅茶苦茶なところもあり、国としては治めにくい。そこで、その地の正統な後継者に任せたいのだ」

 ルルシアがフィーの婿となれば、分家して新しい公爵家を起こしやすく、治める領地を今のアルガン公爵家のものにしやすい。

 フィー自身は平民として過ごしていたからこそ、貴族としての治め方は分からないところが多いだろうが、ルルシアとて皇女の身分にあり、それなりの帝王学などを学んでいるので治めることはできる。
 
 また、彼の魔剣に関しての調査もすでに行っており、魔剣自身に領地を治めるだけの手段があることは予想できているのだ・

「それと次にあげられるのは、家の血としての問題だ。今のところはデュールカ、お前に帝位を渡すことを決めているが、その体の弱さゆえに血を残せるか不安なところがある。ならばカイゼルやルルシアに帝位をと言いたいが、二人とも継ぐ気はないだろう?」
「無いな。生憎、人の上に立つ器ではないと思っているからな」
「無いですわね。お兄様なら確実に治められると思ってますもの」
「「だからこそ、兄上(お兄様)に任せたい」」

 仲が良いようだが、自分達のやれる限界が分かっているので、押し付けているような形になっている。

 一応、第1皇子自身としては継ぐのは問題が、今の婚約者と子を成せるかと言えば‥‥‥正直、不安しかない。

「そこで、ルルシアと彼の間に子が出来れば問題ないだろう。帝国の皇家の血に、公爵家の血筋、さらに言えばドラゴンの血も混ざれば…‥‥文句言う輩は出ないはずだ。カイゼルが子を成してそちらが万が一に備えても良いが、今は婚約者が‥‥‥いや、それは後にしておこう」
「ああ、そうしてほしい。自分の欲しいものはこの手でつかみたい。ようやく最近、ちょっとどうにかなりかけているがかなりかかるからな」
「だったらわたくしも自由にしたかったけれど‥‥でもまぁ、文句はないかしら?」

 色々と言いたいこともあるかもしれないが、理由としては納得もできるし、この縁に関して言えば特にない。

 しいて言うのであれば、まだまだ問題しかないように見えることぐらいか。


「他にも王国とのつながりや、胃痛の分けあい、戦力バランスの分散に、軍部の方で押さえ込み‥‥‥色々と理由はあるだろう。あげていくときりはないが、デメリットはそんなにない。ゆえに、現段階では彼を候補に置きつつ、正当なものにしていく。ここで文句を言いたいなら、行ってみるがよい」
「「「‥‥‥ありません」」」

 正論ばかり告げられれば、黙るしかないだろう。

 いう事が無くなった子供たちに対して、皇帝は無事に話を切り上げるのであった‥‥‥‥




「…‥‥ところでデュールカよ。それに浸かっているなら、病院で休んでいても良いんだぞ?しばらくの間、仕事話で良いんだが」
「ごぼごぼごぼ(いや、仕事はしっかり、全部やっておかねば‥‥‥)」
「‥‥‥ルルシアに婚約者を作るより、兄上にきちんとした医師を配属したほうが良い気がしてきた」
「この仕事への熱意、帝位を継ぐのに良いですけれども‥‥‥歴代過労死皇帝に加わりそうですわ」

‥‥‥まずはしっかりと面倒を見て、仕事を忘れさせる相手を求めたほうが良いのかもしれないと、全員思うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...