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5章 復讐は我にあり

5-29 ひとまず今は、短き平穏をゆったりと

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「…‥‥そうか、結局情報は無しか」
「はっ、既に話せるだけの知能は失われていると思われます」


‥‥‥フィーがゼナから魔剣に関する話を聞いていたころ。

 ミルガンド帝国の王城内で、皇帝アデューは部下たちから報告を受けていた。

「大罪人は魔獣になっていた影響なのか、人としての知性は失われた模様」
「繰り返し『オデガゴウデイニナルンバァナルンバァ』と口にしており、欲望までは失われていなかったようです」

 帝国の帝都を直接襲撃した、巨大な魔獣ギガファットマン。

 その頭をふっ飛ばし、自身の身体にしていた大罪人は現在捕縛されていたのだが、長時間の拷問も意味を成さないほど廃人となっているようだった。

「恐ろしいのは魔獣よりも人の欲望か…‥‥欲望までは、魔獣になっても手放さなかったとは、これはこれで哀れなものだ。だが、しっかりと責任を取らせるために、処刑の決定までは覆すことはない。処刑予定時間まで、搾り上げろ」
「「はっ」」

 何も情報を持っていなかったとしても、帝都を恐怖に陥れようとした罪が消えるわけではない。

 そもそも帝国から青薔薇姫が消失するきっかけとなった大罪人だからこそ、今までが甘すぎたのかもしれないと皇帝は思う。

(…‥‥いや、青薔薇姫がいたら、それはそれでそうとう大変なことになっていたのではないか?)

 一歩歩けば悪人が捕縛され、二歩歩けば悪の組織が壊滅し、三歩歩けば悪の根源自体が消し炭にされるような‥‥‥噂が色々あるとは言え、どれもが過小評価としか言えないような青薔薇姫の事を思い出し、少し悩まされる。


「何にしても、帝国の壁の修復及び再設計、今回の騒動で尽力を尽くした者たちへの報酬やその他功労者へのねぎらい‥‥‥余計に仕事を増やさせるとは、大罪人の刑は厳しいものにするとしよう」

 皇帝という立場はかなり多くの仕事があって忙しい身だというのに、更につみ重ねさせた時点で許しがたいだろう。

 ひとまず今は罪人の事は臣下のものたちに任せることにした。

 幸い、信頼と心労が色々と一緒な者たちであるので大丈夫だろう。むしろ、余計な仕事を増やしたという気持ちも一緒なため、大罪人に明るい未来は確実に無い。

「そう考えると、ここで一区切りとして消すしかないかぁ‥‥‥ああ、嫌になるな。ここはもう、次の方へ目を向けるか」

 いつまでも大罪人を引きずるのではなく、気持ちを切り替える皇帝。

 切り替えた先にあるのは、今回の帝都防衛線と言えるような戦いに関して、様々な功労を成した者たちへの褒賞などを考える事である。

「帝都の壁の設計で、辛うじてとは言え持ちこたえさせた建築家や設計士、そのほか携わった者たちへの褒賞。それに、魔剣士部隊が到達するまで砲撃を行った者や、到着した魔剣士たちへの褒賞‥‥‥数が多いとはいえ、大罪人を考えるよりは気分が良いだろう」

 今の皇帝に代が切り替わってから、帝国の財政もそこそこ裕福にはなっているので余裕がある。

 先代の皇帝は愚王とは言えなかったが、それでも大罪人を育て上げたことだけあって、厳しい時代もあったが‥‥‥それでも、ここまで帝国を盛り上げる事が出来たので考えることも無い。

 帝国に脅威が迫ったことに関しての恐怖心も民には有るだろうし、ここはいっきに盛大に祝いの場を設けて、気分を高揚させるほうが良いだろうと皇帝は考える。


「だが、これが問題か。‥‥‥‥帝都防衛の最大の功労者が、王国からの留学生…‥‥」

 巨大な魔獣相手に対して、より巨大な姿で、神話に出る様なドラゴンとしての力を見せた功労者。

 青薔薇姫の子にして、王国からの留学生となると少々悩むところがある。


 何しろ正式に広まっていないとはいえ、情報を集めることに長けた者ならば彼が公爵家の孫にあたる事実に突き当たりやすいだろう。

 青薔薇姫の子という事で、何かあれば生死不明から行方不明へランクアップしてしまった青薔薇姫がどこからともなくぼわっと出てくる可能性もあり、迂闊にやらかす輩はそんなにいないはずである。

 それでも、影やら間者やらが色々蠢いている報告も聞くが…‥‥まぁ、何かやらかされる前に防止を必死になっていると聞くので、今度はこちらもねぎらおうかと皇帝は思うのであった。

「青薔薇姫に関する思い出は奴らの方がすごく知っているからなぁ‥‥‥‥」







 何にしても色々と褒賞を用意する中で、このフィーという魔剣士に対しての褒賞でちょうどいいのが見つからない。

 簡単にお金だけというのも手だが、調べたところ物欲なども薄目であり、いまいち喜ばれるとは思わない。

「これが帝国のものならば、褒章として土地や爵位も与えやすいが…‥‥公爵家の孫という部分や、王国の者という他国籍のせいでやりにくい」

 むしろこういう面倒事が出るのが目に見えているからこそ、王国はあっさりと超巨大な戦力とも言えるような彼を留学に出したのではなかろうかと、皇帝は思ってしまう。

 そしてそれはほとんど当たっているのも理解しており、同意したくもなるが王国の方に少し文句を言いたくなるだろう。

「…‥‥とは言え、考えぬとな。ああ、巨大魔獣との戦勝会として宴でも催すのも忘れぬようにしよう」

 やることが多くあるので、ここはもういっそその場のノリや雰囲気でどうにかなってくれないかと思うアデュー皇帝であった‥‥‥‥



「…‥‥ああ、早く隠居したい。もともと皇帝の身になるはずがなかったのに、大罪人の盛大に押し付けられた気もするからなぁ‥‥‥ふむ、いっその事祝いの場ついでに、退任するのが良いだろうか」
「その場合、我々に押し付ける気でしょうか、父上」
「うおぉっ!?いつの間にいたんだ!?」
「最初からですが。とういうか、報告があった時からいたんで、ごぼぶべげぇぇっつ!!」
「だれかー!!世の息子の第1皇子が、いつの間にか病院を抜け出して仕事をしに来ているぞー!!」


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