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5章 復讐は我にあり

5-25 異形の巨人、荒ぶる

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「東及び北門、両方で列に待機している者たちは、急いで入れぇぇ!!戦闘に巻き込まれるぞ!!」
「もちろん、帝都に入るための審査をパスしたわけではないので、指定避難場所で待機せよ!!」
「閉門閉門閉門!!急いで第一級非常態勢にしろぉぉぉぉ!!」

 帝都中に非常事態を知らせる鐘が鳴り響く中、北東から巨大な怪物が接近するという事で、一番近い東と北の門では大急ぎで人々が入り込み、大きな門が閉じられる。
 
 そしてその両方の間に位置する北東の壁の上で、兵士たちが慌ただしく動いていた。

「接近確認!!異形の巨大な怪物、想定高さは約50~60メートルほど、人型に近いですが胸囲がかなり太く、肉団子と言っても差し支えない巨大な体形!!」
「その分、かなり莫大な質量を推定可能であり、体当たりなどの攻撃が非常に強力な恐れがあり!!」
「ならば、遠方からの早期攻撃に移るぞ!!遠距離攻撃が可能な魔剣士部隊が到着するまで、砲撃用意!!」
「うちーかーた、はじめぇぇぇぇ!!」

 号令と共に、帝都を囲う合金製の壁の上から、一斉に大砲による砲撃が行われ始める。

 射程圏内に迫りくる巨大な怪物が入り込み、なおかつ大きさゆえに的としては非常に大きく、狙いを外せと言う方が難しい相手だろう。

【グオオオオオオオオオオオオオ!!】

「巨大怪物、司令部より仮称『ギガファットマン』と命名!!攻撃全弾着弾中!!」
「しかしながら魔獣の類であるようで、砲撃がいまいち通用しない模様!!」
「多少の足止めになっているようですが、全て受け止めたうえで歩んできております!!」

 次々に報告が出されてくるが、このままではあの巨大な怪物、名称ギガファットマンがここに到達するのは目に見えているだろう。

 この帝国の帝都の城壁はかなり高くそびえたち、一枚の金属の板で出来ているのではなく何重にも複雑な構造が内部に仕込まれているので、例えあの怪物が体当たりしたとしても、そう簡単に突破される可能性はない。

 ただし、あくまでもそう簡単にという前提であり、想定以上の自体が起きるのは常に考えなければいけない事態。

 ゆえに、危機感を持って全員素早く行動に移しつつ、直ぐに帝国の帝都を護衛する魔剣士部隊が到着した。

「本件、遠距離攻撃のために第3放出型特殊魔剣士部隊、ここに到着しました!!」
「これより、砲撃に混ざって魔剣による遠距離攻撃を行います!!」
「よぉし!!うてぇぇぇぇぇ!!」

 大砲の砲撃に加えて、魔剣士たちによる遠距離攻撃が加わり始めると、流石にギガファットマンの巨体でも少しは通用してきたらしい。

 先ほどまでの砲撃はあの巨大な肉壁によって防がれていたが、魔剣士の攻撃は流石に効果があったようで、ボロボロと肉壁が少しづつ崩れてくる。

「しかし、それでも異形さが凄まじいな…‥‥巨大な人型の魔獣ではギガスやアトラスなどがいたが、あの怪物は異常すぎる」
「接近するにつれてはっきり見えてきたが…‥‥いくつの魔獣が、あの肉壁に呑まれているんだ?」

 迫りくるギガファットマンの姿が鮮明になるにつれ、その異様な姿が見えてくる。

 巨大な肉団子のような人型の怪物に見えていたが、こうやって迫ってくるとどうも表面にはこれまで確認されたことのあるような無数の魔獣たちで埋め尽くされており、全てその巨大な肉の塊に飲み込まれているかのように埋まっており、取り込まれている途中とも言えなくもない姿。

 魔剣による攻撃によって表面の魔獣はボロボロと絶命して崩れ去っていくのだが、内側から次々に新しい魔獣たちが浮き出しており、肉壁のさらなる肉壁として出されているように見えるだろう。

「ただ一体の魔獣ではなく、多くの魔獣を纏った異形の魔獣というべきか‥‥‥この類は、何処かに本体がいるだろうが、やっつけたところで他の魔獣が出てきたらたまらんな」

 今はただの肉壁扱いにされている表面の魔獣だが、その数は非常に多く、もしも一体ずつ自由に動けるようになった場合、多くの魔獣の襲撃を受ける羽目になる。

 だからこそ、この肉壁扱いで防がれている状態は次々に削ぎ落して処理しやすいのだが、状況は好転していないだろう。

「ギガファットマン、徐々に接近!!っと、何だあれは!?」

 戦況を確認している中、見ていた兵の一人が動きに気が付き叫ぶ。

 先ほどまでのっそりのっそりと歩みの遅かった巨体が急に立ち止まり、その場にうずくまり始める。

「攻撃が、思ったよりも通用したのか?」
「いや、違う、何か様子がおかしい」

 体育座りのような姿勢になったかと思った次の瞬間、ギガファットマンが軽く跳ねたかと思えば、一気にものすごい勢いで回転を始める。

「まさか、あの巨体とスピードで体当たり押してくる気か!!」
「衝撃に備えよ!!帝都の壁は頑丈とは言え、ぶつかった時の衝撃までは消し飛ばせん!!」


 ゴロゴロゴロゴロ!!っと回転しながらやって来るギガファットマン。

 ぶつかった時の衝撃に備えてすぐに進路上にいた兵士や魔剣士たちは場を離れ、衝撃に耐えられるように防御態勢を取る。

「衝撃、来ます!!」
「衝突、来るぞ!!」

 ドォォォォォォォン!!っと凄まじい音が聞こえてすぐに、かなり強い衝撃が発生し、兵士たちに襲い掛かる。

 壁が盾になって防ぐとは言え、衝撃波が貫通してきたようで、何人かの人々がふっ飛ばされる。


「ぐぅ!!なんて衝撃だ!!」
「あの巨大肉団子の突撃は凄まじいな!!巨漢が体当たりをしてくるのと同じ理屈だから当たり前か」
「規模が違いすぎるがな!!まともに喰らったらはじけ飛ぶぞ!!」

 何とか耐えきったようだが、今の一撃を受けた壁は後方に大きくへこみ、二度目に耐えられるかも怪しい状態になっている。

 そこにとどめを刺すかのように、ギガファットマンは後方に転がって距離を取り、再び勢いをつけて突撃する態勢となった。

「二発目が来るぞ!!」
「壁が壊されることに備え、進路から一時撤退!!まともに受ければ潰されるぞぉぉ!!」

 防ぎきれないのであれば、被害を少しでも減らしたほうが良い。

 素早く判断して兵士や魔剣士たちは進路から逃れるように動き、ギガファットマンの動きに中止する。

「来るぞ!!再び同じ場所にだ!!」
「帝都の壁をこうも破ろうとするとは、恐るべき怪物よ!!」
「だが、来るなら来い!!最初から攻めてくるのであれば、いっそドッカンとやってしまえ!!」

 防ぎきれないからこそ、攻撃後に出て来るであろう隙を狙い、次の衝撃に備え始める。

 そのままゴロゴロと転がってくる巨体が、今度は壁をぶち壊す者かと思われた…‥‥次の瞬間だった。



―――バサァ!!
「‥‥‥ん?」

 何かがはばたくような音が聞こえ、兵士の一人が上を見上げると大きな影があった。

 その影は翼を広げていたかと思えば、壁の前に降り立つ。


「ゼナ、『竜魔剣モード』。全力で迎え撃つぞ」
「了解デス」

 そんなやり取りが聞こえたかと思えば、その影がどこからともなく巨大な剣を手に取る。

「なんだ…‥‥ドラゴン?」

 そこにいたのは、物語でしか見たことがないような、巨大な生き物。

 けれども、あのギガファットマンのような異形の怪物とは違い、純粋に畏怖を抱かせるような雰囲気を纏った…‥‥大きなドラゴンだ。



【グォォォォォォォ!!】

 巨大なドラゴンを目にしたとしても、超高速肉団子と化したギガファットマンは転がりを止めず、凄まじい勢いで体当たりをかます。

 その体当たりされるドラゴンの方は剣で受けめた。


ドッゴォォォォォォォォォォン!!

 強烈な衝突音が鳴り響き、思わず目をつぶって衝撃に備える兵士たち。

 だが、どうやらそれは長く続かなかったようで、恐る恐る目を開いて見れば、ドラゴンは肉塊を受けとめきっていた。

「ぐぅ…‥‥お、重いが防ぎきったぞ。さっさとここからどきやがれぇ!!」

 ばしぃっと大剣をぶつけて肉塊から少し離れたかと思えば、ドラゴンは勢いよく体を回転させ、その大きな尾を叩きつける。

バッシィィィィゥイン!!
【グォォォォォォォ!?】

 かなりの衝撃だったのか、怪物が悲鳴をあげながら転ばされ、壁から離れた位置まで転がってゆく。

 そして今度は体制を整え、立ち上がり‥‥‥ドラゴンへ向かっていく。

【グォォォォォォ!!】
「真正面からの殴り合いにする気か!!ならばこい!!」

 ぶつかり合う、巨大な化け物と伝説上の生物と言えるような者。

 その二つの争いは、どことなく神話の争いでもやらかしているように見えなくもないが‥‥‥見ているだけではいけないと、周囲にいた人々は我に返って気が付き始める。

「急げぇ!!あのドラゴンの手助けとして、怪物の方のみにめがけて攻撃せよ!!」
「修復班は、すぐさま壁を修復し、完了次第彼らの足元を整えるのだ!!」
「ギガファットマンの方にはずるずるはまり込むような沼や毒沼を、ドラゴンの方にはしっかりと足を付けることが出来る頑固な補強を重ねつつ、手助けをおこなぇ!!」
「接近が出来る魔剣士ならば、あの攻撃をかいくぐってギガファットマンの身体を多方向から滅多打ちにしろ!!大きさが違うせいで攻撃が効きにくいかもしれないが、少しでもそぎ落として力を落とさせるんだ!!」

 素早く指示が飛び交い、ドラゴンに協力する形で人々は動き出す。

 巨大な怪物に不利な状況が見る見るうちに作り出されていくのであった‥‥‥‥




「‥‥‥おおぅ、もうあんなにボッコボコにされそうな状況になっているねぇ。残念残念、大きさこそが力だと勘違いしているような愚物が材料では甘いようだ」

‥‥‥その一方で、遠距離から観察している人物はそう口にしていた。

「でも、このままあっさりと逝かれるのは惜しいし‥‥‥ここはひとつ、手助けをしよう。あの巨体のコアになっている愚物はもう思考能力自体が酷いし交換するかな?」

 ぱちんと指を鳴らすと、その人物の横に巨大な新しい肉塊が出現する。

 ただし、体はなく頭だけの状態だが‥‥‥‥それで十分だった。

「それじゃ、すげ替えましょうねぇ。あの頭よりもこっちの方がより帝国全体を掌握したい欲望にまみれているし、良い拾い物したなぁ。元々大罪人って呼ばれていたようだけど、更に罪を重ねるような形になると‥‥‥重罪、違うね、大罪はもう使ったし、重ねすぎて潰れているから潰罪とでも呼ぶかな?それじゃ、行ってらっしゃい、新しい頭としてねぇ」

 ボンッと音が鳴り、頭が射出される。

 そのまま一気に飛翔し…‥‥目の前で起きていた争いに飛び込んだかと思えば、次の瞬間ギガファットマンの頭をふっ飛ばし、繋がってしまうのであった…‥‥‥

【グゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ヨコセヨコセテイコクヨコセェェェ!!】

「おやおや?まだ話せるだけの意識も持っているとは、中々の逸材だねぇ。体を動かすのには十分だと思ったけど、これはこれで驚きだよぉ」
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