上 下
96 / 204
5章 復讐は我にあり

5-20 模擬でなければ、どうなったのかな

しおりを挟む
‥‥‥模擬戦も終え、ひと息ついたところで観客席にいた生徒たちは口を開き始める。

「凄かったな、今の試合」
「試合というより死合といっても過言じゃないだろ」
「嵐が吹き荒れ、ぶつかり合う気迫にふっ飛ばされ、防壁合ってもめっちゃ怖い」

 少々やり過ぎた気がしなくもないが、ルルシアとの模擬戦である程度の実力は知ってもらえたようだ。

 まぁ、魔獣相手にはこううまくいくわけがないので油断できないが…‥‥というか、相手にして思ったこともある。

「なぁ、ルルシア。前よりも強くなったと言っていたっけ?」
「そうですわよ」
「でも、その強さよりちょっと弱くしたところで‥‥‥それに勝てる魔獣って何だろうと思ってな」
「うーん、分からないままなのですわよねぇ」

 冬季休暇中に襲撃し、他にも護衛の魔剣士がいた状況での大怪我をしていた時を思い出すと、その相手になっていた魔獣‥‥‥いや、正体不明の怪物とやらの強さが気になった。

 いまこうやって剣を交えて思ったのだが、彼女は全然弱くない。というか、鍛えて強くなったというけれども期間内で出来ることなどを差し引いても、相当な強さを持つだろう。

 それなのに、大怪我を負わせるような怪物‥‥‥一体どういうものなのか、不気味さを覚えさせられる。

「ま、考えなくても良いか。こういうのは大人に任せたほうが良いし…‥‥とりあえずルルシア、良い勝負だったよ」
「ええ、そうですわね。わたくしにとってもいい試合でしたわ。どれだけ鍛えても上はなく、だからこそより強く成ろうという気持ちを改めて抱かせてくれましたわね」

 ふふっと互いに笑いつつ、今の模擬戦に関してもうちょっとやりたかったかなと思いつつも満足していた‥‥‥そんな時だった。


「うぉぉぉぉぉ!!姫様、ご無事ですかぁぁぁぁぁl!!」
「あ、観客席から吹っ飛んで来たぞ」
「終わって少し経つのに、今さらですの?」
「先ほど、お二人のぶつかり合う衝撃が打ち消しきれてなかった分の流れ玉が、直撃していたのを目にしてまシタ」

 観客席から転がり落ちるようにして駆け抜けてくるダルブーネ。

 試合に呆けていたのか、今のゼナの発言にあった流れ玉とやらで気絶していたのかは不明だが、満足な終わりに水をさすような声に邪魔だなぁと思ってしまった。


「おいおいおいおい!!姫様と引き分けになったからと言って良い気になるなぁ!!このまま次は自分と対戦しろぉぉぉ!!」
「別に良いけど、今ちょっと戦ったばかりで少し加減しづらいから大丈夫か?」

 戦った興奮は冷めてきているが、うっとおしさにちょっとイラってきたような気がする。

「構うかぁ!!むしろ姫様と戦って疲弊している今ならば、お前をぼこぼこにできそうだぁ!!」

 そんなことを堂々と言って良いのだろうか。

 念のため、観客席にまだいた他の生徒たちにちょっとだけアイコンタクトを取ってみる。

―――ぼこぼこにしても、大丈夫?
―――OK!!
―――問題ない!!
―――残党狩りみたいなことをする奴だから、ここでぼっこぼこになっても気にならないかなぁ。

 声は出さずとも、全員の気持ちがちょっと読めるようで、普段どういうやつなのか大体察しが付く。

 色々と面倒な輩ではあるが、この対応の慣れ方から見るとそれなりにあしらいやすくもあり、こうはならないようにするという反面教師教材として良い方なのだろう。

「それじゃやるか。そう言えば、そっちの魔剣って何だ?」
「ふはははは!!我が魔剣は『メダルゴロン』!!不定形の魔剣で、全身を金属流体で覆う魔剣!!この硬くなる体にお前の魔剣で傷を付けられるか、試してみるがよい!!」

 審判がまだ定位置にもついていないにもかかわらず、抜刀するダルブーネ。

 あっさり手の内をさらして良いのかと思ったが、抜いた瞬間にぶわっと剣がドロドロとした液体金属になってダルブーネを覆い、見事な金属人間が出来上がる。

「ふむ、こういうタイプの魔剣なのか」
「表面を液体金属で覆い、攻防一体になるようですネ。硬さを武器と防御に分け、不定形だから一部を切り離して飛ばしてくることも可能そうですガ…‥‥」

「さぁ、かかってこぉぉぉい!!」

 自分の腕前に自身があるのか、金属人間と化したダルブーネがそう叫ぶ。

 確かにこの金属ボディだと魔獣の爪や牙も大丈夫そうだし、殴るだけでも硬さによって破壊力を増し、攻防共に中々優れたものになるのかもしれない。

 自身満々になる気持ちも、この魔剣ならば納得できるが‥‥‥‥限度はあるとは思う。


「それじゃ、思いっきり行くぞ?別に全力でやっても構わないんだよな?」
「構うかぁ!!むしろお前が剣で斬っても無理で、さっきの台風を殴った拳でも逆に拳を砕くということをやってみせようではないかぁ!!」
「じゃ、遠慮なく…‥ゼナ、『ソードレッグモード』」
「了解デス」
「ふははははは!!さっきの試合で見た、剣の足か!!蹴り技でもこのメタルゥなぁボディには意味を成さないと」

「『アイスフィールド』」」

 言い切る前に俺は足を地面に突き刺し、一気に凍結させた。


‥‥‥完全竜化できるようになりつつ、剣の腕前も上がったのか、実はゼナの魔剣としての力で使える幅も広がっていた。

 元々彼女は不定形や魔装型、その他魔剣の性質も色々と持っており、放出型の魔剣のような能力も所持しているのだ。

 手にしたばかりの頃は、俺自身の実力不足で扱うことはできなかったが‥‥‥今は少しだけ、使わせてもらうことができるようになった。

 そしてこれ、剣の足でより動きやすくするために、スケートのような動きを可能にさせるためだけの周囲を凍結させる技であり、その範囲をちょっと拡げて…‥‥


ピキパキィ!!
「はがっ!?足が、体が、手がこおっ、」

 異変に気が付いたのかダルブーネが焦るが、すでに遅かった。

 地面からきた凍結があっと言う間にその全身を覆い、一つの金属と氷が混ざった芸術的でもない像がそこに出来上がってしまうのであった。

「…‥‥審判、これ相手の敗北になるかな?」
「あー、そうだな、大丈夫だ。ダルブーネ、全員凍結により戦闘不可能と判断!!よって勝者フィーとなる!!」

 きちんと勝利判定を貰いつつ、さっきよりも歯ごたえなさすぎる戦いに残念感を覚えるのであった‥‥‥



「ところでこれ、どうしますの?」
「一応、瞬間凍結ってことで生きているけど、しばらく溶けないと思うぞ?」
「では、放置で良いのではないでしょうカ?」
「「…‥‥それしかないかも」」

‥‥‥3日後、ようやく溶けたダルブーネは、俺の方に文句を言いに行く前に熱湯風呂へ直行する姿が目撃されたという。

 というか、それだけ凍っていてぴんぴんしている生命力の方が怖ろしいような気がしてきたんだが?




しおりを挟む

処理中です...