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4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-7 練る時間は、十分ある

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「‥‥‥という感じの魔獣で、少なくとも対策なしの状態で相手した場合、100%の確率で全滅確定となってまシタ」

 カタカタと映像を壁に映し終え、そう口にしたゼナ。

 そしてそれを聞き、見ていた人たちはあっけに取られていた。

「おいおい、何だよ今の魔獣の攻撃。いや、人工的な可能性があるとは言え魔獣なら魔獣だけど、どう見たって火力や攻撃手段マシマシの『僕の考えちゃった最強のまじゅ~』って言ってもおかしくはない奴なんだが」
「あの光線で遠距離から一方的にやられたら、どう考えても対応できないぞ。それを回避できたとしても周囲への被害が甚大になるぞ」
「というか、あのフィーの攻撃もすさまじいが、それを受けてもなおダメージが大したことがないって言う耐久力もすさまじいものがあるな。なんだよあのお化け耐久まっくろくろすけ玉魔獣は」

 ようやく頭の理解が追い付いてきたところで、出てきた事実に戦慄する面々。

 無理もない。実際に対峙をしていた俺だって、改めて光景を見せられたらそう言いたくなるのだから。まっくろくろすけ玉魔獣と言うツッコミは、ちょっとしっくりきたけれどね。

「ふむ…‥‥こんな奴相手に、短時間とは言えよく相手にできたなフィー。でも、そのおかげで良い情報が得られたわね。だからこそ、この相手の攻撃を見る限り、対策をいくつか出せそうだわ」
「そうでしょうか、生徒会長」

 見ていた面々が魔獣の強さに頭を抱えたくなる中で、生徒会長はそう口にした。

「疑問を持たずとも、これだけの数の攻撃をみると思いつくわよ?ゼナ、そうでないと生き残れる可能性自体がそもそもないのよね?」
「その通りですネ。対策があれば、飛躍的に生き延びられる可能性が伸びるでしょウ。初見だからこそ手ごわそうでしたが、相手の主な手段が光線系となれば有用なものが多くなりマス」

 お互いに何か分かっているのか、ふふふっと笑う二人。

 強者ゆえの余裕なのか、それとも単純にどっちもおかしいレベルの人だからか、通じ合うものがあるのだろう。この組み合わせ、何時か何かしでかされそうで密かに恐怖を抱いていたりする。

「映像を見る限り、巨大球体魔獣‥‥‥呼びにくいから仮称で『ダンゴール』とでも呼ぶか。こいつの主な攻撃手段は2つ、対空迎撃として使用している細かな光線に、長距離砲撃として利用する太い光線。どちらも大多数、単体を相手にすることが可能のようだが、共通している攻撃手段に光線・・がある。これが、対策として利用できる情報だろう」
「会長、その名称はいささか適当な気がしますが‥‥‥いえ、そんな事よりも、どうして光線という情報が対策になるのでしょうか?」
「文字通り、光る線‥‥‥光の攻撃を使っているわけだ。光とくれば、反射することが可能じゃないか?」
「可能ですネ。分析したところ、高エネルギーという点を除けば、太陽光に近いものを使っていることが判明していマス」

 生徒会長の問いかけに対して、ゼナは答える。

 いわく、あの凶悪な攻撃手段はちょっとばかり熱量が凄まじく強化された太陽光に近いようだが、光という事で鏡などで反射できる可能性が非常に高いというのだ。

 だがしかし、普通の鏡を用いれば攻撃を反射しきれるという訳ではない。攻撃に使用しているからこそ強い圧力やかなり高い熱量を兼ね備えており、まともな鏡を使用した場合受けきる前に蒸発させられるだろう。

 けれども、防御手段にまともな鏡を使えばという話であり、それならば‥‥‥


「まともではない鏡‥‥‥いえ、正確に言えば魔剣で鏡のような性質を持つ人たちで、防御できるかもしれないという事になる。幸い、魔剣士の中に鏡のような効果を持つ魔剣を所持する人は何人かいるのよね」

 完全に鏡ではないが、同じように反射をすることが出来る魔剣も何本が存在しているそうで、ここにいる魔剣士たちの中に所持する人たちはいるらしい。

 でも、防御できる手段があったとしても、問題は相手の攻撃ではなく、どうやって倒すかという事になる。

「人工的な魔獣、インスタント魔獣に近いと見るが研究部部長、君はどう見る?」
「そうぞなねぇ…‥‥確かに、確認された情報や彼女が分析してくれた細かなデータを見ると、インスタント魔獣の亜種と知っていい存在だというのは確定ぞな」

 研究部部長がぐいっとメガネを整えつつ、この場で素早く書かれた報告書を読みながら答える。

「インスタント魔獣でこんなメチャクチャな奴を作れるかと言われれば普通は無理ぞな。材料や資金、技術面で問題しかないぞなけれども、完成させているところを見る以上、何者かのバックアップを受けて作られただろうぞな。でも‥‥‥完璧という訳でもないぞな」
「というと?」
「この表面、ぐつぐつ煮えたぎった黒い液体のように見えるぞなが、分析されたデータだとおそらく作成過程の中で、構成物質同士の結合がうまくいっていない時にでる現象と同じことが分かるぞな。材料に何を使用しているのかは見当つかないぞなが、それでも惜しいところまで完成している感じぞなね。だからこそ、その未完成な部分に、倒す道を見つけられるぞな。マリアンヌ、ボードを」
「はい、先輩!」

 研究部長の助手がさっと壁にボードをかけ、研究部長がさっと絵を描く。

 流石こういうことに携わっているせいか、見やすい絵になっていた。

「仮称ダンゴールの表面組成は謎ぞなが、原理的にはインスタント魔獣のスライムボディと似たような物だと推測できるぞな。内部の方から攻撃を生み出し、それを何重にも乱反射させ、体外へ撃ち出すと思われるぞな。そう考えるとその源には計算すると大体このぐらいの小さなコアが存在していると思われるぞな」

 きゅきゅっと書かれた大きな魔獣の体の中には、滅茶苦茶小さな点が描かれる。

 どうやらその点が予想できるダンゴールの本体のようなものであり、そのコアの働きによってあの巨体や光線を撃ち出す攻撃が出来ているらしい。

 つまり、早い話として、そのコアさえ魔剣でぶった切ってしまえば、魔獣は即座に死亡するそうだ。

「無限復活するような仕掛けとしていくつものコアを点在させる手段も考えられるかもしれないぞなが、もしもインスタント魔獣をベースにして作っているならそれは無理ぞな。いくつもあるとお互いに干渉し合い、形を保つどころかインスタント魔獣としての生も生まれないぞな。となると、コアは一つだけ‥‥‥大きさに比べてかなり小さなものを内部で泳がせているぞな」

 中心部にあるのではなく、弱点を隠す意味や攻撃の方向の変更などの理由によって、内部を小さなコアが蠢いている状態。

 この表面上のごぼごぼとに立っている液体の流れによって動いており、特定は非常に厳しい。

 
 けれども、捉えることは不可能ではない。魔獣の内部を動くコアを見つけるのは厳しいが、触ることは可能だからだ。

「計算すると、結合不可部分を吹き飛ばせば良い話になるぞな。内部に網を仕掛けたほうがより確実ぞなが、液体自体が溶解の性質を持っている可能性を考えるとそっちは無理ぞな」
「でも、吹き飛ばすってどうやって?」
「フィーのあのブレスと竜巻を合わせた技でも吹き飛んでなかったよな?」
「簡単な話ぞな。彼一人と魔剣一本の攻撃では、力不足なだけぞな。いかに滅茶苦茶優れた力だとしても、それでも相手の方がはるかに上回っているだけぞな。けれども‥‥‥計算上、今この場にいる爆発や風を引き起こせる魔剣士たちが、全員力を合わせれば吹き飛ばせるぞな」

 おおおおーっと、希望の光が見えてきたことで、感嘆の声が上がる。

 流石に俺一人でというのは無理すぎるが、全員で力を合わせれば巨大な力となってやれそうなのは期待できるだろう。

「でも問題は、相手からの攻撃ぞなねぇ。鏡に近い魔剣を使う人たちが防いだとしても、それ以外の攻撃手段がこられるときついものがあるぞな。そもそもの話、ここでドンパチかませば被害が大きすぎるぞな」
「それもそうだ」
「確かになんで、ここでやる話になっていたんだろう‥‥‥」

 言われてみれば確かに、何やらここで迎え撃つ様な話になっていたが、考えてみるとここでやる必要はなかった。

 戦いやすいように、周囲への被害を減らすのであれば、王都から離れた場所での戦闘も可能なはずである。というか、王都内だと建物とかがそれなりにあるので邪魔になりやすく、平地での戦闘にしたほうがはるかにやりやすいだろう。


 とにもかくにも、色々と対策案を練りつつ、魔獣の接近に備えて俺たちは準備を始める。

 初戦では逃走させてもらったが、二度目のこの戦いでは魔剣士たちで挑ませてもらおう。

 ばっちり対策をとりつつ、油断せずに他のプランも組み立て、確実に討伐できるようにすぐに動き出すのであった…‥‥


「まぁ、個人的には作戦会議よりも、分析出来ていた魔剣の方に興味あるぞなけれどね。ここまで細かなデータを作製できるだけの魔剣‥‥‥そっちの方が魔獣よりもはるかに調べる価値があるぞな」
「お断りさせていただきマス」

‥‥‥研究部長。この非常事態にまだそんなことを言うのか。でも、いつも通り過ぎるせいか、場の緊張がほぐれるから良いか。

「そう言えば、人工的な魔獣だとして、どこのどいつが作ったとか分かるか?」
「無理ぞなね。構成データが完璧に解明できたとしても、どう組み合わせるかによって考えようがあり過ぎて、特定不能ぞな。でも、ちょっと気になるのは一部に人間の血肉が使われているようなことぞなかね?誰かが犠牲になっているのは間違いないぞなが、人間の血肉って魔獣の肉体構成には不向きなはずぞなが‥‥?」

 
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