上 下
65 / 204
4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-5 悪意はゆっくりと、しみ出すように

しおりを挟む
「魔獣が出たぞぉぉぉぉ!!」
「魔剣士を派遣しろ!!到着までに急いで防衛線を張れ!!」

‥‥‥どこの地域であっても、この世界では魔獣が出現したら人々はすぐに行動を起こし、被害を出来る限り最小限にとどめるように工夫を凝らす。

 ある村では堀を作ったり、ある町では城壁で囲み、またある都市では城壁に兵器を配置するなどをして魔獣に対抗しうる手段を取るのである。

 とは言え、魔獣の命を完全に根絶できるのは魔剣しかないので、魔剣士たちが到達するまでの時間稼ぎぐらいにしかならないが、それでもかなりの時間を稼げると言えば稼げるだろう。


 だがしかし、その日、その場所に出た魔獣は違っていた…‥‥








「せいやぁ!!」
「っと、今の翼での体当たりは危なかったですネ」

 空中で体当たり攻撃を行ったが、軌道を読まれていたようでゼナは回避してしまう。

 本日の授業の模擬戦では空を飛ぶ魔獣対策として他の生徒たちがインスタント魔獣を用いて相手をしていたが、俺の方はゼナに相手をしてもらっていた。

 というのも、空中戦に関してはドラゴンの翼が生えているので、機動力がインスタント魔獣よりも桁違いに異なり過ぎているのである。

 他の生徒たちも対空手段を持ち始めているとはいえ、それでも空を飛ぶ魔獣相手ならば自分で言うのもなんだが突出しすぎてるので、そこでゼナと模擬戦をすることにしたのだ。


 メイド魔剣が空を飛ぶのかと言われそうだが、実際に飛べているのだから仕方がない。

 まぁ、ソードウィングモードとかではなく‥‥‥こちらが自前の翼で飛んでいるのに対して、何故か空中を足踏みして飛んでいるというのはどうなのかと思うが。

「本当にそれでどうやって飛んでいる、いや、空を駆け抜けているんだよ」
「足場をちょっと固めているだけデス。空中歩行の技術もありますが、ここは空気をほんの数秒固める技術の方がやりやすいだけなので、それを選択したのデス」

 どういう技術だとツッコみたくなるが、理解できないのが目に見えているので止めておく。

 なお、ゼナの服装はいつものメイド服…‥‥スカートをはいているので下から見たら中が見えかねない危険があるとは思うが、そこは対策しているようで暗闇しか見えないようにしているらしい。ズボンをはけばそんな謎の技術を使ってまで隠すこともなくなりそうだが、そこはこだわりなのだとか。


 とにもかくにも、空中でお互いにぶつかり合い、そろそろ一撃をなんとか当てられそうな…‥‥そんな時だった。

ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
「なんだ!?」
「警報でしょうカ?」

 突然学園中に何やら非常にけたたましい音が鳴り響き、模擬戦を行っていた生徒たちの動きが止まる。

 確かこの音は、かなりの非常にのみ流される警報音であり、授業内でどのような音なのか聞くことがあったが、実際に流されるのは入学してから初めてだろう。

 なお、王都に来て早々の大量のプチデビルという魔獣が出現した時にも実は流れていたようで、王都自体に危険が迫る際に流されるそうだが…‥‥


『緊急事態発生!!魔剣を扱える生徒たちは、ただちに運動場の方へ集まり、指示があるまで待機をしてください!!すぐに動けるように準備をして備えてください!!』

 警報音に続けて、学園中に音声放送を行う道具で放送音が鳴り引き、全員指示に従う。

 インスタント魔獣はすぐに回収され、俺たちも地に降り立って他の生徒たち共に行動を行う。


「あ、フィー!!急いでこっちの方に来てくれ!生徒会の方でも招集がかかっているぞ!!」
「わかった!」

 一応財務の方に所属しているので、生徒会が集まる方へ呼び出され、全員がすぐさま整列する。

 普段の学業に含めて、魔剣士としての訓練もしっかりされているので、誰も乱れて動くようなことはない。

「生徒諸君、緊急事態が起きた事をここに連絡する!学園長より指示があるぞ!」

 生徒会長が生徒会含め集まった生徒たちへ向けれ声を発し、いつの間にか設置された壇上にこのデュランダル学園の学園長ガッドハルドが姿を表した。

 いつもならばその手に持つ魔剣エレキギールを鳴り響かせて出てくる学園長だが、今回は非常時のようでふざけた様子もなく真剣な表情だ。

「緊急事態が起きた。生徒たちは聞き逃すことなく、話を聞いてくれ!」

「今から2時間ほどまでに、この王都より南西にあるルゾン領内に、魔獣が地中より出現した。すぐさまその地域近辺の魔剣士たちが派遣されたが…‥‥全滅し、その魔獣たちがこちらへ向かってきているそうだ!!」
「ぜ、全滅!?」
「うっそだろおい!?」


 学園長の言葉に驚愕する生徒たちもいるが、そのまま話は進む。

「魔獣の詳細は不明!地中より現れたのでモグラやオケラ、ミミズなどの姿をした魔獣かと思われたが、現地からの情報によれば宙を浮遊する黒くて丸い物体のような魔獣だ!!接近戦は危険と思われ、遠距離の出来る魔剣士の招集を生徒たちからも募る!!」

 要は魔剣士たちを緊急招集する必要があり、生徒たちであっても必要とされるほど不味い事態らしい。

 しかし、黒い丸の物体のような魔獣‥そんなの、いたか?

「魔獣に丸いのって何がいたっけ?」
「ダンゴムシ型の魔獣グソクムッシャというのは、過去に出現した例があるようデス。しかし、飛んだという情報はないはデス」

 とにもかくにも、正体不明の魔獣は今、魔獣として生きとし生けるものすべてを葬る行動が出ているようで、そのためなのか人の多い王都めがけて接近しているらしい。

 道中にも魔剣士たちがいたりするのだが、対空迎撃を行ってもひるむことなく、むしろ攻撃をされて歯が立たないようだ。

「何にしても、魔獣なら出るか。生徒会長、自分は空を飛べるので、先に相手と対峙しておいても良いでしょうか?」
「ああ、許可する。ただし、不味いと思ったら必ず退却を忘れないように」
「分かっています」

 一人で解決できると思わないし、一旦確認のために向かうほうが良いだろう。

「ゼナ、ソードウイングモード!!」
「了解デス!」

 ドラゴンの翼を広げ、そこに刃の翼が付け足され、一気に飛翔する。


「南西の方角から一直線となると‥‥‥こっちか」
「魔獣までの距離はまだあるようデス。反応を感知次第お知らせいたしマス」

 空を駆け抜け、魔獣のもとへ俺たちは急ぐ。

 到着しても、対空迎撃への反撃情報からすぐに攻撃もしにくいし、一旦直接目で確認するために向かうが…‥‥

「それにしても、宙に浮かぶ黒い物体か」

 何だろうか、この嫌な予感は。

 先日の悪夢で見たような、何かが現実に現れるとはどういうことなのか。

 何の関係もないとも言い切れず、言いようのない不安を抱えつつ俺たちは魔獣の飛行しているところまで向かうのであった。

「‥‥‥いや、悪夢だったのは目覚めた後だったか」
「何か言いましたカ?」
「何でもない」


‥‥‥正直言って、夢よりもその後にあった物理的なダメージの方がはるかに酷かった気がする。こんな状況で何を思い出しているのかと思うが、潰れた果物のような気分を味わいたくなかったなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,770万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

倒すのが一瞬すぎて誰も見えなかった『絶対即死』スキルを持った暗殺者。護衛していた王子から何もしない無能と追放されてしまう

つくも
ファンタジー
「何もしない無能暗殺者は必要ない!お前はクビだ! シン・ヒョウガ」 それはある日突然、皇子の護衛としてパーティーに加わっていた暗殺者——シンに突き付けられた追放宣告。  実際のところ、何もしていなかったのではなく、S級の危険モンスターを一瞬で倒し、皇子の身を守っていたのだが、冗談だと笑われ聞き入れられない。  あえなくシンは宮廷を追放される事となる。  途方に暮れていたシンは、Sランクのモンスターに襲われている少女を助けた。彼女は神託により選ばれた勇者だという。 「あなたの力が必要なんです! 私と一緒に旅をして、この世界を救ってください!」 こうしてシンは彼女のパーティーに入り旅に出る事となる。  ――『絶対即死スキル』で魔王すら即死させる。これは不当な評価で追放された最強暗殺者の冒険譚である。

処理中です...