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3章 静けさもほのぼのも、何かの前触れに?

3-10 結論として、行くものも

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‥‥‥人と言うのは、思いのほか疑い深いものなのかもしれない。

 本人たちにその気はないと言っていたとしても信じることはなく、裏があるのではないか、何か別の事をやるのではないかと思う者たちがどうしてもでる。

 そしてこの場にいる者たちもまた同様に、疑いを持つからこそ蠢く者たちであった。


「…‥‥だからこそ、手を組めそうなものたちを捜しているというのに、なぜ誰も出てこんのだ!!」
「それが、全員その情報を手に入れているようなのですが、速攻で断るところが多くて‥‥‥」

 とある屋敷の中にて、叫ぶ主人に対して困り果てたようにそう答える下僕。

 命じられてこの家で色々と繋がれそうな裏社会の者たちへ向けて依頼をしに向かったのだが、どこもかしこも断ったのである。

 理由は明確というか、自身の命が何事にも代えられないものが多いからこそ、その情報を事前に集めて判断を下した者が多いのである。

「このままではあの爺の寿命を迎えた後に、アルガン公爵家が潰れて領が国へ返上されるだろう。だが、大人しく隠居しているように見せかけ、あの帝国の刃や荒ぶる獅子と言われているあのガンドールが大人しく放棄するわけがない!!だからこそ、その隠された孫の情報を辿って無理やりにでも継がせて存続することも考えたが‥‥‥」
「普通は、存続された方が良いような気がしますが?いや、返上されて国の土地になれば、こちらのつながりでバレないように切り分けられそうなのですが…‥」
「ばっかもん!!あの土地は我が家が、わたしが受け継げる権利があるところだぞ!!それをあの爺が確実に今の代で断絶すると宣言しているせいでどうしようもないのだ!!そこに孫の情報が出てきたら、確実にあの爺は孫に継がせる可能性が大きいだろうがぁ!!」
(((そりゃまぁ、この人に任せたら速攻でどんな土地もダメになるだろうなぁ)))

 と、話を聞いている者たちは心の中でそう思ったが、口には出さない。

 自分達もまた、この人物の下につくことで甘い汁を得ていたりするので、そんなことを言えるような権利がないとある程度は自覚しているのである。


 一応、割と冷静にその判断ができているのである程度の時期で見切りをつけ、さっさと逃げようとは思っていたりするのだが…‥‥それでもまだ、欲を持って付き続ける。

「それでどういたしましょうか?繋げられそうな裏社会の者たちは全員、そっぽを向かれました。孫の情報を元に暗殺も無理でしょうし、ここはもうあきらめて・・・・・・」
「諦められると思うのかぁ!?あの土地は彼の青薔薇姫、蠢く大災害、生ける天変地異と恐れられているやつが育った場所でもあるが、それと同時に他の土地には無い価値の高いものが多く眠っているはずだ!!いや、そうであろうとなかろうと、公爵家の土地というだけでもかなり価値があるものも多いはずだろう。それを国に返上するぐらいなら、こちらで使ってやれば良いだけの話ではないかぁ!!」
(((あ、駄目だこの人。頭の悪さと都合の悪いものを見ない目が、公爵家の孫情報を聞いたせいで大暴走して、このままだと確実に破滅の道へ歩むな?)))

 と、その場にいた者たちの心がそろって、もうちょっとかなと思っていた算段を2,3日以内にしようと心に決めた、その時だった。


「あのー、すいません。先ほど、ようやく引き受けてくれそうなところがありました」
「なんだとぅ!?それは喜ばしい情報だ!!」

 扉を開き、入って来たものがそう告げたことでその人物は目を見開く。

 どこを頼っても断られてばかりだったので、叫んで不安になってきた気持ちをごまかしていたが、ここにきて朗報が入ってきたことでようやく笑みを浮かべた。

「それで、引き受けてくれるのはどこのものだ?素人などには任せられんから、しっかりしたものたちを選べと言ったがどうなんだ?」
「その事なんですが、国外辺りまでいかないと駄目かなと思っていたのですが、意外にも国内の、それもかなり大きなところでして…‥‥」











‥‥‥どこかの愚者が、周囲の思うように破滅の道へ嵌ろうとしていた丁度その頃。

「‥‥‥ご主人様、疲れ果ててますネ」
「そりゃそうだろ。弟や妹たちの相手をすると、魔獣以上に疲れるからなぁ…‥」

 暑い日が続いていたが、今日はほど良い気温のようで、木蔭でゆったりと教会の子供たちと一緒に外で昼寝をしていた。

 おやつの時間も終えており、すこしだけゆったりと寝る予定ではあったのだが、疲労のせいなのか寝付くまでにちょっとかかりそうなのである。

「まぁ、羽を考慮してのハンモックはありがたいけどな…‥‥結構具合が良いというか、押し込んでするっと出すことが出来るって、中々良い造りだな」
「ご主人様のような、ちょっと人から外れたものがある人には具合が良いというハンモックのデータを元にして、作成しましたからネ。たとえ翼があったり足がタコだったり蜘蛛であっても、どの様な人でも安らげるようにしたのデス」
「‥‥‥そんな人がいるのか?」
「いると言えばいますネ。まぁ、ここではないどこかで、ご主人様も私もおそらく会うことがないというか、データにあるだけで本当にいたのか半信半疑になるかもしれませんが…‥‥それでも、これで寝やすいはずなのデス」

 人外のものを持つ者が他にいるのだろうかと疑いたくなったが、ゆったりすごせるならどうでもいいかと俺は思った。むやみやたらに突っ込んだところで、ろくなものが出てこない可能性の方が大きい。

 そんな事よりも今は、寝付く方が先だろう。

「何にしても、こういう気持ちのいい日は暑い日々の中でも珍しいよなぁ‥‥‥まさかとは思うが、ゼナが周囲の気温を操っているとかはないよな?」
「流石に無いデスネ。氷などは作成できますが、長時間で適度な気温を室外で保つのは流石にメイドでも難しい話デス。できるメイドもいるようですが、私はまだまだ成長途上なのでいずれ身に付けたいですネ」

‥‥‥あれ、なんか別のろくでもない情報を得てしまった気がする。ただでさえ無茶苦茶な事が出来るメイド魔剣のゼナでもできないことを、できるメイドがいるってどういう事なんだろうか。

 変な謎を増やしてしまったのは失言だったかと思ったが…‥‥それでも、ようやくやって来た眠気を前にすると、忘れておいたほうが吉かと判断し、身を任せる。

「ひとまず、寝すぎて夜眠れなくならないように適当な時間で全員起してくれ」
「了解デス」

 こういう時に寝る事をほとんど必要としないというか、寝たところを見たことがないメイドがいるからこそ、寝すぎることがないのは良かったと思い、俺は静かに意識を鎮めるのであった…‥‥




「…‥‥こういう時に、寝る必要がないというのは、ちょっとばかり残念ですネ」

 すやすやとフィーが寝息を立てはじめたところで、そっと傍に立つゼナ。

 メイド魔剣として生を受けている以上、睡眠の必要はないのだが…‥‥この世に生を受けて過ごし続ける中で、少しは夢を見たいと思う欲望を持っていた。

 仮眠ぐらいならばできないことも無いが、それでも夢を見ることはない。

 自身は作られた存在であり、生涯をご主人様へ捧げて仕える事のみを目的にしているので、寝ること自体はいらない物なのかもしれない。

 けれども、時として寝ている主の顔を見て、その夢を共有したいと思う時はあるのだ。寝て夢を見れたところで、夢の共有自体は無理かもしれないが…‥‥こうやって一人でいる時が、密かに寂しいと思うようにもなっていた。

「何故でしょうかネ。寝ているご主人様を見ると、早く起きて私に命令をして欲しいと思うのハ。メイド魔剣たるもの、常に主の事を考えて行動をするべきなのでしょうが‥‥‥それとは、また違うもののような気がしますネ」

 以前、フィーがドラゴンになった時の力の影響なのか、それとも共に過ごしていた時間によるものなのか、彼女はその気持ちが何なのか、まだわからない。

 けれども、こうやって何も受け答えもないこの時間に、寂しい思いを抱くような気がするのだ。



‥‥‥いや、もしかするとその答えはもう胸の中にあるのかもしれない。でも、それは自分には必要のない、関係のない思いだと判断し、話すことはない。

「何にしても、ご主人様が目覚めるまで…‥‥都合のいい時間まで、制作作業をしておきますカ。ご主人様の身の安全を考えると、この地の安全も考える必要がありますからネ」

 気持ちを切り替え、裁縫道具を取り出し、彼女は作業の方に集中し始める。

 密かにこの地へ彼女は仕掛けを施していくのだが、そんな事をこの場にいる者たちは知る由もないのであった‥‥‥

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