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3章 静けさもほのぼのも、何かの前触れに?

3-7 放置されて、今さらは無いと思うのだが

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…‥‥夏季休暇の中で、故郷で過ごせているのは良いだろう。

 学園から卒業して正式に魔剣士になったらここへ帰ってくる機会は減るだろうし、だからこそ今ここでしっかりと故郷の空気をかみしめ、ゆったりとした時間を味わう。

 そう、魔獣が出てきたとしてもすぐに討伐して‥‥‥‥


「というか、そもそも来させるかぁぁぁぁ!!ゼナ、『ガトリングモード』!!」
「了解デス!!」

 バサバサと飛行してゆったり上空を飛んでいた時に、ふと遠くの方に見えた魔獣の群れに近づき、俺たちは来られる前に掃討作業を行っていた。
 
 竜化によって多少身体能力が強化されているのか、視力も例にもれず良くなっていたようで、偶然だったとはいえ魔獣が迫る前に目撃できたのは幸いだっただろう。

 見つけてすぐにソードウイングモードも出して一気に加速し、空からの襲撃をかけたのである。ドラゴンの翼だけでも飛行できるが、重ねて使用することでより飛行能力は向上するし本当にあってよかったよこのモード・


ドガガガガがガガガガガガ!!
「エネルギー弾ついでにブレス!!」
【【【ボゲェェェェェぇ!?】】】

 撃ち漏らしが無いようにガトリングの弾を回避したやつへ向けてブレスを発射して動きを阻んでいく。

‥‥‥まぁ、魔獣を絶命させられるのは魔剣だけなので、ブレス攻撃だとダメージ程度であまり意味がない。だからこそ、ブレスで阻害されて鈍くなった相手へ照準を合わせ、徹底的に殲滅作業を行う。

 しかし、こうやってブレスを吐くのはいいけれども、もうちょっと効果的に相手を捕らえたいところ。

 ねばねばしたブレスとかないかなと思ったが、そんなものを吐いたら吐いたで絵面が酷い。何か手段がありそうな気がしなくもないが、現状は火柱ぐらいしかないかなぁ。



 何にしても、近づかれる前に遠い場所で殲滅が出来たところで、念には念を入れて地上に降り立ち、ソードレッグモードに切り替える。

 地面の中に潜って攻撃してくる魔獣もいるそうなので、出てきてすぐ頭の上に刃物がある状態にしておくのだ。

「ひとまず、大体殲滅できたけれども‥‥‥本当に魔獣はどこから生じてくるのやら。油断していたらこうやって出てくるのはやめてほしいな‥‥‥」

 出てきたところで根こそぎ殲滅するとはいえ、それでも突然出てこられるのは精神的にあまり良くない。できれば出てくる前に今から出ますよと言う様なお知らせが欲しくもなる。

「それは謎ですからね‥‥‥流石の私でも、事前予測は難しいのデス。ある程度の範囲の探知は可能なのですが、それでも範囲外は厳しいですからネ」

 このメイド魔剣の方はある程度感じれるらしいが、それでも難しいようだ。どうやって探知しているのかはツッコミを入れるときりがないので聞かないでおく。


「あ、言っていると‥‥‥ご主人様、南南西の方に、魔獣を感知しまシタ。どうやら今、出て来たようデス」
「ん?ああ、ならまた片付けに向かうか」

 丁度出て来たようで、放置するわけにもいかないし、出て来たなら即座に潰したほうが良い。

 そう思い、翼を広げて再び魔獣討伐へ向かうのであった。

「‥‥‥それにしても、こうやって連続で出るのは大変だな」
「歴史上、一日最大178回が最高記録だったそうですネ。連続で出てくる可能性自体はありふれているようデス」

 なお、それだけの回数ではあるが単体での出現が大半を占めていたようで、群れで出てきた場合だと余計厳しい状態になっていたとも言われている。そこまでポンポン容易く出て欲しくないのだが、本当に魔獣の発生する理由って何なのか気になることが多いなぁ。










「公爵閣下、狼の魔獣ウルフボーン、現在交戦中です!!」
「すぐに片付けますので、しばしお待ちください」
「ああ、わかった」

 部下たちの話を聞き、儂は馬車の中で守られていた。

 アルガン公爵家当主の座…‥‥ミルガンド帝国の影の刃や人脈お化けのガンドールと言われることもあるが、こうやって魔獣相手には何もできないもどかしさはいつも悔しいところがあるものだ。

 魔剣、という力さえあれば老いたこの身であろうとも最後まで領民を守ることが出来るはずだが、現実はそう簡単にはいかない。

 この世はいつでも不公平、そう、例えば儂の娘のように。


‥‥‥いや、あの娘は娘で公平不公平という壁を貫いていたな。力で制しようとするものをより上の力で叩き潰し、足りぬものがあればどこからともなく補充し、それが意志を持ってではなく自然とやらかすので色々なものがばかばかしくなってしまうだろう。

 けれども、大事な娘であった‥‥‥そう、例え帝国内に長年救っていた悪の組織をちょっと外出しただけで黒幕諸共消し飛ばしていたり、何処かの世界の代物なのか謎の植物を庭に植えていたり、謎の幻想生物をペットとして飼おうとしていたりなど、本当に無茶苦茶すぎて目をそらしたくなることが多かったとしてもだ。

 そんな娘も、ある時姿を消してしまったが…‥‥探そうとしたが、途中で打ち切らせてしまった。

 うん、決して娘が怖くなって打ち切らせたわけではない。捜索して出てくるかもしれない様々な事で多くの人の胃が破壊されるのを防ぐためにとか言う目的でもない。正直言うと、ちょっとだけあったが。

 何にしても、行方不明になった、死亡した扱いになったが…‥‥それでも、娘の幸せを儂や妻は願い過ごしてきていた。






 そしてそんなある日、偶然知ったのだ。娘の子供かもしれぬ、孫の存在を。

 魔剣士として生を受け、その魔剣自体も色々とツッコミどころが多すぎて虚偽があるのではないかと疑いたくもなったが、それでも孫の可能性は非常にあった。

 そして結果として血を引いており、娘の相手がちょ~~~~~っと想像の範疇を越えたものの可能性が確定したようだが‥‥‥うん、血が残された云々より、まず娘に相手が出来ていたのかということに関して、その相手に非常に感謝を述べたい。親である自分が言うのもなんだが、娘の相手をしてくれたのであれば、非常にありがたい。


 だが、それと同時に孫が孤児として育ったことを知り、娘の死が‥‥‥と考えたが、遺体の消失や当時の状況の報告を聞く限り、死の報告だけは信じることができないだろう。あの娘ならば、どこからともなくひょっこえり出てきたりしてもおかしくはないと断言できる。


 何にしても、その孫の情報を聞き、儂はこの国へやって来たが‥‥‥‥孫に会えたとして、どうするべきか。

 いきなりお前の祖父だと言って、信じてもらえるかどうかという話にもなる。

 いや、まずは一目会うだけでも良いのかもしれない。どの様な子なのか報告は受けているのだが、直接目でしっかりと見るべきだろう。


 そう儂が思っていると、馬車の扉が開いた。

「公爵閣下!!魔獣の殲滅が完了しました!!」
「そうか、なら先へ急ぎたいがけが人はいないか?被害が出ているのであれば、一旦歩みを止めよ」
「いえ、それはないです。それどころか、救援がありまして‥‥‥」
「救援?こんな辺境にか?」
「はい。先ほどの戦闘の中、突如として上空から飛来し、魔獣を討伐するのに助けてくれた魔剣士の少年がいたのですが‥‥‥あのー、おそらく閣下の目的の方だと思われます」
「‥‥‥何だと?」


 部下の報告に対して、儂は思わず目を丸くした。

 部下たちに対して、今回の目的に関してある程度の事情は話しているのだが、まさかこんなところのこんなタイミングであり得るのだろうか?

 疑いたくもなりつつ、儂が馬車の外に出てみれば‥‥‥そこには、懐かしい青色があった。


「あ、公爵閣下、あのものが先ほどの魔獣掃討に協力してくれた、若き魔剣士で‥‥‥」
「その横にメイドがいますが、あの方が魔剣でもあるようで、こうやって見ると信じられないのですが…‥」

 部下たちの報告を聞きつつ、儂は彼の容姿から目が離せなかった。

 青い髪色はまさしくあの娘とうり二つであり、長さは違えども美しさは変わらない。

 目の赤い色はおそらく父親のものなのだろうが、顔つきは娘と似ているだろう。角や羽という部分は情報を聞いていてもまだ驚くが…‥‥それでも、こうやって目にして見て分かる。

 
 ああ、儂はようやく、孫がいるという実感を得た祖父という立場になれたのだな…‥‥‥‥


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