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3章 静けさもほのぼのも、何かの前触れに?

3-3 加速して、一気に向かう事も

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「魔獣がでたぞぉぉぉ!!」
「村人は避難、騎士たちで防衛及び魔剣士の早急な到着をぉぉぉぉ!!」

‥‥‥魔獣の出現方法に関しては分かっていないこともあるが、こうやって突発的に出てくることもある。

 だからこそ、発見次第素早く叫んで行動に移し、人々は魔獣に対しての備えをすぐに実行する。

 なお、嘘をついて叫びまくって何度もやった結果信用を失い、魔獣が本当に来たのに対応できず滅んだ例もあるので、虚偽で叫ぶことは固く禁じられていたりする。


 とにもかくにも、魔獣は魔剣でしか絶命できず、だからこそ魔剣士の到着まで騎士たちが前に出て踏ん張り、時間を稼ぐために死力を尽くし始める。

「オー!!そっちに2体、大きな狼の魔獣が向かったぞ!」
「ンズゥ!!お前の方にも来たぞ!!」
「サン、足を狙え!!一時的とはいえ足を奪って相手の機動力を無くせぇぇぇ!!」

 村に常駐している騎士たちは叫びに応じて素早く参戦し、迫りくる魔獣たちと戦い始める。

 時間稼ぎにしかならないと分かっていても、それでも全力で押しとどめるだけの力を彼らは有しているのだ。

 剣で相手の足や目を切り、盾で防いで押し返し、重厚な鎧で牙や爪から身を守り、騎士たちは魔剣士たちの到着を待つ。


【グォォォォォォォ!!】
「どわぁぁぁ!!」
「ぶべぇぇぇ!!」

「不味い!!巨大な熊の魔獣が突破しやがった!!」
「村に入られる前に、全力で追えぇぇぇ!!」

 そんな中、魔獣の中にいた熊の魔獣が騎士たちをふっ飛ばし、駆け抜け始める。

 生きとし生けるものたち全てを消し去ろうとするう魔獣だが、狩るのであれば楽な方を優先したいというのだろうか。

 あるいはそこそこの知能があるのか、騎士たちの守っている先にこそよりやりやすい相手がいると考え、全力で突き飛ばし、その場を離れつつ本能的に求めていく。



 そして、その魔獣の考えは的中したようだ。

「ふぇぇぇぇ!!ま、魔獣だぁぁぁ!!」
「まってまって、まだ逃げれてないんだよぉぉぉ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 熊の魔獣が逃げ延びた先には、まだ避難しきっていなかった子供たちが腰を抜かしていた。

 彼らは真っ先に避難を優先させられるべきなのだが、避難先でおもちゃを室内に忘れたことに気が付いてこっそりと抜け出し、慌てて戻って回収している途中だったのだ。

「うぉい!?なんであそこに子供たちがいるんだよ!!」
「知るか!!そんなことより全員逃げろぉぉぉぉ!!」

 全力で熊の魔獣の後を追って駆ける騎士たちが叫ぶも、この距離では間に合わない。

【グォォォォ!!】
「「「あああああああああ!!」」」

 巨大な体を器用に回転させて跳躍し、子供たちの前に降り立ち前足を振るう。

 その巨体の一撃は、そのまま命を奪う…‥‥はずだっただろう。




 だがしかし、その場に誰も間に合わなければの話であった。


ギュルルルルルギシィ!!
【グォゥ!?】
「「「え?」」」

 今にも子供たちを木っ端みじんにしようとしていた前足に、何かが巻き付き動きを止めた。

 何事かと思い、その場にいた者たちが見れば、そこには何か鎖と先の部分には拳の形をした金属の物体が、いわゆるガントレットのようなものが巻き付いており、前足の動きを阻害したのである。


「うらぁぁぁぁぁ!!」

 そのまま誰かの声と同時に、鎖が凄まじい力で引っ張られ、熊の魔獣の巨体が宙を舞った。

【グォォォォウ!?】

 突然の牽引に何事なのかと混乱して叫びつつ、熊の魔獣は鎖の先で引っ張っている相手の姿を目に捕らえた。


「あ、あれは‥‥‥」
「フィー兄ちゃん!?」
「なんだと!?」

 熊と同時に鎖の先を見た子供たちがそう叫び、大人たちは驚く。

 その先では、鎖が巻き戻されて巨大な鉄の拳になった右手を持つ青い髪を持った少年の姿が、彼らには見覚えのある者だが、翼や角などが生えているので以前の姿とは異なる部分があれども、それでも彼らはすぐに誰なのか理解する。

「ゼナ、チェーンガントレットモードからチェンジだ!!ソードレッグモードへ!!」
「了解デス!!」

 熊の手から拳を話して手元に戻しつつ叫ぶ少年、フィー。

 そしてその声に応じる様に、ガントレットの方から声が聞こえるや否や、その姿は瞬時に足へ移って両足の膝から下が鋭い刃物の形状に切り替わる。


「子供たちへ何をしてくれようとしてんだこのデカブツがぁぁぁ!!」

 宙を舞っている魔獣めがけて地面を蹴り上げ、目にもとまらぬ速度で周囲を駆け抜け切り刻んでいく。

 空中のはずなのに足場が普通にあるかのように駆け抜けて飛び回り、刃の嵐が熊の魔獣へ襲い掛かる。

【グガァァァァ!?】

 切り刻まれ、一気に苦痛を味わう魔獣。

「からのチェンジ!!ソードモード!!」
「変形済みデス!!」

 動きが止まったかと思えば、いつの間にか足は元に戻っており、その右手が刃に変わっていた。

 刃でとどめを刺すのかと思えば、ぶわっと炎が彼の周囲に巻きあがり、刃に纏ってく。

「ドラゴンブレスの応用で…‥‥安直だけど、これで消し飛べぇ『ブレススラッシュ』!!」

 刃を振り下ろすと、熊の魔獣の身体が瞬時に真っ二つになると同時に、一気に大炎上して爆発した。

【グゲガバァァァァァァァ!!】

 切り裂かれ、焼きつくされながらもタフだったのか断末魔をなんとか上げてしまう熊の魔獣。

 けれども、それが最後の言葉となり、尽きれば自然と消える魔獣の身体ではあるが、いっぺん残さずに消し炭にさせられるのであった…‥‥



「ふぅ…‥‥大丈夫か?」
「に、兄ちゃん・・・・・凄いけど、何がどうなっているの!?」
「その角と羽と武器何!?手紙で聞いていたけれど、なんか想像を超えているんだけど!?」

 そして無事に収まったところで、子供たちが質問攻めを始めるのであった。

「お、おいフィーだよな?」
「そうだが?ああ、久し振りだねオッサンズ!」
「「「だからひとくくりで呼ぶなぁぁぁ!!」」」

…‥‥オー、サン、ンズゥの三人はツッコミを入れるが、その光景に久しぶりの日常の光景だと、焦っていた空気がやや和んだのであった。


―――――
『チェーンガントレットモード』
ガントレット、という武器を参考にしたパワー重視のモード。
全力で殴りつくすが、その拳の先に刃を生やすことも可能で、殴殺か刺殺の手段も取れるようになった。
チェーンが付属しており、いざとなれば飛ばして殴りかかったり、相手に巻き付けて引っ張り上げたりすることも可能。モーニングスターや鎖鎌などの武器も参考になっているらしい。

『ソードレッグモード』
両足の膝から先が、槍の形状に近い刃になりつつ、側面にも細かい刃が生えそろった人間足ノコギリともいえるようなモード。
ソードモードなど従来は片手にくっ付く形態ではあったが、竜化の影響を受けたせいかパワーアップしており、いざとなれば両手両足を刃に変えることが出来るからこそ、顕現したモード。
素早さと力を重視しており、バランスが綺麗に取れているが、欠点としては両足が刃となるのでバランスを取らねばやや扱いにくい形態という事である。感覚としてはスケートに近いが、それよりも難易度は高め。

『ブレススラッシュ』
ドラゴン時のブレスの力を、刃に纏わせて解き放つことが出来る攻撃手段。通常の斬撃以上の威力が可能になるが、正直言えば今回はオーバーキルレベル。
まだ扱いきれない部分も多く、今後の研鑽とネーミングセンスの特訓が課題となる。
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