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2章 吹く風既に、台風の目に

2-26 用意はしっかり、対策も入念に

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 海の部へ向かう時期が近付くと、その用意をする生徒たちが増えてくる。

「かと言って、泳いで遊ぶ時間があっても沖からどんどんやってくる可能性も考えると、楽しむことはそこまでできないかもしれないのに、水着を買う人も多いな」
「海以外にも川や湖での戦闘時に、身軽になれるものとして優秀らしいですからネ。普通の衣服なんかよりもよっぽど頑丈な類が多いのデス」

 放課後、王都内の市場が並ぶ通りを歩いているのだが、あちこちの店ではこの時期の魔剣士たちの動きを見越してなのか、海用の品々を置いている様子がうかがえる。

 ビーチバレー用のボールだったり、攻撃転換用に棘が射出できるようになっていたり、ビーチフラッグ用の旗かと思えば、目くらましようの煙幕機だったり‥‥‥何かおかしいような気がしなくもないが、対策をしっかり立てられるような道具が多いだろう。

 俺たちもまた同様に、海へ向かうからこその必要なものを買うためにここに来たのだが‥‥‥今回は、ゼナの案内を受けていた。


「それでゼナ、ワールド・メイド・ゼワ商会にも海用の道具があるのか?」
「ありますヨ。商会はあちこちに出店しつつ、時期に合わせて品々も変えてますし、この時期ならば確実に入手が可能なのデス。しかも私はそこの会員でもありますからネ。SSSランクはまだちょっとお高いですが、SSランクぐらいならばかなりの割引優遇も受けますし、良い品がそろっているので十分なのデス。‥‥‥XXXランクは、ちょっと危険なので入手できませんけれどネ」
「さらっと物騒な予感がするものを出してほしくないのだが」


 とにもかくにも、案内されて辿り着いたのは、小さな一軒家のような店。

 だがしかし、その内部は外観よりも明らかに物凄く広くなっており、色々とツッコミどころが満載な状態になりつつ…‥‥

「そして会員の中でも、特別な『ブラックカード』があれば、この奥へ進めるのデス」
「本当に何をどうしたらこんなところに入れるようになるんだよ…‥‥」

‥‥‥噂を聞くと、この商会に入れるのはほんの一握りの者たちだけであり、そこに並ぶ品々は市場に並ぶ物とはけた違いの物が多いらしい。

 そしてさらに限られた特別な会員に対してのサービスもあるようで、どれだけお金を積もうとも、そうやすやすと入れないような商会らしいのに、ここにノンストップで入れるこのメイドは何なのか。


 
 考えていても切りがないし、答えも出ないだろうから買い物の方に意識を向けるとして、ゼナの言う通り良い品がそろっていた。

「高品質、高性能…‥‥同じようなものが市場にあるかもしれないけれども、素人目でもかなり上質すぎるものが並んでいると分かるこの場所は何なのか」
「商会ですヨ?」
「いや、そういう意味じゃない」

 何にしても選ぶにしても、色々と豊富なのが驚いた。

 たかが水着と思うようなものでも、様々な機能が付いていたりする。自動修復だとか、自己フィットだとか、気分で色が変わるとか…‥‥いや、最後のはどういう理屈なのか。

 
 とは言え、そこまで俺はモノを選ぶのに迷うことはない。こういう時は直感で選べばいいし、泳げつつも海での戦闘も考えてしっかりと機能性も見て選べばいいだけの話なのだから。

 だからさっと選ぶことは出来たのだが‥‥‥問題はゼナの方だった。


「むぅ‥‥‥メイド用のメイド水着が並びましたが、迷いますね…‥‥恐るべし、ワールド・メイド・ゼワ商会」
「なんでメイド用のメイド水着とやらが普通の水着よりも種類が多いんだよ?」

 普通の水着が5~10種類ぐらいかと思ったら、こっちの水着は100種からスタートしているとはこれいかに。

 しかも、さらに細かい分類がされており、防水・防弾・防爆・防火・防触手‥‥‥‥最後のは何だろうかとツッコミを入れたい。

「ご主人様は、どちらが良いと思われマスか?いえ、この中のどれが一番いいと思いますカ?」
「そんなことを言われても、これは流石に選びきれないぞ?」

 種類が多すぎるというのも、考えものだ。即座に判断したいが、色々と高機能すぎるのも多い。‥‥なんでこの技術力を、他の水着に活かせなかったのかなぁ?

 仕方がないので、大雑把に良さそうだとまだ何とか思えるものをいくつか選び、試着してもらうことにした。

 こういう売り場にはお約束の試着室はしっかり用意されており、その中にゼナが入る。

「覗いても良いですヨ?というのはお約束なのでしょうカ」
「いや、全然お約束でもないからな?誰から聞いた、そんな話」
「本から得ましタ。友人が貸してくれたドラマものデス」
「誰だよその友人…‥‥」
「影の人と言う感じですカネ。後ろ暗い事がある人には、面白おかしな話がちょうどいい清涼剤になるようデス」

‥‥‥彼女の友人関係、そう言えばあまりよく知らないな。普段全員と戦闘したりするけど、まともに話す友人っているのかな?

 そう思いつつも、試着室へゼナが入るのを見てふと気が付いたことがあった。

「あれ?ちょっと待って、自然な流れに沿っていたけれども、今選んだ水着の数々で選べなかったら、他のものも試すんだよね?」
「そうですガ?」
「いつ、終わるんだ‥‥‥?」

 試着して選んでほしいというけれど、数が多い。適当に決める事もできなくはないが、彼女がそれで納得しているのかと言われるとし辛いし…‥‥もしかして俺、やらかした?

 自ら踏み入れてしまった果ての無い路地裏だと、今更ながら気が付くのであった…‥‥いや、もうちょっと早く気が付けよ、自分。








‥‥‥フィーがゼナの試着に対して、一応健全な年ごろの男子としてドギマギさせられているその頃。

 とある屋敷の中にて、話し合いの場が設けられていた。


「‥‥‥手のものが、大体潰されたか。これはこれは、むしろ何かがあるという事を宣言しているも同様だろう」
「そうでございますな。せっかく邪魔ものがいない安らぎを得ているというのに、次代が出ているかもしれない可能性が出ていることを示しているのでしょう」
「まったくだ。あの青薔薇の娘がいなくなって、やりやすくなっているというのに…‥いや、あの娘はその気も無かったのだろうに、いるだけでやらかしていたのは腹立たしく思っていたからな」
「歩けば密売人を見つけ出し、駆け抜ければ盗人を轢き倒し、全力で進めば尻尾切りどころか下半身すらもぎ取って…‥‥なぜあれが、姫という名称が付いたのかが、本当に疑問でしたなぁ」
「「「‥‥‥それも確かに、そうだな」」」

 嫌な思い出というか、去ってほしいという想いが強かったあの時を思い出して、そのせいで今晩の夢の中に出て苦しめてくるのかと思うと気持ちが沈みこむ。

 一応悪党という自覚はあるのだが、善人悪人に関わらずにやらかしていた彼女の存在は、いなくなったいまもなお出てくるのだ。

「とはいえ確定でもないだろうが、可能性があるならば潰すべきだ」
「確定したらそれはそれでだが、いなくなってくれたほうが好都合」
「留学制度で他の国のものもいますが‥‥‥まぁ、関係なく潰せばいいでしょう。将来的に邪魔になるのが目に見えるのであれば、事前に潰せば問題もないですからなぁ」

 くはははっと、昔の嫌すぎる思い出を振り払うかのように笑いながら彼らは悪事を企んでいく。

 
‥‥‥だがしかし、知らないだろう。手のものの大半がとっくの前に裏切っていることを。

 というかそもそも、敵対した時点で人生を終わらされるのが分かっているのであれば、悪党の手のものだとしても己の命が大事なので即座に売り渡す。

 いや、売り渡す前に業火が包み込む前に逃げるべきだという意見も出ており、わずかながらも密かに手駒が失われていくのを、彼らは知らないのであった…‥‥

「なんで今もなお、あの亡霊がちらつくのか」
「いや本当に、それが辛いところで…‥‥はかりごとがバレて捕らえられた仲間には、不眠症を患っているものもいますからなぁ」

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