私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~

志位斗 茂家波

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2章 吹く風既に、台風の目に

2-21 勝てるビジョンは、描いたとしても

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「…‥‥今日も負けたなぁ‥‥‥イタタタ‥‥‥」
「ご主人様、惜しかったですネ。瞬歩を活かしての分身を連続で作成して迫る戦法は悪くなかったのですが、少々雑でシタ。まだ甘いデス」
「思い付きでやったけど、甘いと言われるほどかなぁ」

 ボッコボコにされて死屍累々となっている生徒たちの中で、ゼナに治療されながらそう口にする。
 本日の模擬戦闘授業内でも、毎度おなじみとなったゼナへの集団挑戦戦闘が行われたのだが、結果は惨敗。同級生の大半と組んだというのに、あっと言う間に蹴散らされたのである。

 それが単純に、一人一人確実にやっていくのならまだしも‥‥‥誰が彼女も分身を行って、俺たちを全滅させると想像できただろうか?

「分身をまさか速攻で真似されて、そのうえより多くの数でやられるとはなぁ…‥‥」
「現状、ご主人様は4~5体ほどのようですが、私ならば20体ぐらいなら大丈夫ですネ。また、このメイド服はこれから暑くなる季節を考えて改良申請を出しているのですが、そちらが使えればより多くの数が可能になるはずなのでもうちょっと多く出来るでしょウ」
「今よりもっと多くなるのかよ…‥‥いや、ちょっと待って?改良申請って、そのメイド服って自前じゃないのか?」

 ふと出て来た変な内容に、俺は思わずツッコミを入れた。

 ゼナが来ているメイド服は、彼女に出会った当初から着ているもののはずである。

 着脱可能だそうだが、そのメイド服にそもそも出所があったのだろうか?

「ええ、そうデス。いえ、一番最初の頃は自作なのですが、一部はどうしても職人に負ける個所が出てしまいますからね…‥‥メイド魔剣たるもの、技術の習得は徹底的にしたいのですが、専門家には負けるのデス。その為、今の服に関しては『ワールド・メイド・ゼワ商会』というところから購入しているのデス」
「なんだその商会?」
「あ、聞いたことがあるぞ?」
「確か、最近他の国々に出てきた商会の一つで、結構有名なブランドの店だったはずだ」

 っと、出てきた疑問に対して、倒れつつも何とか回復してきた同級生たちがそう口にする。

 どうやらそこで扱われている品々は非常に質が良く、ランク付けによる基準が設けられており、最高ランクのものになると超一流・超希少がものあるらしいが、そこまでいくと購入許可が必要になるらしく、入手できるのは限られた者たちのみしかできないそうだ。。

 だからこそ、喉から手が出るほど欲しいとしても入手困難な品物であり、品物によっては高額での譲り渡しを求めるような人が出るそうで‥‥‥

「ちなみにこのメイド服は、最高のSSSランク‥‥‥より下のSSランクのものだったりしマス。最上級のものは、まだまだ手に届かないのデス」
「メイド服に、何でそんなランクが付くんだよ」
「特注のものですからネ。あ、代金に関しては心配いりまセン。あそこには色々と伝手がありますので、ご主人様の財布に負担をかけることはないのデス」

 何で魔剣がそんなところと伝手があるのかというツッコミも出てくるが、ツッコんだところできりがないだろう。メイド服の効果やその高いランクの理由など、多すぎる。
 
 というか、この話を深めすぎると深淵を覗くような予感がしてきたのでやめておく。最近、そう言う予感に対しての勘が鋭くなった気がするなぁ。


 
 とにもかくにもゼナのメイド服の聞かないほうが良い秘密はさておき、今日の模擬戦の授業の時間も終わったので、休み時間へと入った。

 あと一つほど授業を終えれば、昼食の時間である。

「しかしゼナの分身、俺のと違っていたのが気になるけど‥‥‥どうやって増えていたんだよ?」
「そこは色々とコツがあるのデス。これだけ増えれば‥‥‥あ、でもこれなら‥‥」

 何かに気が付いたように思考にふけり始めるゼナ。

 何だろう、凄い嫌な予感のような、余計にやらかされるような気しかしない。

 そう思いつつ、次は確か座学の方なのでそちらの方に目を向けようと思っていたところで‥‥‥人に呼ばれた。

「おーい、フィー!生徒会長が呼んでいるぞー!」
「え?生徒会長が?」

 









「‥‥‥さてと、急な呼び出しにも関わらず、生徒会に所属する諸君、よく来てくれた」

 生徒会室へ場を移せば、そこには他の生徒会所属の人達が集まっており、会長が皆の前に立ってそう告げた。

 今は授業中なのだが、生徒会の用事という事で抜け出しが許可されたとはいえ、何やら重々しい雰囲気である。

「ここに呼び出したのは、ある事情がある。新入生たちの入学からそれなりに時間も経ち、お互い気心が知れてきた頃合いなのだが‥‥‥昨日、学園であることが決まった」
「と言いますと?」
「レードン王国、ミルガンド帝国、そしてファルン神聖国からそれぞれ留学生の打診を受け、応じる事になったのだ」

 その決定に、その場に集っていた者たちは驚きの様子を見せる。

 それもそうだろう、入学したての時期ならまだしも、夏季休暇もそろそろ近づいてきた頃合いで入って来るとは、時季外れのような気がするからだ。

「会長、なぜこの時期に他国からの留学生が?いや、その前になぜそのような理由を我々を招集したのでしょうか?」
「そうぞなそうぞな。今までの留学生の時期とは違うとはいえ、わざわざ呼び出すようなことはなかったはずぞな」

 他の生徒会の面々が手を上げて会長に質問する。

「ああ、時季外れぐらいならば病気やその他の要因などもあって遅れていたという位ならば、まだ問題はないのだが…‥‥少々、面倒なことに今回はやってくる留学生たちの格がある」
「平民ではなく、何処かの貴族家だと?」
「そうだ。しかも、ただの貴族家ではない。王家やそれに連なる家々のようだ」

…‥‥デュランダル学園内では、基本的に身分による差はない。

 そもそも魔剣士として魔獣を倒す立場にいるからこそ、いちいち身分にこだわっていてはいざという時に動けなくなる時もあるので、一応暗黙の了解での身分での気遣いは存在している。

 だがしかし、他国の魔剣士を養成する学園ではそうではないこともあり、国としての教育方針の違うゆえに衝突も存在するだろう。

 そしてその衝突の相手に、面倒な身分の者が絡んだ場合‥‥‥それこそ、より大きな面倒事の火種になりかねないのだ。

「一応、この学園からも各国へ留学が決定した面々がいるので、形としては交換留学だ。だが、全てが無事に済む可能性もないので、万が一に備えて欲しいという話をするために、ここに集まってもらったのだ」

 要は事前に衝突の可能性も考慮して、覚悟をしておいてほしいという事だったらしい。

 何も構えが無い状態で、トラブルが起きればそれこそかなり心労になるからなぁ‥‥‥注意に過ぎないとはいえ、あるなしでだいぶ違ってくる。



 何にしても、数日後には来るであろう留学生たちの詳細などの情報を貰いつつ、そんな面倒事が起きなければいいなぁとその場に集う全員の心は同じ思いを抱くのであった…‥‥


「しかし、他にも国があるのになぜその国々だけで‥‥‥」
「ああ、そのあたりはもっと多くの国も考えていたそうだが、少々トラブルを抱えた国々が今年に限って出てきてしまってな‥‥‥当分何も起きないだろうという国々で、出てきた話なんだ」
「それはそれで、物騒な話の気もするなぁ…‥‥」
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