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2章 吹く風既に、台風の目に

2-19 不審人物に、ならぬために

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‥‥‥きらりと光ったような気がしたかと思えば、どうやら盗賊たちと戦っていた騎士たちの刃が輝いていただけらしい。

 何にしても見過ごしきれず、大人たちを呼ぶべきかなと思ったが、様子を見る限りでは相手は数を活かしての有利を取っているようで、確かに腕前も盗賊にしてはそこそこいいようなのだが‥‥‥

「‥‥‥正直、ゼナと比べるとかなり楽だったかもしれない」

 比較対象が天元突破するレベルでおかしいメイドなだけかもしれないが、それでもただの対人戦闘であればこちらの方が上を行くと判断。

 一人でなら不味かったが、ゼナと一緒なので色々と新しい戦法を試す価値があると思い、不意打ちに近い形ながらも盗賊たちへ奇襲をかけ、無事に勝利を収めることができた。

 後はひとまず、この状況に関しての情報交換も欲しい所だが…‥‥どうやら襲われていた人たちを見れば、何処かの貴族家のようで、一個小隊ほどの騎士たちが護衛についているが、騎士たちの実力を見る限り、こちらはこちらでただの騎士たちではない様子。

  あちらはあちらで俺たちの様子をうかがっているようだが、無理もない。
 
 戦闘中に乱入をして、暴れまくったからなぁ…‥‥敵か味方かよくわからない相手に、そうやすやす警戒心を解くことはできないはずだ。



 お互いにどうしようかと言う様な空気をしばし保っていると、ようやく相手の方から動いて来た。

「あー‥‥‥助けてくれて、礼を言う。何者かは分からないが、それでも礼を言うべきなのは分かっている」
「いえ、俺たちの方はただ、どう考えても見た目悪人面の輩と戦っている皆さんの手助けをしたかっただけです」
「そうですね、あの盗賊たちは見るからに悪人面しかしていませんでしたからネ」

 幸いというべきか、盗賊たちの顔面偏差値は誰も彼もどう見たって悪人面にしか見えず、やっていることも襲撃だったので、善人たちという事もあるまい、

 お互いに口にしたところでやんわりと空気が柔らかくなり、まずは何者なのか名乗り合う。

「とあるお方を護衛しているので、その方の詳細は明かせないがその代わりに私が名乗ろう。私はレードン王国のルッツ騎士団団長、タイチョーだ」
「隊長?」
「タイチョー‥‥‥まぁ、どっちでも構わない。団長なのに隊長と呼ばれるほうが多いからな」
「自分はドルマリア王国のデュランダル学園一年、生徒会の財務部についているフィーです。それで、こっちのメイドが」
「ハイ。私はご主人様のメイドでもある魔剣ゼナ、デス」
「ほぅ、魔剣か‥‥‥‥なるほど、うん、本当に魔剣なのかと疑いたくなるな」
「それは持っている自分も常日頃思っている事です…‥‥」

‥‥‥誰がどう見ても、今のメイドの彼女が魔剣とはすぐには信じがたいだろう。

 けれども、先ほどの戦闘もあって彼女が俺の武器になって攻撃をしているところは見ていたので、そのあたりはすんなりと受け入れてくれるらしい。



 何にしても名乗り合ったところで、何故この場にお互いがいるのかという情報交換を行った。

 俺の方は魔剣に慣れるためのテスト飛行をしていたという、説明を省略しすぎると言いが分からなくなりそうな説明をどうにか伝わりやすいようにしつつ、団長さんの話を聞けば、護衛対象の奥敵地への旅路を安全なものにするための護衛だったようだ。

 その護衛をしている中で、あの盗賊たちの襲撃に遭い、数の差や盗賊たちの意外な実力で苦戦を強いられているところで、どうやら俺たちが乱入したらしい。

 
「本当に、助かった。奴らの強さはすごい強いわけでもないが、それでも一人一人が面倒な感じの強さであり‥‥‥ただの盗賊なのか、少々怪しいところがあるが、それでもどうにかしてくれる機会を作ってくれて感謝する」
「こちらこそ、一応偶然見かけただけの人助けなのですがそれでも人命を救えてよかったです」

 もしも気が付かずに去っていたら、この場に騎士たちの死体が転がっていたのかもしれない。

 そんな嫌な現場ができなくて良かったとは思うが、ちょっと気になった言葉があった。

「ところで、少々怪しい所とは?」
「ああ。こいつらの襲撃を受けてしまったのだが、実は護衛対象との旅路前にある程度の安全に関しての調査を行っていたんだ。ドルマリア王国の王都周辺は最近何故か治安が向上したという話もあり、安全性はある程度あると考えられたんだ」

‥‥‥向上した原因は、こちらのメイドだと思われます。

 彼女、寮の風呂場を大改造するために、周辺の賞金首がかかるような悪党たちを根こそぎ狩りまくったらしいからね…‥‥そう言えば、盗賊たちが夜烏の死神だとか言っていたが、もしやそれが原因か?

 そう思いつつも、話を聞くとどうも盗賊たちの襲撃に関しては色々と怪しいところがあるようで、誰かが手を回して襲撃を狙ったのではないかという疑いがあるようだ。

 ゆえに、この場で生け捕りに出来た分は後程拷問にかけ、しっかり情報を抜き出すらしい。

 できなかった分に関しては、焼却処分だけどね…‥‥死体を転がしておくわけにもいかず、きちんと埋葬するのである。

 というのも、死体を放置すると魔獣がでる可能性も何故か高くなるらしく、その予防のためにしっかりと処分するらしい。何故、そうなるのかは不明だが、一説では死体に残る怨念などが魔獣を引き付けるのか、あるいはその怨念そのものが魔獣になるのか…‥‥分からないこともあるが、処理は必要である。


「とにもかくにも、ここで助けられたことに関してはお礼を後で正式に述べつつ、モノを送りたい。ただ、残念なことに我々の旅路は王国を通過して、その先にあるミルガンド帝国に行くからな…‥‥生徒ならば、寮宛に荷物を届ければ大丈夫だろうか?」
「大丈夫だと思います。そうだよな、ゼナ?」
「そのはずデス。生徒宛の荷物になるのならば、寮宛に書けばいいデス。ただ、モノに寄りますので気を付けてくだサイ」

 学園寮に生徒たちが過ごすからこそ、家族やその他から荷物が届けられることがある。

 けれどもその荷物には時たまとんでもないものが混ざる事もあるようで、規制品もあるのだとか。噂だと過去に生徒の家族から蟲やら悪臭の謎物体が届いたのだとか…‥‥何を思ってそんな荷物を送ったのだろう。





 何にしても軽く互いに情報交換も終え、正式なお礼等に関しては後程物品で送ってくれるようなので問題もない。

 しいて言うのであれば、誰を護衛しているのかという、あの馬車の中の情報も気になったが、世の中深入りしないほうが良い事もあるし、聞き過ぎないほうが身のためというのもある。

 その為、お礼を述べられつつ、盗賊たちの戦闘もあったので、俺たちは一足先にこの場から去らせてもらうことにしたのであった…‥‥


「ついでに盗賊たちで賞金首かどうか確認出来たら、その賞金の半分を貰えるようにしてくれてよかったデス」
「結構ちゃっかりしているけど、お金をもらってどうする気だ?」
「お風呂場、まだまだ改装の余地があるのでその資金に充てるのデス。最近、盗賊狩りも中々数が減って厳しいですからネ」

 狩っているからこそ、盗賊に畏れられているんだよなぁ‥‥‥‥というか、まだ改造する気かこのメイド魔剣。










「‥‥‥それにしても、財務部と言っていたが、戦闘部でないのが意外な強さだったな」

 フィーたちが去った後、飛んでいった空の彼方を見ながらタイチョーはそうつぶやいた。

「彼ら、あれでまだ入学したての魔剣士のようですし…‥‥今年のドルマリア王国の魔剣士たちは、中々強そうですね」
「そうだな。羨ましい事だ」

 強い魔剣士がいるのであれば、魔獣たちが出ても安心感はあるだろう。

 魔獣に対抗できるのは魔剣士であり、自分達は相手の足止めぐらいにしかならない。

 だからこそ、魔剣士を求めたい国は多く、強い魔剣士が出るのであればそれはそれで羨ましくあるのだ。


「そして喋って動いて、普通の人のように、メイドとしてふるまう魔剣…‥‥自分、正直言ってまだ信じられないですよ」
「そうだな。この目で刃になるようなところなどを見なければ、信じることができないだろう」

 メイドの魔剣とはどういうものなのかツッコミたいが、存在するのだから仕方がない。

 ここは諦めて素直に受け入れ、今助けられたこの状況に感謝をするぐらいしかできないのだ。


「さてと、目的地の帝国までの道中で、再び盗賊たちに遭わないことを祈らないとな。捕らえた盗賊たちは、この後に予定している宿泊地点まで引きずるぞ」

 盗賊の扱いはかなり雑で良いので、逃げ出さないように、暴れられないようにしっかりと縛り上げ、引きずり始める。

 なお、怪しいところが多いので、万が一のことも考え自殺用の毒などを持ってないのか確認もしたが、そこまでのものたちでも無かったようだ。

「ところで隊長、護衛対象から言葉が」
「ん?どうした?」
「馬車の中にずっといて、目視していたようですが‥‥‥なんとなく、誰かに似ているという話がありました。誰かと言うのは分からないのですが、何かこう、気になる事もあるようです」
「‥‥‥そうか?いや、気になることが多すぎるのは分かるが、珍しいな」

 学園の生徒だという情報を得ても、今の少年の詳細については分からないところも多い。

 というかそもそも、メイドの魔剣所持という言葉にすると意味の分からない部分もあるので、考えても切りがないと思えるだろう。

 ひとまずは難しいことなどを考えずに、今は護衛を無事に目的地まで送り届ける事へ意識を移すのであった‥‥‥‥


「しかし、空を飛べるのは良いなぁ…‥‥」
「魔剣士云々前に、羨ましいですよねぇ」
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