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2章 吹く風既に、台風の目に

2-18 テスト飛行は、慎重に

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‥‥‥学園にも休日はあるが、そうであっても魔剣士の学生たちは休まない人がいたりする。

 自身の腕前の向上のために自己研鑽に励み、休日だからこそ普段の授業では休憩時間などを挟んでいてできないことも、こういう時にやっていたりするものだ。

 また、自身の魔剣を用いての戦法に関して新しい境地が無いかと模索する人も多く‥‥‥


「だからこそ、ソードウイングモードを試しているけれども‥‥‥まだ加速はできるのか?」
「現在、時速300キロまで安全装置が働いていマス。戦闘時には音速を突破可能ですが、テスト飛行であればこの程度が推奨されマス」

 今、俺はゼナの変形したソードウイングモードを用いて大空を駆け抜けていた。

 空を飛べる新しい形態だが、それでも感覚としては地を行くのとは違う部分も多く、慣れるためにかつどのような事が出来るのかと把握するためにやっているのだが、制限がどうやらかけられているらしい。

「慣れないうちに、加速しすぎて激突となるのは怖いですからネ」
「というと?」
「トメイトゥの実を知ってますよネ?下手に速度を出し過ぎて何かに生身でぶつかれば、あの真っ赤な野菜を全力で壁に叩きつけた時のような状態になりかねないのデス」
「具体的過ぎる例で、どう駄目なのか十分わかった」

 一応、戦闘時には周囲を警戒しているからこそ避けられることも多いので制限をなくせるようだが、慣れないうちはしっかりと感覚をつかむまで制限速度を守る必要があるらしい。

 まぁ、戦闘時でもないしこうやって試すだけならば速度を出し過ぎなくてもいいので、気にする必要もないだろう。でも、制限なしでももっとやりやすくするなら鎧などを身に纏えるようになったほうが良いのではないだろうか?

 そう思って提案したりしつつ、普段は見れないような雄大な景色も見れる飛行も楽しんでいた…‥‥そんな時だった。


「ん?」
「どうしたのデス、ご主人様?」
「いや、何か光らなかったか?」

 ふと、大空を飛んでいる中で、向こう側で何かが反射した光が見えた。

 試験飛行の都合上、嵐の日は不味いので、前日に祈っていたおかげか本日は晴天で良い日なのだが、太陽の光が何かを照らしたのだろうか。

 それに、こういう時に限って何かこう妙な予感がするような‥‥‥‥

「ゼナ、向かって何があるか見るぞ。魔獣の牙や爪に反射した可能性もある」
「魔獣、本当にどこでどう出るのか分かりませんからネ。未然に防げるに越したことはないのデス」

 取りあえず、せっかく大空から確認できるアドバンテージもあるので、確認しに向かうことにするのであった‥‥‥。









ガァァン!!ギィィン!!
「ぐっ!!このあたりは最近治安が良くなってきたと聞いていたのに、これは聞いてないぞ!!」
「ひゃっはぁぁあ!!そう言うやつらがいるからこそ、俺たちのようなのがいるのさぁぁl!!」

 剣戟が鳴り響き騎士の一人が忌々しくそう叫べば、襲っている盗賊たちの一人がわざわざ返答する。

 現在、ドルマリア王国の王都周辺は盗賊たちが減少して治安が向上しているという噂もあり、王都周辺の道を使う馬車は数多くあった。

 噂では、夜な夜な盗賊たちの断末魔が響き渡り、何者かに狩られ尽くす話が広まった結果、盗賊たちが自ら国外へ逃亡したという話もあったのだが、どうやら今襲撃をかけてきている盗賊たちはその噂の隙を狙って国外からやってきたようである。

 そしてその盗賊たちの餌食に、この馬車が狙われていたようだ。

「安全な旅路が欲しかったかぁ?ざんねぇん、そんなのここで終わりになりまぁす!!」
「しかも護衛がソコソコいるようで、裕福な貴族家の馬車とみたぁ!!実家などにバレると不味いかもしれんが、ここで奪いつくしてしまえば問題なぁい!!」

「くそう!!いちいち癪に障る言い方で煽ってくる!!」
「しかも雑魚だったらまだマシだが、それなりに腕が立つのがかなり腹立つ!!」

 騎士たちが必死になって護衛をしているのだが、盗賊たちの数の方が上回っており、苦戦を強いられる。

 盗賊側は仲間がやられようとも気にしないが、馬車の護衛側としては到達されて襲われた時点で終わりであり、攻める側の方が有利になっているだろう。

「救援を頼もうにも、囲まれて頼めず‥‥‥中々酷い状況だな」
「しかも、こいつらの準備の要りようはただの烏合の衆ではない…‥‥大方、我々の護衛対象が邪魔だからこそ入れ知恵と武器を供給したやつがいるのだろう!!」

「馬鹿正直に、教えるもんですぁ!」
「ここで奪いつくされれば、後に残るは死体のみ、喋る奴がいないなら話しても意味がなぁい!」


 ノリノリで煽ってくる盗賊たちに頭に血が上りそうだが、ここで乗せられては更に相手の思うつぼである。

「ひゃっはぁぁぁ!!貴様の首から討ち取ったりぅいぃ!!」
「しまった!!」
「た、隊長ぉぉぉぉ!!」

 そうこうしている間に、悩んでいた隙を突かれたのか、騎士たちを指揮していた隊長の背後から、いつの間にか迫っていた盗賊の一人が斧を振り下ろそうとする。

 いかに頑丈な騎士鎧とは言え、重みのある斧を振るわれては首がぶっ飛ばされるのが目に見えて、せめてもの抵抗をと思い、相打ちを狙おうとした…‥‥その時だった。



ビュン、ザシュゥゥゥ!!
「「「え?」」」

 何かが飛んできて、斧の柄から先が切り飛ばされ、攻撃が空ぶる。

 一体何が起きたのか、盗賊も騎士たちも目を丸くする中、一人が気が付いた。

「何だ、あれ?」

 先ほどの斧を切り飛ばしたのは、何やら薄い刃のようなモノ。

 しかしながら剣に似た金属光沢とは言え、形状はそうでもないようで空中を弧を描くように動き、何処かへ戻っていく。

 そして、その戻る先が何だと思って見たら‥‥‥そこには、刃が翼になっているような片翼の青い髪のものが飛んでいた。


 何者だろうか?そう語る前に彼の方が動き、戻っていった刃の刃が翼となる。

 そろった翼を羽ばたかせ、その場から瞬時に消えたかと思った次の瞬間、彼は盗賊の一人に迫っていて‥‥‥


ドッゴォォォォウ!!
「ぐべぇぇぇっ!?」

 強い蹴りがさく裂し、盗賊の一人が蹴飛ばされる。

 この状況に誰もがあっけに取られている中、よく見れば青い髪赤い目の少年が、背中に背負っていた翼の刃を手に持ち、ぶん投げた。

「『ダブルウイングブーメラン』!!」

 ブーメランとはよく言ったもので、翼はそれぞれ二つの飛ぶ刃となり、回転して弧を描いて飛び、盗賊たちへ襲い掛かる。

「「「「ぎゃああああああああああああ!?」」」」

 切られたことにようやく精神が追い付いたようで、盗賊たちの悲鳴が上がった。

「このくそがきぃ!!いきなり何をしやがるんだぁぁ!!」

 っと、どうやら今の攻撃を避けていたようで、少年のもとへ大柄な盗賊の一人が手に持った棍棒で殴ろうとする。

 だが、少年は臆することなく再び姿が消え、すぐ後に棍棒が振り下ろされるも意味をなさなかった。

「なっ!!ど、どこへ行きや、」
「モードチェンジ、『ガトリングモード』」
「!?」

 ふと声が聞こえたかと思えば、その大柄な男のすぐ後方におり、その右手は先ほどまで無かった筒状の物体が幾つも付いた武器になっている。

 気が付けば飛んでいたはずの刃の翼も消えており、今の一瞬の間に何かをしたらしい。

 そしてそこから何かを打ち出すわけでもなく‥‥‥

「『ガトリング殴打』!!」
ドガガガガガガガ!!
「ぎゃあああああああああああああ!?」

 どういう武器なのか見当がつかないが、少なくともそういう使い方ではないだろうと思えるような方法で方法として回転する筒を男の後頭部に当て、悲鳴を上げさせる。

 そしてまた次の瞬間には姿を消しており、今度はその手の筒が刃に変わっていた。

「モードチェンジ、『ソードモード』からの、『フリッパースラッシュ』!」
ビタァァァン!!
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 切るのかと思えば、刃の側面を思いっきり叩きつけ、かなり痛そうな音が響き渡った。切って血しぶきを噴き上げさせるのを嫌ったのか、叩きつける攻撃だがそれでも威力はあるようだ。

「な、何者なんだこのクソガキは!!」
「テメェ、大人の恐ろしさを分からせてやれ!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 騎士たちを相手にしていた盗賊たちは、いつの間にか突然の乱入者である少年に狙いを変え、攻撃を仕掛ける。

 だがしかし、気が付けば消え、次の瞬間には現れて攻撃をかけられ、そしてまた消えるという事を繰り返され、捕まえることが出来るどころか数をどんどん減らされていく。



「た、隊長、あれは何者なんでしょうか」
「分からん。ただ、あのような変化を繰り返す武器となると魔剣の類なのだろうが‥‥‥何者なのかは、わたしのほうが聞きたいぐらいだ」

 とにもかくにも、盗賊たちを一人で相手にさせるわけにもいかないので、この隙を狙って護衛の騎士たちも活力を振り絞り、応戦する。

 先ほどまでの追い詰められていた状況とは異なって、盗賊たちの方の連携なども瓦解しており、苦戦していたのが嘘だと思えるほど次々に打ち倒せた。

「くそおぅ!!護衛共が盛り返しやがった!!」
「逃げるしかねぇ!!」

 この状況の転換には流石にふりを悟ったのか、煽っていたはずの彼らは必至な口調になっており、逃走を試みる。

 だがしかし、逃げようとした先にはさらなる絶望が待っていた。


「残念ですが、逃がしませセン。他国の手配書なども調べており、懸賞金がかかっているのは分かってますからネ」

 そこにいたのは、黒い髪をなびかせる一人の美しいメイド。

 一体どこに、いつからいたのか分からないが、それでもこの状況で襲う気力はない。

 いや、メイド…‥‥そこからふと盗賊の前に、一人で現れて来るメイドに関して、彼らの頭にある噂話がよぎった。


「ま、まさか貴様は、貴様は!!」
「この辺り周辺の盗賊を、夜と共に現れて刈り取っていくという‥‥‥『夜烏の死神』か!?」
「「「「なんだとぉぉぉぉぉぉう!?」」」」

 他国の盗賊たちとは言え、一応この辺りの噂話を聞いており、遭遇したくない類として知っていた。

 そしてその存在が今、目の前に立っているという事は、彼らの命運はここで尽きたということなのだろう。



…‥‥抵抗を試みて、最後まで逃げる事を盗賊たちは諦めなかった。

 けれども、その抵抗は儚く散っていき、乱入からものの数分で鎮圧されるのであった…‥‥


「ゼナ、なんで夜烏の死神って呼ばれていたんだ?」
「黒目黒髪から、安直に考えたのではないでしょうカ?私は死神ではなく、ご主人様のメイドですがネ」


「‥‥‥隊長、助かったけどどうします、これ?」
「ある程度切り捨てもしたが、これ以上は縛るぐらいで良いかもしれん。というか、あのメイドが現れた瞬間に盗賊共が絶望の顔をしたが、本当に何者なんだろうか?」
 
 
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