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2章 吹く風既に、台風の目に

2-12 その一撃は、青い閃光のように

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「そちらの動きは色々見たけれども、私の方も見せないと不公平かな?」

 いくつか剣を交えつつ、中々攻めあぐねている中で会長がそう口にした。

「なんだ?」
「瞬歩にガトリングなどの奇想天外な方法を見せてくれたからね。だからこそここは、こちらもそれに答えてあげようと思っただけだよ」

 そう言いながら会長は魔剣ボンバードを握り直し、こちらに切っ先を向ける。

「切った個所を爆発させる。それが、この魔剣の能力なのはもう体験済みだろう。けれどもね、その攻撃方法はこうやって応用もできるんだよ‥‥‥『連鎖爆破突き』」

 剣を軽く前に突くようにして動かした、その瞬間。


ドドドドドドドドドドッガァァァン!!
「どわぁぁぁぁ!?」

 剣先から凄まじい爆発が一直線に発生し、俺の真横を通り過ぎた。

 どうやら今の一撃を見せるためだけに、わざと狙いを外したようだが、それでも驚愕と今の物理的なものでの二重の衝撃を味わされる。

「なるほど、名前は安直ですが示す通り、空間を連鎖爆発しての遠距離攻撃手段のようですネ」
「安直なのは認めるよ…‥ん?ああ、そうかその剣が喋ったのか。一瞬、誰が口にしたのかと思ったよ」

 ゼナの分析したことに対して、肯定する会長。

 理屈は分かったが、結構無茶苦茶な攻撃方法である。


「種が分かっても、どう反撃するか見せてもらうよ!!連続で『連鎖爆発突き』!!」

 切るのでは突くような動くを連続で行い、その度に魔剣の先から爆発が発生して襲い掛かってくる。

 これでもまだ加減されているかのように爆発速度などは遅い方なので回避は可能だが、遠距離での攻撃手段であるガトリングは防がれるし、近距離戦でも爆発で不利になる。

「ちょっと大人気が無いなぁ!!」
「とは言え、手詰まり状態なのでどうしようもないデス」

 回避も流石に体力の限界までくればできなくなるし、攻めきれなければ負けるしかないだろう。

 でも、諦める気はない。やり方は探せばあるのだから。


「連続で爆発させつつ、狙った一方向への攻撃だから…‥‥そうだ!!」

 狙いを定めての攻撃であれば、その狙いを崩せばいい。

 むしろ余計危険なことになりかねない可能性にもなるが、出来れば無いと信じたい。

「ゼナ、ガトリングモードでもう一度攻撃用意!!」
「爆発で防がれますガ?」
「違う、生徒会長を直接狙うんじゃなくて、説明するよりも俺がやる!!」
「考えがあるようですネ。了解デス」

 ガゴンっと音を立て、剣からガトリングへ変形する。

 爆発の中、交わしつつ俺は生徒会長の方へ体を向ける。

「おや?その遠距離攻撃手段はさっき防いだけど、どうするきなのかな?」
「どうすると言われても、こうするんだよ!!」

 引き金を引き、大量のエネルギー弾が乱射される。

 だが、その狙いは生徒会長ではなく‥‥‥‥


ズガガガガガガガガガ!!
「っと、足元か!!」

 生徒会長の足元付近に襲い掛かるエネルギー弾は、一気に地面を砕いていき、その破片が舞い始める。

 とは言え、一つ一つの破片は小さいし、この程度の攻撃で好転し切るわけではない。

 でも、注意を多少は足元へ向けることが出来たのであれば、それで良い。

「ガトリングからソードモードで、一気に畳みかけるぞ!!」
「了解デス!!」

 再度剣を構え直し、瞬歩で接近戦に切り替える。

「その手は何度も、お?」

 俺たちの攻撃に対してすぐに反撃に出ようとした会長だが、どうやら狙いに気が付いたようだ。

「足元を崩して、こちらの動きを鈍らせるか!!」
「ご名答!!」

 相手の攻撃がいくらこちらを防ぐものだとしても、一撃一撃は足元がしっかりしているからこそ振るわれる攻撃であり、ぶつかり合いで反撃をしやすい。

 けれどもその肝心の足元は今、ガトリングであちこち粉々にしており、不安定な状態になる。

‥‥‥まぁ、条件としては接近するとその足元を俺たちも利用するので同様に不安定になってしまうのだが、瞬歩を使えばそれは解消される。

 なぜならばこれは一か所に留まることはない動きをするので、元々踏みとどまっての攻撃にはならないのだから。


 接近し、どんどん素早さを上げて多方向から攻め、爆発で切り返される。

 それでも足元が揺らいでいる分、生徒会長の反撃に余裕はなくなっている。

「後はこのまま、慣れる前に短期決戦で攻める!!」

 魔剣の扱いにや戦闘に関しては、生徒会長の方に軍配があがり、長期戦になればなるほど状況に適応してしまう。

 そうなればこの程度の小細工は意味をなさなくなり、だからこそここは全力で攻めていくのだ。

「もっと、もっと早く攻撃を!!全力で一太刀でも入れられるだけの一撃を!!」

 一歩、また一歩と踏み出すたびに力をどんどんかけて地面から離れ行く。

 加速して速さを求め、より一層上に向かって‥‥‥‥ここで、捉えきる!!


「もらったぁぁぁ!!」

 ついに見つけた、生徒会長の隙。

 爆風で吹き飛ばされつつもその中で目を凝らして、巡ってきたこの機会を逃すわけにはいかない。

 だぁぁぁんっ!!と勢いよく地面を蹴り上げ、踏み砕く。

 その勢いをそのまま推進力へと変え、今一撃を、


ガッギィン!!
「‥‥‥へ?」
「うん、今のは危なかったけれども‥‥‥ちょっと見過ぎで、意図を読めてなかったね」

 読み切ったと思っていたら、どうやら誘導されただけのようである。

 まだまだ戦闘不足だったというか、生徒会長の方が上手だったようで…‥‥次の瞬間、魔剣で受け止められた個所が爆発した。

ドッガァァァァァン!!
「ああああああああああああああ!?」

 勢いよくふっ飛ばされ、宙を舞う軽くなった・・・・・フィーの身体。

 結構良いところまで行っていたようだが、それでも‥‥‥

「あああああああああ、なんてな!!」
「え?」

 ふっ飛ばされながらも急に切り替えたフィーの声に生徒会長は疑問を覚えたようだが、それはもう遅い。

 本当であれば、出来れば自分の力だけで勝利したかったのだが‥‥‥いやまぁ、ゼナを使っている時点で自分の力であるとは言い切れないが、実力だけではまだ到底及ばない。

 であれば、せめて最後のこの一瞬で作られた大きな隙を使わせてもらおう。

「ええ、そうですネ。ルール上は魔剣の一太刀ですので私がやっても良かったのデス」
「しまった!!」

 背後から聞こえた声に生徒会長は悟ったようだが遅かった。

 この瞬間に、俺の腕が元の姿に戻っていることを、見切らなかった会長の油断だ。

「メイド魔剣たるもの、ご主人様の意図を更に読んで、その先に対応すベシ‥‥‥ええ、これで一太刀デス」

 体を動かそうとした生徒会長。

 けれども、既に俺の手から離れていたゼナが元のメイドの姿になって、生徒会長の腹に手を構え‥‥‥弾き飛ばした。

バァァァン!!
「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」

 触れていないように見えたのに、まるで衝撃波がそこに生じたかのように生徒会長はふっ飛ばされた。

 そのまま地面に落ちるかと思ったが、流石生徒会著というべきか体勢を立て直して体を回転させて着地する。

「ぐっ‥‥‥今のは、結構効いたよ。でもこの感じ、手加減はしてくれたようだね」
「ええ、そうですネ。ご主人様への配慮としての加減をしてくださったようですので、そのお返しデス。後は私情を挟むようなことは本当はないのですが‥‥‥‥爆発に何度も打ち返されたので、その鬱憤晴らしも混ぜてやりまシタ」
「ははは、それで爆発の衝撃のように、こちらもふっ飛ばしたか…‥‥面白いね。ああ、一太刀は入ったから、私の負けだ!!」

 ゼナの答えに対して、笑ってそう宣言する生徒会長。

 どうやら無事に、俺たちは生徒会長へ一太刀を喰らわせることに成功したようであった。

「‥‥‥でも本音を言えば、俺自身の実力で勝利したかったなぁ‥‥‥まだまだ、未熟ってことか」
「いや、戦わせてもらった私から言わせてもらえば、これはこれでかなりの実力があるんだけど?というか、それで未熟って何を対象にして言っているんだ?」
「そこのメイドです」
「‥‥‥あー、うん。物凄く納得したよ」

 今の一撃だけでも、どうやらゼナの実力をある程度推測出来たようで、苦笑いされた。

「まぁ、何にしても負けたのには変わらないし、フィー君の勝利をもって君たちは無罪放免だ!!」
「「「「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 生徒会長の言葉に、喜ぶ男子生徒たち。

 これで一応、満足な戦いに…‥‥っと、思っていた、その時だった。



「!!ご主人様、危ないデス!!」
「へ?」

 叫んだゼナの声が届く前に、彼女が僕の瞬歩以上の速さで動いて体を引っ張った。

 そのすぐ後に、ベチャァンっと何かが数秒前までいた場所に叩きつけられた。

「これは、ガミガミさんの?」

 ガミガミさんの魔剣から出る粘着質の何かのようだが、何故それがこちらへ向けられるのか。

「何をしている風紀部長ガーミック!!今すぐ魔剣エトランゼでの攻撃を‥‥‥って、なんかさっきからやけに審判としての活動をしていないと思ったら!!」

 言われてみれば、ガミガミさんが審判として役割を持っていたなと思いつつ、声を荒げていた生徒会長の視線の先を見て、僕らは驚愕した。


「フシュゥゥゥ…‥‥生徒会長、負ケタ、デモ、自分、負ケテナイナイナイナイナイ■■■■!!】

「何じゃありゃ!?」
「もしかして、さっきの爆発で巻き添えになって、意識を失っていたのか!!それでちょっと怪しかった呑み込み・・・・が、一気に進んだのか!!」

 そこにいたのは、先ほどまでのガミガミさんの姿ではなかった。

 体格が一回りほど大きくなりつつ、所々が何やら戦闘に巻き込まれた後なのかプスプスと焦げつつ薄汚れつつも、体格全体が一回りも二回りも大きくなって、筋肉が膨張していた。

 そしてその目は明らかに血走って狂気じみており、持っていた魔剣エトランゼは不気味な色合いに変化し、何か血管のようなものが出来上がって、一体化していた。

「‥‥‥まさか、代償タイプの魔剣だったのですカ!?しかもかなり粗雑というか、乱発しすぎた様子なんですガ!!」
「だろうね。彼、いや、彼女なのかちょっとはっきりしにくいガーミックだけど、正義感だけは強くて…‥‥でも最近、少々暴走するそぶりを見せていたから一旦医者の方へ行かせようとしていたようだけど、ちょっと遅かったかもしれない」
「え、え、え?どういうことなの?」
「省略して説明しマス。魔剣にも色々とあるのですが、どれもこれも実はリスクが0ではなく、何かしら生じマス。そしておそらく、あの魔剣は代償タイプ‥‥‥粘着弾なのは珍しいのですが、代償タイプの魔剣でも最悪のリスクを生じさせたようデス」


‥‥‥実は魔剣は、魔獣を屠るだけの力を持たせてくれるのだが、その心のありように影響される面も持ち合わせている。

 そしてそのありようによっては、多種多様な魔剣のもつリスクを、正しい状態であれば生じさせることは通常ないのだが、どこかで踏み間違えてしまった場合、リスクが生じてしまうそうだ。

 その中でも、ガミガミさんに起きているこの症状は、魔剣の数あるリスクの中でも最悪の部類らしい。

「魔剣にそんなリスクがあったのかよ!?」
「強い力程、実は安くは済まないのはよくある事デス。まぁ、実は私もリスクがあるのですが‥‥‥それは生じさせないように、メイドとしてどうにかしているのデス」

 さらっととんでもない事もカミングアウトされた気がするが、今はそんな事よりも目の前の状態である。

 というか、たった今まで、生徒会長と戦っていたのに、続けてやる気力は流石に無い。

「あ、やべ。気がちょっと抜けた部分があったせいか、今になって足腰にきた…‥‥」


 必死になって戦っていたせいで、辛うじての勝利によって気が抜け、戦闘での疲れがどっと襲い掛かって来た。

「‥‥‥大丈夫デス。ご主人様。ここはお休みになってくだサイ。生徒会長も、休んでくだサイ」
「いや、休む暇はない。生徒会のメンバーがやらかしかけているのならば、その責任を取って止めなければいけないからな」

 ゼナの言葉に対して、そう言い切った生徒会長。

 さっきまで俺と戦闘していたというのに、確かに疲れたようなそぶりを見せておらず、実力がどれだけかけ離れていたのか見せつけられる。

「いえ、これは魔剣の問題でもあり…‥‥だからこそ、メイド魔剣たる私が対処いたしマス」

 そう言いながらゼナが前に出て、ガミガミさんに向き合う。

【■■■■■■■!!】
「魔剣たるもの、ご主人様のために戦うのは当然のことデス。けれども、その戦いの道を誤ってはいけない事であり‥‥‥ならばこそ、同族として止めてあげましょウ」

 咆哮を上げるガミガミさんだったものに対して、彼女は告げながら構えた。

 何処からともなく、絵本とかで出るような死神の持つ大鎌のようなものが出現し、彼女の細腕に装着される。

「流石に素手でやるのは大変そうですので、装備して挑ませてもらいマス」
「あの、ゼナ、その大鎌って何?」
「これですカ?メイドたるもの、ご主人様のためにきちんとコミュニケーションを磨き、仲良くなる手段を持つことは当然という事で、たまたま仲良くなった相手から譲り受けたものデス。黒い服装で骸骨の人でしたが、中々気のいい人でシタ」

 いや、それ人なのか?なんか人じゃないものと知り合いになってないかな?その類の人から受け取っている武器って、ただの武器になるのかな?

 いろいろな疑問とツッコミどころが出てきたが、疲れている今しきれるわけじゃない。

 ここは大人しく、彼女に任せるしかないかと諦めるのであった‥‥‥‥

「…‥‥何と言うか、フィー君の強さの理由が垣間見えた気がする。滅茶苦茶そうなメイドを連れていたら、普通じゃない成長をするのは当たり前か」
「とりあえず会長も、ちょっと見守りましょう。ああなったゼナは、俺では抑えられません」

 出来れば、ガミガミさんをあの状態から無事に元の状態で戻してほしいのだが‥‥‥「敵対したら最低でも消滅」をモットーにしている彼女だから、不安しかないけれどな‥‥‥‥


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