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1章 出会いの春風は突風で
1-6 旅立つ前に、多少は見て置くべし
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王都へ向かう馬車は、一台ではない。
魔剣選定の儀式に立ち会っていた魔剣士や検定士の人達が乗る分の馬車も一緒にやってくるようで、ちょっとした馬車の群れが集まるのだ。
「とは言え普通に見る馬車とは違って結構頑丈そうな造りなんだよなぁ…‥‥」
一般的な馬車は幌馬車などのように木や布製の馬車なのだが、魔剣士及び魔剣を今回の儀式で獲得した者たちが乗る馬車はそうではなく、金属製の馬車になっていた。
というのも、内部でうっかり魔剣を使ってしまう人が出たら、通常の馬車では即爆発四散するのは確定のようで、だからこそ魔剣を載せる際には頑丈さに重点を置いた馬車になるようだ。
なお、魔剣士が犯罪を犯した際の護送用の馬車と言うのも存在しているらしいが、そちらはそちらでまた違った馬車になっているらしい。…‥‥見る機会が無いのが一番良いんだけれどね。魔獣を確殺できる魔剣を持ちながら、それを犯罪に使ってしまうこと自体が許されないことでもあるからな。
「ふむ、ある程度のしっかりした作りですが、まだまだ改善点が多そうですネ。ご主人様の乗る馬車に改造を施し、乗り心地を良くいたしましょうカ」
「いや、やらなくていいというか、馬車の改造が出来るのか?」
「『メイドたるもの、ご主人様の旅路は快適になる工夫を出来る腕前を持つベシ』、『魔剣たるもの、主の身を優先して考えるベシ』とあるのデス」
「ついに二つを言うようになったか‥‥‥というか、魔剣なのかメイドなのか、はっきりして欲しいのだが」
「私はご主人様の剣ですから、そこはいかようにも解釈できるのデス」
説明を投げたよ、このメイド。魔剣も名乗っているしメイドも名乗っているし、本当に訳が分からない。
とは言え、一応魔剣だしなぁ…‥‥どうしろと言うのだろうか。
そうこうしているうちに、馬車が出る時間が近づいてくる。
あちこちでは今回の儀式で魔剣を獲得した者たちが王都へ向かう前に家族と一時期の別れを惜しむように挨拶をしているようで、俺たちの方も例外ではない。
「フィー兄ちゃん、もう王都いっちゃうの?次何時に返って来るの?」
「そうだなぁ、王都では3年間ほど学ぶらしいけれど、夏季休暇と冬季休暇の年2回大きな休みがあるって話だ。その時に戻ってこれたら、きちんとここへくるよ」
「よかった、フィー兄ちゃんがいないとゼナ姉ちゃんも来ないからね」
「ゼナ姉ちゃん、料理上手だもんね。院内のご飯、すっごく美味しかったもん」
「フィー兄ちゃんが無理でも、ゼナ姉ちゃんが残ってほしいなぁ」
「おいこらちょっと待て、俺よりゼナの方が目当てになってないか弟や妹たちよ」
「残念ながら私はご主人様の魔剣ですので、ご主人様のもとにいるのみなのデス」
さらっといつの間にか子供たちの胃袋をゼナは掴んでいたらしい。まぁ、確かに作ってくれた料理は同じ材料を使っているはずなのに、これまでここで作っていた者とは思えないほどの美味しさだったしなぁ‥‥‥それで俺よりゼナが慕われるのは分かるといえば分かるが、どことなく納得できない。
寂しくなるかと思っていたのに、何だろうこの残念感。
とにもかくにも時間が来て、ついに王都へ向けての馬車に乗り込み、この地を離れ行く。
赤子の時から過ごしていた場所から巣立った気分になりつつも、それでもまたこの故郷に想いを馳せる。
「それじゃ、行ってきますか。顔も見ない母さんも、この旅立ちを見てくれているのかなぁ‥‥‥」
そうつぶやき、肩身のネックレスを握り締めるのであった…‥‥
「ところでご主人様、旅立って今さらですが、一つ問題ガ」
「何かあったか?」
「いきなりですが大雨デス」
「‥‥‥幸先悪いなぁ」
魔剣選定の儀式に立ち会っていた魔剣士や検定士の人達が乗る分の馬車も一緒にやってくるようで、ちょっとした馬車の群れが集まるのだ。
「とは言え普通に見る馬車とは違って結構頑丈そうな造りなんだよなぁ…‥‥」
一般的な馬車は幌馬車などのように木や布製の馬車なのだが、魔剣士及び魔剣を今回の儀式で獲得した者たちが乗る馬車はそうではなく、金属製の馬車になっていた。
というのも、内部でうっかり魔剣を使ってしまう人が出たら、通常の馬車では即爆発四散するのは確定のようで、だからこそ魔剣を載せる際には頑丈さに重点を置いた馬車になるようだ。
なお、魔剣士が犯罪を犯した際の護送用の馬車と言うのも存在しているらしいが、そちらはそちらでまた違った馬車になっているらしい。…‥‥見る機会が無いのが一番良いんだけれどね。魔獣を確殺できる魔剣を持ちながら、それを犯罪に使ってしまうこと自体が許されないことでもあるからな。
「ふむ、ある程度のしっかりした作りですが、まだまだ改善点が多そうですネ。ご主人様の乗る馬車に改造を施し、乗り心地を良くいたしましょうカ」
「いや、やらなくていいというか、馬車の改造が出来るのか?」
「『メイドたるもの、ご主人様の旅路は快適になる工夫を出来る腕前を持つベシ』、『魔剣たるもの、主の身を優先して考えるベシ』とあるのデス」
「ついに二つを言うようになったか‥‥‥というか、魔剣なのかメイドなのか、はっきりして欲しいのだが」
「私はご主人様の剣ですから、そこはいかようにも解釈できるのデス」
説明を投げたよ、このメイド。魔剣も名乗っているしメイドも名乗っているし、本当に訳が分からない。
とは言え、一応魔剣だしなぁ…‥‥どうしろと言うのだろうか。
そうこうしているうちに、馬車が出る時間が近づいてくる。
あちこちでは今回の儀式で魔剣を獲得した者たちが王都へ向かう前に家族と一時期の別れを惜しむように挨拶をしているようで、俺たちの方も例外ではない。
「フィー兄ちゃん、もう王都いっちゃうの?次何時に返って来るの?」
「そうだなぁ、王都では3年間ほど学ぶらしいけれど、夏季休暇と冬季休暇の年2回大きな休みがあるって話だ。その時に戻ってこれたら、きちんとここへくるよ」
「よかった、フィー兄ちゃんがいないとゼナ姉ちゃんも来ないからね」
「ゼナ姉ちゃん、料理上手だもんね。院内のご飯、すっごく美味しかったもん」
「フィー兄ちゃんが無理でも、ゼナ姉ちゃんが残ってほしいなぁ」
「おいこらちょっと待て、俺よりゼナの方が目当てになってないか弟や妹たちよ」
「残念ながら私はご主人様の魔剣ですので、ご主人様のもとにいるのみなのデス」
さらっといつの間にか子供たちの胃袋をゼナは掴んでいたらしい。まぁ、確かに作ってくれた料理は同じ材料を使っているはずなのに、これまでここで作っていた者とは思えないほどの美味しさだったしなぁ‥‥‥それで俺よりゼナが慕われるのは分かるといえば分かるが、どことなく納得できない。
寂しくなるかと思っていたのに、何だろうこの残念感。
とにもかくにも時間が来て、ついに王都へ向けての馬車に乗り込み、この地を離れ行く。
赤子の時から過ごしていた場所から巣立った気分になりつつも、それでもまたこの故郷に想いを馳せる。
「それじゃ、行ってきますか。顔も見ない母さんも、この旅立ちを見てくれているのかなぁ‥‥‥」
そうつぶやき、肩身のネックレスを握り締めるのであった…‥‥
「ところでご主人様、旅立って今さらですが、一つ問題ガ」
「何かあったか?」
「いきなりですが大雨デス」
「‥‥‥幸先悪いなぁ」
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