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運命の結びつき

log-005 下地があるからこそやりやすく

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…名前も決まり、ハクロが村に来て一週間。
 最初はモンスターである彼女が、この田舎の村で受け入れられて生活できるのかという不安もあったが、すでに下地が出来ていたせいか、杞憂だったようである。

 いや、彼女自身が明るい性格で、他の人の仕事を手伝ったり、積極的に動いていたのもあってか…

「…村の周辺の警備もやってくれているおかげで、獣害が無くなるのは良いけど、今度は肉の貯蔵庫が必要になるか…どれだけ、やっちゃったの」
【美味しい作物が多いからか、狙う獣が多いようでしたからね。役に立とうとして、張り切りすぎちゃいました】

 蜘蛛のモンスターなだけあってか、罠を張るのもうまかったようで、周辺の獣を狩り過ぎたようだ。
 美味しいお肉が食べられるのは良いのだが、物事には限度があるだろう。

 
 まぁ、そんなやらかしはさておき、彼女が積極的に動きまくったことで、村の状態としては良い方向に進んでいるようだ。

 昼間は畑を耕したり、村の子供たちの学び舎になっている小さな教会で、神父様の手伝いをして先生になったりしている。
 夜間は人よりも目が効くからか、警備を受け持ち、畑に進入してくる獣たちを狩ったり、モンスターが来ないか警戒をしてくれており、安全性は向上しただろう。

【私、1時間ぐらいの睡眠で十分ですからね。むしろ、人里だからか獣が畑の作物目当てで寄ってきやすいので、夜の狩りが楽でしたよ】
「村の用心棒として強すぎるというかなんというか…そもそも、獣だったらハクロのように強い人がいるのをわかって、逃げそうなものなのに何で、来ているんだろうか」
【あー…気配をどうしても、消してしまうので気が付かれにくいのがあるかもしれないです】

 蜘蛛のモンスターゆえに、罠を利用しての狩りがそもそものメインだからか、獲物に悟られないように気配を無意識のうちに消してしまうことがあるらしい。
 体格としては結構大きい方なのに、存在感を感じさせずに気が付いたらそばにいたりするなど、神出鬼没生はまだちょっと、村の人に驚かれたりもしていたりするのは困りものである。

 それでも、貢献してくれていることのほうが勝っているのもあってか、ここ最近は慣れられてきているらしいから良しとしよう。


【まぁ、大した問題ではないですよ。私にとって、番と…ジャックと一緒に過ごせるのが、何よりも大事ですからね!!】
「良い笑顔で言うのは別に良いけど…何も、お風呂まで一緒じゃなくていいんじゃ…」
【駄目ですか?】
「絵面的に色々とね」

 流石にいくら役に立っていたとしても、村で過ごす中で問題も生じていた。
 その一つが、体格差による生活面の支障である。

 何しろ、上半身が美しい女性の体とは言え、下半身は大きな蜘蛛。
 人の住まう場所を出入りするには少々狭く、普通の家では過ごしづらい。

 多少は柔らかいので、頑張ればドアを通り抜けられるようだが、それでも彼女の住まう場所がちょっと問題になったのだ。


 そこで、住みやすいように元々僕が住んでいた家の横に彼女が自分で家を作ったのである。
 まぁ、蜘蛛だけに蜘蛛の巣だけになる可能性も否定できなかったが…驚くべきことに、見事な建築技術で、体格差があっても過ごしやすい家を、2日ほどで作り上げてしまったのだ。

 手先がかなり器用というだけではなく、モンスターだからこその常人には無いパワーやスタミナを発揮したがゆえに、出来上がったハクロの家。
 一応、普通の人間も出入りしやすいようにできているが、使い心地も徹底的に並の家よりもよくされているだろう。

 その中に作られた浴槽にて、現在僕らは湯船に一緒に浸かっていた。
 もちろん、彼女に合わせた深い浴槽ではなく、わざわざ作られた浅い方にだが…ちょっと待ってほしい。

「両親にも許可されているとはいえ、こういうのはどうなのか」
【問題ないですって。番なので、一緒に過ごすのは当然のことですよ!】
「それでもなぁ…」

 絵面的に大丈夫なのかと問いたいが、気にしていない様子。
 既に今世の良心にも気に入られているようで、このハクロの家で過ごすことは許可を貰っているらしく、外堀が埋められまくっている状況だろう。

 うーん、男の子心としては美女と浸かる喜びよりも、年相応の気恥ずかしさがあるのだが…人の気持ちをもうちょっとわかってほしいものである。
 ああ、こういうところがモンスターとして、微妙に人とはずれた思考なのかもしれない。



 なお、蜘蛛の体が下にあるとはいえ、上にある美女の体に見せられない人はいない。
 こっそりと風呂を覗こうとしていた人もいたようだが…そちらはそちらで、罠を張る前に各家から制裁を受けているようなので、気にしないでおこう。
 村の風紀を乱しまくっていないかとツッコミを入れたくなるが、既にあきらめの境地である。


【ふふふ、こうやって一緒に過ごせているだけでも楽しいですよ。ジャック、ジャック、ジャック、私の大事な番…ああ、本当に、出会えてよかったですし、大好きです】

 穏やかに微笑み、抱きしめてくるハクロ。
 ドキドキさせられまくるが、彼女の感情は伝わってくる。



 出会う前のハクロの暮らしが、どのようなものだったかは知らない。
 けれども、旅に出てまで番を追い求め、ようやく得られたその喜びというのは、言い表せないほどのものなのかもしれない。
 まだはっきりとはしないけど…こうやって過ごしているうちに、僕自身もこの生活が当たり前になってきているような気がするのだ。


 それに、何となく彼女のその喜ぶ感情が、どこか嬉しくもある気持ちを抱かされて…些細なことだと、この状況を気にしないようにする思いもある。

 不思議な蜘蛛の少女、ハクロ。
 こうやって一緒に生活するのも、悪くはないかと思うのであった…

【できれば夜も一緒に過ごしたいですけれども、お義母様はまだ早いからと言って、家に連れて帰られるのが残念です。でも、それはなんとなくわかるので、今は我慢の時です】

…あれ?今は良いけど、将来的に狩られることが決まりつつないか?色々な意味で。















…将来のちょっとした不安要素にジャックが穏やかな気持ちから切り替えさせられていたその頃。
 その村がある領地の領主は今、村長からの報告を読み、考え込んでいた。

「ふむ…モンスターの従魔契約の情報か。小鳥や犬のモンスターを飼うために行う話ならば聞いたことがあったが、人に近い姿を持つものか…」

 報告に上がってきていたのは、ハクロの事。
 従魔契約が結ばれて、今は村の一人の少年に熱を上げて、過ごしているという内容が記載されていた。

 報告が上がってきた当初は、得体のしれない者に対する警戒感を持ち、調査を行うように命じ、日々の報告を続けてもらったのだが…出てくるのは危険性どころか、恋する魔物というべきような内容である。

「…いや、本当に警戒していたのがばかばかしくなりそうなほどの懐き具合というか、なんだこの羨ましすぎるものは!!一方的な愛の状態になっているとはいえ、将来的には爆発しそうなものとはどういう状況だこれは!!」

 モンスターが相手というところは考えるべきところだが、姿を写した絵や少年に尽くしまくるその内容に、思わずツッコミを入れてしまう。

「どういうものなのか、分類をはっきりさせろというのもあるし…ここはひとつ、訪問してこの目で見るしかないか…」

 報告に上がってきているだけでは、足りないだろう。
 ここはもう、自らの目でしっかりと確認しなければいけない。

 領主足るもの、自領の領民の生活を考えるのは当然のことであり、不安要素があるのならば直接赴いてこそどうにかするしかないだろう。

 建前はそれだが、本心としては美女と少年のカップリングへの、男としてのちょっとした嫉妬心が混ざっているようであった…


「それはそうと、白い毛を纏う蜘蛛でもあるようだが、この特徴は…」
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