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7の旅『浮遊する大地の星』

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――――――ギィィィィッ!!
『…‥‥うわぁ、なんかまた、へんてこな場所に出たなぁ』

 世界を越え、新しい世界へと私はやって来たが、今回はこれまた変わった世界。

 あちこちに大小さまざまな岩石が散らばっており、宇宙空間の小惑星帯というべき場所へ、今回は出てしまったようだ。


 動輪を回し、着陸できそうな都合のいい場所を探すも、どこにもそういう場所はない。

 シールドを張っているとはいえ、ふよふよと浮遊している岩石群を避けてしまい、ちょっと進みにくい。


『でも、宇宙空間‥‥‥って訳でもないな』

 空も青いし、見れば下の方には煮えたぎっている海がある。

 ぐつぐつと沸騰しているようでも生きている生物はいるようで、時折水しぶきと共に奇怪な魚が跳ねる姿なども確認できた。

 言うのであれば、ココだけ重力がおかしくなって、何かが原因で砕けた大地が漂っている感じであろうか…‥もうちょっと良い例えを出すのであれば、何処かの世界で見た天空の城とか、そう言うのが合っているような気がする。

 まぁ、そんなものこの世界では見れてないが。

 というか、大小さまざまだけどちょうどいいサイズもない。


ボォォォォォ!!

 汽笛を鳴らし、空を駆け抜け障害物をかわしていくも、どこもかしこも変わることがない。

 もしかすると、ココには人のいるような場所がないのではと思い始めた頃合い、ちょうど夕暮時なのか暗くなってきたところでふと明かりが見えた。


『お、発見』

 運が良いというべきか、ちょうどかなりでかいサイズの大地があり、そこから光が幾つか見えた。

 どうやら人家があそこにはあるようで、停車するにも都合が良さそうだ。

‥‥‥まぁ、こんな場所で人が暮らせるのかという疑問もあるが、停車できそうであればいいだろう。

 進路をその場所へ目指し、突き進み、近づくにつれてその様相がはっきりとしてくる。

 農場のようなものなのか、牛や馬らしい生物が確認でき、厩舎のような場所へ戻っているようだ。

 そして、そこには人の住む家もあるようで、ちょっとした邸も確認できた。


(どうやらあそこで生計を立てているというか、牧場経営を営んでいる人がいそうだなぁ)

 見ず知らずの旅人を泊めてくれるかは分からないが、一晩の宿を借りれるかもしれない。

 というか、一応営みのありそうな明りを確認できるのであれば、人の手もあるだろうし、この世界の人に触れることができるかもしれない。

 ワクワクしつつ、私はその大地へ向けて駆けたのであった。








「イラッシャイマセ、当牧場へヨウコソ」
「…‥‥あの、一泊頼めるだろうか?」
「エエ、宿泊可能デス。当牧場ハ、訪レル客ヲ歓迎シテイマス」

‥‥辿り着き、人型になり、入り込めたのは良いだろう。

 だが、ドアがまさかの自動で、中に入らせてもらえば、そこにはコテコテのというか、古めかしいアンドロイドが接客をしていた。

 何かの宇宙映画とか別の世界で見たなぁ‥‥‥ぶんぶん光棒を振る奴だったか?

 ちょっと問いかけてみれば、ある程度の返答はしてくれるようなので、軽く情報を集めて見る。

 すると、どうやらここは無人の開放型体験牧場だった・・・ようだ。

「…‥‥だった・・・?今はもうしていないのか?」
「エエ。当牧場ノ体験ハ百年前ニ停止シテオリ、宿泊ノミヲ受ケツケテオリマス」


 話によれば、この牧場の体験そのものは百年前にはすでに終わっているらしい。

 宿泊する場所だけは確保しているらしいモノの、もう人はいないそうなのだ。

 少しお願いして資料がないかと尋ねれば、快く新聞などを持って来てくれたのだが‥‥‥その内容を読み、私は目を疑った。

「全住民、大移住プロジェクト?」






…‥‥ある程度残されていた資料を読み解くと、どうやらこの星はとんでもない事件が起きたようだ。

 もともとは地球のような惑星ではあったらしいのだが、とある国が兵器の実験をしている最中に、不幸にも事故が起き、全世界を巻き込んだ。

 それは、星の重力を変動させ、元々あった大陸全てを宙へ浮かせてしまうという前代未聞の大事件。

 しかも、人が住める表層部分だけが乖離し、自らの重みで大地が砕け、あちこち漂っていた岩石はその一部だったようだ。


 こんな状況で、まともに人が住めるわけもない。

 電車も車も、飛行機でさえも岩石などに邪魔を去れ、まともな交通手段は消え失せ、電線などもすべて切れ、大混乱に陥ったらしい。

 そんな中で、もうここで住むことはできないと判断した人々が、全員を引き連れ、何処か移住可能な星へ移り住もうと計画を立てた。

 それが、この大移住プロジェクト。大型のロケットを辛うじて使える機械や資源などをすべて使い切り、他の移住可能な惑星まで乗ろうというもの。

 貧富の格差があるが、かつて存在したこの世界の国々は批判が来るのを恐れ、分け隔てなく公平に全住民をその星まで送り届ける事を確約したらしい。

 そして、移住可能な惑星は既に見つかっており、その星までたどり着くのは時間がかかるため、冷凍睡眠装置機能などを用いて長期間にわたって移動を成し遂げる内容だったようだ。



 計画に対して反対を述べる者はおらず、百年前にそれは実行された。

 この牧場の主もここを捨て、人がいなくなるからこそ体験も取りやめ、後はアンドロイドに全てを任せてしまったようだ。

…‥‥宿泊施設が残されていたのは、その名残り。もしも、仮にも人が残されてしまった場合に備え、誰かがここで住めるようにとも気遣っていたようである。


「だから、大地が砕け、浮いていたのか‥‥‥」

 納得できたというか、何と言うか‥‥‥この資料が本当であれば、ここには人がいないだろう。

 機関車ボディのワープ機能を用いれば、おそらくはその星にも向かえるだろうが…‥‥行く意味も特に無さそうだ。

「まぁ、疲れたし一泊して出ていくのも悪くないかな」

 なお、外にいた牛や馬は百年以上ここにいることになるが、そこはきちんと世代交代を重ねているらしい。

 とはいえ、限られた土地での交配で、血が濃くなりすぎたせいか最近数も減らしたと、アンドロイドは情報をくれた。

「‥‥‥出て行こうとか、思わないのか?」
「ワタシ、ココデ過ス。客人来ル可能性モアル」

 元々の牧場主が、万が一の可能性を考え、このアンドロイドはその命令に従い、ここに居続けるようだ。

 私と同じような客人がまた来る可能性もあり、最後に壊れるその時まで、ずっとそのまま働くらしい。


 人間に命じられつつ、その命令に反抗することなく、生涯見守る牧場の経営者。

 そう考えると、ちょっと切ないような気もするが…‥‥まぁ、他人である私がこれ以上口出しをする意味もないだろう。

 ちょっと百年以上ずっとここに居続けて稼働できているその耐久力には関心する者があり、少し私の客車‥‥‥特に図書車両とか、コレクション車両とかそこの番としてスカウトしたいと思ったが、無理そうであれば仕方があるまい。




 何にしても宿泊室まで案内され、熟睡した翌日、私は出発することにした。

 人の営みを見れないようだし、ここに居続けても意味もない。

 お礼を述べ、宿泊料を支払おうとしたが、どうやら無料だったようだ。

「御客様、マタノゴ利用ノ機会ヲオ待チシテオリマス」
「ああ、機会があればね」

 正直、人がいないここには訪れる意味もないだろう。

 なので、もうここに来ることはないかもしれないが、念のために私はこの場所の座標を登録し、再びここへ向かえるようにして置く。

 気に入った世界があれば、その場所へ向かえるように座標を登録し、旅の合間に再び寄れるようにしている私。

 ここはもう、見るものもないが…‥‥ずっと、主人の命を受け、働き続けるこのアンドロイドに会う機会があれば、また来ようと思いもする。

 私だって、蒸気機関車。元々は人の手によって作られ、働き続けたモノ。

 相手もまた、その命令を受け働き続けた者同士でもあるし、忘れることができないと思う。


 また訪れる時は、あのアンドロイドは壊れている可能性もあるだろう。

 牧場の牛や馬もなくなり、全てが失せているのかもしれない。

 けれども、そこでずっと稼働し続けているという事実は残り、いなくなったとしても訪れることはあるかもしれない。

ボォォォォォ!!っと汽笛を鳴らし、車輪を駆動させ、宙へ私は駆け始める。

 滞在期間は短かったが、また一つ、機会があれば訪れるべき世界が出来たようだ。

 できれば再会するその時まで、また誰かがあの牧場を訪れることができればいいのかもしれない‥‥‥‥





…‥‥そしてこの後、再びこの世界を訪れた時に、私は知った。

 大移住プロジェクトは途中で頓挫し、移住可能な惑星がいつの間にか無くなっており、住民全てが引き返してきたことを。

 一度決意したとはいえ、それでも生まれた星を捨てることができず、なんとか生き抜こうと再び大地に地面を降ろした人々がいたことを。

 そして牧場の方も、その主が帰還しており、今度は体験ができるようになっていたという事も、別のお話…‥‥
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