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2の旅『天候の変わった国』

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「‥‥‥暑いですが、この国っていつもこのぐらい、日照りなのでしょうか?」
「いんやぁ、そんなことはないねぇ」

 露店にて、私は軽く話を聞いてみようと思い、店主にそう語りかけたところ、思いっきり凄い嫌な表情でそう答えられた。

 

 今回訪れたのは、周辺を森に囲まれた国であり、周囲に砂漠があるわけでもない。

 なのに、非常にカラっとした空気での暑さに疑問を抱き、情報を集めるつもりではあったが‥‥‥何やら事情があるようだ。

「お客さん、旅の者かね?」
「ええ、つい数日ほど前に着きまして、少し見て回ろうと思っていたのですが…‥」

 都合よく、この世界には線路も敷かれており、蒸気機関車がそれなりに走っていた。

 デザインは違えども紛れ込むことは可能であり、難なく入国して、こっそり人間体となって見て回ろうとしていたのだが、この暑さは正直辛いところ。人間体と言っても完全な人間ではないのだが、それでも辛いものは辛いのである。

 ああ、自分の蒸気とか火であれば内部だから特に問題ないのだが…‥‥いかんせん、外からってのは感じやすいからなぁ。

「数日前かぁ‥‥‥それなら、10日前に起きたことを知らないのも無理はねぇかもしれねぇ」
「10日前?」

 話を聞いてみれば、この国で10日前ほどにある事件が起きたらしい。

 この国は代々王家が国全体の天候を管理し、雨が少なければ降らし、多すぎれば減らし、気温が熱すぎれば冷やすなど、国民が常に過ごしやすいように整えていたのだとか。

 魔法のようにも思えるが、実はれっきとした科学の分野の方であり、王城には王族しか扱えない国全体を管理するシステムのような物があったらしい。

 だがしかし、そんなある日、急にこの国の国王が崩御し、新しい国王に代替わりしてから、この異常気象になったのだとか。

「‥‥‥話を聞くと、その王族が扱っていたのなら、普通は良い感じに制御できるはずだよね?」
「それがなぁ、この新国王、本当の王家ではないという話の方が強いんだよなぁ」

 いわく、前国王の王妃の息子の第1王子らしいのだが、この王妃、とにかくきな臭い話しが多いらしく、その王子も本当に国王の息子なのか怪しかったらしい。

 で、最近になってようやく国王がその怪しさに対して調査を行い、その結果を聞くはずであったのだが‥‥‥そのタイミングでの崩御だったのだとか。

「どう考えても怪しすぎるんだけど」

 人間の賢さとかは私は知っているつもりではある。

 だけど、こういう話のそのタイミングで、急に事を起こされたようにしか思えない、怪しさ満点な状態にするのはどうかと思ってしまう。

 私が思う以上に愚かな人とか、考え方が浅い人って多いのだろうか。

「お客さんもそう思うだろう?だがな、今の国王の‥母、ああ、さっきの話に出た王妃の方が、実権を握っているらしく、兵士とかを動かして下手に探せねぇんだ。まぁ、見つけたところで、この国の異常をどうにかできそうにもないという現状があるんだけどなぁ…‥‥」

 国王の子供はどうもその王子しかおらず、側妃などが子をなしていなかったのか聞いて見たが、全員若いうちに無くなっているか、いつの間にか消えていることが多かったらしい。

 しかも、その王族にしか扱えないようなシステムは、代々きちんと教育して学ばせるはずなのだが、いかんせんその新しく国王となったその王子は勉強嫌いだったようで、全然扱えていない可能性の方が大きいそうだ。

 そんなダメ人間、周囲から排除する動きが出そうな気もするのだが、先に動かれて捕らえられるそうだ。

‥‥‥なんか、これまたまっくろくろすけな闇がある国へ、来てしまったっぽい。

 そう思いつつも、私がするようなことは特にない。

 どうせ私は旅人で、移動すればいいだけの話。世直し旅をするような人とも違うし、関係ない話し。

 まぁ、でも暑い国にされた部分に関しては、仕返しをしたいとも思ってしまう。停車時に、体が滅茶苦茶熱くなったからね‥‥‥機関車ボディ、暑さが辛い。卵割ったら目玉焼きが出来たもん。いや、自分の体で卵を焼くのはどうなのかというツッコミが来そうだが、今はまだ一人旅だしね。





 とにもかくにも、気になったので私は少々手を出して調べてみることにした。

 深夜になり、人々が眠りにつく中、昼間に教えてもらった王城内へこっそりと忍び込む。

 一応、ステルス機能とか言うやつが機関車ボディについているが、こっちの人間体でも発揮できるようで、バレずに王城内へ侵入できた。しかし、蒸し暑い。

「さてと、どこかに良い情報はないかな‥‥‥?」

 友人の話だと、重要な書類などは、怪しさ満点な人が部屋に隠して持っていることが多いらしい。

 昼間に集めた情報だと、今の国王か、もしくはその母親の王妃の部屋のどちらかに、その手の情報が隠されている可能性がある。

 なお、国王が代替わりしたのなら前王妃とかいろいろな言い方がありそうなものなのだが、その名称が変わっていない部分に疑問に思うのだが‥‥‥



 見つからないように天井裏へお邪魔し、そっと駆け抜け、まずは国王の部屋の方へ来てみた。

「穴開けてっと‥‥‥うわ、見なきゃよかった」

…‥‥国王となったのであれば、妃とかを迎えて色々している可能性ぐらいは、考慮はしていた。

 だが、流石にこっちは予想外だったかな‥‥‥こういうのを何て言うんだっけ、変態な性癖を目撃しちゃった?

 まさかのマザコンとか言われる類を拗らせている現場だったようで、王妃も室内にいて、少々口にしたくはない状態。

 しかも、室内が嫌に濁っており、変なお香みたいなものを焚いているようだし‥‥‥まっくろくろすけな王家の闇を今、垣間見たような気がする。

「とりあえず、お邪魔しました…‥‥」

 あんなもの、見たくはなかった。正直言って、潜り込んだことを後悔させるほどである。ある意味防犯になりそうだが…‥‥暗殺者とかが仮にいたとしても、あの光景を見たら逃げ帰った方が良いだろう。

 ああ、でもあれならまだ王妃と言われていてもおかしくないのかもしれない。国王の妃のような‥‥‥いや、実の母親をそのままの立場にしているというのもどうなんだろうか。

 とはいえ、ちょうど都合よく王妃があの部屋にいたという事は、そちらの部屋は誰もいない可能性が高い。

 あの様子だとまだまだたっぷり時間がありそうだし、ゆっくり落ち着いて探せそうである。

 そう思い、そっと王妃の私室と思われる部屋へ、私は潜入に成功した。

 見るからに、重要そうなでかい金庫があり、何か隠している感じがあふれ出ている。

「‥‥と言っても、開けられそうにないなぁ」

 侵入したのは良いのだが、金庫のカギとかよく分からないし、ちょっと悩む。

‥‥‥まぁ、力づくでやるのも手だが、ここはそう言うのが得意な人に任せた方が良いのかもしれない。

 そう思い、私はそっとその金庫を持ち、人間体時には格納されている客車の中へ入れ、素早く王城を後にした。







「…‥‥ちょうど良いのは、あのあたりか」

 城を出た後、金庫を取り出し、その建物の前に置き去りにする。

 そこは、この国の衛兵たちが集まる憲兵所のようであり、怪しいものがあれば対処するのは目に見えている。

 王城の方から王妃が気が付いて何かされる前に、ささっと憲兵所の扉をガンガン叩き、人が出る間に私はすぐに逃亡して姿を消した。

「今何時だと思ってやがるごらぁぁぁぁあ!!って、誰もいねえじゃねぇかぁあぁぁ!!」
「あれ?なんか置き去りにされているが…‥‥でっかい金庫じゃないか?」
「んぅ?」

 丁度目論見通り、金庫に気が付き、衛兵たちが出てきた。

 王妃と密通している人がいる可能性もあったが、昼間にある程度情報を集め、ココなら大丈夫そうだと当たりはつけていたが、きちんと予想通りに動き、鍵を開ける専門の職人を呼びに向かい、直ぐに戻って来た。

‥‥‥後の事は、言わなくても分かるだろう。

 鍵が開けられ、金庫の中から出てきたのは、これまた見事な不正な書類の山々。

 しかも入れた人が馬鹿だったのか、殺害計画などが練られた束などもしっかりと出され、これまた盛大に証拠となる品々が出てきた。

「おい、これ前国王陛下の殺害計画だぞ!!」
「こっちには、数年前に亡くなられた王子様方の殺害計画だ!!」
「これはどう見ても、国の乗っ取りの計画書じゃねぇかぁぁぁぁあ!!」

 出るわ出るわのやばい品々に、驚愕の声を上げまくる衛兵たちと連れてこられた鍵職人。

 しっかりと王妃のやらかした所業の数々が証拠としてあり、どうもとんでもない計画があったようである。

「…‥‥動いて見たのは良いけど、こうも予想通りすぎるのもちょっと怖いなぁ」

 それだけ王妃が悪人だったのか、それとも馬鹿だったのか…‥‥あるいは両方なのか。

 というか、聞く限りとんでもない情報満載過ぎないか?普通はそう言う証拠はすぐに処分すると思うのだが‥‥‥捨てられない事情とかあったのだろうか。いや、単純に馬鹿だったから記念にという理由で取っていた可能性の方が大きいかもしれない。

 そうこうしているうちに、衛兵たちはすぐに動き出し、対応できる貴族家へ各自知らせに向かった。

 今の国王は人気がないようだし、異常気象の元凶でもあるらしいし、その元凶の元凶が王妃のようなので、どちらにも人望が無かったのだろう。

 あっという間に動いていき、あれやこれやとしているうちに直ぐに国民全員がその所業を知ることになった。

 そして数日後、あまりにも早いのだがクーデターが起き、その証拠の品々が白日の元へ晒された。

 国王及び王妃の動きは先回りをしようとしていたが、せっかく関わって見たので、最後までちょっと見て見たいと思い、私はお邪魔させてもらい、妨害をしてあげました。

 ついでに、国を通っている交通機関を利用して国外逃亡をしようとしていたからね‥‥‥蒸気機関車が多い利点を生かして、牽引する立場に紛れ込み、盛大に急ブレーキをかけて客車内でごろごろ転がせ、連結器を外してその場から逃亡いたしました。

 事故が起きたのかと人々が駆け付けたら、残された客車内に、転がった国王と王妃がいる時点で察され、速攻で捕縛された。

…‥‥見事なまでの転落人生。異世界を渡り歩くけど、こういうのは中々お目にかかれない。


 そうこうしているうちに捕らえられた王族たちに対して、民衆が裁判にかけ、更にとんでもないことが分かった。

「‥‥‥天候システムを破壊したぁ!?」

 国全体の気象などを管理する、王族が扱うシステム。

 何と驚くべきことに、新しく国王となっていたその王子はマニュアルなどもあったにも関わらず、好き勝手に動かした結果、見事にぶっ壊してしまったそうな。

 だからこそ、あの異常な暑さの気候になっていたらしいが…‥‥国民にバレないように情報を王妃が隠し通し、なんとか直そうという努力はしていたらしい。

 で、その努力ついでに直す資金を書き集めるため、あの金庫内には他の貴族との不正な取引の証拠もあったので、それを利用して金をむしり取っていたそうなのだ。

 まぁ、修理費用に当てずに、何故か散財しまくったらしい。意味ないことを何故したのか、苦労して金を集めてわざわざやらかすって、本気でその思考が分からない。

 とにもかくにも、そのせいで国の気候が元に戻ることはないらしい。

 システム自体も早期に直していればまだ何とかなったはずが、時間を掛け過ぎて、二度と直せない状態のようだ。







…‥‥結果として、国全体を暑くし、しかも前国王の殺害やその他諸々の罪が出た結果、彼らは処分が下された。

 と言っても、この国の制度には死刑はなく、生きて償えと言う事で、働いてもらうことになったらしい。

「おや、旅人さん、もう出かけるのかい?」
「ええ、色々騒動があったのを見ましたし、出た方が良いかなと思いまして」

 国を出る前に、情報を提供してもらった露店の店主に挨拶をして、広場の方に出来た、とある光景の方に目を向ける。

「にしても、ああいうのも刑罰に含まれるんですね」
「ああ、そうだ。この国の気象はもう直せないから、それに合わせた生活を皆で模索することになったが‥‥‥やらかしたあの者たちは許せなくてな。暑いからこそ、周囲を冷やすシステムを動かす動力源になってもらった」


 店主がそう言い、冷たい目で見るのは、ハムスターとかの遊具である回し車を大きくした装置で、走らされている元国王、元王妃、その他やらかしていた貴族たち。

 ひぃこらひぃこら駆けており、疲れて止まろうとしたり、ゆっくりしようとしたところで鞭でしばかれ、全力で走らされている。

 そしてその装置と繋がっている巨大な扇風機のような物が動いており、国全体に冷たい風を届けていた。

「永久動力源刑…‥‥睡眠とか最低限にさせつつ、交代制で、それでいて限界までやらせるとか、そう言う刑もあるのか‥‥‥」
「蒸気機関とかもあるけど、燃料代がもったいないからね。労働で刑罰をさせるのがこの国の刑法なんだ」

 何にしても、アレはもう二度と自由を得られず、寝る時以外は常に走らされたまま。

 一時の快楽に溺れ、欲望を溢れさせ、努力もしたつもりだがすぐに忘れ去った、その代償。


 でも、ああいう罰は他の世界にはあまりないし、ちょっと面白いものが見れたような気がしなくもない。

 そう思いつつ、線路へ私は乗って、元の蒸気機関車と列車の体へ戻り、また違う世界へ向けて発車する。

 シュシュポポっと蒸気を出し、空を飛んで向かうついでに改めて上空からその様子を見たが、よく見れば他の場所でも似たような刑が執行されているところを確認できた。

‥‥‥命を奪わずとも、自由を奪う刑罰。

 これはこれで見た目的にどうなんだろうか、とか人権とかどうなっているんだろうかとも思いつつ、この世界のこの国のやり方であるなら口出しする意味もないと思う。

 とにもかくにも、新たな世界へ向けて、再び私は汽笛を鳴らし、車輪を回してその場から旅立つのであった‥‥‥
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