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1の旅

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――――ボォォォォォ!!

 汽笛を鳴らし、周囲を見渡し、私は一つの路線を見つけた。

 この世界に来て・・・・・・・三日目だが、ようやく自分が走れそうな路線を見つけ、思わず歓喜する。


 ゆっくりと、それでいてしっかりと乗れるように調整しつつ、ガシャンっと自分の車輪がその路線に着陸し、駆け抜け始めたことを実感した。

(‥‥‥さて、線路があるのならば、駅もあるはず。このまま先へ進めば、見つかるだろう)

 そう思いつつ、駆け抜けた私ではあったが…‥‥正直、この私の勘は宛にならなかった。










「‥‥‥おや、お客さん、すごい疲れようだけどどうしたんだい?」
「いや、ちょっとね‥‥‥まさか、人がいる街にたどり着くまでに、ひと月以上かかるとは思わなくて‥‥‥ああ、今晩の宿代ならきちんと持っているんだけど、部屋はあるよね?」
「ええ、ありますとも」

 ようやくたどり着いた街中にて、私は自身を変え・・・・・、この宿屋に宿泊することにした。

「そういえばお客さん、知ってますかい?」
「何の事だ?」
「超古代文明の遺跡ともされる、街の外にある廃線。そこが何かに使用された形跡が見つかって、軽い噂になっているようなんだよ」
「超、古代文明・・・・・?そんなに古いのか?」
「ええ、今は考古学者たちが調べる程度で、名前が線路としか分かってなくてねぇ…‥‥その昔に使われていたものらしいんだけど、何が走っていたのか分からないんだよ」

…‥‥マジか。この世界・・・・、ちょっと期待していたところもあったんだけど、あのレベルの文明で超古代と言われるのか。

 内心そう思いつつ、明日からちょっと聞き込みをして調べてみることを決めるのであった。







「‥‥‥へぇ、お客さん、旅人なんだ」
「ああ、あちこちを旅して、観て楽しんでいる最中でね。路銀とかは時折稼ぐけれども、今はまだ余裕はあるかな」

 翌朝、ちょうどこの街中にあった露店で、私はそう話す。

 たわいもない世間話に紛れて、情報を集めるすべを友から習っているからね。こういう時に使えるのは良い事だ。

 あちこちの露店を訪れ、軽い買い物を行い、情報を集め‥‥‥私は昨晩の宿屋の主人との会話で聞いた、超古代文明とやらを知った。

 うん、おそらくは私と同じ・・異世界からの人が伝えた物なのだろう。

 でも、人は人であり、何時しかその技術も廃れ、誰も使えなくなったようだ。

‥‥‥人間、記録することはできるはずなのに、何故そうしないのか気になる処。ああ、そう言えば別の友人が言っていたっけ。技術の流出を恐れ、自分の頭の中だけに残すような者もいると。

 そのせいで、周囲が理解できずに失われてしまった‥‥‥とかかな。まぁ、場合によっては正しい方法なんだろうけれども、この世界では誤ったのだろう。


「まぁ、どうでもいいか。特に何も面白さもないなら、さっさと次へ‥‥‥ん?」

 ふと、向こう側でがやがやとする音が聞こえ、気になったので近寄った。


「‥‥‥何だあれ?」

 昨晩、少々利用した線路の上に、何人かのひげもじゃなおっさんたちが集まり、何かを演説している。

「聴いてくれ諸君!!この失われた古代文明の遺産というべきこの線路が、昨晩使用された形跡があった!!」
「だが、その使用したものがどこにも見当たらないのだ!!目撃情報を求む!!」

 その演説に、道行く人々は野次馬的な心で見つつ、その傍を通り過ぎていく。

 それもそうだろう。そんな演説を聞いたところで、情報が無ければ与える意味もないし、そもそも何で求めるのかという話にもなる。

(というか、あれが宿の主人が言っていた考古学者って人たちかな?)


 そう思っている中で、好奇心を抱いたらしい道行く人の一人が、声を上げた。

「なぁなぁおっさんたち!!その情報を渡せたら、何かあるのかい?」
「あるとも!この文明がどの様に使用されていたのか、その謎を教えてくれれば」
「予算、金貨100枚を挙げよう!!」
「「「「「!!」」」」」

 その言葉を聞いた途端、民衆の目の色が変わった。


「おいおいおい!!知っているぜぇその情報!!」
「ここには昨日、何かがいたんだよ」
「その情報では分からないではないかぁぁぁ!!」

 あちこちから情報が寄せられるも、どれもこれもあやふやなモノばかり。

 しっかりとした情報が無ければ渡す気もないようで、金目当ての民衆はそれでも何とか手に入れようと画策していく。


「‥‥‥うわぁ、どこの世界でも、こういう人々はいるのか」

 お金が大事なのはわかるが、こうも簡単に変わってしまうのは何とも言い難い。

 私としては、こういう光景は好きではないし…‥‥まぁ、うん、これ以上ココに滞在しても、意味は無さそうだ。



 この世界に来て苦労ばかりしかないし、もうさっさと次の世界へ渡ってしまうのが良いだろう。

…‥‥まぁ、そのついでにちょっとだけ、正しい知識を与えるのもありかもね。



 そう思い、私は人ごみの中、すすっと抜けるように通り過ぎ、その学者たちの前に立った。


「ねぇ、金貨何て私はいらないけどさ、これがどの様に使われていたのか知りたいの?」
「ああ、もちろんだとも!!だが、情報はあるのかね?さっきから全然役に立たない者ばかりで…‥‥」
「うん。でもちょっとお願いとして、少しこの路線の上から、人をどかしてくれないかな?」


 その問いかけに対して、学者たちはきょとんと疑問に思うような顔をしつつ、一旦線路の上からどいてくれた。

 民衆も学者たちと共に降り、この路線の上は今、誰もいなくなった。

「どいたが、何があるのだ?」
「うん、君たちが求めていた答えを、ここに見せようと思ってね」
「どういうことだ?」
「こういうことだ。‥‥‥『リモートコントロールモード』解除」

 そうぽつりと口の出した瞬間、瞬時に周囲に煙が吹きあがる。

 人々が驚愕する中、私は元の姿に戻った。


「な‥‥‥な、なんだこれは!?」

 学者の一人が、驚愕したように叫ぶ。

 それもそうだろう、先ほどまで人であった私が、それではないものへ、いや、元々それであった姿になったのだから。


 丁度発車できるように、余った蒸気を吹き出し、頭の煙突から煙をもくもくと噴出させる。

 買い物した分を客車・・に積載し、ピストンの具合を確認しつつ、私は車輪が線路についていることに確認した。

『何って‥‥‥【蒸気機関車】かな。いや、ちょっと改造されているし、この世界列車が別のものだったかのうせいもあるけど、そう言うしかないでしょう』
「口もないのに、声が!?」
『改造されているからねぇ。あはははは』

 笑いつつ、自身の中に十分な蒸気が貯まり、何時でも動けることを確認する。


…‥‥そう、私は『人』ではなく『蒸気機関車』。

 でも、正式に登録されているようなものではなく、とある世界の大富豪の道楽で、C6や2D51を元に設計され、創り出された大型の蒸気機関車。

 走れた範囲はその富豪の私有していた土地だけでも、大事にされ、丁寧に整備され、どんな時でも乗せた人々の顔を笑顔にしてきた。

 けれども、その富豪の死と共に、資産争いで血で血を洗う様な苛烈な戦いが発生し、その最中に資産家の私有地ごと爆破され、私は二度と走れなくなった。

 でも、人間が言う神のいたずらか、それともそうではない存在の仕業か、気が付けば私は修理されていた。

 蒸気機関車な外見はそのままで、中身が色々と改造されていたが…‥‥うん、まぁそれは別に良いだろう。

 客車も8両ほど編成されていたし、軽いので動くのも楽だ。

 しかも、大幅に性能の向上や、付いていた機能…‥‥異世界と呼ばれるような世界を走る能力や、人に紛れ込む機能を確認し、私は思い立った。

『そうだ、旅をしてみよう』と。

 大事にされていたけれども、あの私有地以外の場所は走ったことが無かった。

 それに、私は人々を乗せて走ったけれども、私自身が乗ったこともないし、人間にも興味があった。




 だからこそ、私はその付けたされた機能を利用し、今は様々な世界や国々を駆け抜け、旅をしている。

 流石に大きな外見でもあるし、目立つからこそ隠して人に慣れる機能を生かして生活に溶け込んでみたり、むしろ活かして救助に役立てたりと、様々な事をしてきた。

 なので、今回はこの世界の人々を驚かせるために、正体を見せて逃げてしまおう。

 衝撃で印象づくだろうし、この世界は特に面白くなかったので、さっさと別の世界へ向かいたいしね。


『さてと、発車準備完了。蒸気満タン、ボイラー内圧力上昇‥‥‥‥出発進行!!』


ボォォォォォ!!っと周囲に響き渡る汽笛を鳴らし、動輪を動かし始める。

 ピストンがゆっくりと前後に稼働し始め、大地を踏みしめ、線路を行く感覚を味わう。

「ま、待ってくれ!!色々と聞きたいことが!!」


 シュッシュッシュッと動き始め、しばらくして学者たちが衝撃から立ち直り、そう口にするが止まる気はない。

 何しろこちとら、人に会うのに苦労したうえに、面白みのない争う光景を見せられたからね。驚かすだけ驚かせてしまうのが良いだろう。

『待つわけもないし、もうここには来ないからねー!!それじゃ、サラバァァァ!!』

 何処ぞの世界で学んだお別れの挨拶の一つをかけつつ、私は駆け抜ける。

 次第に加速していき、ちょっともったいないけど線路から車輪が離れ始め、空を駆け抜け始める。


 生前というべきか、以前は線路だけしか進めなかったこの車体。

 けれども今は、異世界も走れるようにか陸空海全てを走破できるようになっており、線路に定められずに動くことができるのだ!!

 まぁ、線路の上を駆け抜けたほうが、蒸気機関車としては良いのだが…‥‥何者が直したのか、良く分からないけどできるのであればやった方が良い。

『それじゃ、次の世界へ向かおうか!!』

 人型であれば、キラキラした笑顔だっただろう。

 私はそう口にし、空に穴が空いたのを確認する。

 あの穴こそ、他の世界へ渡ることができるトンネルのようなものであり、ちょっと別世界を経由しつつ、未知の世界へつなぐ路線。

 一度訪れた場所にも戻れるが、それでもこうやって世界を渡り歩く、旅人のような生活が私の性に合っているのだ。

『さて、次の停車できる世界は、どんなところかな~♪』

 たった今、旅立った世界の面白さが無かった分、次に向かう場所の期待が非常に高い。

 一度訪れた場所なら楽に行けるが、未知の世界だと予測できないからね…‥‥3つほどの前の毒まみれな世界や、1つ前の火山だけの世界とかはちょっと怖かったからなぁ…‥‥



‥‥‥そう思いだしつつ、私は新たな世界へ向け、動輪を回転させ、世界を駆け抜ける。

 さぁ、次の停車駅異世界はどのような処なのか、非常に楽しみである。

 私は蒸気機関車でもあり、異世界の旅人。世界を渡り、その世界を知りたがる好奇心の塊でもあるかもしれない…‥‥
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