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第3章:青年期~いよいよここから始まる話
93話 油断したらスライムがぁ!!
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SIDEハクロ
―――ピチョン
「…つ、冷たっ…って、あれ?」
顔に何か水滴尿なものが落ち、その冷たさで思わず目を覚ましたハクロ。
水滴が落ちてきたということは何かの朝露などの滴る水滴かと思ったが、どうやら違うらしい。
いや、むしろ周囲の状況が把握しづらいと思えば、よく見ると何か不透明な物体が周囲を覆っているようにも見えるだろう。
ぬるぅっ
「ひっ!?」
どうしてこの中にいるのか、なぜこの状況なのか把握しきる前に、突然足元から嫌な感触を感じ取り、思わず悲鳴を上げるハクロ。
よく見れば、不透明な何かからじわりじわりと迫りつつあるものがあり、液体のように流動的に動きつつも、感触からゲル状のものに近いものだということを理解させられる。
そして、それはゆっくりと足元から覆い尽くすように動き続けていた。
「こ、これってまさか…スライム!?」
昔、スライムに襲われたことがある経験があるハクロだからこそ、その感触の正体をすぐに察し、ハクロは顔を青ざめさせる。
さんざん嬲られたトラウマに体が凍り付くも、察するほど素早く回転した頭によって、何故今自分がここにいるのか思い出した。
依頼でハルマニアという名の洞窟へ向かっていた最中、スライムが周辺に発生しているという情報は事前に確認していた。
たかがスライム、されども過去のトラウマを生み出すほどの凶悪な物体ということで、密かに糸を周辺に張って警戒を怠らないようにしていたはずだが…少しでも近づけばまだ対処しやすかったはずなのだが、それでもどこかこのメンツであれば大丈夫であろうと慢心していたとことがあったのかもしれない。
その隙をつかれてというか、不幸すぎる事故が起きてしまったのだ。
「ああ、そうでした。スライムの津波が起きて…」
大量に発生していることは聞いていたが、一体一体やってくるのであれば問題はなかった。
だが、その大量の軍団はいつしか個体ごとに分かれるのではなく集合してやれば強力になるとでも学んだのか、合体しまくっていたようで…ハクロ達が接近に気が付いた時には遅かった。
ゴゴゴゴっとすさまじい地鳴りと共に、木々を倒しまくて出現しまくった合体スライム。
その身の独特の流動性によって海m出された姿はまるで津波のようであり、あっという間に飲み込まれてしまったのである。
いかに警戒していたとしても、まさか自然災害のようにまで成長しているとは思わず、スライムの津波に飲み込まれた後は、見事に全員ばらばらに流されてしまったようだ。
そして今、おそらくいるのはその襲ってきたスライムの体内…津波を生みだせるほどの大きく成長してしまったやつの中にいることが推測できるだろう。
中身に囚われて、獲物が新鮮なままで保てるように生きながらえさせるために空気は確保している様子があり、気絶したままの新鮮な鮮度で喰らっていくつもりだったのだろうが…今、ハクロが目覚めてしまったことで、予定を変更している様子だ。
もしかすると、このまま飲み込んで溶解していく気ではと想像し、背筋が冷たくなった…次の瞬間だった。
チュボッ!!ブベッ!!
「へっ!?」
一瞬のうちに全身を吸われたかと思うと、すぐさま体外へ彼女は放り出された。
ぬるぬるなスライムの体液がクッションを果たして怪我はなくて済んだが、惨状としては悲惨なことになってしまった。
「ひぃいん!!滅茶苦茶ぬるぬるの生べったりした感じが気持ち悪いですよぉ!!ううっ、これだとお風呂に入らないとダメで…ん?」
悲鳴を上げ、慌てて自分の糸でタオルを作ってぬぐおうとしたところで、ふと彼女は気が付いた。
どうやら不味くて吐き出したというよりも、何かため込んでいるものがあり、その上に放り出されたような形である。
どこかの洞窟の中にまで移動していたようだが、その洞窟の一室に獲物を貯蔵しているのかと思いつつも、何やら獲物の中に妙なものを見つけたのだ。
「あれ?もしかして…」
恐る恐る近づいてみれば、同じようにスライムの体液塗れになった獲物たちの山があったのだが、その中に何やら妙なものがあった。
なんだろうと思い、糸で間接的に引き上げて見れば…
「きゅううううう…‥‥」
「人…違う、別の亜人系の何か?」
人間のようで肌の露出が高いパーティドレスのような衣服を着ているが、肌のあちこちに鱗が見えており、生粋の人間ではない様子。
スライムに一緒に攫われた被害者らしく、まだ息があるようだ。
あのスライムの津波発生前後に、襲われた人なのだろうかと思っていたところ、妙な音も聞こえてきた。
ベッタンベッタン
「んん?」
何やら嫌な音が聞こえて来て、その声の方向を見てみれば…先ほど吐き出してきたスライムとは別の個体らしいものが、そこにやってきた。
半透明だったものとは異なり、全身が赤黒く、直感で絶対に触れてはいけないものであるとハクロは感じる。
働きアリのように業務を分担して分裂しているのかと思いつつ、ならば目の前に現れた明らかな危険色のスライムは不味いのではないかと思い、後ずさって距離を取ろうとしたが…スライムの粘液が動きを阻害してきた。
ずるべったん!!
「あべしっ!!」
ぬるぬるしたスライムの体液はふき取り切れておらず、盛大に足を滑らせてひっくり返った。
ひっくり返ってしまうと、その下半身の蜘蛛の部分が起き上がるまでに隙ができてしまい、
相手はその隙を理解してしまったようだ。
「じゅ、じゅ、じゅばぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁあ!!」
動きに隙が出ていることが分かっているように、一気に体を大きく広げ、彼女を包み込もうとするスライム。
性的に襲われた時と違って、本気で喰らう気だということを察知してしまいつつも、すぐには動けず、ハクロが恐怖で悲鳴を上げた時だった。
「彼女に何をするんだ――――!!」
「え、エル!!」
スライムの後方から飛び掛かる人影と、その声を聴きハクロは叫ぶ。
「凍てつかせて全部固まってしまえ!!『グレイトフルブリザード』!!」
魔力を乱暴に、膨大な量を力任せに振るい、強烈な吹雪がスライムだけに襲い掛かる。
突然攻撃になすすべなく、スライムはあっという間に体を凍り付かせていき、完全に凍り付いたところでトドメとしての爆発する魔法を直撃させられ、あっけなく身を散らしていくのであった…
―――――
SIDEエル
…間一髪と言うか、見た目的にも危なそうなスライムを一掃したところで、ハクロに向き直るエル。
スライムに危うく捕食されかけていたようだが、どうにかノーダメージで済んだようだ。
「それにしても、危なかったねハクロ。無事でよかったよ」
「え、エルぅぅ、私何とか助かりましたよぉぉぉ!!」
泣き叫ぶ彼女を抱きしめ、その温かさを実感し、彼女が無事に生きていたことに安堵した。
あのスライム津波に襲われた時、全員ばらばらに捕まったのか盛大にはぐれてしまった。
だが、間一髪のところで素早く上空に飛んだり泳いだりして退避したミモザやジェリアのおかげで、全員の居場所を確認し、運んでいたスライムを襲撃して奪還し、再度集合することができていたのである。
しかしながら、それでもスライム全てを把握しきれず、ハクロだけが完璧に攫われてしまったが…幸いというべきか、彼女が周囲の警戒のために張っていた糸に残されていた粘液の方向に向かって歩み、この洞窟にたどり着いて内部を分かれて探していたのである。
奇襲さえなければどうにか対応できるので、あとはもう勘を頼りに突き進んでいたところがあったが…それでも、何とかたどり着いた。
そして、スライムに捕食されそうな瞬間だったために、自重を捨てて一気に魔法で殲滅したのである。
その場を離れ、皆で決めていた合図を送り、再度集合する。
あのスライム津波のスライムは獲物を捕獲した後、それぞれが運ぶために分裂していたようだが、全員出てきても即座に潰し、誰一人賭けることはなかったようだ。
「どうにか洞窟内のスライム潰しきったようだけど…まさか、あそこまでやばいのがいたとはなぁ」
「油断、禁物だった。スライム、気色悪かった」
「どうにか飛べて、良かったのさ」
「ところでなのじゃが、その身元不明人は何なのじゃ?」
全員が情報を交換する中、ふとタマモが連れてきた気絶したままの鱗の人を指さして問いかけてきた。
「ああ、その人か?えっと、ハクロ、わかるかな?」
「あ、その人スライムのところで拾いまして…」
かくかくしかじかとハクロが説明し、その内容に皆が納得した。
そこから導き出される情報としては、この女性も同じようにスライムに捕縛されていた可能性がある。
だが、人間ではないようだが、こんな特徴を持つ人は見たことがない。
鱗を持つならミモザも魚の部分があるが、それとはまた違う鱗に見えるだろう。
「手っ取り早いものとしては、鑑定魔法で確認できるけど…勝手に見ていいものなのかな」
「人によるとは思うよ~♪けれども、わからないなら見たほうが良いかもね♪」
「ひとまず、身元というか種族だけを調べておこうか。『鑑定』っと」
――――――
種族名:「龍人(?)」
状態:「中型スライム式コールドスリープ」
『龍人』
エルフやドワーフ、獣人などとは異なる、特殊な亜人の一種。どの種族と比べても非常に全体の能力が高くバランスが良いのだが、数は種族の中でも少なく、その力は争いに使うよりも他の争いごとを治めるために浸かっているため、仲介人の様な役目を持つ種族。
遠く身から見ながら見守るような種族でもあるため、別名「見守りの民」と呼ばれていたりするほど穏やかな性質を持つとされるが、家族愛を非常に大事にしており、恨みを買うと反転して一気に激情して、傷つけたものを確実にあの世へ逝く。
「鑑定ERROR一部あり」
鑑定魔法をもってしても、完全にそうとは言い切れない場合あり。原因としては鑑定が阻害される魔法が駆けられている可能性があるが、現状不明である。
「スライム式コールドスリープ」
獲物を気絶したまま捕らえるために、スライムが扱う保存方法の一種。
体温が高い相手だとスライムとしては捕食しづらくあるようで、あえて一気に体温を奪って冷やすことによって、どうにか捕食するまでに食べやすい状態にしてしまう方法である。
―――――――
「あれ?一部ERROR?」
見慣れないものが出てきたが…どうも、鑑定魔法を阻害する何かがあるようで、完全に鑑定しきれない結果となっているらしい。
まぁ、万能ってわけでもないのでエラーが起きても不思議ではないのだが、気になるところではあるだろう。
情報もわかったので、休息と手当てを兼ねるために魔法で小屋を建て、その中に全員入る。
なお、スライム津波襲撃後から時間は立ったが、普通の水とは違うスライムの体液なために乾燥までには時間がかかるようで、全員スライムの体液でねばねばしていたために、洗い流す目的もあってお風呂場も作成していた。
水は魔法で作って出せばよく、念のために龍人の女性も、ハクロたちに任せて洗ってもらう。
流石に男の自分がやるわけにもいかないだろうし、気を失ったまま体を洗われるだろうけれども、スライムの体液まみれなのを放置するのもどうかと思うからね。
きれいに洗ってもらうことで、より情報を得やすくなるかと思ったが…残念ながら、結果は変わることはなかったのだった。
そして本日はスライムで疲れたのも出会って、全員小屋内の夜食後それぞれに作った寝室へ入り、寝ようとしたところで、エルはハクロに袖を引かれた。
「あの、エル…今日は私と寝てくれないでしょうか。ちょっとその…」
なにやらちょっともじもじとして、彼女はそう尋ねてきた。
何なのかと思ったが…その態度を見て、なんとなく悟る。
…ああ、スライムのせいか。
タマモたちには異常が見られないがもしかするとあの倒した赤黒いスライムが原因かもしれない。
凍らせて木っ端みじんにしたが、その際にちょっとは破片が粉末化してまで飛びちっただろうし…もしかすると、媚薬作用に近いものも混ざっていて、至近距離で浴びたからこそ効果が今になって出た可能性があるだろう。
そう考えると、あの龍人の女性もちょっとかかってしまった可能性があるが、気絶しているだろうし問題ない。
とりあえず今は、求めてきたハクロに答えるのであった…
―――ピチョン
「…つ、冷たっ…って、あれ?」
顔に何か水滴尿なものが落ち、その冷たさで思わず目を覚ましたハクロ。
水滴が落ちてきたということは何かの朝露などの滴る水滴かと思ったが、どうやら違うらしい。
いや、むしろ周囲の状況が把握しづらいと思えば、よく見ると何か不透明な物体が周囲を覆っているようにも見えるだろう。
ぬるぅっ
「ひっ!?」
どうしてこの中にいるのか、なぜこの状況なのか把握しきる前に、突然足元から嫌な感触を感じ取り、思わず悲鳴を上げるハクロ。
よく見れば、不透明な何かからじわりじわりと迫りつつあるものがあり、液体のように流動的に動きつつも、感触からゲル状のものに近いものだということを理解させられる。
そして、それはゆっくりと足元から覆い尽くすように動き続けていた。
「こ、これってまさか…スライム!?」
昔、スライムに襲われたことがある経験があるハクロだからこそ、その感触の正体をすぐに察し、ハクロは顔を青ざめさせる。
さんざん嬲られたトラウマに体が凍り付くも、察するほど素早く回転した頭によって、何故今自分がここにいるのか思い出した。
依頼でハルマニアという名の洞窟へ向かっていた最中、スライムが周辺に発生しているという情報は事前に確認していた。
たかがスライム、されども過去のトラウマを生み出すほどの凶悪な物体ということで、密かに糸を周辺に張って警戒を怠らないようにしていたはずだが…少しでも近づけばまだ対処しやすかったはずなのだが、それでもどこかこのメンツであれば大丈夫であろうと慢心していたとことがあったのかもしれない。
その隙をつかれてというか、不幸すぎる事故が起きてしまったのだ。
「ああ、そうでした。スライムの津波が起きて…」
大量に発生していることは聞いていたが、一体一体やってくるのであれば問題はなかった。
だが、その大量の軍団はいつしか個体ごとに分かれるのではなく集合してやれば強力になるとでも学んだのか、合体しまくっていたようで…ハクロ達が接近に気が付いた時には遅かった。
ゴゴゴゴっとすさまじい地鳴りと共に、木々を倒しまくて出現しまくった合体スライム。
その身の独特の流動性によって海m出された姿はまるで津波のようであり、あっという間に飲み込まれてしまったのである。
いかに警戒していたとしても、まさか自然災害のようにまで成長しているとは思わず、スライムの津波に飲み込まれた後は、見事に全員ばらばらに流されてしまったようだ。
そして今、おそらくいるのはその襲ってきたスライムの体内…津波を生みだせるほどの大きく成長してしまったやつの中にいることが推測できるだろう。
中身に囚われて、獲物が新鮮なままで保てるように生きながらえさせるために空気は確保している様子があり、気絶したままの新鮮な鮮度で喰らっていくつもりだったのだろうが…今、ハクロが目覚めてしまったことで、予定を変更している様子だ。
もしかすると、このまま飲み込んで溶解していく気ではと想像し、背筋が冷たくなった…次の瞬間だった。
チュボッ!!ブベッ!!
「へっ!?」
一瞬のうちに全身を吸われたかと思うと、すぐさま体外へ彼女は放り出された。
ぬるぬるなスライムの体液がクッションを果たして怪我はなくて済んだが、惨状としては悲惨なことになってしまった。
「ひぃいん!!滅茶苦茶ぬるぬるの生べったりした感じが気持ち悪いですよぉ!!ううっ、これだとお風呂に入らないとダメで…ん?」
悲鳴を上げ、慌てて自分の糸でタオルを作ってぬぐおうとしたところで、ふと彼女は気が付いた。
どうやら不味くて吐き出したというよりも、何かため込んでいるものがあり、その上に放り出されたような形である。
どこかの洞窟の中にまで移動していたようだが、その洞窟の一室に獲物を貯蔵しているのかと思いつつも、何やら獲物の中に妙なものを見つけたのだ。
「あれ?もしかして…」
恐る恐る近づいてみれば、同じようにスライムの体液塗れになった獲物たちの山があったのだが、その中に何やら妙なものがあった。
なんだろうと思い、糸で間接的に引き上げて見れば…
「きゅううううう…‥‥」
「人…違う、別の亜人系の何か?」
人間のようで肌の露出が高いパーティドレスのような衣服を着ているが、肌のあちこちに鱗が見えており、生粋の人間ではない様子。
スライムに一緒に攫われた被害者らしく、まだ息があるようだ。
あのスライムの津波発生前後に、襲われた人なのだろうかと思っていたところ、妙な音も聞こえてきた。
ベッタンベッタン
「んん?」
何やら嫌な音が聞こえて来て、その声の方向を見てみれば…先ほど吐き出してきたスライムとは別の個体らしいものが、そこにやってきた。
半透明だったものとは異なり、全身が赤黒く、直感で絶対に触れてはいけないものであるとハクロは感じる。
働きアリのように業務を分担して分裂しているのかと思いつつ、ならば目の前に現れた明らかな危険色のスライムは不味いのではないかと思い、後ずさって距離を取ろうとしたが…スライムの粘液が動きを阻害してきた。
ずるべったん!!
「あべしっ!!」
ぬるぬるしたスライムの体液はふき取り切れておらず、盛大に足を滑らせてひっくり返った。
ひっくり返ってしまうと、その下半身の蜘蛛の部分が起き上がるまでに隙ができてしまい、
相手はその隙を理解してしまったようだ。
「じゅ、じゅ、じゅばぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁあ!!」
動きに隙が出ていることが分かっているように、一気に体を大きく広げ、彼女を包み込もうとするスライム。
性的に襲われた時と違って、本気で喰らう気だということを察知してしまいつつも、すぐには動けず、ハクロが恐怖で悲鳴を上げた時だった。
「彼女に何をするんだ――――!!」
「え、エル!!」
スライムの後方から飛び掛かる人影と、その声を聴きハクロは叫ぶ。
「凍てつかせて全部固まってしまえ!!『グレイトフルブリザード』!!」
魔力を乱暴に、膨大な量を力任せに振るい、強烈な吹雪がスライムだけに襲い掛かる。
突然攻撃になすすべなく、スライムはあっという間に体を凍り付かせていき、完全に凍り付いたところでトドメとしての爆発する魔法を直撃させられ、あっけなく身を散らしていくのであった…
―――――
SIDEエル
…間一髪と言うか、見た目的にも危なそうなスライムを一掃したところで、ハクロに向き直るエル。
スライムに危うく捕食されかけていたようだが、どうにかノーダメージで済んだようだ。
「それにしても、危なかったねハクロ。無事でよかったよ」
「え、エルぅぅ、私何とか助かりましたよぉぉぉ!!」
泣き叫ぶ彼女を抱きしめ、その温かさを実感し、彼女が無事に生きていたことに安堵した。
あのスライム津波に襲われた時、全員ばらばらに捕まったのか盛大にはぐれてしまった。
だが、間一髪のところで素早く上空に飛んだり泳いだりして退避したミモザやジェリアのおかげで、全員の居場所を確認し、運んでいたスライムを襲撃して奪還し、再度集合することができていたのである。
しかしながら、それでもスライム全てを把握しきれず、ハクロだけが完璧に攫われてしまったが…幸いというべきか、彼女が周囲の警戒のために張っていた糸に残されていた粘液の方向に向かって歩み、この洞窟にたどり着いて内部を分かれて探していたのである。
奇襲さえなければどうにか対応できるので、あとはもう勘を頼りに突き進んでいたところがあったが…それでも、何とかたどり着いた。
そして、スライムに捕食されそうな瞬間だったために、自重を捨てて一気に魔法で殲滅したのである。
その場を離れ、皆で決めていた合図を送り、再度集合する。
あのスライム津波のスライムは獲物を捕獲した後、それぞれが運ぶために分裂していたようだが、全員出てきても即座に潰し、誰一人賭けることはなかったようだ。
「どうにか洞窟内のスライム潰しきったようだけど…まさか、あそこまでやばいのがいたとはなぁ」
「油断、禁物だった。スライム、気色悪かった」
「どうにか飛べて、良かったのさ」
「ところでなのじゃが、その身元不明人は何なのじゃ?」
全員が情報を交換する中、ふとタマモが連れてきた気絶したままの鱗の人を指さして問いかけてきた。
「ああ、その人か?えっと、ハクロ、わかるかな?」
「あ、その人スライムのところで拾いまして…」
かくかくしかじかとハクロが説明し、その内容に皆が納得した。
そこから導き出される情報としては、この女性も同じようにスライムに捕縛されていた可能性がある。
だが、人間ではないようだが、こんな特徴を持つ人は見たことがない。
鱗を持つならミモザも魚の部分があるが、それとはまた違う鱗に見えるだろう。
「手っ取り早いものとしては、鑑定魔法で確認できるけど…勝手に見ていいものなのかな」
「人によるとは思うよ~♪けれども、わからないなら見たほうが良いかもね♪」
「ひとまず、身元というか種族だけを調べておこうか。『鑑定』っと」
――――――
種族名:「龍人(?)」
状態:「中型スライム式コールドスリープ」
『龍人』
エルフやドワーフ、獣人などとは異なる、特殊な亜人の一種。どの種族と比べても非常に全体の能力が高くバランスが良いのだが、数は種族の中でも少なく、その力は争いに使うよりも他の争いごとを治めるために浸かっているため、仲介人の様な役目を持つ種族。
遠く身から見ながら見守るような種族でもあるため、別名「見守りの民」と呼ばれていたりするほど穏やかな性質を持つとされるが、家族愛を非常に大事にしており、恨みを買うと反転して一気に激情して、傷つけたものを確実にあの世へ逝く。
「鑑定ERROR一部あり」
鑑定魔法をもってしても、完全にそうとは言い切れない場合あり。原因としては鑑定が阻害される魔法が駆けられている可能性があるが、現状不明である。
「スライム式コールドスリープ」
獲物を気絶したまま捕らえるために、スライムが扱う保存方法の一種。
体温が高い相手だとスライムとしては捕食しづらくあるようで、あえて一気に体温を奪って冷やすことによって、どうにか捕食するまでに食べやすい状態にしてしまう方法である。
―――――――
「あれ?一部ERROR?」
見慣れないものが出てきたが…どうも、鑑定魔法を阻害する何かがあるようで、完全に鑑定しきれない結果となっているらしい。
まぁ、万能ってわけでもないのでエラーが起きても不思議ではないのだが、気になるところではあるだろう。
情報もわかったので、休息と手当てを兼ねるために魔法で小屋を建て、その中に全員入る。
なお、スライム津波襲撃後から時間は立ったが、普通の水とは違うスライムの体液なために乾燥までには時間がかかるようで、全員スライムの体液でねばねばしていたために、洗い流す目的もあってお風呂場も作成していた。
水は魔法で作って出せばよく、念のために龍人の女性も、ハクロたちに任せて洗ってもらう。
流石に男の自分がやるわけにもいかないだろうし、気を失ったまま体を洗われるだろうけれども、スライムの体液まみれなのを放置するのもどうかと思うからね。
きれいに洗ってもらうことで、より情報を得やすくなるかと思ったが…残念ながら、結果は変わることはなかったのだった。
そして本日はスライムで疲れたのも出会って、全員小屋内の夜食後それぞれに作った寝室へ入り、寝ようとしたところで、エルはハクロに袖を引かれた。
「あの、エル…今日は私と寝てくれないでしょうか。ちょっとその…」
なにやらちょっともじもじとして、彼女はそう尋ねてきた。
何なのかと思ったが…その態度を見て、なんとなく悟る。
…ああ、スライムのせいか。
タマモたちには異常が見られないがもしかするとあの倒した赤黒いスライムが原因かもしれない。
凍らせて木っ端みじんにしたが、その際にちょっとは破片が粉末化してまで飛びちっただろうし…もしかすると、媚薬作用に近いものも混ざっていて、至近距離で浴びたからこそ効果が今になって出た可能性があるだろう。
そう考えると、あの龍人の女性もちょっとかかってしまった可能性があるが、気絶しているだろうし問題ない。
とりあえず今は、求めてきたハクロに答えるのであった…
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