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第2章:少年期後編~青年期へ

64話 連行はどこにでもあるらしい

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SIDEハクロ

「…んにゅ、ふわぁ…そういえば、ここ、エルの部屋でした」

 朝、ハクロが目を覚ますと、そこはエルの部屋であった。
 昨夜、久しぶりにエルと熱い一夜を過ごしつつ、朝方になってようやく収まり、ハンモックを吊るして寝たのだ。
 睡眠時間はかなり短いが、この程度でも十分であり体力は回復している。
 ふと、ちょっと肌寒いなと思って自分の姿を確認すると、全裸のままだったのでさっさと着替えをその場で作成して着用した。

 ついでに、まだベッドでぐっすり寝ているエルの着替えも一緒に用意して、ここでの用事は策っと済んだということで、彼女は誰にも気が付かれないようにこっそりと部屋を出る。
 きちんと帰るという旨の置手紙をしているので心配されることもないだろうし、朝早くから発見されかねないリスクもあり得はしたので、彼の寮での生活の安寧を守るためなら多少の工作を早くからやることは必要でもあった。

 正直なところ、そのまままたベッドにもぐりこんで、エルが起床するまでその寝顔を楽しみたくもあったのだが…流石に真夜中と比べて日が上がり始めると人々が起きて活動を始めるため、早く戻らないと人目につきやすくなってしまう問題があるのだ。

 そのために早起きをしたのもあって、誰にも目撃されないままそそくさと帰宅し、何事門かったかのように装うつもりだったが…残念ながら、その企みだけはうまくいくことがなかった。


「ふぅ、家に着きましたし、後はこっそりと部屋に戻れば何事もなく…」

「何事もなく、熟睡していただけじゃとごまかせるかのぅ?」
「朝帰り、目撃されないと思わなかったの?」
「そもそも真夜中、ミーたち気が付かないと思ったかな~♪?」

「ええ、そのはずで…へ?」

 こっそり抜き足差し足で進みつつ、ぼそっとつぶやいた独り言の回答が聞こえた。
 ギクッと体が硬直し、恐る恐るとその声の方を振り向いてみれば…そこには、タマモ、カトレア、ミモザの面々がにっこりと笑って立っていた。
 ただし、その眼の中は笑っていなかったが。

「ええーっと、その…みんな、朝早いね!私、軽くジョギングしてきただけだよ!!」
「ほうほう、で具体的にはどこをどう走ってきたのじゃ?朝早くというが、昨晩からいなかったようなのじゃがなぁ?」
「真夜中、部屋を見たら空っぽだったよ~♪」
「それに、ハクロ、ジョギングの習慣はない。朝寝坊助になりがちなの、皆わかっている」

 ごまかそうとして口を開くも、すぐに返答されてしまう。
 これは確実にバレているような、いや、それでもまだギリギリ夜に不審者たちを捕まえに向かった程度と受け取ってもらえれば何とかなるのではないかと淡い期待を抱くのだが、そんな期待は見音に裏切られる。

「あのなぁ、ハクロ。わっち、獣人じゃぞ。匂いに敏感なのじゃが…どうしてお主にものすごーーーーーーく、滅茶苦茶濃いエルの匂いがしておるのかのぅ?」
「うぐっ」

 モンスターの鼻も敏感といえばそうだが、獣人の鼻も負けず劣らずに嗅覚が鋭い。
 出る前にある程度身なりを整えて消臭もやっていたつもりだったのだが、どうやらごまかすことはできなかったようである。

 これから訪れるであろう自身の未来を予知し、冷や汗を滝のように流しつつ一歩、また一歩と後ずさりをして逃げようとするハクロ。
 しかし、タマモたちはすぐに周囲を取り囲んでしまい、逃走経路を奪われてしまう。

 タマモは尻尾を広げながら妖術で生み出した火を周囲に広げ、カトレアは木の根を生やし地面からトゲトゲの蔓で包囲網を生み出し、ミモザはハクロ限定での身体能力を低下させる効果のある歌を歌い始めて体の力を落とさせる。

「えっと、その、皆さん、落ち着いて話を、せめて、辞世の句だけは…」
「何一人で抜け駆けしているんじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「皆、一緒、もしくは順番、そこ徹底!!」
「せめて誘ってくれればなかったけどね~~~~~~~~~♪!!」

「ひ、ぴっぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

…自業自得とは、このことか。
 懲りずにやらかした抜け駆けのような真似に対して、エルが大好きな彼女たちの怒りの炎が見事に焼き尽くしまくる、

 その日、一匹の哀れなる雌蜘蛛の悲鳴が上がったのだが…その様子を実は物陰に気配を極限まで消して潜んでいたファンクラブが見ていたりしたのだが、流石に誰も助けに迎えるような雰囲気ではなかったがゆえに、あきらめられてしまうのであった……

――――――――――――――
SIDEエル

「んー…寝不足だけど、自業自得かなぁ」

 ハクロとの一夜を過ごした後、今日は普通に授業があったので、エルは学校に出席していた。
 なんとなく、何処かで聞き覚えがあり過ぎる者の悲鳴が聞こえたような気もするが…気にしたら飛び火しそうな気がするので、気にしないでおく。

 そう思いつつも、昼となり、食堂でもくもくと本日の昼食をゆっくりと食べていたその時であった、


「おい、聞いたか?どうやらもう戦争が終結したようだぞ」
「ああ、どうやらクラスタ皇国内で反乱が起きて、自滅したってやつだろう?」
「こっちの勝利と言いたかったが…自滅だと、何とも言えないなぁ」

 何やら気になる噂話が聞こえてきたので、エルは耳を傾けてその内容を確認する。

 この王国に戦争を吹っ掛けていて、もう間もなく敗戦するだろうと予想されていたクラスタ皇国。
 勝利は目前だと思われていたのだが…どうやら皇国そのものが自滅して滅びたので終戦を迎えたらしい。
 原因は何なのかまだ噂話程度でしか出ていないようだが、聞くところによれば敗戦して逃げ帰ってきた兵士たちがお先が真っ暗なことに嘆きまくり、悲観的だった空気がいつしかこんな敗戦濃厚な状態にした国に対しての不満爆発へと切り替わったようで、皇国内部で蹂躙したり略奪行為の上に逃亡など、一国の軍としては考えられないほどの悲惨な状態となり、各地で同じことが勃発したらしい。

 そこからさらに、常日頃から皇国に不満を持っていた人たちが立ち上がり、各地で暴れていた人たちと手を組んであちこちで滅茶苦茶に反乱を起こしたそうなのだ。
 皇国内の偉い人たちが抑えようとしたが、そんな状況下になるともう人望がなく、裏切られまくり、最終的には現政権がぶちのめされて、新たに樹立した仮の政権が攻めてきた王国軍に対して全面降伏を申し出たそうである。


 国を打ち倒しても戦争を継続する気かと思われたところもあったが、流石に反乱を起こした人たちの中には馬鹿でもない人もいたらしい。
 反乱を起こして倒したのは良いが、この蹂躙劇と戦争で国内外がガタガタになっていることを理解しており、そこで攻めてきてくれた国に服従し、何とかその国の指導の下で人々がまともに暮らせる状態にするために降伏をしたのだとか。

 無益な血が流れることを望まず、王国側としてもある程度収拾がつけやすくなるのならばということで受け入れ、戦争が終結し、今後はその戦後処理に当たることになったようだ。

 だが、ここで少々不穏な噂も聞こえてきた。


「そう言えばさ、結局反乱が起きたけれども、全員首が飛んだわけでもなくて、皇国の権力者たちの何人かは行方不明らしいぜ」
「さっさと逃げてしまったという事なのか?」
「そりゃそうだろうなぁ、腐っているなら先に逃亡してもおかしくはないか」

 今回の戦争を決定した皇国の責任者たちだが、その幾人かが行方不明となり、未だに処罰できていないらしい。
 手配書も出回って賞金も賭けられており、見つかり次第国へ引き渡すことになるのだが、それでもなかなか見つからないようだ。

 既に変えるべき国も失い、持っていた権力も意味をなくしたというのに、どうする気なのか。
 力がないなら放置してくたばるのを待ってもよさそうではあるが…そういう輩に限って、ものすごく面倒ごとを起こす可能性が非常に高いだろう。

「まぁ、関わらなければ良いんだけどな…流石に皇国との距離を考えると、昨日の今日で王国内に侵入しているとかもないだろうし、道中でモンスターの餌になっていてもおかしくはないか」

 敗戦したのが分かっているなら、いっそおとなしく逃亡生活を続けてしまえと思うところもある。
 けれども、どことなく厄介事の予感もしており、後でハクロ達のところへ行って話してみようかなと思うのであった…





「…それで話すために来たんだけど、ハクロの姿は?」
「ぬ?あ奴なら今、ちょっと缶詰じゃよ。試しに作っているある布のほうで収める約束をしていた商会があったようでな、期限が3日後ぐらいに迫っていたようで、全力でこなしている最中じゃ」
「あれ?そんな話、聞いていないんだけどな」
「大丈夫じゃ大丈夫じゃ。繊維が取れる木の実の皮をむいて擦り上げて、振るわせたり練り上げたりするだけじゃからな。自身の蜘蛛糸以外の布地の開発も兼ねてやっている慈善事業なんじゃよ」

…ふーん。まぁ、それはそれでいいかもね。新しいものを探索してかつ人の役に立つことをするのならば、問題もないかな?


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