上 下
65 / 106
第2章:少年期後編~青年期へ

60話 愚か者は、戦に紛れて出てくるらしい

しおりを挟む
SIDEエル

キーンコーンカーンコーン♪
『校内の受講者はすぐにその場で用紙を裏返しにしておいてください。本日のテスト時間はこれで終了となりました』

 チャイムとともに校内放送が鳴らされ、ぱたぱたと答案用紙を裏返す音もしつつ、テストを受けていた生徒たちはぐぐっと背伸びをして、机に向き合って凝り固まった身体をほぐしていた。
 冒険者としての活動や将来のスローライフのための経験稼ぎのためにも、しっかりと知識も蓄えようということで真面目にエルは勉強しており、余裕をもって手ごたえのある結果になっただろうと思うことができていた。

 それでも、油断は禁物だろう。完璧だと思っていたら、実は間違っていたなどということも普通に存在しており、不安をなくすことはできない。
 どれだけ確認しようとも機械ではないので、どこかで間違えていたり見落としていたりする可能性は十分にあるのだ。

 そこで、今やったテストの内容である程度の部分までならば覚えているので、後でハクロ達と一緒に確認して解きなおし、その部分の正誤性を確かめようと思いつく。
 まぁ、やる前にテスト終了と同時に昼の時間になったので、学内にある食堂へ向かい、ゆっくりと昼食を味わっていた…その時だった。


「ぐげぇ、テストきつかったぁ…戦争に出ているよりもきついだろ」
「いや、比べるなよ…そういえばそれで思い出したが、クラスタ皇国との争いだが、そろそろ終わるらしいと聞いたぜ」
「ああ、クラスタ皇国との戦争だったけか。グダグダしている印象しかなかったが、ようやくか」

 色々ときつかったなどの話が聞こえてくる中、ふと気になった話が出てきたのでこっそり耳をすませ、その中身を聞いた。

 現在、このゴルスリア王国とクラスタ皇国は戦争中なのだが、グダグダしていたところからようやく戦況が動き、王国側の勝利のほうで終戦に迫ってきているらしい。
 向こう側が元々仕掛けてきた戦争だったが、初期対応が功を奏していたせいか、王国側が素早く対応したことで、相手が動くよりもより素早く突撃できたのだろう。グダグダ要素も多かったと聞くが、それでも士気などを考えるとこちらのほうが上なのもあるだろう。
 どういう具合で終わりそうなのかもちょっと気になったので、こっそり内容を確認しておくのであった。



「…それで、もうあちこち陥落して、余計な血も流れることもなく、もう間もなく終戦だってさ」

 放課後、ハクロ達のいる家に向かい、本日のテストの覚えている部分の確認をしている中、その話題も出した。
 もともとタマモの一族もいた国だったが…誰もかれも気にすることはないようで、どういう戦況になっているのか気になる程度にしか受け取っていないらしい。

「へぇ、結構早かったですね」
「お互い争い、微妙。でも、王国勝利はある程度予想できたかも」
「海賊たちが海上で争っていた時は3時間ほどで終わっていたのを見たことがあるから、長い方だと思うけどな~♪」
「国単位の争いだから、時間はそりゃかなりかかるよ…あれ?ミモザ、海賊を見たことがあるのか?」
「あるよ~♪沖合のほう泳いだ時に、強風にあおられてお互いに激突しちゃったようで、そこから争いに発展して、最後にドカァァァン!っとどっちも爆発して皆沈んだけどね~♪」

 最後に爆発オチの海賊の争いってどうなのだろうか。それはそれで詳細な内容がちょっと気になる…ハクロの野生時代の暮らしも聞いていたら面白いのはあるが、ミモザの方も気になるな。
 片や陸、片や海とそれぞれ違うし、今度二人からゆっくり聞いてみよう。

「それにしても、最終予想結果では皇国の敗戦が濃厚かのぅ。まぁ、大体予想できたことじゃがな」

 気になる話題は後で聞こうかなと思っている中、タマモがそうつぶやいた。

「タマモ的には良いのか?もともと一族といた国だろ?」
「何度も言っているような気がするが、どうでもいいからのぅ。外面だけ整えていても中身がでろでろに腐っていたところもあるし、皆見限っておるからのぅ。一族のものと連絡を取ってみたが、誰も救いに行く気もないし、滅びたらそれはそれでという判断のようじゃ。それに、今のわっちの居所はエルのところじゃ。愚か者だけしかおらん国は、滅びても気にせぬ」

 質問に対して、タマモはそう笑いながら言った。
 何の思い入れもないし、情も沸くことはない。色々と面倒なことがあったようで、今更どうなっても気にするような国ではないようだ。

「ただまぁ、全部が腐っていたというわけでもないからのぅ。少ないかもしれぬが、罪もなき国民が害される可能性を考えると気分は良くないのぅ。上層部が腐っていたがゆえにとばっちりを受けるのは気の毒じゃ」
「戦争となると、略奪とかも可能性があるからなぁ」

 敗北すれば失う物も多いし、末端部分で監視や規律が行き届いていない場合、悲惨なことが起きる可能性も否定できないだろう。
 だが、俺たちで何かできるわけでもないし、そもそもする義理すらない。
 放置するしかないけれども…無駄な犠牲がなく、無事に戦争が終わってほしいとエルは思うのであった。


 スローライフを目指す中に、戦争とかはいらないからね。いっそのこと、国民を巻き込まずに戦争を決定するような互いの国代表同士が殴り合ったほうがいいのではなかろうか。

「それが一番手っ取り早いか?」
「…エル、世の中そう簡単に進まぬのじゃ。一人が決めるだけではなく、そのほか大勢も何かしらの理由があって、争いが出るわけじゃからな。上層部同士の殴り合いで終わればいいのじゃがなぁ」

 呆れたような目で見られた。それが一番よさそうでも、その争いの中で様々な人が絡み合うからこそ、そう簡単に終わらせることができないのは難しい話であるのは分かっているんだけどね…

―――――――――
SIDEとある貴族家

「くそぉぉぉぉぉぉ!!なぜ密偵たちがすべて戻ってこないのだぁぁぁぁぁ!!」

 とある貴族家の屋敷にて、その屋敷の持ち主である貴族含め、仲間の貴族たちが集まっている中、屋敷の主でもある貴族がそう叫ぶと、集まっていた者たちも思いも思いに叫びだした。

「せっかくこちらの隠し玉でもある者たちまで使用したにもかかわらず、全員が向かったその日のうちに行方不明になってしまったぞ!!」
「こちらとしては、ある者たちを調べようとしただけなのに、ここまでいなくなると情報収集がほぼできなくなるではないか!!」
「なんでこうなったんだぁぁぁぁ!!」

 思い思いに皆が心からの叫びをあげるも、叫ぶだけでは何も解決することもない。
 彼らはとある話題を聞き、お互いに似たようなことを思いながら情報収集及び可能であれば狙いのものを生け捕りにすることができるだけの実力があるはずの配下の者たちを向かわせていたのだが…どういうわけか、全員向かうまでの連絡はありつつも、それ以降の音信が完全に途絶えてしまい、誰一人として、彼らの元へ帰ってこなかったのだ。

 単純にどこかで行方不明になっているだけならば、裏社会の波にもまれて消されたという話で終わらせられるのだが…中にはなぜか、衛兵の詰め所や国の牢獄で捕らわれてしまったという話も出てきており、そこから芋づる式に今までやってきた所業がばれそうになっているという、最悪の事態にまで動いてしまった者たちもいるのだ。

 出せば出す分、自分たちの立場が危うくなるのであれば、ここでおとなしくあきらめてくれればよかっただろう。
 しかし、そこで引き下がる英断を下せるものは、この場にはいなかった。


「こうなれば!!」
「「「こうなれば!!」」」
「より信頼ができて、より仕事をやってくれる奴を雇うしかないのだぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「資金はまだあぁぁぁぁるぅぅぅぅぅぅぅ!!」」」

 一致団結し、自分たちのたくわえをぶちまけながら、無駄なプライドのために叫ぶ(馬鹿)貴族たち。
 悔しさもあり、自分たちの情報源を潰された怒りもあるので、何としてでもこの状況を少しでも好転させようと、やれることを突き詰めようとしているようだが、既に沼地にはまっていることに気が付いていないのだろうか?

 いや、気が付くことはないだろう。彼らは目の前の事だけに囚われすぎて、足元が見えなくなっているのだから。
 配下たちが帰還しないことに危険性を考えず、より上質な奴を仕向ければいいとろくに考えず、愚かな行為を辞めない馬鹿たちにつける薬は、どこにも存在しないようであった…

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

第1王子だった私は、弟に殺され、アンデットになってしまった

竹桜
ファンタジー
第1王子だった主人公は、王になりたい弟に後ろから刺され、死んでしまった。 だが、主人公は、アンデットになってしまったのだ。 主人公は、生きるために、ダンジョンを出ることを決心し、ダンジョンをクリアするために、下に向かって降りはじめた。 そして、ダンジョンをクリアした主人公は、突然意識を失った。 次に気がつくと、伝説の魔物、シャドーナイトになっていたのだ。 これは、アンデットになってしまった主人公が、人間では無い者達と幸せになる物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

金時るるの
恋愛
目覚めたら猫娘になっていました。 異世界で行き倒れになりかけたユキを助けてくれたのは、食堂『銀のうさぎ亭』の人々。 おまけに目覚めたら猫耳としっぽの生えた亜人になっていた。 途方に暮れるユキだったが、食堂でのウェイトレスの仕事を与えられ、なんとか異世界での生活の糧を得ることに成功する。 けれど、そんな人々を片っ端から援助しているマスターのせいで、食堂の経営は芳しくない様子。 ここは助けてくれた恩になんとか報いなければ。 と、時には現代日本で得た知識を活用しつつもユキが奔走したりする話。 (前半はほぼ日常パートメインとなっております)

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...