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第2章:少年期後編~青年期へ
53話 人魚なるもの
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SIDEエル
「親方、空から女の子が!!」
そんなどこにでもあるようなありふれた王道のセリフも我慢しつつ、空から落ちてきたクリスタルマーメイドを保護したエルたち。
とはいえ、鑑定結果からも見られるように貴重なモンスターの類なうえに、そもそも海にいるようなものがこんな海とは縁のない場所に来たのも怪しい話になりかねない。
なのでここは、頼る先としては色々となんでもござれというような村の教会へ向かい、神父様に事情を話し、教会の奥の方の一室を借りて彼女を寝かせることにした。
ただし、普通に寝かせるわけにはいかず、治療時に乾燥していたようなので水をかけてみたところ、何やらヌメヌメした体液が出てきてしまったので、まともなベッドに寝かせるとアウトである。
そこで、カトレアが木の根で素早く作り上げた木の枠に、魔法で水を注いで仮のいけすを作成し、そこに入れることにしたのだ。
水中にいるとぬめりけもなくなっているようで、そういう体を保護する仕掛けを持った魚に近いのかもしれない。
「寝かせて沈めて…絵面としては人魚として正しいのかもしれないけど、大丈夫なのだろうか、これ?」
見た目的にはボコボコと泡を出して溺れているようにしか見えず、ちょっと溺れているようにも見えなくもない光景だが、脇腹部分にきちんとえらがあるようで、そこから呼吸はできているらしい。
ついでにその場での即席の治療も行っていたが、もうちょっと専門的な知識を持つ神父様のアドバイスも受けてより的確な治療を施していたりする。
「それにしても、クリスタルマーメイドか…どこからさらわれてきたのかはわからないが、多少怪我をしていたとはいえ、よく無事にここにまでたどり着いたな」
「ええ、大きな怪鳥に攫われていたようですが、無事に抵抗して落ちてきたんです。いや、この言い方はおかしいかな?」
「おかしいような気もしなくもないですが、今は命があることを喜んだほうが良いと思いますよ。でも…そもそも彼女、どこから来たのでしょうか?」
マーメイド自体、生息地として近隣にいるわけもないし、海も確かここから結構離れた地にあるはずだ。
近い海だとしても生息情報を聞いたことがないし、そうなるともっと別の場所からあの怪鳥が長距離を移動してきたということになるのだが‥ちょっとわからないなぁ。
とりあえず、ああだこうだといっても解決しないとので、まずはマーメイドである彼女が目覚めて説明してもらったほうが良いと思い、いったん後始末を行っておく。
家のほうに収穫した木の実をもっていって、起きた出来事を説明し、昼食はもう少し後でということにして、俺たちのメンツの中ではより落ち着いて話しやすいタマモを連れて戻ってきた。
それから十数分ほど経過したところで、マーメイドが目を覚ました。
「ごぼっ…ぷぺ‥ごぼべばぁ……ごぼぅ!?」
目を覚まし、周囲の状況を把握できたのか、水の中で驚きのあぶくをあげた。
溺れているようにも見えるがえら呼吸で補っているので問題もなさそうだし、彼女が落ち着くまでちょっと待つことにした。
落ち着いたころ合いを見計らって、自分たちに敵意がないことやここまでの事情説明をな伝え終え、無事に理解を得てくれたようで、どこか安心したような表情になった。
「ほへぇ~、なるほど、ミーは助かったのですね~♪」
どこかのんびりとした口調でありながら、ちょっと口ずさむようなしゃべり方。
マーメイドとしての特性ゆえか、歌を歌うのが好きらしく、ちょっとした会話でも歌っているように聞こえるような声になっているようだ。
そして、事情を聴いてみると、彼女ははっきりと、ここまでどういう経緯で来たのかという記憶を持っていたようだった。
…彼女はもともと、どこか遠い海に隣接した漁村近くの洞窟に身を寄せており、自身の住みかの近くにある砂浜で、毎晩の日課として歌を披露していたらしい。
明るい太陽の下でもできなくもないが、気分的に昼間よりも夜間のほうが歌いやすくあったようで、適度に削ってこしらえた岩に腰を下ろし、月明りの下で気持ちよく歌い続けている日々を送っていたのである。
マーメイド自体が友好的な種族でもあり、歌もうまかったので漁村の人たちからもモンスターとしての危険視をされることもなく、むしろ彼女の歌を目当てにひっそりと耳を傾けて聞く人もおり、平和に過ごしていたようだ。
だがしかし、そんな中で突然、彼女はある者たちの襲撃を受けてしまった。
それは、「マーメイドの肉は不老不死の妙薬」という迷信を信じている者たちが仕向けたらしい冒険者…いや、この場合は友好的な種族に対して襲撃を仕掛けていく密猟者とでも言うべきものたちが、奇襲をかけてきたそうだ。
いつもの日課として歌っているところは特定されており、狙うのはたやすかったのだろう。
居場所は簡単に突き止められており、歌い上げている中、襲われたのだ。
だがしかし、見た目こそは月夜の歌い姫の人魚といえども、これでもれっきとした人街の領域にあるモンスター。
ハクロ物凄く良い例だとは思うが、簡単に倒されるようなモンスターではなく、襲撃を察した瞬間に種類の違う歌を素早く作曲して歌い上げ、歌の効果によって密漁者たちを眠らせ、何とか事なきを得たのである。
眠らせたからと言って油断せずに、しっかりと漂着物を利用した拘束具を作っていたようで、自身にどのような悪事を仕掛けようとしてきたのか、たまに流れ着く本とかで言語を勉強していたのでしっかりと詳細を絞り上げたうえに適当に拾った看板にその内容を全部書き連ねて、裸逆さ磔で砂浜に立ててやったらしい。
放置しておけば近くの漁村の人たちがすぐに発見し、運んでいくだろうと思ってのことのようだ。
どうやら時たま、海賊が襲撃を仕掛けてくることもあるそうで、何かと荒事に慣れていたからこそ自然とできたことらしい。
とはいえ、気持ちよく歌っていったところに水を差されたようなものなので気分を害し、本日の歌はやめようかと思って、砂浜から自分の住処へ移動しようとしたところで…怪鳥のほうの襲撃を受けてしまった。
「目を覚ませば巨大な鳥につかまって、輸送されていたんだよ~♪捕まった瞬間にものすごくつかまれたようで、音もない襲撃で油断しちゃった~♪」
「あー、音もない襲撃ですか…私なら周囲に糸を張って警戒できますが、それでも厳しいですね」
「…確かにその方法なら大丈夫かもしれないけど、なんだろう。ハクロだとそれでも攫われるような光景がちょっと浮かんでしまったかも」
自信満々に用意しておきながら、うっかり失敗してやらかす姿が一瞬思い浮かんだ。
アラクネってなんかこう賢いイメージがあるけれど、ハクロの場合は、賢いと言えば賢いが、どこか抜けているからなぁ…防げるかもしれないけど、なんかちょっとやらかしそうな気がする。
「今何か失礼なことを考えましたか?」
半目になって睨むハクロに対して、俺はそっと目を背けた。
見れば、タマモやカトレアも同じようにそらしており、彼女たちも同じイメージを浮かべたようであった。ある意味信頼されているような、これまでの積み重ねの経験ゆえか…後者のほうが悲しい気がする。
そんなことはどこかの棚の上にでも置いておくとして、そんな経緯があったことに納得した。
「あの鳥はミーの体を強い力でわしづかみにしてきて、ものすごく痛かったんですよね~♪道中、何とか解放してくれるように話しかけたりしても聞いてもくれない~♪乾燥してきたので雨を降らせる歌を歌っても、濡れるのを嫌がって雲の上を飛んで~♪そのまま太陽の元、干されてしまったんですよ~♪」
抵抗をしまくったが、巨大怪鳥はでっかい獲物を逃す気はなかった。
このままでは死の未来しか見えず、乾燥しつつもなんとか最後の抵抗として、己の足…いや、魚の尻尾の鱗をちぎり、突き刺しまくったそうだ。
マーメイドの鱗は見た目こそ綺麗なのだが、加工すればナイフにも転用可能だそうで、即席で作った鱗ナイフとはいえ、殺傷性はあった。
そんな代物で攻撃した上に、偶然にも鳥の足の爪の間に刺さって、そこがかなり痛かったのか捕縛が緩み、何とか体をよじって逃げれたようだ。
しかし、抵抗のために力を使い過ぎたせいで、力尽きてしまい、落下する感覚を味わいながら気絶したらしい。
そして、現在に至るというわけであった。
「助けてくれてありがとう~♪」
落下していたところを救ってくれたことに感謝してくれているようで、マーメイドは満面の笑みを浮かべてそう述べた。
「助かったのは良いのですけれども、このあとどうしますか?」
「元の洞窟、漁村近くに、帰るの?」
「う~ん、無理♪どうやって飛んできたのかまでわからないし~♪どこだったのかもうわからないし、そもそも…」
と、ここまでは明るく歌うように回答していたが、急にその顔が曇った。
「あの場所、歌えるのはいいけれども、いま一つ、歌のノリ悪かった♪水質微妙で、引っ越しもちょっと検討していたの~♪」
「そういうもんなの?」
「ふむ、海を汚さないように暮らしているとは思うが…それでも、マーメイドなどにとってはそもそも住み心地のいい環境ではなかったのだろう。ギャラリーがいたとしても、自身がいる場所の水質が悪化したことでどこかへ去ったという話も聞いたことがある」
「それ、わっちも聞いたことあるのぅ。クラスタ皇国でマーメイドを欲したやつがいたはずじゃが、そやつは確認されていた住処を探し回って荒らし、結果としていなくなったという話もあるのじゃ」
神父様にタマモがそう口にするが、どうやら環境破壊されると住みにくくなるらしい。
まぁ、それ大概の自然の生物ならそうか…住みやすい場所が嫌になったら、すぐに出ていくのはどこの生物だろうと何だろうとも、たいてい同じだろう。
例外も存在しているようだが、満足する住処に移りたいような気持はわからなくもない。
「でも、この水に浸かっていると創作意欲が湧くよ~♪これ、どこの水なの~♪?」
「え?その水は俺の水魔法で作ったやつだぞ」
放出しすぎてびしゃびしゃにしないように、魔法を何とか制御し、出し過ぎないように臨時のいけすに貯めた水。
自然界じゃなくて人が魔法で生み出した代物なのだが…どうやら水質自体は非常に良好で、気に入ったらしい。
「なら、君がいればこの水得られるの~♪それだったら、一緒にいるよ~♪」
その事を聞き、彼女はすぐに決断をした。
あっさり水につられて簡単に決めるって…いいのか、それで。
「陸地でも宙を泳げるし、適度な水を君の魔法でくれるのならば、歌ってあげるよ~♪」
「別になにか求めてもないけど…歌なら、うん、ありか」
将来的なスローライフ生活において、時々ちょっとした変わり種も欲しくなる。
ちょうどいい刺激としては、歌もありだろうか。
日々の生活の中で、時々出される癒しの歌…想像してみたが、これはこれでいいかもしれない。
「なら良いかな?ハクロ、カトレア、タマモはどうだ?」
「うーん、エルのいうことですし、賛成しますよ」
「歌、植物も聞く、良い」
「ありじゃな。しかしそうなってくると、一つ問題があるのじゃが」
「なんだ?」
全員特に反対意見もないのだが、ふと、タマモがそう口にした。
「お主、名前あるのかのぅ?普段呼ぶ際に、不便になりやすいのじゃ」
「名前~♪?生まれてこの方、ミーにはず~っと、名前無いからね~♪あったほうが良いなら、好きに呼んで~♪」
「なら、エル、出番」
「そのほうが良いですよ」
「即座にこっち向くのかよ」
信頼されているのは良いが、人の名前…いや、モンスターの固有名詞みたいなものなのだが、他人任せでいいのだろうか。
そう思って問いかけてみると、問題はないという回答も得たし…なら、まじめに考えてあげたほうが良いのだろうか。
クリスタルマーメイドで、歌うのが好きで、一人称が「ミー」と言っているところを考えると‥‥‥‥
「『ミモザ』とかはどうかな?」
確か、花言葉が感受性豊かだとかいうものの花だ。
作詞作曲、歌唱まで全部こなしているようだが、歌を歌うとなれば感受性とかの要素は欠かせないだろうしね…ほかにも才能とか色々とあるが、今はこれがちょっと出たし、これなら別に変な名前でもないだろう。
「ミー、これから『ミモザ』って名前♪良いねぇ~♪。これからミーは『ミモザ』って名乗るよ~♪では、今付けられた名前に感謝して、一曲ささげるね~♪」
「では、お聞きくださいませ~♪作詞番号23番『ニャッチュルプー』をどうぞ、お聞きくださ~い♪」
気に入ってくれたようで、気持ちよく歌い始めるミモザ。
その歌は、まるで海の中を泳いでいるような感覚を味合わせる様な、それでいて心地が良い不思議な歌であり、思わずエルたちはその歌に耳を傾け、ゆったりとした気持ちで聞きほれてしまうのであった……
「…しかし、なんだろう。美しい歌なのに、謎の曲名なんだけど」
「これ、ネーミングセンスだけ才能ないのでは…」
……まぁ、人には得意不得意があるし、曲名を気にすることもないか。
ついでに、他にもどのような曲名があるのか聞いてみたところ、『マブジュルン』『タマジロウサンバ』『ウニフンジャッタリアン』『ジャィキャァンノォウタァブゥ』…気にしないでおくか。
「親方、空から女の子が!!」
そんなどこにでもあるようなありふれた王道のセリフも我慢しつつ、空から落ちてきたクリスタルマーメイドを保護したエルたち。
とはいえ、鑑定結果からも見られるように貴重なモンスターの類なうえに、そもそも海にいるようなものがこんな海とは縁のない場所に来たのも怪しい話になりかねない。
なのでここは、頼る先としては色々となんでもござれというような村の教会へ向かい、神父様に事情を話し、教会の奥の方の一室を借りて彼女を寝かせることにした。
ただし、普通に寝かせるわけにはいかず、治療時に乾燥していたようなので水をかけてみたところ、何やらヌメヌメした体液が出てきてしまったので、まともなベッドに寝かせるとアウトである。
そこで、カトレアが木の根で素早く作り上げた木の枠に、魔法で水を注いで仮のいけすを作成し、そこに入れることにしたのだ。
水中にいるとぬめりけもなくなっているようで、そういう体を保護する仕掛けを持った魚に近いのかもしれない。
「寝かせて沈めて…絵面としては人魚として正しいのかもしれないけど、大丈夫なのだろうか、これ?」
見た目的にはボコボコと泡を出して溺れているようにしか見えず、ちょっと溺れているようにも見えなくもない光景だが、脇腹部分にきちんとえらがあるようで、そこから呼吸はできているらしい。
ついでにその場での即席の治療も行っていたが、もうちょっと専門的な知識を持つ神父様のアドバイスも受けてより的確な治療を施していたりする。
「それにしても、クリスタルマーメイドか…どこからさらわれてきたのかはわからないが、多少怪我をしていたとはいえ、よく無事にここにまでたどり着いたな」
「ええ、大きな怪鳥に攫われていたようですが、無事に抵抗して落ちてきたんです。いや、この言い方はおかしいかな?」
「おかしいような気もしなくもないですが、今は命があることを喜んだほうが良いと思いますよ。でも…そもそも彼女、どこから来たのでしょうか?」
マーメイド自体、生息地として近隣にいるわけもないし、海も確かここから結構離れた地にあるはずだ。
近い海だとしても生息情報を聞いたことがないし、そうなるともっと別の場所からあの怪鳥が長距離を移動してきたということになるのだが‥ちょっとわからないなぁ。
とりあえず、ああだこうだといっても解決しないとので、まずはマーメイドである彼女が目覚めて説明してもらったほうが良いと思い、いったん後始末を行っておく。
家のほうに収穫した木の実をもっていって、起きた出来事を説明し、昼食はもう少し後でということにして、俺たちのメンツの中ではより落ち着いて話しやすいタマモを連れて戻ってきた。
それから十数分ほど経過したところで、マーメイドが目を覚ました。
「ごぼっ…ぷぺ‥ごぼべばぁ……ごぼぅ!?」
目を覚まし、周囲の状況を把握できたのか、水の中で驚きのあぶくをあげた。
溺れているようにも見えるがえら呼吸で補っているので問題もなさそうだし、彼女が落ち着くまでちょっと待つことにした。
落ち着いたころ合いを見計らって、自分たちに敵意がないことやここまでの事情説明をな伝え終え、無事に理解を得てくれたようで、どこか安心したような表情になった。
「ほへぇ~、なるほど、ミーは助かったのですね~♪」
どこかのんびりとした口調でありながら、ちょっと口ずさむようなしゃべり方。
マーメイドとしての特性ゆえか、歌を歌うのが好きらしく、ちょっとした会話でも歌っているように聞こえるような声になっているようだ。
そして、事情を聴いてみると、彼女ははっきりと、ここまでどういう経緯で来たのかという記憶を持っていたようだった。
…彼女はもともと、どこか遠い海に隣接した漁村近くの洞窟に身を寄せており、自身の住みかの近くにある砂浜で、毎晩の日課として歌を披露していたらしい。
明るい太陽の下でもできなくもないが、気分的に昼間よりも夜間のほうが歌いやすくあったようで、適度に削ってこしらえた岩に腰を下ろし、月明りの下で気持ちよく歌い続けている日々を送っていたのである。
マーメイド自体が友好的な種族でもあり、歌もうまかったので漁村の人たちからもモンスターとしての危険視をされることもなく、むしろ彼女の歌を目当てにひっそりと耳を傾けて聞く人もおり、平和に過ごしていたようだ。
だがしかし、そんな中で突然、彼女はある者たちの襲撃を受けてしまった。
それは、「マーメイドの肉は不老不死の妙薬」という迷信を信じている者たちが仕向けたらしい冒険者…いや、この場合は友好的な種族に対して襲撃を仕掛けていく密猟者とでも言うべきものたちが、奇襲をかけてきたそうだ。
いつもの日課として歌っているところは特定されており、狙うのはたやすかったのだろう。
居場所は簡単に突き止められており、歌い上げている中、襲われたのだ。
だがしかし、見た目こそは月夜の歌い姫の人魚といえども、これでもれっきとした人街の領域にあるモンスター。
ハクロ物凄く良い例だとは思うが、簡単に倒されるようなモンスターではなく、襲撃を察した瞬間に種類の違う歌を素早く作曲して歌い上げ、歌の効果によって密漁者たちを眠らせ、何とか事なきを得たのである。
眠らせたからと言って油断せずに、しっかりと漂着物を利用した拘束具を作っていたようで、自身にどのような悪事を仕掛けようとしてきたのか、たまに流れ着く本とかで言語を勉強していたのでしっかりと詳細を絞り上げたうえに適当に拾った看板にその内容を全部書き連ねて、裸逆さ磔で砂浜に立ててやったらしい。
放置しておけば近くの漁村の人たちがすぐに発見し、運んでいくだろうと思ってのことのようだ。
どうやら時たま、海賊が襲撃を仕掛けてくることもあるそうで、何かと荒事に慣れていたからこそ自然とできたことらしい。
とはいえ、気持ちよく歌っていったところに水を差されたようなものなので気分を害し、本日の歌はやめようかと思って、砂浜から自分の住処へ移動しようとしたところで…怪鳥のほうの襲撃を受けてしまった。
「目を覚ませば巨大な鳥につかまって、輸送されていたんだよ~♪捕まった瞬間にものすごくつかまれたようで、音もない襲撃で油断しちゃった~♪」
「あー、音もない襲撃ですか…私なら周囲に糸を張って警戒できますが、それでも厳しいですね」
「…確かにその方法なら大丈夫かもしれないけど、なんだろう。ハクロだとそれでも攫われるような光景がちょっと浮かんでしまったかも」
自信満々に用意しておきながら、うっかり失敗してやらかす姿が一瞬思い浮かんだ。
アラクネってなんかこう賢いイメージがあるけれど、ハクロの場合は、賢いと言えば賢いが、どこか抜けているからなぁ…防げるかもしれないけど、なんかちょっとやらかしそうな気がする。
「今何か失礼なことを考えましたか?」
半目になって睨むハクロに対して、俺はそっと目を背けた。
見れば、タマモやカトレアも同じようにそらしており、彼女たちも同じイメージを浮かべたようであった。ある意味信頼されているような、これまでの積み重ねの経験ゆえか…後者のほうが悲しい気がする。
そんなことはどこかの棚の上にでも置いておくとして、そんな経緯があったことに納得した。
「あの鳥はミーの体を強い力でわしづかみにしてきて、ものすごく痛かったんですよね~♪道中、何とか解放してくれるように話しかけたりしても聞いてもくれない~♪乾燥してきたので雨を降らせる歌を歌っても、濡れるのを嫌がって雲の上を飛んで~♪そのまま太陽の元、干されてしまったんですよ~♪」
抵抗をしまくったが、巨大怪鳥はでっかい獲物を逃す気はなかった。
このままでは死の未来しか見えず、乾燥しつつもなんとか最後の抵抗として、己の足…いや、魚の尻尾の鱗をちぎり、突き刺しまくったそうだ。
マーメイドの鱗は見た目こそ綺麗なのだが、加工すればナイフにも転用可能だそうで、即席で作った鱗ナイフとはいえ、殺傷性はあった。
そんな代物で攻撃した上に、偶然にも鳥の足の爪の間に刺さって、そこがかなり痛かったのか捕縛が緩み、何とか体をよじって逃げれたようだ。
しかし、抵抗のために力を使い過ぎたせいで、力尽きてしまい、落下する感覚を味わいながら気絶したらしい。
そして、現在に至るというわけであった。
「助けてくれてありがとう~♪」
落下していたところを救ってくれたことに感謝してくれているようで、マーメイドは満面の笑みを浮かべてそう述べた。
「助かったのは良いのですけれども、このあとどうしますか?」
「元の洞窟、漁村近くに、帰るの?」
「う~ん、無理♪どうやって飛んできたのかまでわからないし~♪どこだったのかもうわからないし、そもそも…」
と、ここまでは明るく歌うように回答していたが、急にその顔が曇った。
「あの場所、歌えるのはいいけれども、いま一つ、歌のノリ悪かった♪水質微妙で、引っ越しもちょっと検討していたの~♪」
「そういうもんなの?」
「ふむ、海を汚さないように暮らしているとは思うが…それでも、マーメイドなどにとってはそもそも住み心地のいい環境ではなかったのだろう。ギャラリーがいたとしても、自身がいる場所の水質が悪化したことでどこかへ去ったという話も聞いたことがある」
「それ、わっちも聞いたことあるのぅ。クラスタ皇国でマーメイドを欲したやつがいたはずじゃが、そやつは確認されていた住処を探し回って荒らし、結果としていなくなったという話もあるのじゃ」
神父様にタマモがそう口にするが、どうやら環境破壊されると住みにくくなるらしい。
まぁ、それ大概の自然の生物ならそうか…住みやすい場所が嫌になったら、すぐに出ていくのはどこの生物だろうと何だろうとも、たいてい同じだろう。
例外も存在しているようだが、満足する住処に移りたいような気持はわからなくもない。
「でも、この水に浸かっていると創作意欲が湧くよ~♪これ、どこの水なの~♪?」
「え?その水は俺の水魔法で作ったやつだぞ」
放出しすぎてびしゃびしゃにしないように、魔法を何とか制御し、出し過ぎないように臨時のいけすに貯めた水。
自然界じゃなくて人が魔法で生み出した代物なのだが…どうやら水質自体は非常に良好で、気に入ったらしい。
「なら、君がいればこの水得られるの~♪それだったら、一緒にいるよ~♪」
その事を聞き、彼女はすぐに決断をした。
あっさり水につられて簡単に決めるって…いいのか、それで。
「陸地でも宙を泳げるし、適度な水を君の魔法でくれるのならば、歌ってあげるよ~♪」
「別になにか求めてもないけど…歌なら、うん、ありか」
将来的なスローライフ生活において、時々ちょっとした変わり種も欲しくなる。
ちょうどいい刺激としては、歌もありだろうか。
日々の生活の中で、時々出される癒しの歌…想像してみたが、これはこれでいいかもしれない。
「なら良いかな?ハクロ、カトレア、タマモはどうだ?」
「うーん、エルのいうことですし、賛成しますよ」
「歌、植物も聞く、良い」
「ありじゃな。しかしそうなってくると、一つ問題があるのじゃが」
「なんだ?」
全員特に反対意見もないのだが、ふと、タマモがそう口にした。
「お主、名前あるのかのぅ?普段呼ぶ際に、不便になりやすいのじゃ」
「名前~♪?生まれてこの方、ミーにはず~っと、名前無いからね~♪あったほうが良いなら、好きに呼んで~♪」
「なら、エル、出番」
「そのほうが良いですよ」
「即座にこっち向くのかよ」
信頼されているのは良いが、人の名前…いや、モンスターの固有名詞みたいなものなのだが、他人任せでいいのだろうか。
そう思って問いかけてみると、問題はないという回答も得たし…なら、まじめに考えてあげたほうが良いのだろうか。
クリスタルマーメイドで、歌うのが好きで、一人称が「ミー」と言っているところを考えると‥‥‥‥
「『ミモザ』とかはどうかな?」
確か、花言葉が感受性豊かだとかいうものの花だ。
作詞作曲、歌唱まで全部こなしているようだが、歌を歌うとなれば感受性とかの要素は欠かせないだろうしね…ほかにも才能とか色々とあるが、今はこれがちょっと出たし、これなら別に変な名前でもないだろう。
「ミー、これから『ミモザ』って名前♪良いねぇ~♪。これからミーは『ミモザ』って名乗るよ~♪では、今付けられた名前に感謝して、一曲ささげるね~♪」
「では、お聞きくださいませ~♪作詞番号23番『ニャッチュルプー』をどうぞ、お聞きくださ~い♪」
気に入ってくれたようで、気持ちよく歌い始めるミモザ。
その歌は、まるで海の中を泳いでいるような感覚を味合わせる様な、それでいて心地が良い不思議な歌であり、思わずエルたちはその歌に耳を傾け、ゆったりとした気持ちで聞きほれてしまうのであった……
「…しかし、なんだろう。美しい歌なのに、謎の曲名なんだけど」
「これ、ネーミングセンスだけ才能ないのでは…」
……まぁ、人には得意不得意があるし、曲名を気にすることもないか。
ついでに、他にもどのような曲名があるのか聞いてみたところ、『マブジュルン』『タマジロウサンバ』『ウニフンジャッタリアン』『ジャィキャァンノォウタァブゥ』…気にしないでおくか。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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