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第2章:少年期後編~青年期へ

35話 ちょびっと年月が進みまして

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SIDEエル
‥‥‥年月というのは、気が付けばそこそこ経過しているものだ。
 そう、濃いものほど早いように思えても、薄い方がさらさらっと流れてしまうのもある。
 その流れに身を任せたまま、のんびりたらりんと将来のスローライフを目指して学びに集中しつつ、ハクロたちと一緒に過ごしていて、気が付けば5年の歳月が流れており、エルは15歳となっていた。

 新入生から年月を経て、スクライド学校では5年生の立場…前世で言えば中学生に入って少し経っている部分だが、特に気にするようなことではない。
 この学校、一応7年生までまで学べるからなぁ…大体17歳前後で卒業することになるのである。
 また、この5年生でちょうど上級生の扱いを受けるそうで、寮室も移動することになり、新たに獲得した部屋の中で、僕は広々とした・・・・・寮室で体を伸ばしていた。

「うーん、それでも今年からは別々だから、ちょっと寂しいな」

 部屋の中を見渡し、ハクロたちの姿が無いのを寂しく想いながらそうつぶやく。


…元々、ハクロたちが一緒にいる事が出来たのは、僕‥流石にこの年齢だとそろそろ変えるとして、俺の保護者に位置づくからという事で、ずっといる事が出来た。
 だがしかし、流石に5年生にもなるとそろそろ性の目覚めなどもあるようで制限がかかり、保護者役などとしてやってきている人たちはここでお役御免というべきか、同室が許可されなくなってしまうのだ。
 そのせいで、ハクロたちも思いっきりその制限にかかってしまい、同室の許可が下りなくなってしまったのだ。

 その為、今年からは寮室で一緒に過ごせなくなっているのであった。
 一応、それでも年から追い出されるという事もなく、単純に保護者としていることが出来なくなっただけなので、何処かの宿泊所を借りて居続けることなどは可能らしいけれどね。
 だから、この都市マストリアにある空き家を彼女達は借り始めたようである。家賃に関しては不安があったが‥‥‥こちらはすぐに、解決していた。


 ほんの少し前のことだが…

「わっち、残念ながら教員免許が今年も得られなかったのじゃ…教師として、潜り込むことが、できぬ」
「なにやっているんですか、タマモ…」
「いや、私たち全員、落ちているから、何も言えない」

 一緒に泊れなくなるのであれば、いっそ教師として潜り込んでしまおうと、最初はハクロたちは考えていた。

 だがしかし、モンスターがそう簡単に教師になることはできず、タマモの方は獣人だからまだギリギリセーフそうだが、哀しい事に人に教えることが出来るものがない。
 国の教育機関に就く人たちはそこそこ厳しい審査もあるので、ふるいに思いっきり落とされてしまっていたのである。
 なお、偏見や差別などもなく、単純に彼女達が綺麗すぎるからというのも落選の理由になるらしいが…教師と生徒の間での間違いが起きたらまずいと言うのもあるようで、原因は思いっきりそこにあるような気しかしなかった。

「こうなると、単純にどこかの空き家を借りて、近くに居続けることしかできないですけれども…うーん、家賃が厳しいですよね」
「まともな職、ちょっとやりにくい」
「いや、お主ら糸とか薬草で、小遣い稼ぎできているじゃろうが。わっちなんて、この数年間、一族から抜けるのに苦労しすぎて、金無しじゃぞ。祀られないようにしたら、奉納金も無くなってしまったからのぅ」

 さらっとタマモがかなり苦労してそうな話を出したが、そんな事はどうでもいい。
 確かに、ハクロもカトレアモ自分たちのやり方で多少の小遣い稼ぎはできるのだが、需要と共有のバランスを考えると荒稼ぎしづらいのが現状。
 ゆえに、ある程度控えめにしているのだが…かと言って今更、全力でやるのもちょっと難しい話だった。

 どうしたものかと悩みつつ、ちょっとまって結論を出す。

「…そうですね、いっそ、荒稼ぎしない程度に控えめにして、私達で直接販売できる商売でもしましょうか」
「それが一番、良いかもしれない。三人寄れば、何とやら」
「それが良いかものぅ。やらかし過ぎず、お互いに管理してやれば、どうにかできるはずじゃろう」

 うんうんと頷き合い、彼女達は商売を行うことになり、そこから家賃をあてることにしたのである。


 そんな事もあって、商売人としてどうすればいいのか軽く勉強し、商会をちょっと立ち上げて商売を始めた結果、現在はそこそこ稼げるようになったのである。
 とは言え、流石に自家製のものばかりでは商売は難しいというのもあり、他の商品の売買に関しては素人同然だったので、彼女達はある人物を頼った。

 その人物とは、数年前に盗賊から助け、商会で色々と優遇してくれるようにした人。
 好々爺のような見た目をして、商売に関しては誰よりも早く出るらしいアルクレウス商会の商会長、デーンザ=ボーンである。
 
 突撃することはせず、まずは面会のお願いの手紙を書き、会う約束を取り付け、いくつか商売に関しての手ほどきを受け…その最中、自分達の素材がどういうレベルなのか、学んでしまった。
 ハクロが作る糸や衣服、カトレアお手製の薬草や木の実。タマモの妖術による幻覚っぽいけど本物でもある妖の物。
 それらは普通の生産者などでは作れないような代物であり、アラクネの糸は手触りやその性質から価値が高く、ドリアードの生み出す木の実は自然界に存在する物よりも良質だったり、妖術の代物は幻のようなものなのに本物以上の価値があったのだ。

 その為、まともに商売としての目的で販売した場合、どのぐらいの金額になるのか査定してもらったところ、全員目を飛びださせるほど驚愕することになった。

「いやいやいや!?これおかしくないですか!?お小遣い稼ぎで売ったりしましたけど、それ以上にやばい金額なんですけれども!?」
「驚愕、星金貨…超・大金レベル」
「おおぉう…今さらじゃが、あの悪人どもが妖術も狙った意味が分かるのぅ…あれ?てことはわっちらって、」
「「「結構、買い叩かれていたのでは…」」」

「いや、これは普通に商売目的で、きちんとしたところの審査も経た場合のものだ。本人たちによる自己申告の証明だけではなく、専門的な処の太鼓判も合ってなのだ。君たちのものを買い取った人たちが、それは本物だと言っても、そう容易く信じてもらうには厳しいからね…かと言って、多少安く買われていたようだが…うん、そこは商売人としてやってしまったことはあるな」

 安く買い取ったところは訴えられそうなものだが、それでも証明などの手続きを考えると、文句を言いづらい部分もある。
 悪意のあったところはそもそもそんなになかったようで、これでもまだギリギリセーフな部分を綱渡りしていたようなのだ。

 とは言え、正規の価格で今更販売するにしても、これで得られる大金を考えると逆に恐ろしくもなる。
 ならばどうするべきかと考えた結果…いっそ、普通に契約をして卸したほうが良いという事になった。

…その結果、卸先となったアルクレウス商会は現在、ますます繁盛しているらしい。
 なんでもハクロたちから買い取る糸や衣服、木の実などが予想以上だったそうで、利益はかなり莫大になったらしい。正規価格での取引に加えて、加工なども施して色々と品質のいい製品が多くなったのもあり、予約待ちなのもできてしまったようだ。
 まぁ、中には噂として、何処かのファンクラブの会員だと名乗る者たちが買い占めているらしいと言う話があるが、そんな変わり者もいるのかと思うところもあるので、気にしないでおこう。

 ひとまずは、定期的な卸によってきちんとした収入源を獲得し、堂々と空き家を借りて住むことが出来るようになったのである。
 なお、一応収入が多いとしっかりと税金対象にもなるのだが…その額も、痛くはない。
 というか、抜け道みたいなものがありまして、人間や亜人対象になる税金ならばあったのだが、モンスターが対象になる税金が無くて、その分軽く済んでしまうようだ。
 その為、精々支払っているのはタマモでの税金程度なのだが…3人分よりも1人分払う方が安く済んでしまったので、余裕はあるのだ。払っても払わなくても、どっちにしても相当あるので平気なのだが。

 空き家を借りることができたので、これで都市に居続けるとことが出来るという事で、これで一件落着…と言いたかったが、世の中そうは問屋が卸さなかった。

「友人がいない状態というのはどうなのだろうか…‥‥」

 思わずそう俺はつぶやくが、逃れようのなかった現実である。
 何故ならば、15歳となった今、周囲の同級生たちも同じぐらいの年齢になっているのだが、底が大問題であった。
 この歳になるまで、散々学園でハクロたちと一緒にいたし、一緒に過ごしているから普段は忘れがちだけど、ハクロたちってかなりの美女だからね…異性からは近寄りにくくて、同性からの嫉妬や怨嗟の目線がすさまじいものだった。
 
 ゆえに、哀しい事に現在友人がほとんどいない状態‥‥ボッチというやつだろうか。

コンコン

「お、ハクロか」

 一人の状況に孤独を感じていた中、窓を叩く音が聞こえたので見てみれば、ハクロの顔があった。

「エル、始業式が終わったのを見ましたし、これから遊びに行きましょう!」
「別にいいけどさ、なんで窓からきているんだよ?」
「だって、男子寮に女子厳禁ですよね?保護者的立場で堂々と出入りできていた時はもうありませんし、今はこうやって窓から侵入するのが良いと思いました」
「どこをどうしたらそういう思考にたどり着くんだよ……まぁ、いいか。ちょっと校門前で待ってくれ」
「はい!」

 ちょっと残念なハクロの考えに溜息を少し吐きつつも、エルは寮室から出て校門前へ向かう。
 そこでハクロ、カトレア、タマモたちが待っていた。

 流石に今年からは一緒に過ごす時間も減ってしまうが、それでもこうやって触れることは可能である。
 そう考えると、孤独ではないのかもしれない。

 でも、よく考えたら彼女達の方が普通に自立して生活していると考えると、何かこう、自分が情けないような者が無しいような気分になるのは気のせいだろうか。
 気持ちを切り替えつつ、スローライフづくりの基盤もしっかりした方が良いのかもと思うのであった‥‥



 なお、5年間の間ハクロやカトレアは傍にいたが、タマモの方は忙しい事が多かったので、一番合う回数が少なかったのは言うまでもない。

「祀られないようにしつつ、面倒事を避けるために、一族の者たちと隠れ里を作って、妖術で覆い隠してという作業が多すぎて、中々会いにくかったのじゃよ…」
「隠れ里ねぇ…なんかそれはそれで、心くすぐられそうかも」

…機会があれば、訪れてみたい。そういう場所も、スローライフの参考になるだろう。
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