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4章 中等部後期~高等部~

4-23 後始末も付けないといけないのだが

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パキィィィン!!

「‥‥‥ちっ、失敗したか」

 突然響いた割れた音に対して、その人物は音がしたほうを見て、失敗したことを直ぐに理解した。

 不十分なのは十分理解していたが、現時点でどの程度やれるのかと多少は期待したものの、やはり駄目であったという事だろうか。

「多少の細工による強化を施していたが、それでもやられたか…‥‥予想通りではあったが、こうもあっけなくやられてしまうとはな」

 散らばった特殊な鉱石を踏みにじりつつ、彼は…‥‥ゲシュタリアは苦々しそうにそうつぶやく。

「だが、これでも多少は時間をかけているか…‥‥それだけでも収穫と喜べばいいか」
「ゲシュタリア様、そろそろお時間です」
「っと、もう時間か」

 彼の側仕えの者が現れて告げたので、その場を去ることにする。

「用意は?」
「万全でございます。逃亡先は既に予定通りであり、この邸自体は焼却処分で十分かと」
「そうか」

 案内されつつ、外に出た頃合いには燃え広がり、先ほどまでいた邸は炎に包まれていた。

「軍事国家の中でも、贅沢を尽くした貴族の屋敷だったが…‥‥一時的な拠点として扱ったとはいえ、最後ばかりは豪勢な最後で十分だろう」

 そう言い残し、ゲシュタリアが乗った馬車はその場を去ってゆく。

 周囲には命の気配はすでになく、燃え盛る邸の最後を見る者はいなかったのであった‥‥‥‥









【キュルル…‥‥疲れたよぉ、アルス】
「僕だって疲れたよ…‥‥帝都から離れていたとはいえそこまで遠くもないし、やってきた騎士団に説明したりとか、襲われた状況に関してとか…‥‥ああ、後日また報告をする羽目になるんだろうなぁ‥‥‥」

 夕暮時、僕らはそろって寮の自室内で脱力してぶっ倒れていた。

 原因は昼間にあった怪物…‥‥サイクロプス・怪と仮称したやつとの戦闘であり、事後処理に色々とかかったからだ。

 出来るだけ被害が無いようにと思っていたが、それでも戦闘時に起きた爆発などは目立っており、戦闘が終了した頃合いに帝都の方から騎士団がわんさかやって来たのである。

 それで色々と説明と、地面に埋めた怪物の掘り起こしと、その他諸々の処理を行い…‥‥ようやく解放されたのだが、精神的にも肉体的にも疲れ果てていた。

 回復薬を作って回復することも可能だが、そんな気力がまずない。

 ハクロの方は魔法をたくさん使ったので魔力も消費しており、そろって疲れてしまったのである。

「一応、詳しい解剖のためにその手の専門機関の方に怪物は運ばれるらしいけれども‥‥‥何であんなものが、僕らを襲ってきたのだろうか?」
【わからない、でも、何かこう、悪意みたいなのはあったと思う、キュルゥ‥‥‥】

 真面目な話もしたいのだが、互に疲れているので直ぐにぶっ倒れてしまう。

 まぁ、僕の場合は彼女のモフモフな蜘蛛の背中にうつぶせになっているのだが…‥‥ハクロの方は手足も脱力するためか天井にハンモックをぶら下げており、そこに乗っかっている形である。


【疲れた、本当に疲れた‥‥‥ああいうの、なんか相手にすると、精神的に疲れる】
「分かるよハクロ…‥‥本当に疲れたもんねぇ‥‥‥」

 はぁぁっと深い溜息を吐き合いつつも、互いに無事に生きていることを素直に喜ぶ。

 攻撃が通じない相手だったからこそ、本当に不味かったのだが、それでも辛うじて賭けに勝って生き延びることが出来た。

 ただ、また同じようなことが無いとも限らないんだよなぁ。なんか僕らを狙っているような動きだったし、どこからか操られて動いていた怪物とかだったらシャレにならない。



「ああもぅ、考えても気が滅入るし、この話は一旦ここでやめよう。この先の難しい話しはもう大人の領域だろうし、国に投げよう」
【キュル、賛成。頭も疲れるの、嫌】

 こういう類はもう国に投げつけたほうが良い。

 そう考え、僕らはこれ以上怪物に関して考えないようにする。


【アルス、疲れた、お風呂入ってさっぱりしたい】
「そうだよね。ちょっと早いかもしれないけど、早めに風呂に入ってすっきりしようか」
【うん!】

 お風呂に浸かれば多少は癒されるし、気持ちもいくらかは楽になるはずである。

 そう思う中で、ふと僕は思いついた。

「‥‥‥あ、そうだハクロ。たまには一緒に入ろうか?」
【キュル?アルスの方から誘うの、珍しい】
「いや、なんかこの疲れている状態だと、うっかり長風呂しすぎてのぼせかねないからね…‥‥互いに気が付きやすい状況にしたいだけなんだよ」

‥‥‥他意はない。いや、本当にこのまま湯船に浸かったら、うっかりぶくぶくと沈みかねないからね。

 そう考えると、お互いに目に見えるところにいたほうが良いからね。

 とは言え、寮のお風呂場は当たり前だが男女別々に分かれているので、一緒に入ることはできない。

 であれば、どうするのかと言えば‥‥‥‥ここは僕も小さくなる薬を飲んで、お手軽なタライの湯である。


 準備は簡単で、混ぜ合わせて熱を発する薬を作製して周囲への火災防止策をしつつ、上にタライを載せてその中に水代わりの薬を投入するだけ。

 ログハウスの木でも同じようなものを作っているので手慣れているが、流石に寮内で火の扱いは難しいので、薬で代用である。

 そのため、火力の調整は少々できないのだが…‥‥うん、まぁゆったり浸かるだけであればそこそこの温度を保つだけのもので良いはずである。

 

 そんなこんなでお手軽なタライの湯を作り、室内にうっかり入り込まれないように鍵もかけつつ、小さくなる薬をそろって飲み干して一緒に浸かる。

 まぁ、流石にまだ裸の付き合いは色々と恥ずかしいので、水着を着用してだが…‥‥これはこれでゆったりとした薬湯となっているので居心地が良いのは変わらない。

【キュルゥ、このお風呂、なんか香りが良い…‥‥】
「香水にも応用できる薬を入れているからね‥‥‥ほんわかとした花の香の湯ってところかな」

 薬湯であるならば、ちょっとはこだわって見たいところ。

 なので、より癒されやすいように香り付けをして、じんわりと疲労回復効果を高める薬も混ぜており、浸かるだけで元気になって来るだろう。

 でもすぐに動きまくるとかではなく、一晩ぐっすりと眠ることができる程度に収めているのでそこまででもないのだが‥‥‥‥それでも、お風呂に浸かるだけで癒されはする。

「ああ、極楽っていうか、お風呂って良いなぁ…‥‥この文化がより発展してほしいよ」
【同感、私もお風呂、好き】

 ゆったりと息をつきつつ、互にお風呂に浸かって癒され合う。

 のんびりとした時間が流れているようで、癒され具合は中々のものだろう。

【アルスの薬湯、これ良い‥‥‥キュル、アルス、もうちょっと寄って良い?】
「ああ、良いよ。今日の戦いでハクロが一番頑張ったし、ちょっとわがままを言っても良いよ】
【キュル♪だったらアルス、抱えて入りたい♪】

 というか先ず、脱力し切ってまともに動く気すらないのだが…‥‥なされるがまま、僕は彼女の腕の中に収められ、一緒に湯の中に浮かぶ。

 正確に言えば、ハクロの場合蜘蛛の体部部に重しを付けて沈めているのだが…‥‥そのおかげで大体同じぐらいの目線になっているから良いか。

 腕に包まれつつ、後頭部に柔らかいものを感じて気恥しくも思うが…‥‥うん、深く気にするまい。

 今回の戦闘でハクロが一番の功労者なのは間違いないし、好きにさせて良いだろう。

【キュル、良い湯♪アルス一緒♪】
「良い湯なのは間違いないかもね。これはこれで落ち着いて入浴しやすいし、たまにやっても良いかも?」
【ふふふ、アルス私の側に、一緒に入って…‥‥でも、この風呂、ちょっと熱い】
「あー、調整は難しいからちょっと熱めにしていたんだった」
【…‥‥水着脱ぐ、これでちょっと涼しい♪】
「いや、ちょっと待って…‥‥あ、もう遅いか。なんかもう、後ろが生に…‥‥」

…‥‥見なければいい話しか。うん、ちょっと布地の感触が失せているだけで、気にしなければいいだけだ。

 とは言え、のぼせそうになるし…‥‥早めにあがろう。




 なお、この時アルスたちは知らなかったが、天井裏が少々危険な状態になっていた。

 ハクロ自身が疲れて糸の警戒を緩めていて気が付かなかったのもあるが、疲労していた様子に心配していた者たちがおり…‥‥まともにこの光景を見てしまったのである。

 後日、とあるファンクラブ会員の間では『不意の極楽と地獄』と題をつけてこの時の様子を描いた絵画が出され、非常に高値で売買される幻の絵画となるのであった…‥‥

「うわぁ、天国なのはわかるけど、地獄な光景の方がすごいな‥‥‥‥」
「そりゃそうだろ。当事者たちは現在、輸血待ちだけど、この状況を見たせいで今もなお待たされているらしいからな…‥‥」
「それでいて気が付かせないようにやっているけど、凄まじいなこれ‥‥‥‥
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