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4章 中等部後期~高等部~

小話 領内の村々にて

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…‥‥雪が穏やかに降りつつも、周囲が動けなくなるほど埋もれることは無い。

 それは、このヘルズ男爵家領内の道がしっかりと舗装されつつ、雪を積もらせないように様々な工夫がされており、馬車が行き交いやすいのだ。

 この雪の降り積もる時期としては、人々の活動は落ちるのだが、この積もらない街道が存在するからこそ行き来が存在し、それがまた熱を産んで人の流れを途切れさせることは無い。

 精々、真夜中に誰も通らなくなる程度なのだが…‥‥そんな中で、領内に点在している村は様々な祭りを行っていた。

「おおー!これまた見事な雪像が出来たなぁ」
「ふははは、そのぐらいで自慢するな!!こちらの作品の方が上をいくぞ!」
「なんのなんの、大きさばかりだけではすべてではない。華やかさも兼ね備えてこそ、バランスをとるのですぞ」

 あちこちの村人たちが歓声を上げつつ、互いの作品を誉めたてている村は今、雪祭りと称して雪像を各場所に創り上げ、どれが素晴らしいのか見回り合っていた。

 街道近くでは溶けるので、少し離れたところで雪をかき集め、作り上げた作品たちではあるが、そのどれもが素晴らしい腕前を持って創り上げられているだろう。

「うーむ、しかしこれは惜しいな‥‥‥剣を再現したのは良いのだが、やはり金属製でなければまだまだといいたくはなる」
「鍛冶屋のオッサン、そこまでこだわんなよ。各々に適しているテーマを作るのは良いけど、まずは見て楽しんでもらうのが一番だろ?うちは猟師をしているから、憎き害獣たちを作品へ昇華させたやったのさ」
「なんのなんの、こちとら農民だが農作業で鍛え上げられ、来年の豊作も祈願して実り溢れる雪像をつくったのだ!」

 わははがははと笑いあいつつ、領民たちの顔は明るい。

 本当にかなり前、アルスの父が治めていた時はもっと活気が無かったが、今と比べると雲泥の差があるだろう。

 それもそうである、領内の状態が劇的に改善されたのだから。

 あちこちボロボロだった領地ではあったが、今ではかなり生まれ変わり、発展し始めているのだから。



「それにしても、こうも雪像が多いのは良いのですが…‥‥領主夫妻様を模した雪像は誰も作らなかったな」
「ああ今年もというか、何と言うか…‥‥一度熱が入っても、やはりどうしても再現し切れないからな」

 笑いあっていたが、その話題が出たとたんにはぁっと彼らは深く溜息を吐いた。


…‥‥領主夫妻もとい、アルスとハクロを模した雪像づくり。

 正確にはまだ挙式を上げていないので夫婦とは言えないのだが、その仲の睦まじさは皆が目撃しており、早く結婚してほしいと思っているほどである。

 そしてこの領地に活気を取り戻し、発展に尽くしてくれていると理解しており、感謝をしており、この雪像を作る祭りでも気持ちを込めて再現した像を作りたいのだが、それは毎年頓挫しているのだ。

「何しろ、領主様はまだ再現できるが、奥方がな‥‥‥‥あの美しさを細部まで表現するには、まだまだ技量が足りぬか」
「雪像職人という訳でもないのだが、それでも腕は誇れるはずなのに…‥‥難しいからなぁ」

 雪像を作り上げたいのだが、アルスの方はまだ良いとして、ハクロの方の再現が難しい。

 蜘蛛の身体もそれなりに複雑なのもあるのだが、その美しさを表現することに手を抜きたくはなく、熱中して徹底的に行うのだが…‥‥それでも、どうしても納得いかないのだ。


「まぁ、その分それぞれの必要な技量が上がり、生産効率も上昇したが…‥‥それでもまだまだ叶わぬ夢か」
「しかし、諦めなければいつかはできるはずだ」
「でも、領主様たちに子供が生まれたらさらに難易度が上がりそうだけどな」
「「「それだよなぁ」」」

 夫婦として領民たちは認識するのは良いのだが、その子供ができた場合、どの様な子供が生まれるのかが見当つかない。

 後継ぎが産まれるという事にもなるのだが、そのご尊顔がどのようなものになるのか…‥‥想像できないのである。

「やっぱり、可愛らしい娘になるのかな?それとも奥様そっくりの子供になるのかな?」
「いやいや、ここは領主様の性別になって、村中のおなごが惹かれるような息子になる可能性も」
「それはそれで嫉妬するなぁ」
「いや、お前はモテないから大丈夫だろう」
「それもそうだな、嫉妬する意味もあるまい」
「お前らも同じようなものだろうが!!」

 漫才のようなやり取りが繰り広げられつつ、今日も平和に領内の時間は流れゆく。

 雪像づくりも楽しいのだが、時期的にはそろそろ終わりの時が近く、再び春風が吹く頃合いだろう。

「何にしても、発展ぶりがすごいなぁ‥‥‥‥あの領主様の御父上が治めていた時と比べても、比較し切れないほどだ」
「豊かになるのは良いのだが、そう考えるとあの貧困ぶりはそれだけ無駄だったと思えてしまうぞ」

 元が貧乏な領地だった時代を思い出すと辛い物もあるが、それはもう過去の事。

 年月を経れば今はまだ学生の領主もきちんと腰を据えて治める時が来て、ますます発展していく未来が彼らには見える。

 だからこそ、ここまで盛り返させてくれた恩を忘れずに、領民たちはアルスたちを慕いつつ、尽くすつもりでいるのだった‥‥‥‥


「しかし、嫁さん欲しいなぁ。領主様は奥方が確定しているのが羨ましい」
「あれが人徳のなせるものというのか…‥‥領内の発展案として、婚活をどんどん取り入れるように進言するべきなのか?意見があるならば、取り入れてくれるらしいからな」
「あ、そういえば二人に渡すのを忘れていたが、これをやる」
「ん?招待状?」
「内容は…‥‥え、ちょっと待て、まさか…‥‥」
「そうそう、来月にうちは婚姻するからな。領主様よりも先に式を挙げるのは申し訳ないが、幸せになって尽くす所存だ」
「「裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


‥‥‥後日、アルスのもとに、領内での婚姻率を高めるためという目的で、大量の婚活願の届け出がなされたのは言うまでもない。

「‥‥‥というか、すごい量だよね。この領内、未婚者多かったっけ?」
【キュルゥ、男女問わず、結構いるかも】
「当然ですな。発展している中で、移住者も増えたのは良いのですが…‥‥独身の方々もいるようで、お相手探しで一生懸命なのでしょう」

 届け出られた意見書に対して、お茶を入れていた執事は穏やかに答えるのであった‥‥‥‥
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