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3章 学園中等部~

閑話 話から忘れ去られているけれども

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‥‥‥人と言うのは、興味のなくなったものを忘れることがある。

 どのようなものがあったとしても、話題に挙がらなくなればいつしか記憶から失せているのだ。

 そしてまた、興味が無くなる前に関心すらも無くなるところもあるもので…‥‥




「ぐっ‥‥‥自分だけしか、いない状況か」

 辺り一帯は既に崩壊しつつ、がれきからはい出しながらその人物は周囲を見渡してつぶやき、惨状を否応なく受け入れさせられる。

 彼はこの国の王であったのだが‥‥‥‥既に、ここは国ではなくなっていた。

 周囲から神罰が落ちるとされ、自分だけでも助かろうという人々ばかりではあったが、逃れることはできないというように様々な罰が落ちた。

 その罰は相手によって様々なものに変わっていき…‥‥そして最終的な神罰の結果は、国の滅亡となったらしい。

 既にここに勤めていた者たちの姿もなく、誰かの肉片があったとしてもそれは神罰の最中に崩壊した王城の中。

 ただ一人、この国を治めていた国王だけが生き残った形と言うべきなのだろうが…‥‥がれきからはい出したとはいえ怪我も多く、周囲に生命亡き状態で、これ以上どうやって生き抜くことができるだろうか。


 がれきをどかしつつ、辛うじて残っていた玉座を起こして腰を掛け、国王は周囲を改めて見渡す。

 そして誰もいなくなっていることを確認し、置かれている現状に絶望しかなかった。


「‥‥‥生き延びていても、孤独死を待つだけか。今を生きているのは奇跡と言うよりも‥‥‥最後の神罰と言うべきか」

 この国内にいたすべてが対象となったのか、もう彼の周囲には誰もいない。

 私腹を肥やしていた臣下や、贅沢の限りを尽くしていた王妃、互に血生臭い蹴落とし合いをしていた王子たちもすでに城の跡地に潰されており、国の民たちの姿もいない。

 脱出を試みても無理なものも多かったのか、晴らしどころのない鬱憤や恐怖がたまりにたまり、暴動を引き起こしたようだが、そんな彼らもまた同じくがれきの下に埋まっているだろう。

「はははは‥‥‥神罰として、すべての民が失せても、最後までは徹底する気か…‥‥ああ、何故こうなったのだ」

 最後の神罰だというような、孤独な時間に対して国王は気を狂わせて楽になりたくなる。

 けれども、そうはさせないと言わんばかりに精神が侵されることもなく、単純に現実のみを突きつけられるのみで、嘆きたくもなった。

 怪我も今の笑いでちょっとは止まっていた傷口も開いたようで、徐々に周囲が赤く染まっていき、意識が薄れてくる。

 そんな中でふと…‥‥何かが響いた。


『何故、と言われましてもそれがわからない時点で、救いようがないとは思いますけれどネ』
「…‥‥そういうものか。いや、誰だ、今の声は?」

 ふと聞こえてきた声に対して周囲を見渡すも、その声の主はいない。

 ただの幻聴と思ったが、そうでもないような感覚もあるのでわからない。


『幻聴でも何でもありまセン。神罰を落とした者と言えば、分かるでしょうカ?』
「‥‥‥神、とやらか」

 頭の中に響くような声に対して、その回答にたどり着く国王。

 いや、既に国はないので元国王と言うか、一国を失った愚者と言うべきか‥‥‥何にしても、愚者がそう口にすると、肯定を示すかのような沈黙があった。

「どのような、どこの神なのかもわからないが…‥‥神罰の最後を見に来たという訳か」
『そういう事デス。とは言え、他の方々とは違って、あなたはまだ理解力がありますネ』

 その言葉は否定しない。

 愚者自身、欲望にまみれていた自覚はあるのだが、それでも周囲の方がよりどす黒いものを持ちつつ、その引き換えに考える事を放棄していたように思えるのだ。

 冷静になって考えて見れば、誰も彼もが出てきた報告などに理解を示しきらず…‥‥それでいて、己にとって都合のいいように解釈したり、我が身のみを保身していたりと、他人の言葉への理解を失っていたのだろう。

『その通りですが、結構周りを見ていますネ。‥‥‥そこまで分かっていたのであれば、どうして国王であったにも関わらず、他の者たちを止めることができなかったのですカ?』
「‥‥‥心を読んだのか‥‥‥いや、それは良い。答えるのであれば、止めようが無かったという事だろうか」

 徐々に意識が薄くなってくるが、それでも質問に答える愚者。

 最後が近づいて来たのを実感している今、ようやく分かってきたこともあるのだ。

「王であっても、それでも周囲が全て動かせるとは限らん‥‥‥むしろ、水滴の一粒が色水に混ざってもあまり変わらないようなものと言うべきか‥‥‥」



 立場的には、止めようがあった。

 けれども愚者自身が既に染まっており、全員同じような思考を辿っており、何もできなかった。

 誰かが止めようと思えば止めれたかもしれないが、そもそもそのような人がいない現状、だれも止めようがない。

 分かっていたのだ、自分達の行いが後々どういう事を引き起こすかもしれないという事を。

 けれども、それを過少に考えて、いや、考えもしなかったがゆえに、神罰が落ちたのだ。

『そういうものですカ』
「そういうものだ‥‥‥」

 分かってもらえたようだが、もう話すこともできなくなってきた。

 意識もすでに半分以上は消え失せ、自分が何者であったかさえもそろそろ怪しくなってきただろう。


「ああ、神罰が落ちたのは分かる…‥‥だが、もう取り返しもつかない…‥‥愚かな王として、語り継がれるだろうが‥‥‥それもいいだろう」

 受け入れよう、自分たちのしでかした大きな罪を。

 どのようなものが原因なのか、理解し切ってない時点で愚者かもしれないが、それでも何かをしたからこそ、このような罰が落ちて来たのだ。

 最後の最後に神らしい声が聞こえて、これで後世に愚かな王として伝わるのであれば、望まぬ形とは言え自分の名が残っていくのはソレはソレで良いのかもしれない。

『‥‥‥なるほど、神罰対象の最後の一人でしたが…‥‥これは、変える必要があるようですネ』
「ん?」

 ふと、何か考えてつぶやかれたような気がした次の瞬間、自身の体の痛みが引いた。

 見れば、怪我も何もかもが治っており…‥‥健康な体になっていたのである。

「…‥‥どういうことでしょうか?」
『あっけない終焉を迎えるだけでは不十分であると、この会話内の精神状態や思考能力などから判断しまシタ。寿命が尽きるその時まで、あなた方の引き起こした愚かなことを、自らの力で語り継いでいけと言う事デス』

‥‥‥どうやらこのまま楽に、この世から退場させる気を無くしてしまったらしい。

 全てに神罰を与えればそれでよかったかもしれないが、愚者の考えの変わりようを見て、神とやらの判断も変えたのだろう。

 楽に世を去らせずに、生きている間も己の罪を見つめ続け、語り継がせよと言う事のようであり…‥‥神罰は、まだ終わっていないのだろう。

「そうか‥‥‥なら、従いましょう。この愚か者の罪が、他の者に起きないように」

 最後の慈悲と言うべきか、それとも新しい神罰の始まりと言うべきか。

 失いかけていた意識もはっきりと戻り、神の意思に愚者は‥‥‥いや、王であったただの男はそう答える。



 それ以降、神の声は聞こえることは無い。

 けれども、己に落とされた神罰を受け入れ、彼は流浪の旅へと出るのであった‥‥‥‥


『‥‥‥愚か者であっても、最後まで愚か者ではないということもあるのでしょウ。それを何故、途中で、いや、最初からもできないのでしょうカ…‥‥』



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