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3章 学園中等部~
3-55 そうであってもなくても
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―――ソレ、は思う。
自分は何者であり、何をしたいのかと。
生まれてそう時間は経っていないはずだが、己の持ちうる特性故か周囲のものを取り込み、情報だけはあふれていた。
ある時は土を、ある時は花を、蜜を、骨を、肉を、血を‥‥‥‥様々なものは断片的なものだとしても、数多くの情報をどんどん中に溢れさせていく。
だがしかし、それらの情報を集めたとしても、ソレにはすべてを理解することができない。
学ぶことができないわけではない。
ありとあらゆる情報を理解できなくとも、それでも何がどの様なものであるかと言う事を知るのだが…本当の意味で理解できているという訳ではないのだ。
いくら知識を仕入れても、それはしょせん情報という存在であり、理解していない。
たとえるのであれば、百科事典を読んだだけですべてを理解できるのか、と言うようなものだろう。
けれども、ソレは理解できずとも、学ぶことに対して貪欲な姿勢を見せる。
わからないのであれば、わかるまで求めれば良い。
何をしたいのか見つからなければ、まずは知識を、情報を大量に得続ければ良い。
そう考え、ソレはありとあらゆるものを喰らい、そして情報をどんどん得ていく。
次第に情報の中に自分が埋もれ始め、どうしたかったのか、何を求めていたのかと言う事も埋もれていき‥‥‥残ったのは、貪欲な知識欲のみ。
そして今、それは理解していないながらも、本能的に情報量の多い存在を求め、蠢いていた。
その情報量の多い存在としては、人の触れていた品々もあったが…‥‥そんな物よりも、人と言う存在そのものに興味を持ったのだ。
人生を生き、どこでどのように感じるのか。
どのような想いを抱き、日々を過ごしているのか、その他様々なものを人は持っており、その情報量は莫大なものだ。
‥‥‥その知ったきっかけが、偶然、路地裏で派手に喧嘩を行って満身創痍な不良たちがいて、弱っている隙に一気に襲い掛かり、その肉を喰らったことだとしても。
ろくでもない人生を歩んでいたようだが、ならばろくでもないわけではないような人であればどうなのか。
そう思い、情報の多さを求め…‥‥本能的に、見つけ出す。
長く生きている、人生経験が溢れている、普通にはない体験をしている…‥‥様々な情報を持つ人の存在を。
その中で、何やら他の人間たちとは違うような、人生の濃さがあるような者を見つけて狙いを定める。
ついでに、その傍にはどうやらこれはこれで、普通ではお目にかかれないような貴重な情報をもつ生物もいたようだが…‥‥まとめて喰らえば良い話しだ。
ソレは蠢く、自身の貪欲な知識欲を満たすために。
満たされずとも、得られるのであればそれでいいと言わんばかりに‥‥‥‥
【‥‥‥キュル、研究所、大丈夫なの?】
「大丈夫なはずなのじゃ。こんなこともあろうかとしっかりと防衛費を国に申請して、改造を施しているからのぅ」
地上での騒ぎを受け、地下の研究所へハクロたちは戻ってきていた。
出入り口である建物も密閉しつつ、研究所の避難部屋へ全員集まり、緊急非常態勢へ移っていく。
「ふぅむ、聞いたことはあったが、モンスター研究所の防御システムが格段に上がっているな…‥‥今なら、このスライムたちでも突破は不可能だろうさぁ」
「そりゃそうじゃろ。儂らじゃって何も備えておらぬわけではないのじゃ」
‥‥‥数年前にあったとある襲撃事件。
研究所内のモンスターが暴走させられた事例もありつつ、ハクロたちが来るようになった時点でモンスター研究所の重要性が増し、防衛設備が充実させられて来た。
隔壁で遮断され、あちこちに罠が張られ、どこにどのような事態が起きているのか見やすくする監視の魔道具も設置しており、一種の要塞ともいえる状態と化しているのだ。
「とは言え、姿が見えぬ相手となると、見ようがないのじゃが‥‥‥‥そのあたりは大丈夫じゃよな?」
【うん、逃走ついでに、研究所全体に、糸張った。見えなくとも、触れたらどこなのかすぐに分かる】
自身の背中ですやすやと眠るアルスを起こさないように小声で答えるハクロ。
本当はベッドに寝かせて動きやすくもしたいのだが…‥‥安全性を考えるのであれば、一番良いのは自分の背中なのかもしれない。
【‥‥‥っと、来たかも】
ハクロがつぶやき、避難していた職員たちの顔も真剣な表情となる。
ハクロの指示でその何者かがいるらしい場所へ監視の魔道具が作動し、その場の映像が映り始める。
「何もいないようじゃが…‥‥いや、違うのぅ。既にここを狙って来ているのか?」
【キュル‥‥‥なんか、しゅわしゅわしている】
地上にある研究所の出入り口がある建物前。
施錠されつつ、何者も通さないようにということで隙間も埋められているはずなのだが‥‥‥その扉の正面部分には何もいないのに、どういう訳か真ん中からしゅわしゅわと泡が立っていた。
「これは‥‥‥溶かそうとしているように見えるのさぁ。溶かし方から言うと、スライムの可能性もあるのさぁ」
溶解液、胃液、毒液など、何かと物を溶かす手段は存在している。
その中でも、スライムの専門家である変態は、その溶かし方がスライムのやり方に近いと指摘した。
「けれども、姿が見えないスライムとは初耳なのさぁ。もしや、こいつが求めていた新種の…‥‥いやで、でも溶かし方が、何か違うような…‥‥?」
扉の溶け方を見て首を傾げつつ、違和感を感じ取るも何なのかわからない皇子。
そんな中で、ふと彼の周囲に纏わりついていたスライムが、声を上げた。
【ピキ?ピキャァァァ!】
「っと、どうしたのさ?不安なのさ?」
【‥‥‥違う、何か、伝えているよ】
「くっ、聞き間違えるとは不覚なのさぁ!!」
そんなのはどうでもいいとは思うのだが、何やらスライムたちが騒ぎ始めた。
何事かと思い、ハクロが意思疎通を試みれば…‥‥どうやら、現在扉を溶かし中の見えぬ相手の正体を彼らは理解したらしい。
【ピギー!!】
【ピキャァァァ!!】
【え?スライムであって、スライムに有らず?同族ではあったが、道を外れ、外道に落ちた‥‥‥『ショゴススライム』?】
「…‥ショゴススライム!?」
ハクロの通訳した言葉を聞き、真っ先に反応した変態。
スライムの専門家を名乗るだけあって、ありとあらゆるスライムの情報を頭に叩き込んでいたようだが…‥‥その表情は思わしくはなかった。
「なんなのさ!?ショゴススライムって、今の相手が!?」
「むぅ?儂は聞いたことが無いのじゃが…‥‥スライムに聞く前に、お主に聞きたいのぅ」
「聞くも何も、スライム専門界隈では有名でありつつも、出てきてしまってはいけないやつなのさぁ!!悲しきというか、そんな事さえなければまともなスライム生を送れたかもしれないやつなのさぁ!!」
――――――――――
『ショゴススライム』
スライムであってスライムに非ざる不定形のモンスター。
とは言え、モンスターの一種にも『ショゴス』と言う存在がいるのだが、それよりもより外道な方面へ堕ちてしまった存在でもあるらしい。
ありとあらゆるものをのみこみつつ、満たされることが無く、喰らい尽くす正真正銘のバケモノ。
もとをただせば、スライムの幼体であり、普通であればありとあらゆるスライムへの分岐があったはずなのだが‥‥‥どこかで道を間違え、人すらも容赦なく飲み込むようになった存在である。
同族すらも捕食し、喰えぬものなど何もなく、一度出現すればそれこそ災害の一種と言ってもおかしくはないほどの被害をもたらしかねないものでもある。
――――――――――
「ただ、ショゴススライムはいくつかの特徴パターンが有って…‥‥ああ、たしかにこのいるはずなのに見えない存在になっているのも、ショゴススライムの特徴の一つなのさぁ!!」
「災害といってもおかしくないような輩‥‥‥なんでそんなやつが、ここに出てくるんじゃよ」
「スライムの発生は、未だに未知の領域も多いのさぁ。ある時突然現れたり、料理から爆誕したり、もしくはダンジョンから生み出されたり…‥‥今回の奴は多分、突発性出現型スライムが元になったのかもしれないのさぁ」
なお、ショゴススライムに堕ちる可能性はかなり低いらしく、普通のスライムが人を食してもならない可能性の方が大きいらしい。
つまり今、ショゴススライムと思わしき相手がいる現状は奇跡と言って良いレベルらしいが…‥‥こんな奇跡なんぞ、誰が出会いたいのだろうか。
「ああ、でもスライムであってスライムでもなく、けれども元はスライムな…‥‥ううう、わからなくなってくるというか、どうしたらいいのさぁ…‥‥」
うーんっと頭を悩ませる変態がいる中で、動きがあった。
「あ、扉が溶かされたのぅ‥‥‥」
じゅばきぃっと音を立て、壊れた扉が何もない所へ飲み込まれ、姿を失せる。
そしてじゅるじゅると音も伝わったところで静かになり…‥‥動きをハクロは察知した。
【‥‥‥なんか、こっち、向かってきている?】
扉を進み、地下への階段を降り、研究所の門を抜けて入り込んでくる。
その進むスピードの速さには驚かされるが…‥‥理由は明白であった。
「‥‥‥おおぅ、かなりの防衛予算もかけたのに、全部溶解して突破されていくんじゃが」
ショゴススライムの捕食と言うか、溶解には何も刃が立たないというかのように、次々に隔壁すらも突破されていく。
時折防衛設備の火矢や爆弾、防衛役を買ったモンスターも軽くあしらわれ、飲み込まれ、溶かされてゆく。
「ついでに廊下も溶かして…‥‥一直線に狙ってきているようなのさぁ」
律儀に突破するのも意味はないというかのように、床を溶解し始め、ショゴススライムが潜り込んできた。
「何やら一直線にここに来ているようなのじゃが…‥‥何を狙っているのじゃ?」
【わからない、見えない聞えない、話しようがない】
何にしても、じゅわじゅわと凄い勢いで溶解し始めたので、全員身構える。
ショゴススライムが出てくる予想地点は…‥‥天井だ。
【…‥‥何者であっても、アルス、傷つけさせない】
魔法や糸での迎撃態勢を整えつつ、アルスへの防御をしっかりと固め、臨戦態勢にハクロは移る。
念のために激しい戦闘が起こる可能性から全員がそっと離れて、様子をうかがう。
「おおぅ、彼女の本気の戦闘が見れそうじゃな…‥‥普段見ぬ、戦う姿勢が見れるのは貴重じゃが、この研究所が攻められている状況を考えると何とも言えぬのぅ‥‥‥」
「ところで気になるのだけど、彼を背中に乗せたまま戦闘する気なのさ?誰か、預かっていたほうが良いような気がするのさぁ」
「うーん、ショゴススライムが何を目的としているのかが分からぬ以上、アルスも狙われている可能性があるからのぅ。激しい戦闘となっても、誰も守り切れぬじゃろうし、むしろハクロの背中に乗っている方が良いじゃろうな…‥‥」
‥‥‥そもそも割と騒ぎになっているのに、ハクロの蜘蛛の背中に固定されて寝ているアルスの図太さはどうなのか。
そこを誰かがツッコむべきだったのだろうが、今はそんなことをする暇もないのであった‥‥‥
自分は何者であり、何をしたいのかと。
生まれてそう時間は経っていないはずだが、己の持ちうる特性故か周囲のものを取り込み、情報だけはあふれていた。
ある時は土を、ある時は花を、蜜を、骨を、肉を、血を‥‥‥‥様々なものは断片的なものだとしても、数多くの情報をどんどん中に溢れさせていく。
だがしかし、それらの情報を集めたとしても、ソレにはすべてを理解することができない。
学ぶことができないわけではない。
ありとあらゆる情報を理解できなくとも、それでも何がどの様なものであるかと言う事を知るのだが…本当の意味で理解できているという訳ではないのだ。
いくら知識を仕入れても、それはしょせん情報という存在であり、理解していない。
たとえるのであれば、百科事典を読んだだけですべてを理解できるのか、と言うようなものだろう。
けれども、ソレは理解できずとも、学ぶことに対して貪欲な姿勢を見せる。
わからないのであれば、わかるまで求めれば良い。
何をしたいのか見つからなければ、まずは知識を、情報を大量に得続ければ良い。
そう考え、ソレはありとあらゆるものを喰らい、そして情報をどんどん得ていく。
次第に情報の中に自分が埋もれ始め、どうしたかったのか、何を求めていたのかと言う事も埋もれていき‥‥‥残ったのは、貪欲な知識欲のみ。
そして今、それは理解していないながらも、本能的に情報量の多い存在を求め、蠢いていた。
その情報量の多い存在としては、人の触れていた品々もあったが…‥‥そんな物よりも、人と言う存在そのものに興味を持ったのだ。
人生を生き、どこでどのように感じるのか。
どのような想いを抱き、日々を過ごしているのか、その他様々なものを人は持っており、その情報量は莫大なものだ。
‥‥‥その知ったきっかけが、偶然、路地裏で派手に喧嘩を行って満身創痍な不良たちがいて、弱っている隙に一気に襲い掛かり、その肉を喰らったことだとしても。
ろくでもない人生を歩んでいたようだが、ならばろくでもないわけではないような人であればどうなのか。
そう思い、情報の多さを求め…‥‥本能的に、見つけ出す。
長く生きている、人生経験が溢れている、普通にはない体験をしている…‥‥様々な情報を持つ人の存在を。
その中で、何やら他の人間たちとは違うような、人生の濃さがあるような者を見つけて狙いを定める。
ついでに、その傍にはどうやらこれはこれで、普通ではお目にかかれないような貴重な情報をもつ生物もいたようだが…‥‥まとめて喰らえば良い話しだ。
ソレは蠢く、自身の貪欲な知識欲を満たすために。
満たされずとも、得られるのであればそれでいいと言わんばかりに‥‥‥‥
【‥‥‥キュル、研究所、大丈夫なの?】
「大丈夫なはずなのじゃ。こんなこともあろうかとしっかりと防衛費を国に申請して、改造を施しているからのぅ」
地上での騒ぎを受け、地下の研究所へハクロたちは戻ってきていた。
出入り口である建物も密閉しつつ、研究所の避難部屋へ全員集まり、緊急非常態勢へ移っていく。
「ふぅむ、聞いたことはあったが、モンスター研究所の防御システムが格段に上がっているな…‥‥今なら、このスライムたちでも突破は不可能だろうさぁ」
「そりゃそうじゃろ。儂らじゃって何も備えておらぬわけではないのじゃ」
‥‥‥数年前にあったとある襲撃事件。
研究所内のモンスターが暴走させられた事例もありつつ、ハクロたちが来るようになった時点でモンスター研究所の重要性が増し、防衛設備が充実させられて来た。
隔壁で遮断され、あちこちに罠が張られ、どこにどのような事態が起きているのか見やすくする監視の魔道具も設置しており、一種の要塞ともいえる状態と化しているのだ。
「とは言え、姿が見えぬ相手となると、見ようがないのじゃが‥‥‥‥そのあたりは大丈夫じゃよな?」
【うん、逃走ついでに、研究所全体に、糸張った。見えなくとも、触れたらどこなのかすぐに分かる】
自身の背中ですやすやと眠るアルスを起こさないように小声で答えるハクロ。
本当はベッドに寝かせて動きやすくもしたいのだが…‥‥安全性を考えるのであれば、一番良いのは自分の背中なのかもしれない。
【‥‥‥っと、来たかも】
ハクロがつぶやき、避難していた職員たちの顔も真剣な表情となる。
ハクロの指示でその何者かがいるらしい場所へ監視の魔道具が作動し、その場の映像が映り始める。
「何もいないようじゃが…‥‥いや、違うのぅ。既にここを狙って来ているのか?」
【キュル‥‥‥なんか、しゅわしゅわしている】
地上にある研究所の出入り口がある建物前。
施錠されつつ、何者も通さないようにということで隙間も埋められているはずなのだが‥‥‥その扉の正面部分には何もいないのに、どういう訳か真ん中からしゅわしゅわと泡が立っていた。
「これは‥‥‥溶かそうとしているように見えるのさぁ。溶かし方から言うと、スライムの可能性もあるのさぁ」
溶解液、胃液、毒液など、何かと物を溶かす手段は存在している。
その中でも、スライムの専門家である変態は、その溶かし方がスライムのやり方に近いと指摘した。
「けれども、姿が見えないスライムとは初耳なのさぁ。もしや、こいつが求めていた新種の…‥‥いやで、でも溶かし方が、何か違うような…‥‥?」
扉の溶け方を見て首を傾げつつ、違和感を感じ取るも何なのかわからない皇子。
そんな中で、ふと彼の周囲に纏わりついていたスライムが、声を上げた。
【ピキ?ピキャァァァ!】
「っと、どうしたのさ?不安なのさ?」
【‥‥‥違う、何か、伝えているよ】
「くっ、聞き間違えるとは不覚なのさぁ!!」
そんなのはどうでもいいとは思うのだが、何やらスライムたちが騒ぎ始めた。
何事かと思い、ハクロが意思疎通を試みれば…‥‥どうやら、現在扉を溶かし中の見えぬ相手の正体を彼らは理解したらしい。
【ピギー!!】
【ピキャァァァ!!】
【え?スライムであって、スライムに有らず?同族ではあったが、道を外れ、外道に落ちた‥‥‥『ショゴススライム』?】
「…‥ショゴススライム!?」
ハクロの通訳した言葉を聞き、真っ先に反応した変態。
スライムの専門家を名乗るだけあって、ありとあらゆるスライムの情報を頭に叩き込んでいたようだが…‥‥その表情は思わしくはなかった。
「なんなのさ!?ショゴススライムって、今の相手が!?」
「むぅ?儂は聞いたことが無いのじゃが…‥‥スライムに聞く前に、お主に聞きたいのぅ」
「聞くも何も、スライム専門界隈では有名でありつつも、出てきてしまってはいけないやつなのさぁ!!悲しきというか、そんな事さえなければまともなスライム生を送れたかもしれないやつなのさぁ!!」
――――――――――
『ショゴススライム』
スライムであってスライムに非ざる不定形のモンスター。
とは言え、モンスターの一種にも『ショゴス』と言う存在がいるのだが、それよりもより外道な方面へ堕ちてしまった存在でもあるらしい。
ありとあらゆるものをのみこみつつ、満たされることが無く、喰らい尽くす正真正銘のバケモノ。
もとをただせば、スライムの幼体であり、普通であればありとあらゆるスライムへの分岐があったはずなのだが‥‥‥どこかで道を間違え、人すらも容赦なく飲み込むようになった存在である。
同族すらも捕食し、喰えぬものなど何もなく、一度出現すればそれこそ災害の一種と言ってもおかしくはないほどの被害をもたらしかねないものでもある。
――――――――――
「ただ、ショゴススライムはいくつかの特徴パターンが有って…‥‥ああ、たしかにこのいるはずなのに見えない存在になっているのも、ショゴススライムの特徴の一つなのさぁ!!」
「災害といってもおかしくないような輩‥‥‥なんでそんなやつが、ここに出てくるんじゃよ」
「スライムの発生は、未だに未知の領域も多いのさぁ。ある時突然現れたり、料理から爆誕したり、もしくはダンジョンから生み出されたり…‥‥今回の奴は多分、突発性出現型スライムが元になったのかもしれないのさぁ」
なお、ショゴススライムに堕ちる可能性はかなり低いらしく、普通のスライムが人を食してもならない可能性の方が大きいらしい。
つまり今、ショゴススライムと思わしき相手がいる現状は奇跡と言って良いレベルらしいが…‥‥こんな奇跡なんぞ、誰が出会いたいのだろうか。
「ああ、でもスライムであってスライムでもなく、けれども元はスライムな…‥‥ううう、わからなくなってくるというか、どうしたらいいのさぁ…‥‥」
うーんっと頭を悩ませる変態がいる中で、動きがあった。
「あ、扉が溶かされたのぅ‥‥‥」
じゅばきぃっと音を立て、壊れた扉が何もない所へ飲み込まれ、姿を失せる。
そしてじゅるじゅると音も伝わったところで静かになり…‥‥動きをハクロは察知した。
【‥‥‥なんか、こっち、向かってきている?】
扉を進み、地下への階段を降り、研究所の門を抜けて入り込んでくる。
その進むスピードの速さには驚かされるが…‥‥理由は明白であった。
「‥‥‥おおぅ、かなりの防衛予算もかけたのに、全部溶解して突破されていくんじゃが」
ショゴススライムの捕食と言うか、溶解には何も刃が立たないというかのように、次々に隔壁すらも突破されていく。
時折防衛設備の火矢や爆弾、防衛役を買ったモンスターも軽くあしらわれ、飲み込まれ、溶かされてゆく。
「ついでに廊下も溶かして…‥‥一直線に狙ってきているようなのさぁ」
律儀に突破するのも意味はないというかのように、床を溶解し始め、ショゴススライムが潜り込んできた。
「何やら一直線にここに来ているようなのじゃが…‥‥何を狙っているのじゃ?」
【わからない、見えない聞えない、話しようがない】
何にしても、じゅわじゅわと凄い勢いで溶解し始めたので、全員身構える。
ショゴススライムが出てくる予想地点は…‥‥天井だ。
【…‥‥何者であっても、アルス、傷つけさせない】
魔法や糸での迎撃態勢を整えつつ、アルスへの防御をしっかりと固め、臨戦態勢にハクロは移る。
念のために激しい戦闘が起こる可能性から全員がそっと離れて、様子をうかがう。
「おおぅ、彼女の本気の戦闘が見れそうじゃな…‥‥普段見ぬ、戦う姿勢が見れるのは貴重じゃが、この研究所が攻められている状況を考えると何とも言えぬのぅ‥‥‥」
「ところで気になるのだけど、彼を背中に乗せたまま戦闘する気なのさ?誰か、預かっていたほうが良いような気がするのさぁ」
「うーん、ショゴススライムが何を目的としているのかが分からぬ以上、アルスも狙われている可能性があるからのぅ。激しい戦闘となっても、誰も守り切れぬじゃろうし、むしろハクロの背中に乗っている方が良いじゃろうな…‥‥」
‥‥‥そもそも割と騒ぎになっているのに、ハクロの蜘蛛の背中に固定されて寝ているアルスの図太さはどうなのか。
そこを誰かがツッコむべきだったのだろうが、今はそんなことをする暇もないのであった‥‥‥
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