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3章 学園中等部~

3-54 感じる者は何かとあるようで

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「‥‥‥夜中に出歩くってのは、中々無い経験だよね」
【キュル、お月様、キラキラ綺麗】

 月明かりの中、僕らは研究所を出て夜の都市アルバニア内を歩いていた。

 普段は室内で寝る準備をしているのだが、今晩ばかりは理由がある。

「でも、この月の光がモンスターに影響を与えるとか…‥‥本当なのかな?」
【私もわからない、でも、変態さんのスライムたちはそう言っていたよ】
「その言い方だと、スライムが変態にも聞こえるんだけど…‥‥でも、こうやって夜中に歩くのも悪くはないかな」


‥‥‥昼間にやっていた、月光を再現した魔道具の実験。

 残念ながら研究所の夜間再現はうまくいっても、実験用の魔道具にまではうまいこと行かなかったようで、実験は失敗していた。

 だったらどうすればいいのかと考え‥‥‥なら、本物の月光を使えば良いという事で、こうやって真夜中に地上へ出たのである。

 なお、職員たちは実験のために出つつ、変態第3皇子も一緒にいるらしいがそれは別の場所の方で実験をしており、僕らは別行動として夜中の散歩としゃれこんでいるのであった。

 先日の襲撃の件もあるので、別行動はそうそうできなかったのだが…‥‥最近になって黒幕だったらしい国の滅亡間近の噂が出てきており、そうやすやすと襲ってくることはできなくなっただろうということで、安全性の確保をしたうえでこうやって別行動できるようになったのだ。

 安全のためにも、強靭なハクロの糸を使った衣服を着ているし、周囲の警戒のために常人では感じ取れないほどの感知用の糸を張っているらしいが…‥‥それを除けば、気楽な夜の散歩。

 ハクロの隣を歩き、互いに手を握って月明かりに導かれるようなこの状況は‥‥‥

「なんというか、大人のデートって感じもするよね」
【キュル、昼間一緒も良いけど、夜こうやって歩くのもいいかも♪】

 互いに思いあいつつも、健全なお付き合い状態。

 その中で、この夜中の散歩はちょっとアダルティックな雰囲気があるようで、これはこれで中々良いものである。

 しいていうのであれば、夜の都市内部でもそれなりに人がいるのでムードがちょっと足りないとは思うが‥‥‥それでも、こうやって月明かりのもとへ歩くのは雰囲気としては最高だろう。

「これでお酒とかもあればいいかもしれないけど、流石にそこまでは無理なんだよなぁ…‥‥」

 そもそも、この体でお酒を飲んでも良いのか、ハクロは酒を飲めるのかどうかという部分はまだわかっていなかったりするし‥‥‥そのあたりは慎重に確認していきたいところ。

 下手に変な酒癖でもあったら、醜態をさらしかねないからね。情けない姿をさらしたくはないのだ。





 とにもかくにも、月明かりの下を歩く中で、研究所の職員たちの実験の方を覗きに行ってみれば、そこはそこでモザイクの魔道具が仕事をしていた。

「…‥‥月明かりの変態第3皇子と言うのも、ある意味芸術なのだろうか」
【隠されている時点で、芸術じゃない気がする】

 実験の状態が分かりやすいように、今回は皇子が提供したスライムも多く使用しているらしいが‥‥‥モザイク処理をしっかりとされているところを見るとよくわからない。

 まぁ、一部研究所で飼育されているモンスターが地上の夜の空気で気を楽にしているそうなので、ソレはソレで変化なども見やすくなっているだろう。

【キュル‥‥‥お日様も良いけど、お月様も良い。力を貰えるかもって思うと、本当にそうなのかもしれないと、思えるもの】
「月は月で、神秘的だからなぁ…‥‥」

 どこの世界でも月があるのかと言う疑問はあるが、前世も今世も変わらずに、月には何かと話は付きものらしい。

 そう思うと、夜空で輝く月夜も神秘的なものであり、不思議な雰囲気を作り出していると言えるだろう。

「‥‥‥ハクロ、ちょっと乗せて」
【良いよ♪】

 夜空の散歩の中で、彼女の蜘蛛の背中に乗せてもらい、少し寝転がらせてもらう。

 ふわっともふっと、相変わらず気持ちが良い背中だが、月夜の明かりで白い毛がより神秘的に輝いているように見えるだろう。

「ハクロの背中、綺麗だよねぇ…‥‥月明かりの草原みたい」

 色合いとしては白色なので草原とはちょっと違うのだが、雰囲気的にはどちらかと言えば、前世の某巨大蟲が出ていた映画の野原っぽいような…‥‥うん、まぁ、あれは毛ではないけどね。


 とにもかくにも、こうやって夜風に当たって見れば、風になびく毛や、彼女の髪の毛なども美しく月の光で照らされ、ハクロの美しさをより引き出しているだろう。

 太陽のもとに輝くような笑顔を見せる彼女も良いのだが、こうやって月のもとで神秘的に輝く彼女も大人っぽく見えて好きである。

「そう考えても‥‥‥いや、考えなくても、ハクロは綺麗だよね」
【キュル♪】

 そっと後ろから彼女をそっと抱きしめて告げれば、嬉しそうに鳴くハクロ。

 月夜の散歩も今後機会があればもっとやって見ようと思いつつも、今晩はこの雰囲気を楽しみ合いつつ、夜風に吹かれていくうちに、少し眠気が襲ってくる。

 ああ、そう言えばそろそろ時間的にも眠る時間だし‥‥‥このまま寝るのも‥‥‥良いね‥‥‥





「‥‥すぅ‥すぅ‥‥‥」
【‥‥キュル?アルス、寝ちゃった?】

 てとてとと気楽に歩いていた中で、ふと寝息が聞こえて来たので振り向いて見れば、自身の背中に寝転がりながら、アルスが眠っていた。

【落ちないようにして‥‥‥っと、これで大丈夫】

 きゅっと糸で固定しつつ、寝る妨げにならないように慎重に歩き出す。

 このまま寝るのであれば、一旦実験中の所長たちのもとへ向かって、先に戻る事を告げておく必要があるだろう。

 そう思いながら、歩む中で‥‥‥‥ふと、ハクロは足を止めた。

【‥‥‥誰?】

 耳を立て、周囲の糸に集中し始め、背中で眠るアルスを守るように彼女は警戒し始める。

 気が付いたのだ…‥‥周囲に張っていた警戒用の糸に、何かがかかったことを。

 変態第3皇子のスライムたちが触れたわけでもなく、人間が触れたわけでも無い。

 なのに、その姿が見えずに、糸にかかる気配だけを察知したことに警戒感を強める。


【キュル、シュルルル‥‥‥‥】

 警戒音を出し、周囲を見渡すも何も見えない。

 月明かりもあるので影も出るとは思うのだが、その影すらもなく、けれども糸に感知する反応はある。


【アルスに危害、触れさせない‥‥‥このまま、逃げさせてもらう!!】

 糸の反応から大体の見えない相手の位置を感知し、素早く逃げ始めるハクロ。

 魔法で戦う事も可能だが、今は背中にアルスが眠っており、派手な戦闘は避けたい。

 それに、糸で探れても見えない相手と言うのは不安しかなく、自身の強さに慢心はしておらず、逃げる道を選んだのだ。



 念には念を入れて逃走しながら捕縛用の糸の罠も設置しつつ、ドマドン所長たちのもとへ辿り着く。

 そしてすぐに得体のしれない反応の話をして、全員で研究所の方に避難をするのであった‥‥‥

「ぬぅ、見えぬ奴か‥‥‥何者じゃ?」
【わからない、でもなんとなく、嫌なものなの、わかる】
「未知のスライムかもしれないが…‥‥得体のしれない相手なら、まずは逃げるのは正解だと思うのさぁ!スライム好きでも、もしも人食いスライムとかだったら流石に避けたいのさぁ!!」
【変態さん、なんか意外。スライムに捕食されるのが本望とか、いいそうだった】
「流石に命の大事さなども、ある程度は分かっているのさぁ!!」


【ピキ―ッ!!】
【ピケェェー!】
【スライムさんたち、変態さんを食べる気はないけど、望むならいつでもどうぞって言っているよ】
「‥‥‥今は良いのさ!!」

(((((今、絶対に迷ったよね?)))))

‥‥‥心の中でその場の全員がそう思ったが、今は避難が先であった。


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