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3章 学園中等部~

3-48 ある意味お約束と言えばそうかもしれないが

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 朝にハクロの手によって飲まされた、小さくなる薬。

 幼児化ではなく、単純に縮尺する程度のものなので特に問題はないのだが…‥‥

「でも、こうやってモフモフする際に利点もあるな‥‥‥いつも以上に、埋もれそう」
【アルス、埋もれている】

 もふーんっと、彼女のふわふわな蜘蛛の背中に乗せてもらったが、ふんわりとしつつ中身があるのでしっかりと押し上げてくるはずなのに、そいつも以上に表面積が小さいせいなのかふわもこな毛の中に沈みこむ。

 でも、この毛の中もこれまたモフモフのふわふわで、まるで綿毛の海と言うべきだろうか。

 なお、小さくなってこういうところに入ると息ができなくなるお約束がありそうなものだが、幸いな事に毛の海と言っても空気はきちんと入っており、窒息する恐れはない。

 むしろ、溺れることがない分、普通の海以上に優れているのではなかろうか…‥‥あ、でも温かいけどこれメチャクチャ熱い所だったら地獄だったかもしれない。


「でもまぁ、この研究所内の室温は程良いし…‥‥ここも心地良い」

 大きかろうと小さかろうと、ハクロの背中は心地が良い。

 落ち着くようで、ほんのりとした温かさが、安心感を与えてくれる。

【キュ‥‥‥アルス、柔らかい所、好き?】
「ん?そうだね‥‥‥うん、たしかに好きかな」

 人を駄目にするクッションや、それ以上の効果を持つハクロの蜘蛛の背中…‥‥こういうところは好きではある。

 モフモフなものも良いけど、柔らかいものも良いだろう。ぬいぐるみとかそういうのも当てはまるような‥‥‥そう言えば、あの蜘蛛ぬいぐるみの数々ってどうなってるかな?

【なら、ここもどうかなー?】
「え?」

 ちょっと前にあった出来事を思い出している中、ハクロがそう口にして、埋もれていた僕をつまみ上げて、一旦自分の頭の上に置いた。

【すぱっと切って‥‥‥ここ、アルスいれるー♪】

 しゅばっと手が動いたかと思えば、何か布の切れ端が宙を舞った。

 何事かと理解させられる前に、直ぐにまた摘み上げられ‥‥‥そして落とされた。

ぽよん!!すぽっ!!



…‥‥柔らかなものの上に落とされ、一瞬反発しかけるも、その間に足が滑ってはまり込む。

 そのまま一気に首から下が包み込まれたが…‥‥何が起きたのか、僕は理解した。

【ふふふ、前に所長お婆ちゃんが、言ってたの。せっかく大きいのなら、大事なものを入れてみたりしたらどうかなって♪】
「‥‥‥いや、待ってハクロ。確かに柔らかいと言えば柔らかいというか、いまちょっと押しつぶされそうなのに下手に動けないというか…‥‥ここってもしや…‥‥」
【私の谷間だよ?】
「…‥‥なんでここに!?」

 まさかのハクロの豊かな胸の谷間に、僕は挟まれていた。

 先ほど宙を舞った切れ端は、ハクロが自ら切り裂いた衣服だったようで、谷間の部分だけ綺麗にくりぬいている。

 後ですぐに直せるらしいが、それでもここに落としてどうすんの!?

 確かにほど良い柔らかさに温かみもあるけれども、ツッコミが追い付かないんだけど!?


「とりあずハクロ、出して出して!!柔らかさは良いけど、ここはそうそう使っちゃダメだって!!」
【そうなの?あふっ、アルス、ちょっと暴れないで!】
「あ、ごめん!!」

 なんか艶めかしい声が出てきたようなので、身をぐっと抑えて動かないようにする。

 そしてそのまま、ハクロに摘まみ直してもらい、きゅぽっと出ることができて安堵の息を吐いたのだが…‥‥油断と言うのは、こういう時にしてはいけないのだろう。


ずるっ
「【あ】」

…‥‥摘ままれていた状態ではあったが、衣服を持っていたせいなのか、僕の上着が脱げました。

 そしてそのまま落下した先には、ハクロの豊かな胸があり、今度は谷間に落ちてはたまるかと根性で空中で体を捻り、ぼよんっと反発されて宙に舞い上がる。

 けれども、その先には机も何もなく、床しかない状態でこのまま落ちたら不味かった。

【キュルルルッ!!】

 っと、状況を即座に理解したのか、ハクロが軽く飛び跳ね、自身の腰を思いっきり曲げてひっくり返る。

 ちょうどその蜘蛛の腹部分に落ちる形となり…‥‥


ずっしぃぃぃぃ!!ごぎぅい!!
【ピギャッツ!?】
「ハクロ!?」

 何とか柔らかいお腹に落ちたのは良いのだが、何やら妙な音がしてハクロが悲鳴を上げた。

「どうしたのハクロ!?大丈夫!?」
【だ、大丈夫‥‥‥じゃない‥。こ、腰両方逝った‥‥‥痛い…‥‥】

 おおおぅっつ、っと普段のハクロなら出さないようなうめき声をあげ、体を動かせなくなるハクロ。

 どうやら今の無理な動きによって、変な筋肉の動き方をしたらしく、人部分と蜘蛛部分の二つの腰がダメージを受けてしまったらしい。

 ぎっくり腰に近いような、それが二倍になっている状態と言うか‥‥‥相当辛そうだ。

「ちょっと待ってハクロ、今薬を作るから!!」
【わ、わかったよ‥‥‥キュルルゥ…!!】

 痛みをこらえて涙を流すハクロに対して、僕はすぐに薬を作る。

 腰痛には効果抜群な飲み薬だったのだが…今の状態では、ちょっと彼女自身が手に取って飲ませるにはきついかもしれない。

「とりあえず、元のサイズに戻って‥‥‥」

 彼女の蜘蛛の腹から降りつつ、効果をすぐに切らす解除薬を精製して飲み干す。

 ぼうんっと音を立てつつ、元のサイズに戻って彼女の口元に薬を注ぐ。

【んくっ、んくっ‥‥‥キュルゥ…‥‥だいぶ、楽になったよ】
「良かった」

 すぐに効果が発揮され、腰の痛みは引いたらしい。


「とりあえず、これで治ったけど‥‥‥でも、今日は動かさずに、このまま寝たほうが良いかもね」
【キュルゥ‥‥‥そうかも】

 薬で治療して痛みが引いたとはいえ、油断はできない。

 きちんと安静状態になってもらって、少なくとも一日は安静になってもらう方が良いだろう。

【まだ寝るまで、時間あるのに…‥‥】
「んー、安静にだからなぁ…‥‥とは言え、何もしないで安静のまま寝た切りってのもね」

 僕を助けるためになってしまったことなので、非常に申し訳ない。

 大事な彼女に対してこの扱いは流石に無いし、どうしたものかと考え…‥‥一つ、案を出した。

「一応ドマドン所長に事情を話して今日は安静にするってことで…‥‥それで、ここで安静にしていても暇だし、僕も一緒に寝るよ」
【でも、まだ明るいよ?】
「眠れないなら、眠れる薬を作ればいいからね…‥‥うん、眠り薬も精製できた」

 作ったのは、丸一日完全爆睡をさせてくれる特製の眠り薬。

 とは言え、単純に爆睡させるのではなく、飲んだ本人にとって良い夢を見せる効果を持たせつつ、体の不安な個所をじわじわとゆっくり治療してくれるものだ。

 お灸とか湿布とか‥‥‥それに近い眠り薬と言うべきか。

 さっとドマドン所長に知らせに行き、理解してもらって部屋にすぐに戻る。

 そして寝巻にさっと僕らは着替えつつ、一緒にその場に横になる。

「それじゃ、これを飲んで一緒に寝ようかハクロ。これなら寂しくもないし、退屈でもないよね」
【うん、アルスと一緒に寝るなら良い♪あ、でも…‥‥手をつないで良い?】
「別に良いよ。僕を助けてくれるためにこうなったし、できる事なら色々とやってあげたいからね」

 手を伸ばし合い、互に握りしめ、温かさを感じ合う。

 そしてそろって薬を飲めば、すぐに眠気が襲ってくる。

「お休みハクロ、良い夢を」
【お休みアルス、良い夢で】

 互いに口にして微笑み、休みの日とは言え、たまにはこうやって寝るだけの一日も良いのかもしれないと思いつつ、僕らの意識は深い夢の中へ沈むのであった…‥‥
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