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3章 学園中等部~

3-42 日記は黒歴史にもなりやすいそうだが

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‥‥‥ダンジョン最深部、ハクロの母が隠していたらしい地下室内。

 そこに残されていた日記を読むことによって、ここで何が行われていたか確認することにした。

【それじゃ、読むよ。えっと‥‥‥『記念すべき、一ページ目‥‥‥】

―――――――――――――――――

‥‥‥我が名はアーゼルノ。しがない研究所長の一人である。

 近年、我がベルマッガー王国に迫りくる戦乱の嵐に対して、対抗するための研究をしろという事で、ここに研究室を構えることになった。

 機密性を考え、侵入されにくい地下に作ったが、せっかくなので一日づつ、短めにここに記していこう。計算上、一万日目まで書けるが、まぁそこまで書くこともあるまい。

『一日目』
記念すべき初日だが、本日から行われる研究は『モンスターの兵器化』ということで、物騒過ぎて気分が今一つ盛り上がらない。戦乱の渦に対応するために、人間よりも強靭なモンスターに眼を付けたのは良いのだが‥‥‥どう利用するか、手探りで行うのは先が見えない。上の奴ら、頭大丈夫か?
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『二日目』
『三日目』
『四日目』
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『十日目』
時間はかかったが、どの様にして兵器化をするのかと言う事に関して、いくつかの手法が出来上がった。このうちのどれを利用するかによって‥‥‥

―――――――――――――――――

「…‥‥なんか最初から、内容が物騒なんだが」
「モンスターの兵器化‥‥‥そんなことを、考えていたの?」

 色々と内容を端折ったが、どうやら大雑把な目的としては、モンスターを兵器に利用できないかという研究だったらしい。

 まだ帝国が形を成していない時に存在していた国だったようで、周辺では争いが起きており、自国の民の命を出来る限り散らさないようにと考え、その事を思いついたようだ。

 ただ、モンスターの兵器化と言う話は、今の研究内容に限って出た話ではない。

 エルスタン帝国でも大昔には研究されていたことがあったそうで、その他の国々でも同様の研究が行われていた時期があった。

 だがしかし、どの国でも結果としては失敗だったというべきか‥‥‥モンスターは確かに人間よりも優れた身体能力を持っていたりするのだが、生きて自身の意思を確立させており、操れるような代物ではない。

 いや、操れるような魔道具なども一部存在していたりするが‥‥‥それでも、色々と利益に見合わないところが多すぎたのもあり、研究自体がすぐに廃れていったようだ。

 なので現在では、ドマドン所長のところの研究所のように、モンスターの特性や得られる素材から様々な品々を作ったりできないかというようなことが主流になっているのだが…‥‥どうやらこの日記の主の頃は、兵器化の方を考えていたようである。

【内容、えげつない。意志奪う、思考同化させる、理性を消し飛ばす…‥‥様々なものが、出たって】
「でも、どれもこれも失敗しそう」
【‥‥‥あ、でも一つ、この研究所内で、目を付けたものがあるって】

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『五十六日目』
‥‥‥様々なやり方を模索したが、一つ良いものがあったと言えるだろう。
それは、モンスターの意思その物を人に近づける方法であり、要は人と同程度の思考力を持たせるという事である。
命令するにしろ何にしても、まずはその内容を理解してもらわない事には意味がなく、意志を奪っても柔軟に対応しきれない。ならば、ある程度の意思と知恵を持ってもらう事によって、兵器としてよりも兵士として扱いやすくしようという方針へ切り替わった。
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『五十七日目』
『五十八日目』
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『八十五日目』
‥‥‥ようやくと言うか、なんとか人に近い思考をもつモンスターを、我々は作り出すことができた。
けれども、その分知恵も回ったらしく…‥‥どうやら、研究員の会話などを聞いて自分達が利用される存在であることも理解してしまい、自由のために逃亡を図ったらしい。何十匹かは焼却処分などを経て野生に解き放たれるのを防げたが、それでも全部を食い止めるのは無理だった。
その責任により、この研究所は本日取り潰され、我々は逃げたモンスターたちを追えと言う命令…早い話が国外追放処分を受けてしまった。
とは言え、逃げた者に関してどうなるのか興味はあるので、日記を書きつつ探ってみようと思う。

―――――――――――――――――

「‥‥‥逃げられているじゃん!」

 モンスターに人と同等の知恵を持たせる方法とか、どうやって作ったのかと言う疑問は色々とあれども、詳しい技術は書かれていないようで、おそらく今では失われた技術なのだろう。

 けれども、人と同等の知恵を持ったモンスターが逃げ出したという事はその国にとっても不味いことだったようで、研究所の人達を追放することで、自分達に関わりが無いようにしたらしい。

 酷い話しと言うか、何と言うか…‥‥けれども、まだ日記には続きがあった。

 だいぶ日数は飛んだが、どうやら様々なことが起きたらしい。

―――――――――――――――――
『千五百二十八日目』
‥‥‥昨日、旅をしている中で商人たちが話していたが、どうやら祖国のベルマッガー王国が滅んだらしい。我々の作り出した知恵のあるモンスターの一体が降臨して、何もかも蹂躙してしまったようだ。
責任を押し付けてきた奴らとは言え、我々が難を逃れてしまったという結末なのは何ともいえないが‥‥‥その規模に他国の軍がただ事ではないと判断して、駆逐作業に入った様だ。
ああ、もったいないな‥‥‥でも、その話しの中で、この近くにまた一体、我々が作ったモンスターがいるらしい話も出て来た。探ってみようと思う。
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『千五百六十九日目』
朗報だ。どうやらこのモンスターは、まだ穏やかな気性であり、交渉の余地があるようだ。どうやら長い放浪の末にマザータラテクトの一歩手前ではあったが珍しく争いを好まず、我々が‥‥‥いや、もう仲間もいないが、自分だけが観察して見ていても良いという話になった。その代わりとして、何も危害を加えないなどの細かい制約を喰らったが、そんな物はどうでもいいだろう。
自由を求めているのであれば叶えてあげよう。拘束したところで帰るところもないのであれば、間近で見ることができる状況な方が良い。

『千五百七十日目』
一晩明けたら、マザータラテクトになって、10匹ほどの子蜘蛛を産んだ。
うわぉ、卵を産んだらすぐに孵って来た光景が驚きではあるが‥‥‥このまま群れを形成して、過ごすらしい。
ただ、問題なのはこの子蜘蛛たちがマザーと同等の能力を持っているのかという点もあるが、このままだと明らかに目立つ。
討伐されてしまえば、憂いも無くなるだろうが‥‥‥ああ、研究者の性として、どうにか全員無事に育って観察させてほしいと思う。
そのため、何処かで静かに過ごしても良いような安住の地がないか、探すことにした。
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『千七百日目』
きりが良いとは思うが、とあるダンジョンが産まれたのを確認した。
ダンジョンはモンスターの巣窟ともなり得るが‥‥‥考えたら、ここで過ごせばそうそう人の目に着くこともあるまい。
ダンジョンは成長するし、どんどん最深部へ隠れて移り住めば、安住の地となり得るのではないだろうか?
ここからマザーのいるところまで十日はかかるが、この情報を伝えてみよう。
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『千七百十一日目』
予定より一日遅れで到着したが、群れの総数が千匹を超えていた。
マザー、産み過ぎじゃないか?と思ったが、まだ全員小さな子蜘蛛なのでノミにたかられているようにしか見えない。
とにもかくにもダンジョンの話を伝えて見れば、移住先として乗り気らしい。うん、案内するからそこまで向かうとしよう。
え?名前を何匹かに付けて欲しいって?この子蜘蛛たち、個性を溢れさせて冒険に出たいとねだるから?‥‥ネーミングセンスに難があるが、できるだけ善処した。一匹目はとりあえずチビ助と名付けて‥‥‥
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『二千日目』
ダンジョンに潜り、安住の地として生活し始めたが、まだまだ安住の地とするには程遠い。あちこちからモンスターが産まれてくるし、人間も入ってきそうだ。
観察の邪魔になるし、マザーや子蜘蛛たちに対処方法などを教え込むことにした。
幸い、マザーの子供たちの知能もやや高い程度に成長してきたので、理解できるだろう。
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『三千日目』
『四千日目』
『五千日目』
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『一万日目』
‥‥‥ああ、最初は書けるはずもあるまいと思っていたが、いつの間にか最後のページになっていた。
もはやスペースもぎちぎちで、観察だったはずがいつの間にか成長記録に‥‥‥ここまでなっていたとはな。
病に侵され、もう間もなく自身の命も尽きようとしているが‥‥‥悔いはない。ここにいるタラテクトたちは、やや常識が抜けていても良い子たちに育ってく入れた。
時々人を狩ってくるのはぎょっとするが、襲われた時と知られそうなときにだけとして、普段は関係ない人たちは襲わせないようにしていた教育が功を成したのか。
マザータラテクト‥‥‥いや、既に二代目が誕生し、初代のタラテクトよ。お前は母として立派に努めたが、もう亡くなってしまった。
悲しいのだが‥‥‥もう間もなく、自身もお前の元に行こう。人の身勝手さで誕生させてしまったが、それでも輝ける日々があったからな。
でも、せめて最後の仕事としては‥‥‥この研究成果を秘匿することにしよう。やらかした内容が内容だけに、人の目に触れたら絶対に不味いからな。
子蜘蛛たちには、ここに作った研究室を、代々マザーの下に埋めて人の目にはつかないようにしてもらった。
つねに生み出した蜘蛛たちの子孫に守られ、この生涯を終えよう…‥‥
―――――――――――――――――


【‥‥‥それで、全部終わった】
「‥‥‥なるほど」
「先祖が、人に作られたものでありつつ、ある程度の規律があるような社会性があったことに納得できたわね」

 あちこち虫食いが合って省略した個所も多かったが、結局のところ、この部屋はハクロの先祖に生涯を尽くして見続けた者の最後の地だったらしい。

 骸骨なんかが残されていそうなものなのだが、どうやら相当の年月が経過したようで、風化し切った様だ。

「それでもこの日記が残っていたのはすごいな…‥‥」
「何か、特殊な保存技術でもされていたのかしら…‥‥」

 ハクロのかつていた群れを作り上げた人物‥‥‥群れの創始者とでも言うべきか。

 代々マザータラテクトにはこの話が伝わって、代替わりごとにこの部屋を移していたのであれば、隠されていたのも納得できる。

「と言うかそもそも、ここで生まれたらダンジョン産とも言えるけど、初代がまさか、人の手によって生まれていたことが一番驚きかもなぁ」

 そんなことが無ければ、群れは無かったのかもしれない。

 どこかで途絶えていたのであれば、ハクロが産まれる事もなかったのかもしれない。

 いろいろな偶然を経て、ハクロが産まれたのであれば‥‥‥それこそ、神の奇跡と言うべきものかもしれないと思うのであった。


「ところで、一つ気になる事もできたのよね」
「何かあった?」

 っと、日記も読み終え、この部屋などの報告も兼ねて帰還しようとしていたところで、ふとアリスが考えこむような顔でつぶやいた。

「何匹か逃げて、その内の一匹がハクロの先祖なのよね?だったら、その他は今、どうしているのかしら?」
「言われてみれば、どうなんだろうか?」
【キュル‥‥‥この場合、親戚たちっていうのかなぁ?】

‥‥‥なんか大きな火種になりかねない事も残されている気がする。

 うん、何も聞かなかったことにしたほうが良いかもしれない。この世にまだ、同じようなモンスターの群れができているとか、シャレにならないと思えるからね…‥‥





‥‥‥アルスたちの考えは、当たっていた。

 けれども、幸いにして今すぐに関わるようなことは無かった。

 何しろ、バラバラになって逃げ伸びたとはいえ、生存し続けるのかと言えばそうでもなく…‥‥それでも、生き延び続けた存在はあれども、人の手に届かないような場所へ逃れていたからだ。

 だがしかし、その内の一体がとある機械神とちょっと関わりを持って、神罰執行に手助けをすることになったが…‥‥そんなことを、彼らが知る由はないのであった。

「そもそも、人の知恵ねぇ‥‥‥そんな変な改造をしたから、妙な進化を遂げるような感じになったのじゃないかしら?」
「それはそれであり得そうかも。ハクロのこの姿になった要因って、その可能性もあるかも」
【キュル‥‥‥?でも、ご先祖様のおかげで、この姿になれたなら良かった。アルスにこうやって、くっつけるものね♪】

「帰るまでは油断しないほうが良いのだけれども…‥‥なんかもう、いつもの調子に戻っているのねぇ」



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