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3章 学園中等部~

3-37 道なき道でもないのだが

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‥‥‥かつて、ハクロの群れのものたちが使っていたという隠し通路。

 右へ左へ、上へ下へ‥‥‥あっちこっち入り組んでいるようであり、そして複数の隠し通路を経由して群れのいた場所へ辿り着けるらしい。

「ただ、思いっきり人が使うことは想定していないね‥‥‥護衛の騎士たちが動けなくなることになるんだけど」
「もう少し、待ってあげて欲しいですね。護衛無しでは、不安なところもありますもの」
【キュル‥‥‥兄、姉たち、もっとすいすい行っていたけど、ここ使うの、私たちぐらいだったからね】

 ハクロにしがみつきつつ、彼女と共に向かうのはいいけれども、他の同行者が進むのに手間取っている。

 まぁ、ここまで入り組んでいるというか、まともな人では行けないような道なき道とも言いたくなる隠し通路だし、鎧を着こんでいる騎士たちなどでは動きが制限されるのも無理はない。

 あちこち本当に入り組んでいるからな‥‥‥ダンジョンよりもダンジョン迷宮と化してないかなこれ?言っているだけじゃ意味わからないけど、複雑である。



 とにもかくにも、あちらこちらへ先に進んでいたが、ハクロの手助けなどもあったとはいえ流石に疲れてきたところ。

 なので一旦、通路ごとの間にある別の場所で、休憩を取ることにした。


「ふぅ、あっちこっち、人が入るようにできてないな‥‥‥」
「当たり前かもしれないですけれども、それでも短時間でだいぶ下へ来てますわね‥‥‥」

 いつのまにか帰らずの穴底へ誤って落ちることが無いようにされていた柵が失せており、設置されていない階層まで来て居たようだ。

 アリスの見立てでは、本当はこの一に来るまでもっと時間がかかるはずらしいが…‥‥あの入り組んだ道でショートカットした部分があるようで、大分時間を短縮して下にたどり着いたようだ。

【キュル、それなりに早い道。でも今回‥‥‥騎士たち移動させるのに、時間かかった】
「「「おうふっ」」」

‥‥‥ハクロが少し申し訳なそうに言ったが、護衛の騎士たちの精神にはダメージが入ったらしい。

 護衛をしている人たちだけに、護衛対象となる相手から言われるのは心に来たのだろう。

 悪気はなく、素直に言ったのだろうけれど、純粋に言われるからこそ心に来るんだろうなぁ…‥‥

【でも、もうすぐ、辿り着くはず。私のいた場所、もう近い】
「そんなに近いの?」
【うん、あとちょっと。あと‥‥‥キュ?何、アレ?】


 休憩しつつ、もう少しなのかと思っている中で、ふとハクロが気が付いた。

 護衛をしていた騎士たちの一人の元に、黒づくめの人がいきなり出て来たところを。

 不審者っぽく見えたが、何やら間諜の人のようで‥‥‥騎士に何か話して、顔色を変えさせる。

「皇女様、緊急連絡です!!」
「何事かしら?」

 騎士の叫びに、休憩していたアリスが反応してその理由を問う。

「間諜の者たちからの連絡ですが、数分前ほどにダンジョンの上部の階層にて、謎の戦闘集団を確認!!ギルドに属する冒険者やその他の騎士たちではなく、怪しい集団!現在交戦状態であり、敵対しているようすです!!」
「「【!?】」」

 突然のその報告に、僕らは驚愕する。

 詳しい情報を聞けば、ギルドの方でも把握していない人物たちらしく、間諜の一人が出くわした途端に攻撃を仕掛けられ、戦闘状態になったらしい。

 一国の皇女がダンジョン内にいる中で、そう変なものを入れないようにしているはずなのだが‥‥‥どう考えても明らかにヤヴァイ雰囲気を纏っているそうで、交戦しているも押されているようだ。

「わたしがいるのに、襲ってくる集団‥‥‥どう考えてもまともじゃないわね」

 今は親しげに話せているが、アリスはエルスタン帝国の第1皇女。

 彼女の身に何かがあれば、下手したら国際問題になりかねないので、この国にあるギルドが変な集団を普通は通すわけがない。

 けれども、悟られないように侵入をしていたところを見ると、ただ者ではない者たちが入ってきたことを理解させられる。

「一度、引き返すのは?」
「それはダメね。交戦中ですし、迂闊に引き返せば鉢合わせしかねないわ」
【キュル、隠し通路使って、奥に逃げるのは?】
「その手が使えそうだけれども‥‥‥」
「あの、それが‥‥‥どうやら相手はその隠し通路も把握して動いているようです!!」
【キュルッ!?嘘っ!?隠し通路、私や、お母さん、その他の兄弟姉妹しか、知らないはず!!なのに、何で入っているの!?】

 報告によれば、その謎の集団もハクロが使っていた隠し通路を利用しているようで、急速に接近しつつあるらしい。

 しかも、かなり把握できているのか隠し通路を利用しての奇襲攻撃などもあるそうで、対応が間に合わないようだ。

「これは不味いわね‥‥‥緊急事態用の退去用魔道具を作動させるわ!!アルス、ハクロ、あなたたち来なさい!!」
「わかった!!」
【キュル!!】


‥‥‥ダンジョン内は、定期的に狩りがなされつつ、冒険者たちも中に入りこんで探索しているので、何かあれば何かと手助けを借りやすかったりする。

 けれども、今いるような深い階層などでは緊急事態が起きた際に手を借りにくく、脱出する鹿内ことがあるらしい。

 でも、負傷していたりしたら動きが制限されるので…‥‥ダンジョン内から瞬時に脱出できるような魔道具を、入りこむ前にギルドの方から、入る者たちの中で代表に支給されるのである。

 わかりやすく言えば、某電気ネズミゲームに出るあ〇ぬけのヒモとか、某勇者なRPGの〇―ラのダンジョン限定仕様バージョンと言うべきか…‥‥ダンジョン内でしか使用できないという制限は有れども、緊急脱出には使える道具である。

 僕らは素早く有栖の指示に従い、彼女の側に立つ。

 そして彼女が懐からその魔道具を取り出し、起動させる。

「それじゃ、さっさと脱出よ!!」

 怪しげな集団と交戦するのは避けたく、まだ探索したいところがあったとはいえ今は切り上げるしかない。

 なので、このままダンジョンから脱出すればいいだけだったのだが…‥‥そうはうまくいかなかった。

 見てしまったのだ、ハクロも一緒に逃げられるように、彼女の方へ振り返った時に。

「あっ‥‥‥!?」


‥‥‥この世界では、魔法や魔道具がある。

 だからこそ、そうそう見るはずのないものと言うか、前世でもゲームや映画でしか見ることが無いような、似たようなものはあったりするが、それでもあそこまで酷似したものはない。

 僕は見た。

 いつの間にか、この階層に来ていたらしい謎の集団の者と思われるような人物が立っていた光景を。

 その手には、拳銃のようなものが握られており、引き金が既に引かれようとしていたところを。

 その銃口はハクロに向けられており‥‥‥‥気が付けば、僕の体は動いていた。


 何を考えているのだろう、僕よりも彼女の方が強いのに。

 どうして動いたのだろう、彼女の身体能力であればかわせたかもしれないのに。

 いや、違う…‥‥あれは銃なんてものではない。似てはいるけど、違うものだ。

 当たると不味いが、それでも彼女に当たるよりはマシだろうし…‥‥僕としては、彼女に傷がついて欲しくないのだ。

 優しい彼女の顔が、痛みに歪むような顔を見たくないのだ。





‥‥‥‥ああ、でも考えたら、僕が傷つくことも彼女を悲しませるだろう。

 それなのに、なんでこう、動いちゃったのかなぁ…‥‥うん、そこは反省しよう。あと護衛の騎士たち、普通はそっちが気が付くものだと思うんだけど‥‥‥いや、彼らの元々の職業を考えると、皇女の方がどうしても優先されるから仕方がないのかもしれない。



 数えることもできないような、ほんのわずかな時間。

 素早い思考ができたのは、頭で判断するよりも先に体が動けたせいなのか、それは分からない。

 火事場の馬鹿力と言うべきか…‥‥男の子としては、大事な女の子を守りたいという気持ちのせいか。




―――ダァァン!!

 銃声が響き、何が起きたのか、その場にいた者たちは気が付いた。

 アルスが素早く動き、ハクロの身体を横へ倒し、代わりに撃たれた光景を。

 ハクロは見た。自分の大事な人が、かばって撃たれた光景を。

【あ、‥‥!!】


 何かを叫びかけたが、その声はその場から消え失せる。

 緊急脱出用の魔道具が作動し、彼らの姿をその場から消したからだ。

 そして、銃口を向けたものは仕留めそこなったことに舌打ちをしつつ‥‥‥それでも、無駄弾を撃ったわけではないという事を理解する。

 
 なぜならば…‥‥彼らがいた場所には魔道具で移動されなかったらしい、それはそれは、綺麗な赤い花が咲いていたからであった…‥‥



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