上 下
63 / 229
3章 学園中等部~

3-1 春風と共に経過はしており

しおりを挟む
‥‥‥初等部での月日も過ぎ、14歳となった。

 雪解けもすっかり終わり、学園の初等部寮では今年度中等部になった生徒たちが引っ越し作業をしていた。

 学年も上がり、何かと手狭になってきている寮の自室。

 年月を経たからこそ積み重なったものも多くなり、引っ越しによって新しい寮室へ移ることで大掛かりな整理整頓を行うのだが…‥‥これがまた大変であった。


「おいいい!!なんかタンスが邪魔しているのだが!!」
「こっちに捨てる予定の本があれば、早めに集めろー!」
「部屋の掃除もしっかり終わらせろよー!!」。

 貴族である生徒の中には、家から呼んで来た使用人たちに任せる者もいるが、平民であればそうはいかずに重い物は協力して運び合う。

 それでも荷物が多少は残り、あちこちに置かれて邪魔になりやすい。

 まぁ、そんな状況でも場所によっては…‥‥


【キュルル!壁上れば、何も邪魔されないし、楽に移動できるね♪】
「これ、ハクロしか使えない手じゃないかな?」

 中等部寮の壁を糸で伝いつつ、荷物を運ぶハクロに僕はそうツッコミを入れる。

 一応、蜘蛛のモンスターである面をここぞとばかりに活かしてくれるのは良いし、特に困る事もないのでツッコまなくていいのかもしれない。

「おーい!!ハクロちゃん、こっちも手伝ってほしい!!」
「終わったらでいいから、できるだけ頼むー!!」

【キュル!アルスのが先ー!!】

 荷物の輸送状況を見て同級生たちがそう叫ぶが、順番的には後になるだろう。

 今は僕らの引っ越しの方が優先されるからね。

「にしても、中等部になっても別に別れさせられることはない、か‥‥‥‥ハクロ、一応先生たちに聞いたけど、女子寮に移っても良いようだよ?」
【んー‥‥‥でも、アルスは移れない。それ嫌。私、アルスの側にいたい!】

 本をシュルシュルと糸で器用に並べつつ、僕の問いかけに対してハクロはそう答える。

 中等部となった今‥‥‥14歳となり、年齢的には前世の中学生~高校生の境目あたりになるだろう。

 だからこそ、不純異性交遊などが無いように男子女子の寮がよりはっきりと分かれ、ハクロの方も移動できるはずだが‥‥‥彼女はそれを拒否し、僕と一緒の寮で過ごすことを選んだ。

 今さら互いに離れて暮らす気もないし、一緒にいて何も問題が無いのであれば、それで良いはずだ。

 そもそも、起こす起さない以前に、彼女の僕の部屋での動きは大抵枕だからね‥‥とは言え、成長したせいで小さくなるサイズも変化させることになったけどね。




 何にしても、それなりに荷物の移動などで時間をかけ、ようやく終わったのは夕暮時。

 あさって辺りには今年度の新しい新入生たちが入るので、できるだけ早く移動しようと思っていたが、この様子だとギリギリまでいなくても良かったかもしれない。

「というか、中等部用の新しい寮室って、初等部の時より広いなぁ」
【キュル♪もの、新しく置けるね】

 生徒たちが過ごしやすいようにか、年齢に合わせてできる限り部屋の広さも変えているらしい学園の寮。

 授業内容も増加し、対応する教材を置くスペースなども必要になって来るとは言え、一人一人に子の広さはちょっとした贅沢なようにも思えてしまう。


 まぁ、僕らの場合は二人で利用することになるのだが…‥‥小さくなる薬もあるし、初等部寮の広さでも特に困った事もなかった。

 しいて言うのであれば、高等部になったらまた引っ越しがあるだろうが、その時にどれだけ荷物が増えているのかという部分が不安にはなる。まだ当分先のことだし、そこまで気にしなくても良いのかもしれないが‥‥‥増えるんだろうなぁ。



 一生懸命作業して疲れ、出た汗も風呂に入って落としてきたが、のんびりと部屋の広さを体感するよりも疲れからか眠気が華麗に襲い掛かってくる。

 ハクロの方も体力は人よりも多いはずだけど、こういう作業は精神的に疲れてくるのか、うつらうつらとしている様子。

 いつもであれば枕になってもらうけれど…‥‥今日は普通に、元のサイズのまま一緒に寝たほうが良いかもね。

「というか、ハクロの背中もちょっと小さくなったというか‥‥‥いや、僕の方が大きくなってきたせいかな?」
【キュルゥ、アルス、身長伸びてきた。でも、まだ小さいよ?】

‥‥それは効く言葉なので、やめてほしかったかもしれない。前世の知識だとこの年齢の男子は165ぐらいあるのに、僕はまだ150ちょっと…‥‥まだまだ伸びる可能性はあるけど、他よりちょっと小さいからね。

 高等部までに爆発的に伸びて欲しいのだが…‥‥果たしてその希望は叶うのか?それは神のみぞ知ることだろう。

「まぁ、これはこれでハクロの背中にまだ寝れるのは良いけどね…‥‥ふわぁあ……欠伸が出てきた」
【キュル、ふわぁぁ‥‥‥私も、眠くなってきたかも】

 欠伸は移るとも言うが、大体同時に出てしまった。

 眠気がじわりじわりと攻めてきており、そろそろ敗北するだろう。

 そうなる前に、さっさと寝たほうが良いので、ハクロの背中に寝かせてもらいつつ、布団をかぶる。

「でも、ここから中等部か…‥‥初等部とは違う授業があるのを考えると、ワクワクして寝にくくもあるな」

 
 そう、中等部になると、授業内容もまた初等部とは変わってくる。

 社会的責任能力も求められてくるし、ある程度の嗜みなども付けなければいけないようで、同じようなものでも変わってゆく。

 数学はより複雑な数式へ、歴史はさらに細かい偉人の家族構成を覚え、運動系の授業は分かれて行く。

 剣技を極めたいもの、体術を極めたいもの、単純に体力を付けたいものなどニーズにこたえるがのごとく、多く存在しているのである。


 また、貴族家の次期当主にもなれば政務に関する学問や、貴族としてのマナーも初等部以上の者が求められるようになり、あちこちの家の情勢なども入りやすくなってくる。

「色々と楽しみだけど…‥‥一番やりたいのは、やっぱり護身術系かなぁ」

 前にあった聖国の一件以来、僕らを狙うような動きは特になくなったように思えるだろう。

 けれども、密かに進められているような気もするし…‥‥また面倒ごとに巻き込まれる可能性がないとは言えない。

 ハクロが僕のことを守ってくれるらしいけれど、やっぱり僕は僕なりに彼女を守りたい。

 だからこそ、剣術の授業などを選択して、自分自身を成長させていきたい。

 守られるだけじゃなく、いざという時には僕の方から彼女を守りたい。

 ずっと一緒にいてくれた、大事な家族に狂刃が向けられないように、その前に立ちふさがりたい。


「受けてみるまで分からないけど‥‥‥中等部、ここからの授業内容をしっかりと聞いて過ごしていこう‥‥‥ってあれ?」
【すやぁ‥‥‥すぅ‥‥‥】

 中等部の授業に向けての意気込みを語ろうとしていたが、既にハクロは先に夢の中に行ってしまったらしい。

 柔らかい身体で僕の方に向いていたようだけど、その分しっかりと寝顔が見える。

「‥‥‥まぁ、良いか。気合いを入れるのは明日にもできるし、今はもうゆっくり寝れば良いか」

 幸せそうに寝息を立てているハクロに対して、起こさないように僕の方も眠りにつく。

「それじゃ、お休みハクロ‥‥‥‥中等部からの生活も、一緒に頑張ろうね」
【すやぁ‥‥キュキュル‥‥‥】

 ほとんど寝ているにもかかわらず、返事するかのように鳴くハクロ。

 そんな彼女に愛おしさを感じつつも、僕も夢の中へと向かうのであった‥‥‥‥


「‥‥‥ああ、そう言えばハクロの方も、中等部から動きを変えるんだっけ‥‥‥教員の方々が提案したあれか‥‥‥」


‥‥‥ふと、完全に寝付く前に思い出したが、初等部の時期に、ちょっとハクロに教員になってみないかという打診があったが、僕との時間が減ると言って彼女はそれを断っていた。

 そもそもモンスターである彼女が教壇に立っていいのかというツッコミもあるが…‥‥頭の良さとかを考えると、教師になろうと思えばなれるかもしれない。

 でも、そんな道は選ばなかったが…‥‥その代わりに、中等部になってから彼女は彼女なりに、ちょっと動くことに決めたようである。

 教員にならずとも、学びに貢献できるらしいが…‥‥まぁ、それはそれでみるのが楽しみかなぁ…‥‥

 
しおりを挟む
感想 574

あなたにおすすめの小説

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...