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2章 学園初等部~

2-27 だからわりと見ないのである

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‥‥‥都市アルバニアの近くにて、盗賊団たちは集まっていた。

 これから襲撃を行う前に、頭が事前にあることをするという伝達によってその光景を見ていたのだが‥‥‥


「‥‥‥おお、お頭のいつものあれが見れるぜ」
「ああ、毎回見ると思うけど、どうやっているんだと言いたくなるよなぁ」

 その光景を見て団員たちがそう口にするが、驚くような声になるのも無理はない。

 盗賊団に加わって何度もこの光景を見ているのだが…‥‥それでも、慣れないものは慣れないのだ。


 彼らの前にいるのは姿が分かりにくい盗賊団の頭。

 いつも通り深くフードを被っており、どの様な容姿なのかはわからないのだが、本日は珍しく全員の前に姿を見せていた。

 そして何やら笛のようなものを持って吹いていたのだが‥‥‥演奏しているにしては、音が聞こえない。
 
 だが、その演奏の前に頭が事前に地面に植え、短時間で成長したものたちは反応していた。

【ゲルガァァアァァ!!】
【ウィィィィドオ!!】

 雄たけびを上げているのは、地面から根っこを引っこ抜き、都市を目指して動き始める植物のモンスターたち。

 その姿は生気のない目をしていながらも殺意を纏い、怪物がより怪物性を増したようにも思えるほどだ。

 しかも、一体や二体ではなく、事前に植えていた種は数が多く‥‥‥その数は優に百体を越えていた。


「植物系統のモンスターの種を保管して、襲撃時に活性化させて操っているようだけど‥‥‥今日はそれ以外にも見れるんだっけか?」
「ああ、間違いないはずだ。お頭のあの聞こえない笛の音は狙ったところへ確実に伝わるらしいからな。モンスターを凶暴化させるらしいけど、研究所で飼育しているならなおさら内部から暴れさせて、都市の内外から攻めるようだぜ」

 団員の一人の問いかけに対して、そう答えるのは古参の団員。

 何度もこうやってお頭がモンスターを不思議な笛で操る様子を目撃しており、一度は使ってみたいとは思ったのだが、どういう訳か頭を頭として認識できるのに、気が付いたら見当たらなくなったりするのでうまく話せない。

 けれども、襲撃が成功した暁にはしっかりと得た獲物をしっかり働きに応じて分けてくれるので、不満は無いのだ。



 そして今回は、大物としてエルスタン帝国の都市の一つ‥‥‥頭のその力を一番有効に発揮できそうなモンスター研究所がある都市アルバニアを狙ったが、この様子であれば心配は無いだろう。

「まぁ、モンスターで蹂躙し、どさくさに紛れて襲うだけなのは良いが、下手すると巻き添えになりかねないのが不安だがな」
「頭は攻撃しないようだが、それ以外の中でも弱そうなやつから確実に仕留めるらしいからな‥‥‥おお、怖い怖い」

 モンスターを操るような笛を持つ頭に対して畏怖を覚えるが、従って見れば大抵の場合良い結果となり、これまで失敗したことはない。

 しいて言うのであれば、頭の起こすその力を良く分かっていなかった奴がうっかり暴れているモンスターへ近づいて大怪我を負うことがあったりするのだが…‥巻き添えにならないように、程よい距離を保てばいいだけの話である。

 今、こうやって襲撃する様子を見て、うまくいきそうだと彼らが思っていた…‥‥その時であった。


ドォォォォン!!
「「「ん?」」」

 今からモンスターたちを襲わせようとしていた都市アルバニアの方から、何やら大きな爆発音が聞こえ、団員たちはその音の方に目を向けた。

 見れば、黙々と煙が立ち上っており…‥‥何かが地下から爆発したのか、破片が宙を舞う。

「ふむ?もうモンスターが暴れ出しているのか?」

 その様子を見た頭の声が聞こえ、そうかと納得しかけたところで‥‥‥何かが煙から飛び出してきた。

【シュルルルルル!!】

 ばぁっと勢いよく飛び出てきた陰に目を凝らしてみれば、大きな蜘蛛が、いや、その体には美女が付いていた。

 だが、その顔は美しい容姿なのに盗賊団の姿に眼を向けるや否や、怒りの籠った非常に冷たいまなざしが貫いてきた。


 威嚇音のような声を出しながら、土煙を大量に巻き上げ、迫って来る。

 その真正面には今から都市を襲おうとしていた植物モンスターの群れがあったのだが、そんな事も構わずに突っ込んでくる。

「な、なんだあれ!?」
「蜘蛛が美女を頭に乗せて突っ込んできた!?」

 何がどうなっているのかわからないが、そんな事もお構いなく蜘蛛の美女は駆け抜けてモンスターの群れの前まで来ると、背中から何かを取り出した。

 それは非常に大きな糸の玉のようで、それを思いっきりモンスターたちめがけてぶん投げた。


【ゲルガリアァァァァ!!】

 そんなものは関係ないというように、盗賊団側にいたモンスターが玉に対して攻撃をすると、ばぁぁんっと破裂して中から液体が降りそそぐ。

 そしてそれらが被ってすぐに、悶え苦しみ始めた。

【ゲルがリアン!?】
【ヴィィィン!?】

 じたばたと何があったのかわからずに悶えるが、数秒ほどすると変化が表れ始めた。

 先ほどまで生気のない目であったにもかかわらず、生気が戻って来て、強い殺気を纏っていたに消え失せ、ただの混乱する群れになったのだ。

【シュルルルルルルルル!!】

 混乱していることにも構わず、その謎の蜘蛛美女は糸を放出して一気に縛りあげて、あっという間に鎮静化させてしまった。

 縛り終えた後に盗賊団の方に目を向け…‥‥ぎっ!!っと盗賊団の中でも、笛を持っていた頭に目を付けた。

 怒りの目でありながらも、冷静に人を見定め、誰がこの騒動を引き起こしたのか即座に理解したのだろう。

 しゅんっとその場から姿を消したかと思った次の瞬間…‥‥頭の体が消えた。

 いや、違う。吹っ飛んだだけだ。

 あまりに素早く蜘蛛の美女が動き、その尖った足で‥‥‥違う、人の足のように見える食指で蹴り飛ばしたのである。

 
「がっ!?」

 流石の盗賊団の頭も、この消え失せるほどの素早い攻撃を避けることは出来ず、まともに喰らったのか後方へ吹っ飛んでいく。

 だが、それでも何とかこらえ切ったようで宙で体を回転させ、地面に足を付けて踏みとどまった。

「ぐっ‥‥‥な、なんだ今のは‥‥‥いや、何故この笛の音が効いていない!!」
【聞コエナイカラワカラナイ!!】

 頭の問いかけに対して、口の動きだけで何か言っていると判断したらしい蜘蛛の美女はそう叫ぶ。

 頭の使っていた笛の音はモンスターを操るようだが‥‥‥蜘蛛の美女もその類のはずなのに、どういう訳かまったく効いていない。

 いや、効いていないのではなく、彼女は回答をたった今出したではないか。「聞こえていないからわからない」と。

 頭の笛の音は人には聞こえず、モンスターだけが聞こえるようだが…‥‥その音が聞こえていないのであれば、そもそも意味が無いだろう。

 聞こえないようにしたというには、耳栓も何もつけてないようだが、先ほどの植物モンスターたちへ謎の液体をぶちまけた攻撃を見る限り、その液体で何か細工をしたようだ。

【オマエ、許サナイ!!アルス、コノ手デ、傷ツケサセタ!!大事ナ、大好キナ、アルス、ボロボロニサセタ!!】

 毛を逆立て、怒りの叫びをする蜘蛛の美女。

 その声は怒りを感じさせつつ‥‥‥何処か辛いような声も出しており、相当頭に来ていつつもやらかしたことに対しての悲しみを持っているようだ。

【何カ見ニクイ、ケド、関係ナイ!!小細工、通用シナイ!!】
「ちっ」

‥‥‥頭が頭であると分からないような、何かの魔道具による効果は今も出ているはずなのだが、どうやら彼女にはそれが通用していないらしい。

 今の衝撃で効力が弱まったのか、あるいは怒っているからこそその執念で見つけたのか、人ならざる存在だからこそ人では見えないようなものを見破るのか。

 そのどれかは不明だが、頭は自分にとって不味いと判断したのか、舌打ちをする。

 とはいえ、このあっま大人しく引き下がるようであれば、盗賊団の頭をするわけでもない。

「おまえら!!あいつを襲え!!たかがモンスター一匹、数の暴力で押さえつけろ!!」

 すぐに指示を出し、指示に対して団員たちもすぐに動き始め、襲い掛かり始める。


 そう、例え今の動きが滅茶苦茶でも、相手はたったの一体。

 それに対して盗賊団側の方は人数も多いし、何か妙な薬を使っていても、被害を被るのは一度に数人程度だろうし、やり返される前に抑え込めば問題ない。

 また、蜘蛛の体があるのは邪魔だが、それを差し引いても怒っている様子であれども美女であり、押さえつけた後に楽しめそうな気もする。

 そのため、団員たちは勢いで襲い掛かり始めたが…‥‥何時から、彼女が一人だけで全員を相手すると思ったのだろうか。

 迫りくる団員たちを彼女は冷静に見渡し、その背後の方へ彼女は目を向けた。

 素早く蜘蛛の部分から糸を射出して地面の方に付け、ぐいっと後方から持ち上がる形で宙を舞い、襲い掛かって来た盗賊団たちの頭上を華麗に飛び越える。

 そして着地した後に糸を切り離し、後方からそっと逃れようとしていた頭に素早く目を付け‥‥‥一つの瓶を懐から取り出し、蓋を開けて中身をぶっかけた。

ばっしゃぁぁあ!!
「っ!?」

 認識阻害の道具が通用せずとも、団員たちの方へ目を向けさせて逃れようとしていたようだが、その動きに反応し切れなかったのかまともに液体を浴びる。

 危ない薬かと思い、直ぐに拭き取ろうとしたが…‥‥次の瞬間、自身の体に起きた異常に気が付いた。

ぼふん!ぼふん!!
「なっ!?」

 痺れ薬だとか、何か毒の類であればまだ慣れていた・・・・・・・

 だがしかし、それらのような薬ではなく‥‥‥急に薬のかかった個所から猛烈な勢いでアフロのような毛の塊が生え始めたのである。

 どういう薬だという混乱をしつつも、放置しておけば不味いと判断してナイフで切ったが、それでもアフロの繁殖は止まらない。

 むしろ、その動きのせいで液体をふき取るのが遅れ、どんどん体中へ伝わっていきあちこちから毛の塊が生え始め、大きく成長していく。

「なんだこれは!?なにをかけた!?」
【聞コエナイ、ワカラナイ】

 問いかけようにも聞こえていないのかそう答えられるだけで、何が起きたのかがすぐに理解できない。

 そうこうしていくうちにあっという間に自前の毛に埋め尽くされていき…‥‥盗賊団の頭は、マリモのごとく一つの大きな毛の塊に成長した。

 その状態に気が付き、盗賊団たちは襲うより前にあっけにとられたが‥‥‥どうしようもない。

 次第にその毛の塊は成長してどんどん大きくなっていき、ふと気が付けば周囲を呑み込まんとする勢い。

「に、逃げろぉぉ!!」
「何だこの頭の状態、何をされたんだぁ!!」
「叫ぶな!!毛の津波に呑まれるぞぉォォ!!」

 慌てて逃げようとするのだが、混乱しているからこそ隙が大きく、彼女が素早く動いた。

 粘着性のある糸の塊をすぐに作り出し、一人一人の足めがけて投げ飛ばし、地面にくっつける。

 足を封じられた盗賊たちはそのまま頭から成長する毛の中へと取り込まれ、そうでなくとも次々に今度は首根っこをつかまれて放り込まれていく。



‥‥‥それから数分もしないうちに毛の成長は止まったが、その規模は大きくなっていた。

 そしてその塊の中には盗賊団全員が取り込まれ、身動きが取れなくなっていた。

【…‥‥血マデ見タクナイ、カラ、貰ッタ薬ダケド‥‥‥今サラダケド、何カ変ナ薬ダッタカモ?】

 ようやく怒りが収まったのか、ふぅっとひと息を突きながら彼女はそうつぶやく。

 色々と無力化できるようなものが無いかと頼み、作ってもらった捕縛薬。

 だがしかし、まさかこういう効力を発揮するとは流石に思っておらず、今さらながら何でこんな薬を彼は作ってしまったのかと首をかしげて思うのであった…‥‥






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