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2章 学園初等部~

2-15 だからいらないんじゃないかなと思う時がある

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「手紙ですか?」
「はい。アルスさん宛にお手紙が来ていますよ」

‥‥‥プールがダンジョンに飲み込まれて数日後。帝国の騎士団が制圧したという話がありながらも、安全が確保されるまで閉鎖されたままになるという知らせを聞いてがっかりしていたその日、寮の職員に声をかけられてみれば、どうやら僕宛に手紙が届いていたようだ。

 手紙と言われても、そんな貰うような相手もいないはずなんだけど…‥‥実家からという可能性もあると言えばあるだろう。

 ただ、流石に皇帝陛下やその他上層部の人達との話で聞いた限りだと、捕縛作業が進められていたはずなので、もしやその前に逃亡でもして、その恨みや辛みを綴ったのではあるまいかと疑いたくなった。

 あの父や兄たち、義母のことを考えるとありえなくもない話だ。

 でも、そうではないらしい。

「手紙の差出人が、王城からですよ」
「え?」

 何を言っているのかと、思わず僕はそう思ってマヌケな声を出してしまうのであった。











「‥‥‥んー、流石に皇帝陛下からもらうとは思わなかったけど‥‥‥進展についてかぁ」
【キュルルゥ】

 自室に戻り、手紙を開封して内容を読んでみたのだが、そこに書かれていたのは実家に関する件。

 確か、先日黒幕も根こそぎ捕らえるために色々と動かすと聞いたが…‥‥どうやら今になって、その結果を伝えるようだ。

 まぁ、ごたごたしたこともあっただろうし、内容を見る限り無事に済んだわけではなく、大問題しかなかったらしいのだが…‥‥今度の休日に王城へ召喚して、その場で詳細を伝えるらしい。

 正直、出来れば行きたくは無い。普通に捕縛出来ただけならこんな呼び出すような真似はないだろうし、何か面倒なことがあったのはほぼ間違いないだろう。

 そう考えると、こちらとしては聞きたくは無いのだが‥‥‥‥聞かなきゃいけないような気もするし、何とも言えない複雑な気持ちである。

「『なお、謁見扱いではなく調査報告を行うだけなので、気を楽にして…‥‥』…‥‥いや、出来ないよね?」

 皇帝がいる王城へ呼ばれるだけでも相当気が重いのに、気を楽にしてほしいとは何の冗談だと思いたい。

 これを書いた人、その部分にツッコミを入れる事を期待して書いているのかと思うのだが‥‥‥まさか、皇帝陛下直筆とかはないよね?

「まぁ、行くしかないのか。気が重いなぁ」
【キュルゥキュルル】

 




 休日になり、時間通りにやって来てみれば、あらかじめ連絡が行き届いていたのか兵士たちに案内されてみれば、一つの大きな部屋に辿り着いた。

 そこは謁見室ではなく、正式な王城の会議場らしく‥‥‥中に入って見れば、あの謁見のすぐ後に急きょ開かれた報告会というべき場にいた人たちや、その中心には皇帝陛下が着席していた。

「休日ながらも、良く召喚に応じてくれた。アルス・フォン・ヘルズよ」
「はっ」

 謁見の場とは違う会議室だが、きちんと臣下としての礼を取り、言葉を待って席に付く。

 そしてすぐに、あの謁見終了後の実家に関しての話が開かれたのだが‥‥‥その内容に、僕は唖然とした。

「屋敷が放火されたんですか!?」
「ああ、そうだ。もちろん、その下手人は捕縛済みだが、やった人物は男爵家の夫人‥‥‥いや、今はもうただの重罪人なのだが、彼女が火をつけたという証言などが取れている」
「あとは、当主代理であったがズラダ男爵の方は比較的軽傷ではあるが、頭皮を完全に失うことになった」

…‥‥話によると、どうやら捕縛のために国はきちんとその手の部隊を仕向けていたらしい。

 だがしかし、どうも母の愛人となっていた人物‥‥‥この男爵家乗っ取りともいえる行為を引き起こした元凶たちの動きが素早く、トカゲのしっぽ切りをされてしまったらしい。

「まぁ、その尻尾にされた重罪人共は、白状させればその元凶たちの指示を受けていたようだ。放火による騒ぎで目を逸らし、その隙に用意していた逃走用の馬車に乗って逃げるつもりだったらしいが、しっぽ切りという事で腱を切られて動けなくされた上に、証拠隠滅も兼ねてか放火した建物の中へ放り込まれたようだ」

 義母、兄であったものたち全員が重傷らしいが、一命は取り留めたらしい。

 しかしながら重罪を犯したことからは逃れられず、治療して回復次第次々と尋問拷問にかけてしっかり情報を搾りまくったそうだ。

 あえて堂々と拷問と言わないのは、年齢的にまだ幼いので配慮しての事らしいが…‥‥そこまでしなくとも理解できてしまう。むしろ堂々言ってどうぞ。
 
「そのため、現在男爵邸が焼失したが‥‥‥その消失後からさらに証拠も出てきて、罪に罪を重ねすぎて、どう処罰すべきかという話にもなった」
「え?母を亡き者にしたうえに、家を乗っ取ろうとしたとか話もあるのに、まだ罪があったのですか?」
「ああ。近年まれにみるというか、それともその元凶たちが罪を押しつけるために残していたのか‥‥」

 普通はその放火による大炎上で全部が消えうせるはずだが、どういう訳か無事な状態で焼け跡に残っていた品々があったそうだ。

「横領に領地を賭博で借金として質入れ‥‥‥その他様々なモノがあったが、ほとんど最悪な部類ばかりだ」
「…‥‥領地を借金に入れていた事実に驚愕するのですが」

 あの父、それも隠していたのかよ。

 借金の代わりに生やした毛を売っていたことは知っていたのだが、どうも僕が学園に向かった後も賭博がやめられなかったようで、領地も自身の金として手を付けてしまったらしい。

「まぁ、違法なものであり、既に国の管理下に置いたので売り払われることは無い。ただ、当主代理を行う能力がかなり悪くなっていたのだが、代理としてもやってはいけないことに手を出した以上、罪が加算されるだろう」

 まだある程度は、父は義母およびその黒幕である元凶たちに踊らされた哀れな被害者という面もあったからこそ、少しは情状酌量の余地はあった。

 けれども、これのせいでその余地も消え失せ、徹底的に処罰されることが決定された。 

 なお、借金漬けになった原因の賭博に関しても、当初は元凶が作りあげていたものだという話ではあったが…‥‥

「…‥‥とは言え、これは流石に元凶の方でも計算外だっただろう。その元凶とは異なる賭博場にも頻繁に顔を出していた明確な報告があり、そちらの方で借金漬けになったようだ」

 元凶たちも賭博をやるように誘導していたが、それはギリギリを見定めて加減していたらしい。

 完全に賭博中毒になられると、兄たちへ継がせる前に何もかも駄目にする可能性が出てきたので、そこはどうにか抑えていたのだろう。

 だがしかし、そこで駄目なら他の場所でと考えていた父だったようで、思いっきり違う賭博場へ出向き、そこで大借金を背負うことになったようだ。

「一応、現状ズラダ・フォン・ヘルズは今回引き起こした罪により、貴族位を剥奪及びヘルズ家との縁を切った。ゆえに、借金に関してはヘルズ家が負う必要はなく、ズラダに返済義務が生じる」

 


 とりあえず、色々と詳細を聞かされたが、何しろ叩けば叩くほどホコリがでるというようなもので、これで終わったかと思えばその次があり、それが解決すればまだ続いていたなど、なんでこうもあるんだとツッコミをいれたくなるほどだった。

【キュピィ‥‥‥スヤァ‥‥‥】

 流石にかなりの話の長さに、途中で聞き切れなくなったのか、ハクロが横で立ったまま眠っていた。

 そしてついでに、ここまでのやらかし具合を聞いて、何故気が付けなかったのかと頭を抱える陛下と臣下たち。

 うん、全てを見ることは不可能だと分かっているのだが…‥‥ここまで濃いと何故気が付けなかったのかが不思議でならない。

 おそらくはそこも考えて工作されていた可能性もあるが、それでも限度はあると言いたい。

「というか、兄たちの方も一枚かんでいたのがなぁ‥‥‥洗脳教育でああなっただけかと思いきや、地だとは‥‥‥」
「救いようが無いな‥‥‥いや、既に関係は無いので、わざわざ言う必要はない」

 血の繋がりもないただの他人だが、それでもつい言ってしまった。

 でもなぁ、それでも言いやすさというのがあるし…‥‥後、兄たちのやらかし具合が酷すぎる。

「各自の胃や頭が痛くなってきた頃合いだが‥‥‥ひとまずはここで休憩を取る。アルス・フォン・ヘルズ、そちらも休憩を取ると良いが…‥‥気分転換に、城内を巡り歩いてきたまえ。一周もすれば大体ちょうどいい頃合いになるはずだ」

 皇帝陛下に言われ、眠っていたハクロを起こし、僕らも休憩を取ることにした。

 というか、一男爵家の次期当主に過ぎない子供が城内を巡り歩いても良いのかと思ったが…‥‥まぁ、ここまでとんでもない報告を聞かされる身を考えて、ちょっとは気分を良くしてほしいという配慮だろう。

 その配慮は嬉しいが、何であの父たちはあんなに全員に打ちのめすようなやらかしをしていたのか‥‥‥ああ、考えたくないなぁ。

 何はともあれ、言われたことなので試しに城内を巡ってみる。

 帝国の王城というだけあって、あちこちはかなり堅牢に作られてもいるが、芸術性も重視しているのか装飾なども豊かであろう。

 中庭などもあるようで、こちらもそれなりに広く、噂では正妃主催の茶会などがあそこで開かれるらしい。

「でも、僕らに関係ない話だしね。一周して気が楽になるまで、もうちょっと見て回ろうか」
【キュルルゥ、キュル♪】
 
 ちょっとまだ眠かったのか目をこすりながらも、そう返答するハクロ。

 彼女としては面倒な話よりも、こういうところを歩くのが楽しいのだろう。

 取りあえずはある程度気分転換が取れるかな…‥‥と思っていた、その時だった。


「あらあら?何やら可愛らしい二人がいるわねぇ」
「ん?」
【キュルゥ?】

 ふと聞こえてきた声に振り返ってみれば、何やら一人の女性がいた。

 その身に似合う装飾品を付けつつ、高級感あふれており、ただ者ではなさそうだが…‥‥帝国の王城内ということで、誰なのかが自然と搾れた。

「…‥‥もしかして、正妃様でしょうか?」
「ええ、そうよ。良く分かったわねぇ」

 わかったも何も、条件を考えるとすぐに答えが出るだろう。

 そもそも、皇帝陛下と仲睦まじい夫婦という話は有名であり、その姿絵をちょっと見たことがあったが‥‥‥大体同じような人物だったので、そう判断できたのだ。



 エルスタン帝国の皇帝の正妃‥‥‥エリザベート・フォン・エルスタン。

 稀代の才女であり、今代での発展に関与し、皇帝陛下と共に国を支えるもの。

 もう一つ気になる噂話もあるのだが…‥‥見た感じだと、その話は違うのかなという印象を与えるような、優しそうな女性であった。
 
「ふんふん、小さな男の子に、それに付き従う綺麗な蜘蛛の子。ああ、そうか、あなたたちが夫が言っていたヘルズ男爵家の子ね」

 僕らの事がすぐに分かったようで、正妃様はそう口にする。

「ねぇ、今は確か報告会とかで集まっていたはずよね?何故、ここでうろついているのかしら?」
「色々とありまして、今は休憩中になったのです。そして皇帝陛下から、気分転換に城内でも歩けばどうかと言われたのですが‥‥‥」
「そう言う訳ねぇ。でも、あの人ももうちょっと器用にやれないかしら。こんな小さい子が、王城内を歩くだけでも結構大変そうですもの」

 ちょっと心に刺さるな、小さい子扱い。

 いやまぁ、確かに10歳の身で小さい方なんだけどね。

「そうだわ!ねぇ、休憩中ならちょっとわたくしの相手になってくれないかしら?今日はお茶会を開く予定があったけれども、少し皆の都合が合わなくて日にちをずらしていて、暇だったのよね」
「え?」
【キュ?】

…‥‥そうこうしているうちに、なんやかんやで僕らは流され、休憩中なのに正妃様と茶会をする羽目になるのであった。

 気分転換も兼ねて城内を歩いていたのに、何故こうなった‥‥‥‥でも、特に変な事もないだろうし、短くやってくれるそうなので、問題ないかな?
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