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2章 学園初等部~

2-1 見るもの見新しくも

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‥‥‥どうもうちの貧乏男爵領地は帝都からそれなりに距離があったらしい。

 宿場町などに寄りながら一週間ほどの行路を経て、昼頃にようやく到着した帝国の帝都エルスタン。

 国名と同じなのはどうかとは思うが‥‥‥まぁ、おかしくも無いか。前世でも都市と県の名称が同じだったり違ったり、そこは地方によって違うからね。

 とはいえ、帝都の方は男爵領地とは違い、見れば巨大な壁が囲むようにそびえたっていた。

 万が一の戦争などに備えて重要な施設などを守るために、帝都だけあって防壁をしっかり築き上げているらしい。

 
 まぁ、中に入ってみれば大都会というべきか、かなりの家々が立っており…‥‥奥の方にはこれまた大きな城のような物が見える。

 あれがおそらく、この帝国の王城であり、治めている皇帝が住まう城。

 そしてそこからちょっと離れた場所にも大きな建物があったが‥‥‥‥どうやらあれが、これから通う教育機関『ゼルナイト学園』らしい。

 そしてついでのように同じ造形の建物が傍にあったが、あちらがこれから住まう寮のようだ。


「っと、入学式の前に、入寮の手続きもいるんだっけ」

 正直あの父は放任主義に近かったが、どうやらこの帝国の教育機関に入るのは義務に近く、何も伝えないのは不味いらしい。

 なので、詳しい手続きなどを面倒だからと言って学園からの手続き用紙を父から手渡されていたが…‥


「えっと、ヘルズ男爵家からの、アルスっと…‥‥うん。入寮予定者名簿で確認できたよ。鍵はこれで、寮は初等部男子寮だからね」
「はい」

 受付で案外あっさりと手続きをすることができ、入寮が許可された。

 この学園は年齢ごとに通う場所が変わっているようで、留年さえなければ1~4年生10~13歳ごろまでは初等部、5~7年生14~16歳ごろが中等部、そして8~9年生17~18歳ごろまでが高等部として扱われるらしい。

 だいたい9年制という感じで、所属年数と年齢は出来る限り沿って進むが、成績が思わしくなかったり、何か問題を起こすと留年が決定するそうで、過去には17歳なのに初等部のままだったという記録もあるようだ。

…‥‥それはそれで、そこまで持った人のメンタルは強そうである。退学にならなかったのも最後まで学ぶ気はあったのかもしれないが…‥‥うん、深く知る必要もないだろう。

 とにもかくにも、現状僕は今年度入る1年生になるので、初等部用の寮に入るようだ。

 しかも、帝国のこの学園では大部屋ではなく、何と一人一人のためにきちんと個室の寮となっているらしい。

 つまり、私室が与えられるも同然ではあるのだが…‥‥某猫ロボの寝泊まりするような部屋ぐらいである。

「でも、プライベートの保証のために、鍵もきちんとあるようだし、問題はないかな?」
【キュルル♪】

 一応見つかったら不味そうな気もしたので隠していたハクロではあったが、出られた室内を糸で自由に飛び回り、はしゃいでいる。薬で小さくなっているからこそできる芸当であり、本来の大きさだったら多分無理だろう。

 でも元のサイズに戻っても余裕はあるし、たまに彼女の背中でゆっくり眠るのもありかも。


 まぁ、僕にとっても彼女にとっても、ここは新鮮で見るものすべてが物珍しく思えるのだ。

 前世よりも科学技術は遅れているのかもしれないが、その分、魔法という物がこの世界にあるからこそ、独自の発達をしており、見るのが楽しい。

‥‥‥あとまぁ、うちの貧乏領地、見る物が無さすぎたとも言えるからね。何かあったらよかったのだが‥‥‥その何かを作ることが出来れば、案外発展可能では?僕は独立する気なので、そのあたりは兄たち次第か。


 何にしても荷物を整理しておきつつ、入寮前に受付で貰った今後の予定表などに目を通していく。

 どうやら案外順調に進めていたようで、明日には入学式があるそうだ。

 そしてその入学式後は、まずは軽く学力検査‥‥‥要は新入生一斉テストを行うようである。

 そのテストの結果と生徒の要望次第で、そこから先に学ぶ内容を変えることもできるらしい。

「えっと、能力を生かして薬屋もやりたいけど‥‥‥変に思われないようにするためにも、薬の知識は必要だし、薬師に成れるような授業を選択‥‥‥うん、できるね」

 流石帝国の教育機関というべきか、個々の行く末を見据えての授業選択が可能なのは嬉しいところ。

「でも、時々自室に変な物を持ち込んでいないかというチェックもされるのか…‥‥これちょっと怖いね。ハクロの事がバレても大丈夫になるまで、なんとか隠したほうが良いか…?」
【キュルルゥ】

 これに隠れるよと言うように、出したのは小さな蜘蛛の人形。

 そう言えば、これがあったし当分はごまかせるだろう。

 

 色々と確認し終え、一応今後の予定としては、まずはテストに備えての勉強に、ハクロの種族について知ることができるような教員探しを行いたいところ。

 ついでに独立するためには小遣い稼ぎも必要だし…‥‥ここはまぁ、教育を受け始めてからやればいいかな?アルバイトとかも探せるのであれば、やりたいところ。

「とにもかくにも、これからしばらくここで過ごすし、将来へ向けて一生懸命勉強するぞー!!」
【キュルルー!】

 今後のことに対して、ハクロと一緒に気合いを入れる。

 前世の知識もあると言えばあるが、それはあくまでも前世の世界でのことだし、ここでは通用しないこともあるだろう。通用するのは精々数学あたりかな?

 だからこそ、一生懸命真面目に学ぶしかない。「前世分の知識チートだぜ!!」みたいなことは出来ないんだよなぁ‥‥‥案外この辺りが厳しいところ。

 何にしても、真面目に一生懸命やればその分が返ってくるだろうし、成績を上げて覚えを良くすれば、何かと教員たちにも相談しやすくなるだろう。

 将来の薬屋営業‥‥‥いや、場合によっては変えるかもしれないが、悠々自適なのんびり生活を目標にしつつ、僕らは受ける立場として教育にしっかりと向き合うのであった…‥‥

「ところで、初年度は共通して受ける科目があって、教科書も配布されたけど‥‥‥帝国の歴史の教科書だけ分厚いよね?」
【キュルルゥ】

‥‥‥この国、思ったよりも歴史は長いらしい。もしや、今世の一番の敵は歴史の授業じゃないかな?








‥‥‥新入生対象のテストに向けてアルスが勉強に励み、ハクロの蜘蛛部分を枕にして寝付いた夜中。

 ゼルナイト学園の職員室では、そのテスト作成に向けて教師たちが動いていた。

「っと、新入生にはこれは難しすぎるだろうか?」
「むぅ、平民や貴族によっては家庭教師などの差があるのだが‥‥‥いや、それでも出来ないやつはいるか」
「簡単な算数や絵の問題は楽でしょうが、帝国の歴史の場合だと全部覚える人もないでしょうしね‥・・・」
「いや、あれ教師でも結構きついだろうが」

 今年度の新入生はどうなのか、その学力を測るためのテストだが、これを作製するのがなかなか難しい。

 家庭の環境によっては学力が異なってくるだろうし、そもそもまじめに勉強しないような輩もいる。

 最初のテストだからという事で、わざと手を抜いていたり、甘く見るような輩もいるのだが‥‥‥出来ればここで、躓いて欲しくはない。

「にしても、今年の新入生は各自バラバラだというか‥‥‥それでも、入学式までには全員入寮できるようだな」
「そうそう、去年は遅刻したり、昨年は遊び惚けて逃がしかけたやつもいましたからなぁ」

 テスト作りで疲弊しているので、軽い笑い話で教師たちは盛り上がる。

 明日のテストのために作りながらも、こうやってちょっとリフレッシュするのもいいのだ。

「ああ、そう言えば議会の方から連絡がありましたが…‥‥今年の新入生の中には、その出来によって家をつぶすか潰さないか、という査定がつくのもいるようですな」
「ヘルズ男爵家にアルガストン侯爵家、ヘビーブタンガス侯爵家…‥‥このあたりの家々の子供らが、今年度の新入生としてきているようですからね」
「特に、ヘルズ男爵家の場合は長男と次男がやらかしてますからな…‥‥新たに入ったこの三男がどうなるのかが気になりますなぁ」

 っと、会話してる中で出てきたのは、アルスの属する男爵家。

「あそこは昔は良かったようですが‥‥‥今代は落ちぶれてますし、長男次男はダメというしかないというか‥‥‥入って早々に、家潰し決定とかにならなければいいのですが」
「うーん、難しいですなぁ…‥‥まぁ、話によればその三男はそもそも独立する気で、当主争いに加わってないとその二人が言ってましたし、何か違うと良いのですが」
「むしろ、加わるべき価値も無いと見切っているのか…‥‥そのあたりは、結果次第その当人次第ですな」

 何にしても、テストは作成されていき、明け方頃には完成し終えていた。

 生徒たち全員にいきわたる量もできがあり、ほっと一息をつく教師たち。

 あとは、今年度の新入生たちがどのぐらいの力量を持っているのか楽しみにしつつ、入学式を迎えるのであった…‥‥
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