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とある田舎の少女の話 その3

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……翌日、朝日が昇り、明るくなったころになって、ミッシャが起きると朝食が用意されていた。

「って、何よこれ‥‥‥すごいうまいんですけど!?」

 一口食べて、ミッシャは思わずそう叫んだ。


「兄さまが作った朝食ですからね。不味いはずがないのですよ」

 パクパクと上品に食べつつも、その食べる速度は速いミーナ。



 村で生活していても、絶対に食べることができないようなおいしい朝食に、ミッシャは思わず泣きそうになる。

「こ、この世にここまでおいしいものがあるなんて……生きていてよかったわぁ」
「泣き過ぎだろう……軽く作っただけだぞ」
「どこが軽くなのでしょうか!?」


 呆れたような声を出しつつ、涙を拭くためのハンカチを差し出してきたミーナの兄・・・・・・ゼリアスと言う人物に対して、ミッシャは思わずそう叫ぶのであった。




 ミッシャが歌でぐちゃぐちゃにしてしまった部分を修復し、帰って来たらしいのだが、それにしては疲労の色は見受けられない。

 ミーナの話では、ゼリアスは悪魔の中でもトップクラスのものらしいが、こうして話してみるとそうは思えない。

  


 一応、森の中をさまよっていたところを助けてくれた人物でもあるので、朝食後に改めてミッシャはゼリアスにお礼を述べた。


「あの、森の中でさまよっていたところを助けてくれてありがとうございます」
「いや、別にたいしたことじゃない。お前の歌のせいで森が崩壊しかけていたし、気まぐれで助けただけだからな」


 ミッシャのお礼の言葉に対して、ゼリアスの言葉はそっけなかった。


「と言うか、木々の修復や辺りで気絶した動物たちの治療、歌で腐った土の入れ替えなどに相当疲れたんだがな…‥」
「本当に申し訳ございません」


 やや憎々し気な言葉に、頭が上がらないミッシャであった。








 とにもかくにも、ここに長居はせずにミッシャは自身の家がある村へ帰ることにした。

 ミーナも一緒で、彼女がミッシャの父親の診断をしてくれるそうでとてもありがたい。


 とはいえ、帰らずの森からミッシャの家までは距離があるので、何か乗り物に乗っていくという話であったが…‥‥



「高いんだけど……大丈夫だよね?」
「大丈夫大丈夫、飛行魔法の中でもそこそこ扱える魔法だし、落ちて怪我することはないわよ」

 ガタガタと震えながら尋ねるミッシャに、ミーナは笑顔で答える。



 森から出るために、まさか空を飛んで移動するとは思わなかったのだが‥‥‥その飛ぶために乗っているのが箒である。


 ミーナの後ろに二人乗りの状態で飛んでいるのだが、かなり上空に位置するので落ちたときのことを考えるとかなり怖いのだ。

 がくぶると震えながらもなんとかミッシャは耐えきって、村についたときには昼前であった。



「到着☆」

 すたっと地面に足を下ろして満足気に言うミーナ。

 ミッシャは地面に足を付けると、生きている実感がわき、地に足が付いているのは素晴らしい事なのだと改めて思うのであった。

「もう二度と、空を飛びたくないなぁ‥‥‥」
「あれ?高所恐怖所になっちゃったかしら?」





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