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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-90 加速する方法は、様々で

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…最速のモンスターといえば、何があるのか。
 そう疑問を問いかけられると、様々なプレイヤーたちはその回答に困る。
 
 例えば、ペンギンのようなモンスターがいるとしよう。
 彼らは陸上ではぺちぺちと歩く速度は遅いのだが、海の中では高速で泳いでしまう。

 一見その場所では降りそうでも、違うところではその速さの話が違ってくるのだ。
 空を飛翔し、大地を駆け抜け、海を貫き、星々を超えて…モンスターのいる場所が多いがゆえに、それぞれの分野で速さを問われるとどれが最速なのか断定できないのである。


「だからこそ、状況に応じた各分野最速とかでランキングが日夜変動するって聞いているけど…この牧場での、星の反対側まで行ける最速が、これってこと?」
「そうだよ。私のミルルン牧場最速を誇るのであれば…この子、『ジェッターワン』の『ファイオ』!!」
【ワォォォォォォォォォン!!】

 星の裏側にそろそろ着陸するらしい不審船の話を聞き、ハルたちはミントもといここではミルルンの持つテイムモンスターの中で、最速だというもののところへ訪れていた。

―――
「ジェッターワン」
シンプルな名前ながらも、名が体を示すように、その肉体はジェットエンジンの胴体に犬の頭から手足が生えただけのキメラっぽいモンスターである。
一説ではどこかを今日も飛んでいるジェッターと呼ばれる使用人の部品の余りが、何かしらの原因で犬系のモンスターと混ざってしまい、誕生したと呼ばれている。真偽は不明だが、ジェッターという使用人も否定はしておらず、信憑性はそこそこあるらしい。
手足を折りたたんでジェットエンジンなボディを点火し、超加速であっという間にどこにでも飛ぶことが可能であり、一部プレイヤーたちの間ではプレイヤーイベントとしてのグランプリが開催されるなど、意外にも愛好家も多い。
―――

「あー…なるほど。なんか納得したかも」

 何かとジェッター本人と出会うことがあるので、その面影があるのかと問われれば、このジェッターワンのファイオには確かにあるのかもしれない。こう、ジェットエンジンの噴出口とかの形とか…多分。

「それで、この子に騎乗して乗るわけか」
「そうだよ。でも、定員二名までだから、ハルのテイムモンスターたちはいったんハウスシステムに入ってもらうほうが良いかもね」
「あ、そんなに乗れないのか」
「うちの子、普通種だからね。牧羊犬代わりになるから良いんだけど、大人数を乗せるならボンブレスハム種じゃないとダメなんだよねー」

 亜種というかなんというか、モンスターだからこそ進化先が多いようで、大人数が騎乗できるタイプや、さらに素早いタイプ、あるいは水中専用や地中専用など分かれているらしい。
 ミーちゃんのこのファイオは普通の進化を選んでいるらしくて、普通の犬種…というべきかどうかはわからないが、そこまで器用というわけではない。

 だが、普通であってもジェッターの子供のようなものでもあるせいか、その速度はすさまじいようで、牧場内最速は伊達ではない。

「それじゃ、このつかみ部分をつかんでね」
「騎乗っていうけど、上に乗るというよりも両端をつかんで…これ、かなり手に負担がかかりそうだけど本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。安全綱もつける必要はあるけど、うっかり手を放しても人間凧(凧無し)になってしまうだけだからね!!道端に落ちて放置とかは絶対にしないよ!!」
「凧状態にどう安心しろと?」

 まぁ、とにもかくにもこんなことをしている間にも、星の裏側のほうに向かった相手が不明な以上、さっさと確認しておきたいところ。
 それに、大型の戦艦とかは乗ったが、こういう小型の乗り物とかはアルケディア・オンラインでは中々乗る機会もないだろうし、貴重な体験だと思いたい。

「ファイオ、発進!!」
【ワォォォォォォォォォォォォォォォォン!!】

 備え付けられていたつかみをしっかり握り、振り落とされないように安全綱も着用した後、ミーちゃんの合図によって轟音を響かせて、一気に重圧がかかった。
 それでもどうにか耐えきり、僕らはすぐに星の裏側へ向けて吹っ飛ばしていくのであった…

ドドドドドドドドドドドド!!
「うわあああああああああ!!めっちゃ速いけど、これまっすぐにしか飛ばなさそうで、途中の障害物とかどうなの!?」
「安心して!!障害物があれば、ファイオは激突予測3秒前には回避コースに入って、激突回避を行えるからね!!こう見えてもファイオ、ジェッターワングランプリで回避部門2位だもん!!」
 
 実績を積み重ねているそうなので、少し安心した。

 

 そうこうしているうちにマッハの速度を超えて、すさまじい加速によってあっという間に、僕らは星の裏へ到達する。
 だが、そこでふとあることにきがついた。


「そういやミーちゃん、この子どうやって止まるの?」
「ぶつかって」
「…はい?」
「急に止まれないからね。着弾して停止するよ」

…ちょっと待って。マジで?

「それを最初から言ってほしかったなぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」
チュドォォォォォォォォォォォォン!!


「…なお、何故か乗っている人はHPが3割ほど削れるけど、着弾しても無事だったりする」
「本当に何で!?」

 実際に、今、着弾した瞬間大爆発が起きたと思ったのだが、次の瞬間には出来上がったクレーターの中心に、僕らは無事に立っていたのであった…こういう謎の仕様、どうなっているの…?

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