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Ver.3.0 ~動き始める大きな世界~

ver.3.1-47 久しぶりの再会と、トラウマ

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 糸使いの職業を得るクエストの場所を良く調べ、辿り着いた大樹の村の祠。
 以前はのじゃロリの手によって色々と大変な目に遭った思い出はあるが、今回はそこからズレた場所にいつの間にか作られていたツリーハウスの中に用事があるのだ。
 そう、あくまでものじゃロリの方に関してスルーを決め込む気だったのだが…‥‥


「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」

 どこかで聞いたことのある声の人が、何やら断末魔を上げたようだ。
 物騒な予感に慌てて駆け寄り、扉を開けてみれば…‥‥そこには、何処かで見たことのある光景が広がっていた。

「‥‥‥何だこの状況、何があった?」
【シャゲェ?】

 断末魔の主とみられるのは、先日ついに見つかって連れ去られていったはずの中三病さん。ぶくぶくとあぶくを吹いて気絶している状態になっている。
 そしてその上には以前であったことのある、のじゃロリの妹ことロティさんがいるのだが、こちらはこちらで何やら混乱状態に陥っているらしく、死体蹴りに近い状態になっていた。

 そう言えば前に、彼女が盛大に混乱して中三病さんがとばっちりを受けたことがあったが、あの時の状況とこの絵面が同じことに僕は気が付いた。
 違う点とすれば、恐怖で暴れているわけではなく、何かの効果で混乱状態に陥っているようで、しかもおかしなことにHPが尽きていそうな状態なのに中三病さんは死亡扱いにならず、延々と喰らっている。

「一体何が、というかどういう状況だ?」
【不幸な事故が、起きただけだ】
「っと!?」

 状況が全然つかめず、僕等の方もあっけに取られていた中、突然声が聞こえてきた。
 上から聞こえてきたようで、目を向けてみると、そこには小さな蝶が‥‥‥いや、なんか違う真っ白な翅の生えた虫が飛んでいた。

「えっと…‥‥もしかして、蚕?」

 なんかこう、何処かで見覚えのある虫に近いと思ったが、確か蚕とか言う虫に似ている気がする。
 シルクの材料になる繭をつくる虫で有名だが、こんな感じの成虫だったかな?

【いかにも。だが、それは正解であり不正解でもある。我が名は蚕の中の蚕、モンスターとして知性を獲得し、人に新たな道を示もの。正式名称は『カイザーシルクワーム』!!孤高の皇帝蚕である!!】

 堂々たる威厳溢れた声で、立派にそう告げてくるカイザーシルクワーム。
 モンスターなのに鳴き声ではなくしっかりと喋る光景に驚かされるのもあるが、こんな小さい虫なのにたっぷりとした重量感が溢れる雰囲気を纏っていた。

【だが、孤高の皇帝とは言え、この状況は流石に防げなかった‥‥‥見たところ、あの哀れなる土台になっているモノの知己のようだが、止められなかったことを詫びよう】
「あ、いや、僕に謝るよりも中三病さんの方を助けたほうが良いような気がするのですが」
【我に、止められるとでも?この小さき体ゆえに、潰されかねぬ】
「‥‥‥確かに」



 ひとまず事情説明をしてもらうために、僕等は金的炸裂大絶叫カーニバルと化している二人をどうにか収めることが出来た。
 二人とも落ち着いたというか、強制的に眠り状態になってもらったので無事とは言い難いかもしれないが‥‥‥うん、まぁどうにかなったのだと思いたい。

「それで、えっとカイザーシルクワームさん。何がどうなってこの状況になったの?」
【うむ、それはある不幸な事故が招いたものでな、事の発端はそこの娘と男のそれぞれの姉がやらかしたことにあるのだ】







‥‥‥カイザーシルクワームの話によれば、彼は糸使いの職業を得るためのクエストを請け負っているのだが、今回そのクエストを中三病さんが受けに来ていたらしい。
 クエスト内では何故その職業を得たいのかという問いかけも行うそうだが、中三病さんの回答は「姉からの束縛を断ち切るためにも、束縛の基礎になりそうな糸を極めることで行き詰った袋小路の突破口にしたい」と心を込めて叫んだ。あの対抗戦の一件以来捕縛されていたらしいが、今回短い間になるかもしれないけどどうにか脱獄に成功し、また力を蓄える気だったらしい。
 鬼気迫るような雰囲気を持っており、その凄まじい意気込みに敬意を表して簡単なパターンでのクエストを出したのだという。

【そもそも職業を得るクエストは3パターンのものを用意していてな、その回答によって難易度を分けているのだ。今回は覚悟も見せてもらい、一番楽な方法を選択してもらったのだ】

 その方法とは、この大樹の森で手に入る『混乱草』と『幻影草』の二つを入手してもらうことだった。
 他のパターンではモンスターの討伐があるのだが、採取クエストならば無駄な戦闘もなく、すんなりとクリアしやすい。
 その為、中三病さんはあっさりと入手してきて、いざここで糸使いの職業になれるようにとした‥‥‥その時だった。


【そこにな、突然ここの森で試練の巫女を務める二人が乱入してきたのだ】

 そう言えば、ここでは結構重要な役職らしい所についていたなと思い出したが、そんな事はどうでもいい。
 何故、ここに二人が突然来たのか中三病さんもカイザーシルクワームさんも把握できない間に、のじゃロリが先に動き、その二つのアイテムを奪い取ったらしい。

 流石にそんな行為は許されないので、カイザーシルクワームさんは全力で奪い返そうとしたが、相手はあんなものでも実力だけはあるのじゃロリ。
 一発でふっ飛ばされて天井にぶち当たり、中三病さんがすぐに我に返ってNPCが相手だろうとも強盗まがいの行為に憤慨し、攻撃を試みたそうだ。

 しかし、そんなことはお見通しだと言わんばかりにのじゃロリが混乱草の方を使用し、ロティさんを混乱状態にして…‥‥そして後は、あの断末魔が上がったという訳だ。

「あれ?でもそれなら今飛び込んだ時にすれ違えそうな気がするんだけど?」
【それが不思議なことにな、あの巫女は開発者たちしか持ち得ぬ移動手段で逃亡したのだ】

 僕らが飛び込む数秒前に、その手段でのじゃロリは空間を飛び越えてしまい、姿を消した。
 ゆえに、すれ違うことはなかったのだ。



 話を聞いて、どうしてこういう状況になったのは分かった。
 だが、おかしな点もある。

「姉妹揃って突撃?‥‥‥ロティさんって、のじゃロリに協力する人だっけ?」
【シャゲシャゲ?】
【ガウガウ?】

 姉妹仲は悪くなさそうだが、のじゃロリよりはまともな思考をしていると思われるロティさん。
 何かしでかすような悪事に加担するとは思えないし、のじゃロリがあっさりと見捨てて捨て駒の様な扱いをするとは思えないのだ。

【そこが不思議なのだ‥‥‥彼女らはそもそも人に危害を加えられぬようにプログラムがされている。いや、ここで我が言うのもなんだが…‥‥黒き女神の力を持つ者よ、そなたには普通に裏事情を話して良いという許可が下りているので、問題はあるまい】

 こんな小さな蚕であっても、カイザーと名が付きつつ言葉を話せるほどの知能が与えられているだけあって、このカイザーシルクワームは相当人を見る目はあるようだ。

【何かやらかされない限り、反撃以外の手段で人を襲うことが無いようになっているはずだが、今回の行為は明らかにそのプログラムを無視した行為。多少運営の者たちとつながりがある特殊NPCとは言え、動きがおかしかった】
「という事は、何かあるのか?」
【わからぬ。ただ、そのアイテムの内「幻影草」を奪われたのは不味いかもしれぬ】

 話によれば、幻影草はその名の通り幻を見せる薬草の一種で、モンスターから逃げる際に使われたり、あるいは調合によってまた別の薬を作るための材料になるなど、色々と使える場面が多い。
 そしてその草は染料にもなるようで、利用して染めた布地で作り上げた衣服を着ると、ステルス迷彩のような効果が生じるそうで、場所の特定がしづらくなるそうだ。

【自らの手で採れば早いのに、そうしなかった理由までは分からぬ。だが、悪用されればすぐに居場所をつかむのも厳しいだろう】

 特にあののじゃロリはあちこち出現しまくった過去があるだけに、向かいそうな場所の心当たりが多すぎて特定がし辛い。
 こうやって話している間にも実は運営に向けて状況報告も行ったそうだが、現在監視部門とやらが動いているのにつかめていないそうだ。


 ただ一つだけ言えるとすれば、放置しておけばどう考えても不味い事態になりかねないという事か。

【頼む。あの巫女を止めて欲しい。何をしでかす気なのかはわからぬが、このままにもしておけぬ。捕縛出来た暁には糸使いの職業だけではなく、特別なサブ職業及びスキルを与えよう】

―――――
>緊急クエスト『のじゃロリ大捕り物』が発生しました!!
>全プレイヤーへ伝達!!至急、大樹の森から出て行った生ける災厄の様なのじゃロリ巫女を捕縛せよ!!―――――

 結構な大ごとになっているようで、返答をする前にログに通達が来た。
 運営側の方もプレイヤー全員に手伝いを求める程、事態を重く見ているようだ。

「分かった、依頼されようがしまいが、捕縛に協力するよ。幸い、お仕置き用のスキルなども持っているから捕まえ次第できるからね」

 とは言え、あののじゃロリが個人でこんな大事をやらかすのはちょっと考えにくい。
 普段こそ少々アレな言動や行動も目立つが、一応は人の役に立つ様な事もしてくれる‥‥‥はずである。

 何か他に裏があるような気もするのだが、直ぐに僕らは行動に移すのであった…‥‥

「あ、でもどうやって追いかけよう?」
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