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Ver.3.0 ~動き始める大きな世界~

ver.3.0-24 元凶共が、夢の跡

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…‥‥どうにかこうにか、アンデッドドラゴンの追跡を逃れ、安全な場所にまで来たところで僕らは息を切らしていた。

「ぜぇ、ぜぇ‥‥‥VRMMOなのに、全力疾走は気分的にも疲れる‥‥‥というか、何やってんの」
「結界石を守る奴が邪魔でな‥‥‥一気に叩き潰して破壊しようとしたら‥‥‥」
「手を下すのが面倒でね…‥‥ちょっと召喚したら、呼ぶ相手を間違えちゃった☆」

 ぜぇはぁっと息を切らしつつ、僕は目の前の二人組‥‥‥現在起きているクエストの原因になった悪魔と堕天使をにらみながら問いかけると、二人とも同じように息を切らしつつ答えてくれた。

「ひとまず、逃げキレたのは良いが‥‥‥巻き込んで済まなかったな、プレイヤーと思われる人間よ」
「あ、それは分かるんだ」
「そりゃそうだよ。オイラたちから見るとNPCかそうでないかは分かるようになっているからね」

 

 息を整えて落ち着いたところで、お互いに状況整理及び情報交換ということにした。
 本当は逃走劇で疲れたので、この二人を速攻で捕縛して妖精女王に突き出したほうが早いんじゃないかなと内心思ってもいたのだが、少しばかり事情があるなら聞いて判断したほうがいいと思ったのである。


「それじゃ、僕から軽く行こうか。プレイヤー名、ハル。職業錬金術師にしているものだよ」
「そうか。なら次は俺だな。俺は悪魔ゼア、この世界のNPC悪魔‥‥‥というべきか。プレイヤー相手にこう名乗るのは微妙なところだが、コピーというかなんというか、何にしてもただの悪魔だと認識してくれ」
「同じく、オイラは堕天使シルル。悪魔ゼアの対になる天使だったけど、ちょっと色々あり過ぎて、堕天しちゃったしがないNPC堕天使なのだ☆」
「対になる?」

 話を聞けば、このアルケディア・オンラインの世界で、それぞれ天界と魔界に住まう天使と悪魔には、少人数ながらも対になる存在がいるらしい。
 容姿は色合いが真逆になるだけのようで、悪魔ゼアは銀髪赤目だが、堕天使シルルは金髪青目な、両方ともイケメンの類の青年である。…‥‥こっちは少年になったのに、何でこの二人は身長高めのイケメンなのか、ちょっと嫉妬する気持ちが湧いた気もする。

「そもそも何で、二人とも妖精女王に追われているんだよ」
「うっ…‥‥それにはちょっと事情があってな」
「なんというかねぇ、妖精女王自身の自業自得というべきだと言ってやりたいんだけどねぇ」

 疑問に思っていたことを口に出せば、何やら目をそらしつつ嫌そうな顔をするゼアとシルル。
 聞き出してみたら、妖精女王にとってはかなり切実な問題があるそうだ。


「妖精女王、妖精女王、って言われている彼女だけど、本当はもう退位して新しい妖精女王が産まれるべきところなんだ」
「妖精女王の座は世襲制で、女王が新しい妖精女王を生み出すことで引き継がれていくのさ☆。他の妖精が継ぐのは無理で、案外不自由な仕組みなんだけど、これまではうまい事サイクルしていたんだよね」
「だがしかし、ここ数百年ほどはそれが出来ていない。今の妖精女王は一応、次代を産むということはしっかりと願っているようだが…‥‥」
「求めている相手の理想が、高すぎてね‥‥‥」

 妖精女王が新しい女王を生み出すためには、当然というように相手が必要になる。
 これまでの歴代妖精女王たちもきちんと相手を探し求めていたのだが、今代は少々厳しい条件を求めているようなのだ。

「顔が良くて、妖精相手だけでは血が濃くなりすぎるから他の種族で、次代に引き継ぐとしてもできれば良い能力を引き継がせたくて、なおかつ甲斐性があるとかしっかりした身分が分かっているとか、その他条件を付け過ぎて…‥‥絞らなければ相手はそこそこいるはずだが」
「悲しい事に、全然譲る気がない強情さを先代の方から譲り受けてて、退位できないどころか次代も出せず、長く居座る羽目になっているんだよ」
「だったらもう、諦めて緩くすれば、良い縁談があると周囲の妖精たちが説いてはいるのだが」
「口を出されるのは嫌すぎて、余計に頑固になったんだ」

 そして婚姻できなくて長い時が経つ中、ようやく数十年ほど前に条件を満たすような相手がいると情報が入り、自ら調べ上げて完璧だと叫んだそうだが…‥‥そのお相手が、この目の前の悪魔と堕天使のようだ。

「だが、生憎俺たちは結婚する気はない」
「オイラたちにも選ぶ権利はあるんだよ」
「「けれどもなぁ、それでもやってくるのがあの妖精女王なんだ」」

 無駄に長い年月を過ごしていたわけではないようで、妖精女王として研鑽もしっかりと詰んでおり、そのせいで歴代最強クラスの妖精女王になっているようだ。
 その強すぎる力を用いて、あの手この手で迫っているようで・・・・・・・そして、今回の事件が起きてしまったという事である。

「妖精女王は、基本的に妖精郷の外には出入りできない。特殊な儀式を務めているからその時に限っては留守になるがな」
「ココでしか手に入れられないものもあって、他の人の手を借りても難しいのがあって」
「だからこそ、それで留守になるタイミングを狙ってきているのだが…‥‥今回はどうも嘘情報だったようだ」

 つまり、情報戦では妖精女王の方が上だったようで、念入りにチェックもして罠がないか目を光らさせてもいたらしいが、見事に罠にかかった様だ。


「捕まったら最後、三日三晩婿になれ呪詛を吐かれるのが目に見えている」
「悪魔も堕天使も、隷属や魅了に属する類は耐性があるからほぼ効かないけど」
「「純粋に恐怖で従わせて来ようとするのはやめてほしい…‥‥」」

 ずぅぅぅんっと、既に何度か経験しているようで、物凄く暗くなるゼアとシルル。
 ここまで嫌がられているから諦めるかもうちょっとまともな正攻法で行けばいいとは思うのだが、既にもうどうしようもない状態のようだ。

「ちなみに、妖精の願いを叶える力でやれば良いんじゃ?と提案もした」
「だが、無理だったよ‥‥‥妖精よりも願いを叶える力が強い願いの精霊だとか、神だとか竜だとかにも頼んでみたけど、全員『絶対に無理』と断られたのさ☆」

 そこまで言われるって、条件が厳しいだけなのかはたまたはいたとしても妖精女王が怖くて相手にしたくないのか…‥‥他にも色々とあるような気がするが、全部混ざった回答になっていそうだ。
 こういう事情を聞くと、追われたことに関して起こっていた気持ちも、憐みの方が強くなる。


「…‥‥一応聞くけど、結界を破壊できれば逃げられるの?」
「そうだな。ここまで大規模なのは、本来準備がかなり必要になる」
「一度失敗すれば、当分無理だろうし…‥‥その間に、できるだけ妖精女王の相手になる人を捜しておいて、身代わりにしたいね」

 本音も隠さず、身代わりを用意する気なのかこの悪魔と堕天使。

 でも、用意するにはこの状況から抜けだすしかないし、僕らプレイヤーの方もさっさと帰りたい人にとって結界の破壊は必要になる。

「しょうがない、クエストとしてすでに出されているけど…‥‥協力するよ。結界石の破壊を頑張ろう」
「感謝する。クエストとして達成できれば、全プレイヤーに俺たちの方も褒賞を出すからな」
「ココでしかできない、特別なモノを出すよ」

 かなり今回のクエストは重要度が高いようで、悪魔も堕天使も成功すればかなり豪華な報酬を全員に配布予定のようだ。
 とりあえず、僕らは手を組んで結界石の破壊を心に決めるのであった…‥‥



「ところで、条件に満たされるほどの人物であれば、妖精女王は納得するの?」
「ああ、さっき述べたもの以外もあるようだがな」
「ココから出たら、手ごろな人物に、徹底的に教育を施して差し出したいなぁ‥‥‥」
「そんな監禁強制洗脳まがいなことをして良い相手、そう都合よく見つからないとは思うな?」


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