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Ver.2.0 ~広がる大海原の世界~

ver.2.1-29 欲望センサーとも、物欲センサーとも

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【オオオオオオォォン!!】

 ミートンさんたちの欲望を感じ取ってか、周囲のマッチョカーウたちを下がらせ、バフォメット・カーウが前に出て来た。
 ログによると、ネームドモンスター『アリス』という名が出ているようで、今は群れの長という威厳を持っているらしく、マッチョカーウたちは勝負を見守るように安全な場所へ下がる。

「ふふふふ、やる気なようだね!!」
「ふはははは!!テイムを絶対にするためにも、余計な敵がいないほうが楽じゃから好都合!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!女っ気のない生活を、ここで脱却するためにも!!」
「全力で、相手をしてもらおうかぁぁぁぁぁ!!」

 やる気を出すミートンさんたちの熱意に押され、今回の勝負に関して僕らは後方へ下がって傍観に徹することにした。あの熱意、立ち入らせる隙をまったく見せないし、入りたくないような感じがするからだ。
 そしてついでに欲望溢れる様は女性陣にとっては冷めた目を向けるには十分だったらしく、手助けをする様子を見せないようである。

【ブモォォウブモゥ】

「そしてマッチョンだけが、唯一冷静なのもどういう絵面なのか」
【今、あの面子の中で彼だけが常識人なのが救いですネ】

 人ではない者が常識人の枠組みに入るとはこれいかに。やる気は出しているようだけれども、他の者たちよりも熱くはない。



 とにもかくにも、余計な手出しは不要な戦いが始まりそうだが、そもそもテイムを狙うためにモンスターごとに異なるテイム条件をクリアしていなければ意味がないはず。
 ネット情報でおそらく確認しているのかもしれないが、その条件を彼らはクリアできるのか?いや、ここまで熱意に溢れ、確実に出会うために僕らも利用してでさえ挑み、呪われた装備さえも身に着けているのだから、並大抵のものではない努力を積み重ね、確実にテイムできるように準備をしているはずだろう。

‥‥‥していなくて、完全なる準備不足だったら、ただの完全なる不審人物ご一行だしね。バフォメット・カーウのアリスとやら見た目、簡潔にまとめるとロリ巨乳の類だけど、やや幼い見た目だから事案にしかならないか。あれ?これ絵面だけを見るともしかしてあっちを応援したほうが良いのだろうか?



 そう思っていると、ミートンさんたちが動き出した。


「まずはテイム条件を調べに調べぇ!!テイム可能な条件を3つ確認している!!」
「どれか一つでも、当てはまればテイムできるチャンスが発生すると、動画で何度も学んで来たのじゃ!!」
「「今こそ、その成果を見せる時!!」」

 ばっとアリスの前に駆け寄ってそのままどうするのかと覆えば、次の瞬間には見事な土下座を繰り出し、どこからともなく大量のお菓子の山を目の前の出現させた。

【オオン?】
「テイム条件その1ぃぃぃぃぃ!!」
「定番中の定番『餌付け』!!バフォメット・カーウは甘党で、お菓子が効果的なはずだぁ!!」

【オン】
ぼおおおおおおおおお!!
「「「「‥‥食べることなく、燃やし尽くされたぁぁぁぁ!!」」」」

 どうやらバフォメット・カーウは火を吐くことが可能なようで、瞬時に大量のお菓子の山をただの黒焦げの山に変えてしまった。
 吐かれた火は赤くなく、真っ黒な炎という何とも中二チックな感じがしており、何処かの姉への生贄にされる人とは気が合いそうではある。

「というか、まったく餌付け効果ないじゃん」
【シャゲェシャゲ】
【ハイ、どう考えてもあまりにも不審すぎる人からは、受け取りたくもないですもんネ】

 マリーの言葉にうなずきながら、そう口にするロロ。まったくもってド正論である。しかし、あのお菓子の山は手作りではないようだが…‥‥確か記憶によると、NPCが作るお菓子の中でも、結構高い部類のところでしか買えない物だった気がするのだが。


「ならばならば、手段その2を使うのじゃぁぁ!!」
「孫娘様に土下座で頼み込みまくりぃ!!」
「女の子に挙げたら喜びそうな、装飾品を用意したぁ!!」
「さぁ、これを捧げるからテイムさせてほしい!!」

 次の手段として、彼らが取り出したのは数多くの宝石で彩られた、装飾品の数々。一つ一つがかなり高価そうなものであり、宝石が出るダンジョンで頑張って蓄えて作り上げた熱意が見えるようだ。

「というか、光景だけを見ると貢ぎまくるダメ男の図にしかならない気がする」
【バルルルゥ】
【ガウゥ】
【最悪な絵面ですネ。しばらく放置して、皆様この時間の間に、お茶にしませんカ?】
「賛成」
【ギャビィ♪】

 錬金術で作っておいたテーブルやいすを並べ、僕らはすでに完全傍観ムードとしてお茶会を始めた。

「あ、マッチョカーウたちも、襲うことをしないなら一緒に食べないか?見ているだけだと、暇だしな」
【モーウ?】
【バルォォン?バウモォン】

 後方で大人しく勝負の行方を見つめているマッチョカーウたちにもついでに問いかけてみれば、お言葉に甘えてというように、素直に寄ってきた。
 本来は気性が荒いモンスターなので、先ほどまでは全員倒すしかないほど暴れられていたが、どうやらあのばかばかしく想えるような光景を見て毒が抜けたかのように大人しくなっていたらしく、全員で茶会を楽しみながら見守り始まる。

【オー…‥‥】
「お?お?どうやらこれは、興味を示してくれて…‥‥」
【オオン】

ボォォォォウッ!!
「「「「うわあああああああああああ!?ちくちく必死になって貯めた、高価な装飾品がぁぁぁぁ!!」」」」

「何だろう、もう安いコントを見ているような気がしてきて、ちょっと面白くなってきたかもしれない」
【シャゲェシャゲェ】
【皆さまー、次はクッキーと紅茶ですのでどうゾ。熱いのが苦手な方は、ドロップしたミルクで冷やして飲めるようにしていますので、頼みたい人は鳴いてくだサイ】
【モー!】
【ブルモォォン!】

 お茶会の方で盛り上がりつつ、早くも3つのうち2つの条件をクリアできていないミートンたち。このままではテイムできる条件をすべて満たせなくて、失敗に終わる未来しか見えない。

 けれども、この程度で転ぶ様な人達ではないだろう。


「‥‥‥くくく、くはははははははは!!ここまでの手を一蹴にして駄目にするのは、実は想定内!!」
「そう、決して悔しいからと言ってやけになっているわけではない!!最後の3つ目は誰でもやることが出来る方法だが、儂らがやるには少々厳しいものがあるので、とっておいたのだ!!」
「だが、ここでやらねば後に引けない!!地味に借金して、AL稼ぎのために強制金策道中欲望完全封じ込め旅が用意されているのだから!!」
「ここまでくれば、もはや全員一心同体、一蓮托生!!」

 タローンが高笑いをはじめ、それに続けて他の者たちが声を上げ、最後の手段に移るらしい。
 
 餌付けなどの貢ぎ作業が失敗した今、最後に取るのは…‥‥




「そう言えばさ、ふと気になることがあったんだけど」
【おや、主様どうなさいましたカ?】
「さっきから彼らはテイムを狙っているというけど、パーティを組んでいてもテイムするのは主になる人…‥あの中だと誰か一人しか主になれないってことだよね?そうなると、仮に条件を満たしたとしても、誰が彼女の主になるのだろうか?」

「「「「…‥‥!?」」」」

 最後の手段が出る前に、何気なく気が付いたその事実を口にした途端、耳に入っていたのかぐぎゅるんっと凄い動きでミートンたちの顔がこちらに向き、目からうろこが落ちたような驚愕の表情になっていた。

‥‥‥もしかして、その事に気が付いていなかったのだろうか?テイム出来たら確かにあの面子の中に花が咲くかもしれないけれど、その中で一人だけが唯一彼女の主になれるという事実に。
 ああ、もしかしてマッチョンはすでに気が付いていたのかな?テイムされている立場にいるからこそ、そこまで強く乗り気ではなかったのかもしれない。


「‥‥‥いや、ここで争うのはただの考えなしの阿呆がやることだ」
「そうだ、儂らは鋼の結束で、恨みっこ無しでテイムするのじゃ」
「上下関係、現実での関係なども抜きにして、恨みっこ無しの天命任せ」
「だからこそ、死力を尽くして挑めるのだ!!」

 その事実に気が付かされようとも、想像以上に彼らの絆は強かったようで、一瞬だけ互いを蹴落とそうと言う様な表情が見えたような気がしなくもないが、瞬時に鋼のメンタルを露わにする。
 ある意味、欲望に素直ではあるが、それでもやると決めたことは確実にやると、各々心に誓っているらしい。


「そう、だから3つ目の手段は全力で‥‥‥」
「この4人と1匹、欲望戦隊の力の持てる限り」
「全てを出し尽くして挑み、勝利し」
「お前のすべてを、我々に差し出してほしい!!」

「「「「バフォメット・カーウのアリスとやら!!我々のダイヤよりも固い絆で拳での勝負を挑み、確実に勝利して身を捧げて欲しい!!いくぞ!!欲望戦隊ミセタインジャー、決死の戦いへ!!」」」」
【ブモォォウ!!】

【‥‥‥オオン?オオォォン!!】 

 欲望丸出しでありながらも、それでもやる気を見せた彼らに対して、アリスは面白いと思ったのかニヤリと笑みを浮かべ、くいくいっと挑発するように手を招く。

「その挑発、乗ったぁ!!」
「全て、出し尽くせぇぇ!!」


 3つ目の条件は『勝負を挑み、勝利すること』のようだが、その条件を獲得すべく欲望戦隊の欲望が大きなロボットとして幻視しそうなほど膨れ上がり、溢れ出し、駆け抜け始める。

 これでまだ多少まともならばマシだったかもしれないが、これはこれで案外良い勝負になりそうなほど盛り上がって‥‥‥


【オオオオオオオオオォォォォォン!!】
バチィィォォン!!

「ん?」

 何かアリスが叫んだようで、一瞬僕らの方にも何かが飛んで来たらしい。

 何事かと思い、ログを見て確認する。

―――――
>アリスが『異性特攻魅了』を使用しました。
>プレイヤー『ハル』は、女神のスキルの影響で、精神耐性が上がってますので、無効化されました。
>その他、テイムモンスターたちは同性のため効果がありませんでした。
―――――

「‥‥‥勝負にも、ならなかったか」

 悲しいかな、黒い炎を吐く相手だからそれを使って勝負を仕掛けてくるのかと思えば、まさかの初手魅了攻撃を仕掛けて来たようだ。
 どうやらバフォメット・カーウは元々マッチョカーウたちが遠距離攻撃でなすすべもなくやられることから出現するだけあって、攻撃そのものを止めさせる手段に長けていたらしく、魅了攻撃はその一つらしい。

 そして今、魅了攻撃が広範囲に広がってかけられ、僕らの方は耐性がありつつマリーたちはアリスと同性のメス判定で効果が無かったのだが、ミートンたちはどうなのか?
 呪われているあの装備は、脱げなくなる代償で耐性も上がっているかと思われたが…‥‥その欲望があるがゆえに、逆らえなかったらしい。

「「「「踏んでくださいませ女王様!!」」」」

【オ、ォォォォン…‥‥】

「なんか、魅了を使ったアリス自身がドン引きしているんだけど」
【戦闘で勝って、勝負で負けたかのような感じですネ。でも、ドン引きする気持ちはよく分かりマス】

 あっけない幕引きに、僕らは呆れてしまう。マリーたちが彼らに向ける眼が、ゴミクズ以下になっているようだ。


「というか、マッチョンにも効果が無いようだけど、彼もメス判定だったの?」
【いえ、しっかりと異性であるオスのようデス。どうやら欲望が強ければ強いほど効果が強い魅了だったようで、あまり抱いていなかった分効果が薄いのでしょウ】

 すごいな、あの唯一の常識人オーク。この短時間で下げるだけ株を下げまくったミートンたちとは正反対なまでに株を上げまくっているぞ。

「さぁさぁさぁ!!我らをどうぞあなた様のブタに!!」
「ぜひとも踏んづけ、蔑み、魅了させてください!!」

【ォ、ォ、ォ、‥‥‥‥オオオオオオオオオン!!】

「あ。泣いた。気持ち悪くなって、全力で泣きながら逃げて来た」

 魅了をかけたとはいえ、流石に精神的にキツイものがあったのか、アリスが泣きだしてこちらにやって来た。

【ォォォォン!!ォォォン!!】
【シャゲシャゲェ、シャゲェ】
【ガウガウ、ガーウ】
【バル、バルゥ】
【ギャビィ、ギャビィ】
【よしよし、ここなら安心ですヨ。あの人たち、あの場から動かずにやって来るのを待つだけになってますので、解けるまで待ちましょウ】

 マリーたちに飛びつき、慰められるアリス。

 なんというか、大きな姉たちに慰められる小さな妹と言えるような構図になっており、あの不審人物空間とは雲泥の差が付きまくっているようだ。

【オォォン、ォォォン】
「なんというか、彼らが済まなかったかも…‥‥一応、僕らと一緒にここに来た人たちで、悪気があってやったわけじゃないよ」

 泣いている姿を見ると、なんか申しわけなくなった。悪い人たちではないはずだが、あれは流石に幼い子供のような容姿の彼女にとっては、恐ろしい魔物に見えるだろう。

「ほら、甘いクッキーなんかを食べて、心を安らげて。ロロ、ミルクも用意して欲しい」
【分かりまシタ】


 数分後、慰められてちょっとは安らいだのか、泣き顔だったアリスはすっかり笑顔に戻っており、椅子にチョコンッと座ってクッキーを食べていた。

【オォォン♪】
「よかった、元気になった」

 ちなみに、魅了状態がまだ解けていないミートンたちは、マリーが毒の霧で視界をシャットアウトさせたので、見えない状態である。

【オォン♪オオォン♪】

 クッキーも食べて元気になったのか、ニコニコと笑ってくるくると回り始め、可愛らしい様子にその場にいる全員がほっこりとする。

 一緒にいたマッチョカーウたちも長の役目をしていたような彼女が元気になったことが嬉しいようで、喜びの雄たけびを上げている。

【オオォォン♪】

―――――
>‥‥‥『餌付け』の条件、装飾品ではなく安らぎの気持ちの『貢物』の条件が達成されました。
>ネームドモンスター『アリス』がテイム可能になりました。

―――――

‥‥‥そしていつの間にか、ログにはその表示が出されていたのであった。
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