アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.1-30話 真剣勝負、出し尽くすのみ

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 アルケディア・オンラインの職業の一つである、錬金術師の錬金というのは、某鋼のイメージのように瞬時にものを精製することは無い。
 できないことも無いとは思うのだが、それでも錬金のための陣や釜、その他の道具が大抵必要であり、落ち着いた場所で錬金することが多い。ゆっくり丁寧に、こだわりを持てばその分制作評価や効果も高くなるし、速攻で作るよりも念入りに準備をしたもののほうが、いざという時の安心感はある。

 だがしかし、そうはいかない状況というのもあり、だからこそその状況になってもやるための手段はしっかりと考える必要性はあった。
 道具頼りな戦法が多いからこそ、素早く精製できる手段があれば道具が尽きた時のしのぎにもなるし、周囲にある素材を無駄なく使って戦況を変える事もできるはず。
 そしてこの場はダンジョンではあるが、ドラメタルという鉱石がある場所でもあり、それ以外の鉱石を堕とすモンスターが多いという事は、それに関連した類も発掘できる可能性が高い。でも、そんな悠長に掘っている暇がないのであれば‥‥‥


「だからこそ、埋まっている状態でも無理やり生成する手段も用意しておいたんだよ!!本当は探索用の錬金術師の陣らしいけれども、こういう時に役に立った!!」

 そう叫びつつ、懐から取り出した錬金用の陣を構え、地面において強制的に錬金術を発動させる。某鋼の奴には負けるだろうが、それでもこういう無理やりな手段を取るゆえにリスクが高い分、それなりに性能を発揮する。
 周囲の地面が陥没し、創り上げられるのは大きな金属光沢を放つインゴット。普通であればしっかりと錬成し、溶かして型にいれたり、叩いて形を曲げたりするのだろうけれども、ここは無理やりにでも捻じ曲げ、潰し、纏わせる。

【ウボロロオォォォォン!!】
「ちょっとテンプレかもしれないけど、銀の武器がやっぱり効果的か!!」

 たっぷりと周囲の銀鉱石から銀を抽出し、剣に薄く纏わせて斬りつけるたびに、相手のHPが削れ行く様子がログに現れる。
 アンデッドというのは死体が動くようなものであり、死体をこれ以上どう倒せばいいのかと攻めあぐねていた部分もあったのだが、単純な考えにたどり着くと突破口が開けるようだ。
 銀の食器に、銀の十字架、銀の銃弾‥‥‥金が高価で豪華さを示すのであれば、銀だとどことなく神聖的な雰囲気を感じさせるので、思い切ってやってみたが案外良い考えだったようだ。いやまぁ、食器の方は本当は毒物と反応しやすいからという理由もあるそうだが、銀に鏡と何かと悪霊退散魔物退散と連想できそうな類で効果抜群になるようなのは、今回に限って言えば都合が良かっただろう。
 まだまだ実装を完全にする前というのもあって調整段階だった可能性もあるが、ゆえに前線組のような高レベルに有らずとも、効果的にダメージを与えることが出来ている。

 とはいえ、こちらも被害が無いということは無い。着実にダメージを与えられているし、こちらの方が戦闘に対しての素人でもあるので、デュラハンに対して戦闘経験で負けている。
 だが、こちらも黙ってやられることは無く、全力でありったけの手段を用いさせてもらう。武器屋でロマン武器になりそうなガントレットに爆裂薬を仕込んで更にロマン武器のロケットパンチにして使用したり、生成した銀でナイフを作って投げつけ、騎士鎧をまとうその隙間を狙って動きを弱めたり、毒が効かなさそうでも武器や防具にはそうではないと考えて腐食性の高い毒物をぶちまける。

 正々堂々としたとはやや言い難いけれども、真剣勝負ゆえに出せる手は全て惜しみなく出す。相手が決闘を挑んできたようではあるが、蹂躙し切らずに挑むという事は、こちらとの勝負を望む事でもあり、ならばのってしまうべきだ。
 選択したところで、戦況が覆るわけでもないのだが、地に足をつけての勝負を狙ってなのか馬から降りており、奴が乗っていたシャドーホースが勝負の行方を見守る審判のように中立となっており、移動手段で翻弄される可能性は無くなった。

 ならばあとは、互いに持てる手段を尽くすだけであり、投げられた剣ですらもこちらのものとして速攻で魔改造を施して、戦いに集中する。


「はあああああああああああ!!」
【ウボロォォォォォォォン!!】

 剣で斬りつけ、爆裂薬で爆発とともに加速させて威力を増す。
 衝突するドリルのような槍に弾き飛ばされそうになるが、その回転を逆に利用して攻撃を受け流し、カウンターも仕掛けていく。
 素人であろうとも、玄人であろうとも、人だろうとモンスターだろうと、今のこの戦いの場においてはそんなのは関係ない。
 あるのはただ、勝者と敗者となる未来だけで、そのどちらがつかみ取れるかはこの攻防で決まるだろう。


―――そして、決着の時は来る。


ガァァァアン!!…‥‥バギィッツ!!

 ぶつかり合う槍と剣の衝撃は強く、素手に手がしびれた感覚を味わっていたが、その分武器にも大きな負担がかかっていたのだろう。
 互いの一撃がぶつかり合ったその瞬間…‥‥常に剣を補強していたこちらに対して、デュラハンの槍が悲鳴を上げ、砕け散った。

【ウボロォォォォォォォォン!!】

 ついでに頭の部分も槍についていたせいで、崩壊に巻き込まれるかのように砕け散る。頭部が失われたというのに、どこからか断末魔を上げて奴は、デュラハンは膝をついた。
 勝負はついた。どちらの命も奪われはしなかったが、己の武器が砕けたことで負けを認めたのだろう。
 膝をつい手から数秒ほど固まりつつ、すくっと立ち上がって来たが‥‥‥その様子には、既に敵意が無くなっていた。
 狩る者として、命を奪う者として蠢いていた動く死体であり、残された騎士道に全力を尽くした強者。出来れば生きているうちに遭ってみたかったが、おそらくそれももう叶わないのだろう。

【ウボロ…‥‥ロロ‥‥】
―――そうか、こちらの負けか。
「‥‥‥そうだ、お前は負けたんだ」

 声が途切れ、どこからともなく頭の中に響くような声が聞こえたが、僕はそれが相手の声だという事に気が付いて答える。
 生者を狙い、命を奪う者として蠢き、その命を狙う執着心に支配されていたようだが、どうやら今、その執着は解けて、生きていたころの自我が出たのだろう。

―――ああ、それでも悔いはない。死してなお、こうして納得のいく勝負を繰り広げることが出来たのだからな。

 そう言いながら、デュラハンの体が輝き、薄れ始める。これは、モンスターが消失する演出に似ているが、どうやら執念も執着も何もかも無くし、成仏したように見える。

【バルヒヒ…‥ヒヒーン!!】
――っと、そうか、悔いはないと言ったがそうでもないか。この身はすでに滅びていたが、お前はそうでもない。死したこの身の最後まで、仕えてくれていただけだからな。

 消えゆくデュラハンに駆け寄り、シャドーホースが声を上げるとデュラハンは愛おしそうに撫でつつ、顔はないけれどもその亡き顔がこちらを向いた。

―――勝者よ、我が勝負に勝利した若者よ。名はなんという?
「ハル。アバター名としてのだが、それで良いか?」
―――それで良い。‥‥‥我が勝負に挑み、そして見事に勝機を得たお前には、こちらから褒美をやろう。我が愛馬を、どうか受け取ってくれないだろうか?

―――――
>『ドリルデッド・デュラハン』改め『名もなき騎士王』から譲渡の誘いを受けました。
>彼のテイムモンスター『シャドーホース』の『セレア』を、こちらのテイムモンスターにすることが可能です。受け取りますか?
―――――

 どうやらデュラハンの生前はかなりの人物だったようで、名称が変わっていた。テイムモンスターを人に譲渡できるとかそう言う話は聞いたことがないのだが、それでも彼は愛馬を僕に託すようだ。

「良いのか?その馬は、セレアはそちらに仕えている様子なのだが」
―――問題ない。‥‥‥セレアよ、主であるこの身は、既に終えた。付き合って天に召されず、お前には自由に生きて欲しい。だが、その生きざまに最後に命令として、仕えるべき主として勝者である彼に、仕えてくれないか?
【バルヒヒ…‥‥ヒヒヒヒーン!】

 名もなき騎士王の言葉に対して、しばし考えた後、鳴き声を上げてこちらに向き合い、頭を下げて来た。
 どうやら文句もなく、忠誠心故の最後の忠誠として僕に仕える気になったらしい。


「なら、受け取ろう、名もなき騎士王よ」
―――頼む、勝者よ。いや、わが友よ。もしも、再び相まみえることが出来たのであれば、その時は酒を飲みかわしたいがな…‥‥ははは‥‥‥


―――――
>‥‥‥譲渡が完了しました。『シャドーホース』のテイムが完了しました。
>名もなき騎士王が解放され、予定されていた隠しクエストが解放・攻略を確認されました。称号『騎士王に認められしもの』、『死者の救い人』を入手いたしました。

『騎士王に認められしもの』
ある戦いによって、失われた騎士王を正気に戻し、解放した者に付く称号。特殊な効果として騎乗した際にATK等、攻撃関係に関してのステータスが1.3倍になる。また、馬や騎士関係のモンスターとの友好関係が深くなり、戦闘の回避や補助を受けることが可能になります。

『死者の救い人』
アンデッドモンスターを討伐するのではなく、堕ちた身を救う事で得られる称号。様々な手段があげられるが、入手可能な方法は少ない。特殊な効果として、アンデッド特攻が常時付与されます。
―――――

 称号の獲得とその効果が出るとほぼ同時に、騎士王の身体は消え失せた。
 あの大きなドリルのような槍も同時に消失し、ドロップ品としていつの間にか入っていたのは『騎士王の剣』‥‥‥この馬と合わせての形見とでもいう気なのか。


「‥‥‥何と言うか、非常に疲れたけれどもこれでよかったかもな」
【バルヒヒーン!!】
「っと、乗せてくれるのか」

 全力を尽くしていた分疲れていたのだが、ぐいぐいっと服を咥えて来たかと思えば、ぽいっと気が付いたら宙に投げ出され、その背中に乗せられていた。思ったよりも力が強いというか、器用だなこの馬‥‥‥セレア。

「なら、頼む。というか既に道具が全部尽きたし、これ以上の進軍はちょっと無理っぽいからね‥‥‥後から来ているかもしれない仲間の元へ、運んでくれ」
【バルヒヒヒヒーン!!】

 初めての命令に従うセレアは、直ぐに駆けだし始めた。僕を落とさないように気を使いつつ、輝く道を駆け抜け、進んでいく。
 歩くよりも楽というか、あの騎士鎧を身にまとった重そうな騎士王を載せていただけに、軽々と僕を運んで突き進む。

 ああ、この移動も見越して譲渡してくれたのかなと、疲れながらも僕はそう思うのであった‥‥‥



‥‥‥なお、数分後に中三病さんたちと無事に合流できたが、その際に起きていたことに関しては、考えることを放棄した。テイムモンスターって、下手に離れ離れになるとヤヴァイのかぁ…‥‥

「というか、何でロティさんが氷漬けのような状態に‥‥‥」
「色々あってと言うか、ハルさんが気が付いていないだけというか‥‥‥情報が多すぎて、どこから話せばいいのやら‥‥‥」
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