25 / 718
ver.1.0 ~始まりの音色~
ver.1.1-21話 非常に苦労が、伺えまして
しおりを挟む
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…‥‥こ、この間の逃走劇ぶりに、疲れた‥‥‥」
【シャゲ、シャゲェ…‥‥】
【ガウガウ‥‥‥】
「す、すまないな、ハルさんとその仲間たち」
「いやいや中三病さん、体を張って止めていてくれなければ、今頃そこら中の犠牲者と同じ目に合ってましたよ」
全力疾走逃亡劇を30分近く繰り広げつつ、ようやくあのデースデース女騎士がログアウトして、僕らはようやく安堵の息を吐いた。
考えたら速攻でログアウトによる逃走をしておけば良かったかもしれないが、恐怖というのは時として人から冷静な判断を奪うようで、無駄に体力を消耗してしまったのである。マリーにリンも流石に疲れ果てているようで、ぐったりと倒れているしね。
「それと中三病さん、顔面大丈夫ですか?潰れたアンパン状態なんですが」
「ははは、前が見にくいがこの程度大丈夫だ。‥‥‥PvPとかでないと普通は他のプレイヤーにダメージを与えられないとは思うのだが、あの姉はその壁を越えて精神・物理的なダメージを与えてくるがな‥‥‥」
どうやら恐怖女騎士は、中三病さんの姉らしい。現実でのプレイヤーの素顔は暗黙の了解で誰も聞くことは無いのだが、この程度ならば話してくれるそうだ。
いわく、中三病さんは色々と家庭の事情が複雑らしくて、姉と言っているけれども正確に言えば腹違いの姉に当たるらしく、先日までは国外で過ごしていたそうだ。
だがしかし、人事異動とやらで動かされたそうで、中三病さんのところへ舞い戻り、そこでこのアルケディア・オンラインの事を知ってプレイし始めたそうである。
「それでな、自由度が高いゲームゆえに、Atkとか設定されているけれども、現実での運動神経もある程度関連するからこそ、あの姉はバケモノじみた強さを発揮したんだ」
村の中にあったドワーフの喫茶店に場所を移して落ち着きつつ、話は続く。
「化け物じみた強さって、先ほどの抱きしめ潰しですか?」
「そうだ。何を隠そうというか、隠すつもりもないが、他のNPCがどさくさに紛れて怪力ゴリラとか言っていただろう?実はあの姉は、女子プロレスにボクシング、柔道、テコンドー、空手に合気道‥‥とにかく鍛えるのが趣味であり、現実でもチートかよと言える仕上がりを見せてしまっているんだよ」
どんな姉だそれは。そうツッコミを入れたいが、中三病さんの顔を見る限り相当苦労しているのがうかがえる。暴君の姉らしくて、それでいて本当にティラノザウルスとかも好んでいるそうで、そこから名前をちょっともらってここでのプレイヤー名は『ティラリア』…‥‥暴君恐竜進撃の姉って、怖くない?
なお、他の知り合いの姉弟な人たちは普通に良い人が多かったりするので、中三病さんのところが稀な例外だと思いたい。喧嘩をするところもあるらしいけれども、それでも力関係が極端すぎるのは相違ないはずである、多分。なお、暴君に近いが仁義はあるようで、古いもので言い表すならばスケバンとかが当てはまるらしく、悪人ではない‥‥‥と、一応言っているそうだ。
何にしても今回、中三病さんがこのドワーフたちの村にいるのも、ティラリアさんに一緒に来いと言われて、仕方がなく同行させられているらしい。
本当なら前線組としてエルフの村の方へ行きたかったそうだけれども、他のパーティメンバーに問いかけたら生贄として捧げられたそうだ。見捨てたとも言えるか。
そしてドワーフたちが暇つぶしのつもりで始めていた腕相撲大会に参加して、現在に至るらしい。
「‥‥‥本当に、苦労してきたんですね中三病さん」
「ああ、本当に、本当に、ほんっとぅっにぃ‥‥‥ぐうう」
凄まじい苦労があったようで、うぐぐすぅっと泣きそうになっている中三病さん。相当な苦労が見えるようで、物凄く同情させられるのであった。
話が重くなってきたのでここは一旦切り上げ、ひとまず何か新しい話題にした。
「そう言えばハルさん、今こうやって見せてもらっているが、彼女達もテイムモンスターなのか?容姿からして、多分ハルさんがテイムしていた蛇と豹が進化した姿だと思うが‥‥‥」」
「ああ、そうだよ。種族はそれぞれ『パールナーガ』に『ヒューマンレオパルド』。説明を見る限り、多分野生のモンスターでも出る可能性がある」
「なるほど。進化条件とかは分からないか?」
「あー‥いや、どうなのかな。色々と重なっているんだろうけれども、細かい部分まではね」
大体予想は付いているのだが、あまり言いたくはない。『女体化』スキルが大体の元凶だと思うけれども、このスキルがあるのはねぇ。
「残念、分かればこちらの前線組でも共有したかったのだがな。特に知り合いが、モンスター娘や獣娘、あるいは何かと擬人化された類が好きだったので、教えれたのだがな」
「前線組に、そんな人が?」
「そうそう、かなり濃い奴も多い。ほら、始まりの街で教鞭を振るうゴリラマンさんがいただろう?あの人にあこがれて、ゴリラ装備で固める奴や、あるいは装備品全部無しの裸一貫で挑む奴なんかもいるからな」
前線組、もしかして単純に濃い人しかないのでは?そう言えば、ぽっけねこさんも某猫ロボ風な姿を好んでいたし、何かと特徴が多い人だらけなのだろう。
そう考えると、中三病さんはまだ薄い方に…‥‥いや、そうでもないか。タトゥーのようなものをつけているけれども、ゴリゴリに派手な絵柄だしね。
人の趣味嗜好はさておき、何かとこの新アップデートで出て来た要素について軽く盛り上がる。このドワーフの村だと鍛冶の制作評価が上がりやすいとか、メールなどで見る限りエルフの村の方では魔法とはまた違った要素があったり、テイムモンスターとはちょっと異なるものが存在するって話も出ているようで、これはこれで興味深い。
「っと、話しているだけだと時間がもったいないか。ここは手っ取り早く、あちこち探検してもっと隠された要素などがないか探しに行かないか?」
「それも良いですね。あ、でもすぐにではなくちょっと待ってくれませんか?クエストを今やっているんですよ」
「ほぅ?どんなのだ?」
「鍛冶師の親方からもらった手紙を届けるもので…‥‥」
‥‥‥ハルたちが新しい要素の話題で盛り上がっている丁度その頃。今回のアップデートで追加されたうちの一つ、大樹の村でも盛り上がりを見せていた。
エルフという種族は基本的に美男美女が多く、大勢のプレイヤーたちはその光景に心から目の保養を楽しんでいた。中には声をかけて友好関係を築こうとする者や、ナンパを試みる者もいるだろう。一応、不埒な輩の対策としてか、きちんとそのあたりを見張る衛兵たちも巡回しており、連行される者たちもいた。
そんな中で、大樹の村の奥深くに存在する大樹の祠の中で、巫女たちは舞を踊っていた。
プレイヤーたちもある程度の見学可能な領域もあるのだが、この場所は不可侵の領域であり、尊小佐野一族以外は入ってはいけない場所で、その舞は行われていた。
「のじゃぁ、かれこれ3時間の舞も疲れるのぅ…‥‥父上ぇ、そろそろ出てもいいかの?」
「ダメだ、お前はこの間運営に怒られ、厳しい処罰を受けただろうが。精神的にはまだまだ懲りぬ様子があるからこそ、より激しい『春風の剣舞』を踊り続けて完成させねば許さん」
「のじゃぁぁ‥‥‥」
うううっと泣くふりをするのじゃロリ‥‥‥もとい、ようやく今回のアップデートで正式な名称を与えられたレティアは嘆く。目の前に立つだいぶいい歳なのにダンディといえるような容姿の自身の父親でもある長に対して訴えようにも、全然聞く耳を持ってくれないようだ。
先日のポイズンクラブやその他諸々自由にしていた時にやらかしたことに関して、厳しいお仕置きを受けており、どうやら父親の方も事態をしっかりと重く見ているらしい。
できればもうそろそろ許してほしいとは思うのだが、簡単にはいかないようである。
「そもそものぅ、父上。わらわは遊んでいただけじゃぞ?それなのに、勝手に他の輩が襲ってくるのは不可抗力じゃろ」
「それはそうだろう。だがな、自由奔放にし過ぎると痛い目に遭う事があるから慎重に動けと言ったのに、その言葉を守らずに好き勝手していたのはどこの馬鹿娘だ?」
「の、のじゃぁ…‥‥」
父のギロリと睨んでくるすさまじい威圧を兼ね備えた目力に、思わず怯むのじゃロリもといレティア。普段は優しい親なはずだが、運営からの伝えられたやらかし具合に怒っているようで、まだまだ解放されることは無いと悟らされる。
「まったく、運営から与えられていた自由な期間で研鑽を積むと思っていたが、やらかしまくる旅路とはな‥‥‥とは言え、勧善懲悪などは評価するべきだろう」
「のじゃ!じゃったら、」
「だが、それとこれとは別だ。お前のせいで迷惑を被ったという話の方が多いからな」
「あ、上げて落とすじゃと…‥‥!?」
一瞬の希望の光が、瞬時に潰されて絶望の顔になるレティア。自分の蒔いた種が見事に芽吹き、自身に襲い掛かっているという自業自得ではあるので、当り前だと他の人達も頷いてしまうだろう。
「さてと、あと1時間ほど舞をしておけ。今日はそのあたりで許すが、2日ほどまだまだ続くからな」
「のじゃぁぁぁぁぁ!!それは流石に辛いのじゃ、児童虐待などで訴えてやるのじゃ!!」
のじゃのじゃのじゃぁぁっと憤慨するレティアではあるが、残念ながらその訴えは意味をなさないだろう。児童というにしても、実は見た目以上にしっかりと年齢を彼女はとっているからだ。
「はぁ、自由気ままに育てすぎたか…‥‥とは言え、あれで悪い事の分補うかのように善行もしているから、どう扱うべきか難しい所だ」
祠から出て、レティアの父はそうつぶやきながら家の方へ向かう。
自身にとって大事な娘の一人だが、多少自由にさせ過ぎた自覚はあるので、叱ることはするけれども内心少々罪悪感が無いわけでもない。
けれども、あまりにもやり過ぎた部分もあるので、償わせないといけない部分もあり、父としては子にどの程度の呵責をすればいいのか、迷うところもある。
「あれで次期長なのだからなぁ…‥‥もう少し、しっかりしてくれないと次に進めぬ。子育てとは、本当に難しいものだ」
親として心配したり、長としてある程度の規律を守らせたりとするので、娘との付き合い方が中々難しい。下手にやるわけにいかず、かと言って押さえないわけにもいかない。
父親として思う心はあるのだが、もう少し大人しくなってほしいなぁと思うのであった。
「帰ったぞー、あと1時間後には舞を終わらせるから夕飯は休憩も考えて少し後の方にしてくれ」
「あらあらあなた、早いお帰りね。レティアちゃんの反省は?」
家に帰ると、長の妻が出迎えてくる。
「まだもうちょっとかかる。今は舞で精神を鍛えているが、難しいなぁ‥‥‥ん?そう言えばロティはどうした?あいつは確か、そろそろ舞を終えて帰宅する頃合いだろ」
「あらぁ、今朝の話を聞いていなかったのかしら?人の話をしっかり聞くようにって娘にもいっているのに、あなたも抜けているのね。親としては、手本を見せないと」
「うっ、痛いところを‥‥‥‥だが、話とは何だ?」
「言っていたじゃない、ロティちゃんが舞に使っていた扇の新調をするって。新しい素材が手に入って、より良い舞ができそうだから、震えよ我らが咆哮の村のお得意様に作ってもらうそうよ」
「そうか‥‥‥むぅ、だが娘の一人旅も心配なのだがな。確か、あの村にもプレイヤーとやらが入れるようになったのだろう?変な男性プレイヤーとやらが狙わなければいいのだが」
「大丈夫よ、あの子はあの子で見る目はあるもの。あとはわたし譲りの、しっかりした護身用の舞もマスターしているわ」
「…‥‥アレ、かぁ…‥‥」
…‥‥かつて長は、目の前の妻に対して求婚した際に、勢いを付け過ぎて少々不審な行動をとってしまったことがある。そして、その行動が襲うように見られたらしく、その護身用の舞を見事に喰らい、地に伏したことがあるのだ。
当時の経験を思い出し、恐怖で身を震わせる長。この大樹の村の長という役目を背負っておきながらも、そのトラウマのせいで妻には全く頭が上がらない人になっていたのであった‥‥‥‥
【シャゲ、シャゲェ…‥‥】
【ガウガウ‥‥‥】
「す、すまないな、ハルさんとその仲間たち」
「いやいや中三病さん、体を張って止めていてくれなければ、今頃そこら中の犠牲者と同じ目に合ってましたよ」
全力疾走逃亡劇を30分近く繰り広げつつ、ようやくあのデースデース女騎士がログアウトして、僕らはようやく安堵の息を吐いた。
考えたら速攻でログアウトによる逃走をしておけば良かったかもしれないが、恐怖というのは時として人から冷静な判断を奪うようで、無駄に体力を消耗してしまったのである。マリーにリンも流石に疲れ果てているようで、ぐったりと倒れているしね。
「それと中三病さん、顔面大丈夫ですか?潰れたアンパン状態なんですが」
「ははは、前が見にくいがこの程度大丈夫だ。‥‥‥PvPとかでないと普通は他のプレイヤーにダメージを与えられないとは思うのだが、あの姉はその壁を越えて精神・物理的なダメージを与えてくるがな‥‥‥」
どうやら恐怖女騎士は、中三病さんの姉らしい。現実でのプレイヤーの素顔は暗黙の了解で誰も聞くことは無いのだが、この程度ならば話してくれるそうだ。
いわく、中三病さんは色々と家庭の事情が複雑らしくて、姉と言っているけれども正確に言えば腹違いの姉に当たるらしく、先日までは国外で過ごしていたそうだ。
だがしかし、人事異動とやらで動かされたそうで、中三病さんのところへ舞い戻り、そこでこのアルケディア・オンラインの事を知ってプレイし始めたそうである。
「それでな、自由度が高いゲームゆえに、Atkとか設定されているけれども、現実での運動神経もある程度関連するからこそ、あの姉はバケモノじみた強さを発揮したんだ」
村の中にあったドワーフの喫茶店に場所を移して落ち着きつつ、話は続く。
「化け物じみた強さって、先ほどの抱きしめ潰しですか?」
「そうだ。何を隠そうというか、隠すつもりもないが、他のNPCがどさくさに紛れて怪力ゴリラとか言っていただろう?実はあの姉は、女子プロレスにボクシング、柔道、テコンドー、空手に合気道‥‥とにかく鍛えるのが趣味であり、現実でもチートかよと言える仕上がりを見せてしまっているんだよ」
どんな姉だそれは。そうツッコミを入れたいが、中三病さんの顔を見る限り相当苦労しているのがうかがえる。暴君の姉らしくて、それでいて本当にティラノザウルスとかも好んでいるそうで、そこから名前をちょっともらってここでのプレイヤー名は『ティラリア』…‥‥暴君恐竜進撃の姉って、怖くない?
なお、他の知り合いの姉弟な人たちは普通に良い人が多かったりするので、中三病さんのところが稀な例外だと思いたい。喧嘩をするところもあるらしいけれども、それでも力関係が極端すぎるのは相違ないはずである、多分。なお、暴君に近いが仁義はあるようで、古いもので言い表すならばスケバンとかが当てはまるらしく、悪人ではない‥‥‥と、一応言っているそうだ。
何にしても今回、中三病さんがこのドワーフたちの村にいるのも、ティラリアさんに一緒に来いと言われて、仕方がなく同行させられているらしい。
本当なら前線組としてエルフの村の方へ行きたかったそうだけれども、他のパーティメンバーに問いかけたら生贄として捧げられたそうだ。見捨てたとも言えるか。
そしてドワーフたちが暇つぶしのつもりで始めていた腕相撲大会に参加して、現在に至るらしい。
「‥‥‥本当に、苦労してきたんですね中三病さん」
「ああ、本当に、本当に、ほんっとぅっにぃ‥‥‥ぐうう」
凄まじい苦労があったようで、うぐぐすぅっと泣きそうになっている中三病さん。相当な苦労が見えるようで、物凄く同情させられるのであった。
話が重くなってきたのでここは一旦切り上げ、ひとまず何か新しい話題にした。
「そう言えばハルさん、今こうやって見せてもらっているが、彼女達もテイムモンスターなのか?容姿からして、多分ハルさんがテイムしていた蛇と豹が進化した姿だと思うが‥‥‥」」
「ああ、そうだよ。種族はそれぞれ『パールナーガ』に『ヒューマンレオパルド』。説明を見る限り、多分野生のモンスターでも出る可能性がある」
「なるほど。進化条件とかは分からないか?」
「あー‥いや、どうなのかな。色々と重なっているんだろうけれども、細かい部分まではね」
大体予想は付いているのだが、あまり言いたくはない。『女体化』スキルが大体の元凶だと思うけれども、このスキルがあるのはねぇ。
「残念、分かればこちらの前線組でも共有したかったのだがな。特に知り合いが、モンスター娘や獣娘、あるいは何かと擬人化された類が好きだったので、教えれたのだがな」
「前線組に、そんな人が?」
「そうそう、かなり濃い奴も多い。ほら、始まりの街で教鞭を振るうゴリラマンさんがいただろう?あの人にあこがれて、ゴリラ装備で固める奴や、あるいは装備品全部無しの裸一貫で挑む奴なんかもいるからな」
前線組、もしかして単純に濃い人しかないのでは?そう言えば、ぽっけねこさんも某猫ロボ風な姿を好んでいたし、何かと特徴が多い人だらけなのだろう。
そう考えると、中三病さんはまだ薄い方に…‥‥いや、そうでもないか。タトゥーのようなものをつけているけれども、ゴリゴリに派手な絵柄だしね。
人の趣味嗜好はさておき、何かとこの新アップデートで出て来た要素について軽く盛り上がる。このドワーフの村だと鍛冶の制作評価が上がりやすいとか、メールなどで見る限りエルフの村の方では魔法とはまた違った要素があったり、テイムモンスターとはちょっと異なるものが存在するって話も出ているようで、これはこれで興味深い。
「っと、話しているだけだと時間がもったいないか。ここは手っ取り早く、あちこち探検してもっと隠された要素などがないか探しに行かないか?」
「それも良いですね。あ、でもすぐにではなくちょっと待ってくれませんか?クエストを今やっているんですよ」
「ほぅ?どんなのだ?」
「鍛冶師の親方からもらった手紙を届けるもので…‥‥」
‥‥‥ハルたちが新しい要素の話題で盛り上がっている丁度その頃。今回のアップデートで追加されたうちの一つ、大樹の村でも盛り上がりを見せていた。
エルフという種族は基本的に美男美女が多く、大勢のプレイヤーたちはその光景に心から目の保養を楽しんでいた。中には声をかけて友好関係を築こうとする者や、ナンパを試みる者もいるだろう。一応、不埒な輩の対策としてか、きちんとそのあたりを見張る衛兵たちも巡回しており、連行される者たちもいた。
そんな中で、大樹の村の奥深くに存在する大樹の祠の中で、巫女たちは舞を踊っていた。
プレイヤーたちもある程度の見学可能な領域もあるのだが、この場所は不可侵の領域であり、尊小佐野一族以外は入ってはいけない場所で、その舞は行われていた。
「のじゃぁ、かれこれ3時間の舞も疲れるのぅ…‥‥父上ぇ、そろそろ出てもいいかの?」
「ダメだ、お前はこの間運営に怒られ、厳しい処罰を受けただろうが。精神的にはまだまだ懲りぬ様子があるからこそ、より激しい『春風の剣舞』を踊り続けて完成させねば許さん」
「のじゃぁぁ‥‥‥」
うううっと泣くふりをするのじゃロリ‥‥‥もとい、ようやく今回のアップデートで正式な名称を与えられたレティアは嘆く。目の前に立つだいぶいい歳なのにダンディといえるような容姿の自身の父親でもある長に対して訴えようにも、全然聞く耳を持ってくれないようだ。
先日のポイズンクラブやその他諸々自由にしていた時にやらかしたことに関して、厳しいお仕置きを受けており、どうやら父親の方も事態をしっかりと重く見ているらしい。
できればもうそろそろ許してほしいとは思うのだが、簡単にはいかないようである。
「そもそものぅ、父上。わらわは遊んでいただけじゃぞ?それなのに、勝手に他の輩が襲ってくるのは不可抗力じゃろ」
「それはそうだろう。だがな、自由奔放にし過ぎると痛い目に遭う事があるから慎重に動けと言ったのに、その言葉を守らずに好き勝手していたのはどこの馬鹿娘だ?」
「の、のじゃぁ…‥‥」
父のギロリと睨んでくるすさまじい威圧を兼ね備えた目力に、思わず怯むのじゃロリもといレティア。普段は優しい親なはずだが、運営からの伝えられたやらかし具合に怒っているようで、まだまだ解放されることは無いと悟らされる。
「まったく、運営から与えられていた自由な期間で研鑽を積むと思っていたが、やらかしまくる旅路とはな‥‥‥とは言え、勧善懲悪などは評価するべきだろう」
「のじゃ!じゃったら、」
「だが、それとこれとは別だ。お前のせいで迷惑を被ったという話の方が多いからな」
「あ、上げて落とすじゃと…‥‥!?」
一瞬の希望の光が、瞬時に潰されて絶望の顔になるレティア。自分の蒔いた種が見事に芽吹き、自身に襲い掛かっているという自業自得ではあるので、当り前だと他の人達も頷いてしまうだろう。
「さてと、あと1時間ほど舞をしておけ。今日はそのあたりで許すが、2日ほどまだまだ続くからな」
「のじゃぁぁぁぁぁ!!それは流石に辛いのじゃ、児童虐待などで訴えてやるのじゃ!!」
のじゃのじゃのじゃぁぁっと憤慨するレティアではあるが、残念ながらその訴えは意味をなさないだろう。児童というにしても、実は見た目以上にしっかりと年齢を彼女はとっているからだ。
「はぁ、自由気ままに育てすぎたか…‥‥とは言え、あれで悪い事の分補うかのように善行もしているから、どう扱うべきか難しい所だ」
祠から出て、レティアの父はそうつぶやきながら家の方へ向かう。
自身にとって大事な娘の一人だが、多少自由にさせ過ぎた自覚はあるので、叱ることはするけれども内心少々罪悪感が無いわけでもない。
けれども、あまりにもやり過ぎた部分もあるので、償わせないといけない部分もあり、父としては子にどの程度の呵責をすればいいのか、迷うところもある。
「あれで次期長なのだからなぁ…‥‥もう少し、しっかりしてくれないと次に進めぬ。子育てとは、本当に難しいものだ」
親として心配したり、長としてある程度の規律を守らせたりとするので、娘との付き合い方が中々難しい。下手にやるわけにいかず、かと言って押さえないわけにもいかない。
父親として思う心はあるのだが、もう少し大人しくなってほしいなぁと思うのであった。
「帰ったぞー、あと1時間後には舞を終わらせるから夕飯は休憩も考えて少し後の方にしてくれ」
「あらあらあなた、早いお帰りね。レティアちゃんの反省は?」
家に帰ると、長の妻が出迎えてくる。
「まだもうちょっとかかる。今は舞で精神を鍛えているが、難しいなぁ‥‥‥ん?そう言えばロティはどうした?あいつは確か、そろそろ舞を終えて帰宅する頃合いだろ」
「あらぁ、今朝の話を聞いていなかったのかしら?人の話をしっかり聞くようにって娘にもいっているのに、あなたも抜けているのね。親としては、手本を見せないと」
「うっ、痛いところを‥‥‥‥だが、話とは何だ?」
「言っていたじゃない、ロティちゃんが舞に使っていた扇の新調をするって。新しい素材が手に入って、より良い舞ができそうだから、震えよ我らが咆哮の村のお得意様に作ってもらうそうよ」
「そうか‥‥‥むぅ、だが娘の一人旅も心配なのだがな。確か、あの村にもプレイヤーとやらが入れるようになったのだろう?変な男性プレイヤーとやらが狙わなければいいのだが」
「大丈夫よ、あの子はあの子で見る目はあるもの。あとはわたし譲りの、しっかりした護身用の舞もマスターしているわ」
「…‥‥アレ、かぁ…‥‥」
…‥‥かつて長は、目の前の妻に対して求婚した際に、勢いを付け過ぎて少々不審な行動をとってしまったことがある。そして、その行動が襲うように見られたらしく、その護身用の舞を見事に喰らい、地に伏したことがあるのだ。
当時の経験を思い出し、恐怖で身を震わせる長。この大樹の村の長という役目を背負っておきながらも、そのトラウマのせいで妻には全く頭が上がらない人になっていたのであった‥‥‥‥
28
お気に入りに追加
2,029
あなたにおすすめの小説
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる